食に関わる環境の変化やグローバル化の影響を受け、令和3年6月1日に改正食品衛生法が施行されました。
「具体的にどんな点が変更されるのか」「改正は自分の営業している業種にも関係するのか」このような点が気になっている方も多いでしょう。
こちらの記事では許可制度の変更・届出制度の新設を中心に、今回の改正のポイントをわかりやすくまとめました。
営業許可業種の変更点や届出制度との違い、具体的な申請手続きなどについて知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
制度変更の目的と令和3年6月1日以降の概要
まずは今回の法改正の背景・目的から、新たな営業許可制度・新設された届出制度の内容について簡単に説明します。
制度が変更となった背景・目的
食中毒の発生や商品のリコール(自主回収)が話題になり、食品による健康被害への対応は課題となっています。
そのため広域的な食中毒の発生や拡大の防止など、食品事業者には様々な場面で衛生管理の徹底が求められるようになりました。
また「食のグローバル化」という環境変化にも対応するため、国際標準と整合的な食品衛生管理制度の創設も必要です。
このような社会状況を受け、業者の衛生管理向上や食品による健康被害情報等の把握を的確に行うべく、今回の制度改正に至りました。
新たな営業の許可制度
昭和47年以降見直しを行っていなかった営業許可の対象業種ですが、食中毒のリスク・食品衛生法に基づく規格基準の有無・過去の食中毒の発生状況等を踏まえ、今回の改正で全面的に見直しが行われました。
その結果現在の営業許可34業種から32業種への再編を含め、新たな営業の許可制度では下記のような変更がなされています。
- 新たな許可業種の創設
- リスクが低いと考えられる業種は「許可」から「届出」へ変更
- 「一施設一許可」が原則
- 手数料の改定
これらの変更点については、後ほど詳しく説明します。
営業の届出制度を新設
届出制度は、衛生管理徹底のため対象事業者をきちんと把握することを目的としています。
届出制度の新設により、公衆衛生の影響が高いものについては許可、食中毒等のリスクが低いものについては届出という分類がなされました。
また届出にも例外があり「公衆衛生に与える影響が少ない営業」については、届出制度の対象外となります。
「公衆衛生に与える影響が少ない営業」とは、取り扱う食品の態様やその業態からみて食中毒などのリスクが低く、保健所が積極的に監視指導を行う必要性に乏しい業種のことです。
以上まとめると、改正後の食品事業者は以下のどれかに該当することになります。
- 許可が必要:公衆衛生の影響が高い
- 届出が必要:食中毒等のリスクが低い
- 届出も不要:届出対象となる業種より食中毒等のリスクが低い
「許可」と「届出」の違い
許可制度と届出制度について説明しましたが、具体的な手続き等に関する違いは以下のとおりです。
許可 | 届出 | |
手数料 | 〇 | – |
更新手続き | 〇 | – |
変更、廃業の届出 | 〇 | 〇 |
営業施設の基準 | 〇 | – |
衛生管理の基準 | 〇 | 〇 |
食品衛生責任者の設置 | 〇 | 〇 |
届出は手数料や更新手続きがなく、許可の際に必要な施設基準を満たす必要もないので許可に比べれば手続きは簡単です。
ただしHACCPに沿った衛生管理基準の順守や食品衛生責任者の設置は義務付けられており、変更・廃業の届出も必要なのでこの点は注意してください。
※HACCP:国際的に認められた衛生管理手法。Hazard(危害), Analysis(分析), Critical(重要), Control(管理), Point(点)の頭文字をとりHACCP(ハサップ)と読む。
新たな営業許可制度と営業許可業種
改正によって実態に即した見直しを行い、営業許可は現在34業種ある営業許可業種が32業種へと再編しました。
これによっていくつかの業種が新設・廃止・統合し、「許可」から「届出」への変更した業種もあります。
また改正前は許可の分類が細分化されており、一つの施設でいくつかの許可をとっていることも多かったため、改正によって「一施設一許可」が原則となりました。
これにより一つの許可業種で取り扱える食品の範囲が拡大したり、原材料・製造工程が共通する業種が統合されたのです。
