財務省の調査によれば、コロナ禍で業績が減少した企業は調査対象のうち半数を超えています。
(財務局「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響」令和3年1月公表)
一方で、2021年3月期決算の業績修正を公表した上場企業のうち、75.3%は上方修正をおこなったという調査結果もあります。
(帝国データバンク「上場企業の業績修正動向調査」2021年3月期決算)
2つのデータからわかるのは、コロナ禍で苦しむ企業が増えた一方、着実に業績を伸ばした企業もあるということ。
本記事では、コロナ禍で影響を受けた業種について詳しく説明し、今後の打開策やwithコロナ、ポストコロナに必要なビジネスの視点について解説します。
目次
コロナによってプラスの影響を受けた業種
帝国データバンクの調査によれば、新型コロナウイルスで「マイナスの影響がある」と答えた企業は全体の約72%。しかし「プラスの影響がある」あるいは「影響がない」と答えた企業が約23%でした。
中でも「プラスの影響を受けた」と回答した割合が多かったのが次の5つの業種です。
- 放送
- 教育サービス
- 総合スーパーなどを含む飲食料品の小売
- 各種商品小売
- 娯楽サービス
特に放送業界では25%、教育サービスでは21.1%の企業がプラスの影響を受けたと答えています。
※参考:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(2021年9月)
調査結果では、コロナ禍で「マイナスの影響がある」と答えた企業が72.1%だったのに対し、「プラスの影響がある」あるいは「影響はない」と答えた企業が22.8%足らずでした。
プラスの影響を受けた業種について、プラスとなった要因などを具体的に見ていきましょう。
放送
放送業界というとテレビなどの大手メディアが思い浮かびますが、 テレビ放送ではコロナ禍でロケが困難になるなどマイナスの影響が大きく、苦戦を強いられています。
特に売り上げを伸ばしたのは、動画配信サービスやそれに関連する分野です。
動画配信サービスはやはり、巣ごもり需要のニーズにぴったりマッチしたことが大きな要因でしょう。
コロナ禍でも家族で、個人で安心して楽しめるエンターテイメントの代表格と言えます。
有線放送を手がける企業では、有線のインフラを活用して動画配信事業を運営するケースもありました。
こういった取り組みも売り上げを伸ばした要因と言えるでしょう。
教育サービス
教育サービスの業績拡大をけん引したのは、通信教育やeラーニング・参考書などの分野です。
コロナ禍では学校が休校になる、授業がオンラインになるなどしたため、十分な教育を受けられないことを危惧した親も多いことでしょう。
サラリーマンであっても自宅でのリモートワークにより空き時間が生まれ、「この機会に何かを身に付けたい」と考えた人も少なくありません。
これも動画配信サービス同様、自宅で手軽に非対面で利用できることが業績アップの大きな要因でしょう。
特に未就学児や学生向けの教育サービスのニーズは高まっており、少子化のなかでも市場規模は微増を続けています。
総合スーパーなどを含む飲食料品小売
食品や飲料などの小売業界も、コロナ禍で「おうち時間」が増えたことによるニーズとうまく合致したことが業績アップの原因と考えられます。
特に伸びが顕著なのは、食料品や日用品、衣料品なども扱う大型の総合スーパーです。
「不要不急な外出」の自粛ムードが高まった中でも、食料品の買い出しは必要なことであり、罪悪感を覚えることなく外出できる数少ない機会となりました。
外食がしづらくなったことや、リモート勤務で家にいる時間が長くなったことから、家で料理をする人が増えたことも大きな理由のひとつです。
各種商品小売
飲料や食料品だけでなく、さまざまな商品の小売でも売り上げが伸びています。オンラインでの販売がしやすいことも1つの要因でしょう。
例えば家電量販店では、リモートワークやオンライン授業が普及したことでパソコンが売れ、2020年上期の商業販売額は3.5%増加しました。
(経済産業省「経済解析室ニュース」2020年10月9日)
また、リモートワークの環境を快適にするためのパソコンチェアやWeb会議用のカメラやマイクといったツールにも需要が集まり、売り切れ状態が続く日もありました。
マスクやトイレットペーパーをはじめとした日用品が揃うドラッグストア、家庭用品やDIY用具といった巣ごもり需要に適した商品を取り扱うホームセンターなどでも、売り上げの伸びが見られます。
娯楽サービス
娯楽サービス関連企業のうち、「プラスの影響がある」と回答したのは全体の9.6%です。
中でもコロナ禍で需要が伸びたのは、コンピューターゲームなど自宅で楽しめるコンテンツ関連のサービスです。
リモートワークで運動不足を気にする人も増えた中、自粛中に室内で運動ができるオンラインフィットネスなどのニーズも増加しました。
ただし娯楽サービス全体が伸びているというわけではありません。
外出自粛要請の影響を大きく受けたプロスポーツや旅行、映画などの分野では売上の低下が顕著です
こうして見てみると、やはりポイントは「コロナ禍でのニーズにいかに答えることができたか」という点でしょう。
コロナ禍で注目を浴びた業種・商品など