以上のような営業許可業種の変更内容をまとめると、次のようになります。
新設する業種 | 漬物製造業 水産製品製造業 液卵製造業 食品の小分け業 |
統合して業種での対象食品を拡大する業種 | 飲食店営業(喫茶店営業を含む) 菓子製造業(パン製造業・あん類製造業を含む) みそ・醬油製造業(みそ加工品・醤油加工品を含む) 食用油脂製造業(マーガリン・ショートニング製造業を含む) 複合型そうざい製造業 複合型冷凍食品製造業 |
再編する業種 | 密封包装食品製造業 (缶詰、瓶詰等の密封包装食品のうち、リスクの高い低酸性食品に限定して許可対象とする) |
許可から届出に移行する業種 | 乳類販売業 氷雪販売業 冷凍冷蔵倉庫業 |
一部の業態が許可から届出に移行する業種 | 食肉販売業(包装食品のみを販売する場合) 魚介類販売業(包装食品のみを販売する場合) コップ式自動販売機(屋内設置等、一定の要件を満たす場合) |
廃止する業種 | 乳酸菌飲料製造業(乳処理業、乳製品製造業、清涼飲料水製造業の許可で対応) ソース類製造業(密封包装食品製造業又は届出の対象) 缶詰又は瓶詰食品製造業 |
施設基準も改正された
営業許可をとるためには施設基準を満たす必要がありますが、この施設基準についても改正によって内容が変更されました。
施設基準に関しては厚生労働省令の食品衛生施行規則によって定められていますが、大きく分けて以下の5項目について規定しています。
- 施設の広さ
- 施設の区画
- 施設の構造・設備
- 機械器具
- 簡易な営業に適用される緩和基準
今回の法改正による基準改正の目的は、施設基準の全国平準化を図ることです。
営業許可の対象となっている業種を営もうとしている人は都道府県知事の許可を受けなければならず、都道府県知事は施設基準に合致していることを確認して営業許可を与えるというしくみになっています。
今回の食品衛生法の改正でもこの基本的なしくみは変わっていません。
しかし改正前の施設基準は各都道府県等においてそれぞれ条例で定めていたため、自治体によって内容が異なることもあったのです。
そのため広域で営業している事業者にとって自治体ごとの違いが負担でもありました。
そこで今回の改正食品衛生法では、施設基準が参酌基準として定められています。
つまり、営業許可では施設基準を十分参考にしなければならないということになります。
このようにして施設基準を定めることで、基準の全国平準化を図っているのです。
新たな営業届出制度とは
今回の改正により食品の製造・加工・調理・販売等を行うすべての食品等事業者は、HACCPに沿った衛生管理が義務付けられました。
そして食品衛生監視員が食品等事業者を把握できるよう、営業許可の対象となっていない業種を営む事業者は原則的に届出が必要です。
ただし公衆衛生に与える影響が少ない一部の業種については届出制度の対象外となっているので、この場合には届出の必要はありません。
届出が不要な業種・届出が必要な業種の例は下記の通りです。
届出が必要な業種
製造加工業の例 | 農産保存食料品製造業 菓子種製造業 粉末食品製造業 いわゆる健康食品の製造業 |
調理業の例 | 集団給食 調理機能を有する自動販売機 水の量り売りを行う自動販売機 |
販売業の例 | 乳類販売業 食肉販売業(包装食品のみ) 魚介類販売業(包装食品のみ) 野菜果物販売業 弁当などの食品販売業 行商 |
届出が不要な業種
食品又は添加物の輸入業 食品又は添加物の貯蔵又は運搬のみをする営業(ただし、食品の冷凍又は冷蔵倉庫業を除く) 常温で長期間保存しても腐敗、変敗その他品質の劣化による食品衛生上の危害の発生の恐れがない包装食品の販売業 合成樹脂以外の器具・容器包装の製造業 器具・容器包装の輸入又は販売業 |
現在営業中の場合はどうなるのか
改正による営業届出制度の新設・営業許可業種の見直しは大きな制度変更となることから、現在営業中の業種へも影響が生じます。
また、これから営業を開始しようとしている人も「自分はどんな手続きをすればよいのか」と迷うことがあるかもしれません。
今回の法改正では円滑な事業の継続が図られるよう様々な経過措置も設けられており、これらの経過措置も踏まえ、業種に応じてどのような手続きが必要なのかをまとめました。
分類 | 業種 | 改正後の措置 |