前章でも見えてきたように、コロナ禍でビジネスを成功させるには「withコロナ」「ポストコロナ」の時代の二ーズに合ったサービスを提供する必要があります。
そのためのヒントとして、この章ではコロナ禍で注目された業種・商品にはどんなものがあるかを見ていきます。
ヒットの要因を探り、自社では何ができるのかを考えましょう。
ホームプロジェクター
プロジェクターは、スクリーンに映像を投射する機器です。
ホームプロジェクターを使えば、家でも気軽に映画やライブ映像などを大画面で楽しめます。
映画館に行けない・コンサートに行けない代わり、あるいは巣ごもりストレスを解消するための気分転換にと需要が高まった商品の1つです。
最近では、ゲームやYouTubeなどを接続する使い方も増えており、家にいながらさまざまな楽しみ方ができるのも特徴です。
価格は、1万円台の安いものから20万円以上する高価格のものまで幅広く、予算に応じて選べるというのもポイントと言えるでしょう。
ホームベーカリー
コロナ以前にもパン好きの人やパン作りが趣味の人たちの間で人気のあったホームベーカリー。コロナ禍での外出自粛の影響で、パン作りをエンターテインメントとして楽しむ発想が生まれ、ニーズが拡大しました。
ただ「パンを焼く道具」というだけでなく、生地を子どもと一緒に丸めるなどして形作り、楽しむこともできます。
ものをつくること、一緒に作業すること、といった家族間のコミュニケーションを生み出すツールにもなり得ます。
パン以外にもうどん・ピザ生地・お餅などさまざまなものづくりに活用でき、楽しみ方が多様にあることも魅力の1つです。
おせち料理
コロナ禍は「おせち特需」とも言われ、例年の倍以上のスピードで売り切れた店もあるほどおせち料理のニーズが高まりました。
ニーズが拡大した要因の1つは、コロナ禍の影響で年末年始の帰省を控え、自宅で過ごす人が多かったこと。1人用のおせちが売れたほか、いつもは自分で作る人でも、家族が集まらないなら買って簡単に済ませようか、と出来合いの商品を買うケースが増えました。
例年は、旅行に行くなどして年末年始を楽しんでいる人も、コロナ禍の正月は楽しみが限定されました。
年末年始を自宅で楽しく過ごすために、おせち料理くらいは豪華に、と考えた人も多かったことでしょう。
プロテイン粉末
プロテインは従来、筋トレに力を入れる人が飲用するイメージが強いものでした。
しかしコロナ禍ではそれ以外の新たなユーザーを獲得して需要を伸ばしています。
増えてきたのは、そこまで熱心ではないものの整ったカラダ作りに興味を持った人や、美容のためにプロテインを摂取する人。コロナ禍の外出自粛で運動不足になり、ダイエットへの意識が高まったことで注目されました。
ただ体重を減らして痩せる、というだけでなく、健康的に痩せたい、という意識の高まりも浸透しつつあります。
プロテインに関しては、粉末だけでなくバータイプのものを間食として摂取する人も増えているようです。
住宅用のクリーナーやワックス
自粛期間の長期化により、 住宅用のクリーナーやワックスも売り上げを拡大しました。
大手ワックスメーカーの「株式会社リンレイ」が行った調査では、コロナ禍で自宅の衛生環境を意識するようになった人が8割以上いたことがわかりました。
自宅にいる時間が長くなったことで、部屋やトイレなどの生活区間を清潔に保つ意識が高まったということでしょう。
また、時間があるから普段はできないような大掛かりな掃除をやってみよう、という人も増えたと考えられます。
キャンピングカー
アウトドア好きの人、出かけるのが好きな人にとって、コロナ禍ではいかに感染を回避してアウトドアを楽しむか、ということに目が向けられました。
そんな中で注目されたのがキャンピングカーです。
キャンピングカーなら他人との「密」を避けた長距離移動ができるうえ、キッチンで料理をすれば外食しなくてもよく、車内で就寝できるのでホテルを確保する必要もありません。
キャンピングカーというと高額なイメージですが、1,000万円以上の本格的な装備のものから500万円前後と比較的幅広い価格帯となっており、ファミリー層だけでなく退職を迎えるシニア層からの需要が増加しています。
自転車
自転車は、感染リスクを避けて通勤・通学したい人のニーズを受けて売り上げを増加させました。
中でも、これまでは高額なため敬遠されがちだった電動アシスト自転車の販売台数が大きく増加しました。
スポーツクラブが営業自粛となり、代わりのトレーニング手段として自転車が1つの選択肢となったことも1つの要因でしょう。
外出自粛中でも気軽なリフレッシュになるほか、自転車を使ったデリバリーサービスが台頭したことも背景にあると考えられます。
こうしてみるとコロナ禍が追い風となった商品も多いですが、コロナ特需で終わらないような工夫がこれからは必要となりそうです。
コロナによるマイナス影響への打開策
前述の調査で、新型コロナにより「マイナスの影響がある」との回答が多かった上位5つの業種はこちらです。
・旅館・ホテル
・飲食店
・広告関連
・繊維・繊維製品・服飾品の卸売
・繊維・繊維製品・服飾品の小売
特に旅館・ホテル業界では、95.8%がマイナスの影響を受けたと答えています。
※参考:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(2021年9月)