業種区分が存続 | 飲食店営業 食肉販売業 麺類製造業 菓子製造業 魚介類販売業 そうざい製造業 乳処理業…等 | ・現在の許可の有効期限まで営業可能 ・今の許可の有効期間が終了したとき、新しい制度での許可を取得 |
業種区分が変更 | 喫茶店営業 乳酸菌飲料製造業 魚肉練り製品製造業 冷凍又は冷蔵業 マーガリン又はショートニング製造業 みそ製造業 しょうゆ製造業 ソース類製造業…等 | ・現在の許可の有効期限まで営業可能 ・今の許可の有効期間が終了したとき、新しい制度での許可を取得 |
許可業種として新設 | 水産製品製造業 液卵製造業 漬物製造業 密封包装食品製造業 食品の小分け業 | ・3年間の経過措置の間に新しい制度での許可を取得 |
許可から届出へ変更 | 乳酸販売業 食品の冷凍又は製造業 氷雪販売業 食肉販売業 | ・新しい手続きは不要 |
それぞれの分類について、詳しく解説していきましょう。
業種区分が存続
現在営業許可の対象になっていて、改正後もその業種区分が継続する場合です。
この場合、現在持っている許可の有効期限が令和3年6月1日以降であれば、有効期間内は引き続きその許可で営業することができます。
なお、許可の有効期間が終了した後、新しい制度での許可を取得することになります。
注意点としては、引き続き営業できるのは現制度で許されている範囲であるということ。
例えば、改正後の清涼飲料水製造業の許可では生乳を使用しない乳飲料を製造することができますが、現在の清涼飲料水製造業の許可ではそれができません。
そのため許可の有効期間内であっても生乳を使用しない乳飲料を製造するためには、改正食品衛生法に基づく清涼飲料水製造業の許可を新たにとらなければならないのです。
このように、有効期間内は現行食品衛生法と同一の内容が継続されるだけで、自動的に改正食品衛生法の許可へスライドするわけではないことは注意しましょう。
業種区分が変更
業種区分の変更とは、たとえば現行の「みそ製造業」の許可が改正後「みそ又はしょうゆ製造業」という新しい分類の許可になるといった場合のことです。
この場合は、業種区分が存続する場合と同じく、有効期間が終了するまで営業することができます。
有効期間が切れた後、改めて改正食品衛生法の「みそ又はしょうゆ製造業」の営業許可を取得します。
業種が新設され新たに営業許可の対象になる
漬物製造業・ 水産製品製造業など、今回の食品衛生法改正により新たに許可が必要になる業種です。
これらの業種では一から新しい制度に対応する必要があるため、それなりに大きな準備が必要になるでしょう。
それを考慮し、令和3年6月1日以降も3年間の経過措置が設けられることになりました。
この経過措置である3年間に、新しい制度での営業許可をとることになります。
許可から届出へ移行
現行の食品衛生法で営業許可が必要である業種のうち、改正後には届出になるというものです。
すでに営業中の営業者は、令和3年11月30日までに届出が必要となります。
もっとも現在許可を受けている業種については管轄する保健所がすでに事業者の状況を把握しており、改めて届出をする必要はないので令和3年6月1日時点で届出がされたものとみなされます。
そのため現在許可を受けていれば、特に何か新しく手続きする必要はありません。
営業許可の申請方法
営業許可は、以下のような流れで申請します。
STEP.1事前相談
STEP.2申請書類の提出
STEP.3施設検査の打合せ
STEP.4施設の検査
STEP.5営業許可書の交付
STEP.6営業開始
まずは施設の工事着工前に施設の設計図等を各自治体に持参して、施設基準に適合するかどうかを相談しましょう。
施設基準に問題がなければ許可申請書や施設の図面等を提出し、担当者と検査日の打ち合わせをします。
そして、検査で施設基準等に問題なければ数日後営業許可書が交付されるので、営業許可書の交付を受けたら営業を開始することができます。
まとめ
食品衛生法の改正にともなう許可制度の変更点や新設された届出制度の内容を中心に、改正のポイントをまとめて解説しました。
自分が営業する業種はどれに当てはまるのか、経過措置はあるのかなど、こちらで紹介した内容を参考にして整理してみてください。
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