しかし、こういった中でもピンチをチャンスととらえる経営者はいます。
アイデアや工夫次第で道が開ける可能性もあります。
マイナス影響が大きいこれらの業種について、今後どのようにして危機を乗り切ればよいのか考えていきましょう。
旅館・ホテル
外出自粛のムードは徐々に和らぎ、駅などでは旅行に行く人も見かけるようになっています。
打開策としてまずは、感染対策を徹底してHPなどでアピ―ルし、安心感を与える必要があります。
さらに、感染リスクの少ないおひとり様プランの充実や、例えばヨガやサイクリングが楽しめる滞在型プラン、断食を行うデトックスプランを作るなど、選ばれるための工夫も欠かせません。
コロナ禍でペット需要が高まったことから、ペットと泊まれる宿へのニーズも期待できます。
単に泊まれるというだけでなく、施設や食事もペット連れに配慮し、いかに楽しんでもらうかを考える必要があるでしょう。
飲食店
飲食店において、 感染防止対策は今後も必須となるでしょう。
入店してもらうには、対策の徹底を客にも伝わるよう、SNSや店頭のポップなどでアピールしておきたいものです。
例えば、1人での入店に何らかの特典を付けるなどのサービスも1つの手です。
ネットで情報を検索してから来店する人も多いので、飲食店の情報サイトやSNSなど複数の方法で情報を発信するのもよいでしょう。
SNSであれば、「今日は○○が安く手に入ったので○○のメニューがおトクです!」などタイムリーな情報を流すこともできます。
テイクアウトやデリバリーへのニーズも見逃せません。導入するならメニューを充実させる、メニュー表の画像にこだわる、などの工夫も必要でしょう。
広告関連
広告・宣伝費は、企業にとって不況時にまず削減を考える経費のひとつです。
各種イベントの中止を余儀なくされたことも大きな痛手となっています。
売上はクライアント企業の業況に大きく左右されます。
そのため、コロナ禍でも業績を伸ばしているクライアントの新規開拓はしておきたいところです。
先に紹介した教育サービスや飲食小売業界などが狙い目となるでしょう。
コロナ禍では、屋外広告や交通広告の落ち込みは激しいものの、インターネットを利用したデジタルの広告では比較的落ち込みは少ない状況です。
そのため、既存のクライアントにはデジタル広告の提案を積極的に行うべきでしょう。
繊維・繊維製品・服飾品卸売(小売)
アパレル業界での希望は、オンラインでのショッピングを利用する人が増えていることにあります。
オンラインショップを開設することはぜひ考えるべきですが、開設しただけで売り上げがあると思い込んでしまう人も多いので要注意です。
ネット上には数えきれないほどのECサイトや店舗独自のサイトが存在し、集客するのは容易ではありません。
実物を店頭で確認できたうえで、在庫をネットで確認できるようにする、試着がバーチャルでできるようにするなど、リアル店舗とネットの連動がポイントです。
検索エンジンで上位表示されるためのSEO対策などは、Webに強い制作会社の利用を検討するとよいでしょう。
withコロナ、ポストコロナに必要なビジネスの視点
withコロナ・ポストコロナの状況では、従来とは異なる視点、あるいは従来の視点に新たな視点を加えたビジネス展開が必要となります。
キーワードとなるのは次のようなものです。
・巣ごもり消費
・非対面・非接触
・デジタルへのシフト
・健康や美容への意識の高まり
・「SDGs」の観点での取り組み
「巣ごもり消費」では、動画配信サービスや宅配サービスなどには今後も確実にニーズがあるでしょう。何を宅配するか、という視点で新たなサービスが生まれる可能性があります。
非対面・非接触で物事を進めるには、IT技術が欠かせません。ドローンを使っての運搬なども発達していくでしょう。
それに関連して「リアルからデジタルへのシフト」が進み、オンラインで利用できるサービスがより増えていくものと予想されます。
実際コロナ禍では、オンラインフィットネスやネットライブといった、これまでほとんど注目されていなかったオンラインサービスの普及が拡大しました。
感染への危機感や、人との接触が減ったことによる心身の変化に伴い、「健康や美容に対する意識」も高まりました。
スポーツ・美容関連の施設や、自宅で使えるツールなどにも新規開拓の余地がありそうです。
さらに、コロナ以前より世界的な課題となっている「SDGs」への取り組みも重要事項の1つです。
さまざまな目標が設定されているので、自社に合った取り組みを行い、社会に貢献することで自社の価値を上げていくこともできるでしょう。
まとめ~大切なのは常に動く「ニーズ」を見極めること
新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、世界全体が大きな影響を受けています。
しかし、人が社会を生きていく中で、必要となるものはたくさんあるもの。必要性のあるものには、不測の事態でもニーズがあります。
コロナ禍で、あるいはポストコロナを生きていく上で、人は何を必要とするのか。
これからの暮らしに必要となる、あると確実に便利なものは何か、その中で自社にできること、自社の良さが活かせることは何かを常に模索する姿勢が成功につながるでしょう。
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