創業を考えている方にとって「資金調達」は大きな課題のひとつと言えます。
そこでぜひ活用してほしいのが、東京都中小企業振興公社の「創業助成金」です。
創業助成金は創業時に必要な経費の一部を支援してもらえる助成制度であり、融資と違って返済の必要という大きなメリットがあります。
本記事では、創業助成金の制度概要や申請要件、そして申請の流れなどを解説します。
東京都内での創業を考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
東京都中小企業振興公社の創業助成金とは
創業助成金は、東京都中小企業振興公社(以下、公社)によって行われている助成制度です。
都内で創業を予定している事業者、もしくは創業して5年未満の事業者に対し、創業初期に必要な経費の一部を助成しています。
東京都の開業率は他の先進諸国と比べて低いため、支援によって創業のモデルケースを作り、開業率を向上させることを目的としています。
申請の受付は例年4月頃と10月頃の年2回で、いつでも申請できるわけではありません。
申請前にはホームページや募集要項をみて、具体的な時期や内容に関する最新情報を確認してください。
助成の対象となる人
助成の対象者は、都内での創業を具体的に計画している個人または創業後5年未満の中小企業者です。
また本社の所在地・納税地が東京都であることや、指定された東京都の創業支援事業を利用していること等の細かな申請要件もあります。
要件に当てはまるかどうかもきちんと確認しましょう。
助成の対象期間
交付決定日から最長2年間が助成の対象期間です。
交付決定日より前、もしくは助成対象期間より後に発生する経費は対象にならないので注意が必要です。
さらに厳密には、交付決定日から数えて6か月~2年の間に契約・取得・実施・支払まで完了した経費が助成の対象なので、対象期間内に契約しても支払が対象期間外であれば助成金の申請はできません。
助成の限度額
創業助成金の助成金額は100万円~300万円です。
融資と違って助成金は返済の必要がないので、最大300万円の助成金というのは創業当初の資金繰りに大いに役立つでしょう。
ただし、助成の対象になるかどうかは細かい条件が指定されているので、助成金を受け取るためにはしっかり準備をしなければなりません。
助成対象となる経費と助成率
対象となる経費は大きく6つに分かれています。
それぞれどのようなものが含まれるのかを確認していきましょう。
賃借料
都内の事務所・店舗・駐車場などの不動産賃借料です。
コワーキングスペース・シェアオフィスの賃料も対象ですが、都内に住所だけを置いてオフィスの実態がない「バーチャルオフィス」は助成対象になりません。
その他、不動産に限らずサーバーのリース・レンタル料も助成対象ですが、自動車・バイク・自転車等のレンタル料、携帯電話・スマートフォン等の機器の賃借料などは対象外です。
広告費
販路開拓・顧客獲得を目的とした広告費用も助成対象です。
例えば、自社や自社事業をPRするためのホームページ・チラシの制作費や、展示会への出展料などが挙げられます。
一方、オンラインショップの出店費用や自社HP内の商品・サービス販売ページに関する費用、有料会員サイトの構築費用など、直接の収益性があるものは対象になりません。
器具備品購入費
机やいす、パソコン、エアコンなどの購入費がこれに該当します。
ネオンサイン、屋外照明等の建物の付属設備や、飲料品・食料品・文房具類・新聞・雑誌などの日用品は対象になりません。
器具備品購入費には、1点当たりの購入費が1万円以上50万円未満という金額制限があるので、この点も注意してください。
産業財産権出願・導入費
商品・製品・サービスに対する特許権や商標権など、産業財産権の出願費用が対象です。
出願に関する調査、審査請求、登録、権利維持に関する経費は対象になりません。
専門家指導費
事業の遂行に必要な知見や各種手続き・トラブルなどに関する対応方法について、外部の専門家に相談して助言・指導を受けることもあるでしょう。
その際に手数料として発生した経費も助成対象となります。
ただしこの助成金などの書類作成・手続き代行費用や、顧問契約をしている弁護士や税理士・会計士・社労士等に支払った費用などは対象外です。
従業員人件費
直接雇用の従業員、パート・アルバイトに対する賃金が対象です。
申請者本人や役員の人件費・派遣委託契約の人件費は対象になりません。
創業助成金の助成率は、これら助成対象と認められた経費の「3分の2以内」です。
つまり経費の全額が助成対象となるわけではないことにも注意が必要です。
例えば対象経費の合計が300万円だった場合、助成金の限度額が300万円でも全額は受け取れません。
創業助成金の申請要件
創業助成事業には、大きく分けて「対象となる人」「利用する支援事業」「運営する事業」「所在地」4つについての申請要件があり、申請には全ての要件を満たす必要があります。
それぞれ順番に解説していきます。
支給要件.1 人に関する申請要件
創業助成金は、創業前の個人・個人事業主・法人による申請が可能ですが、申請のためには下表のような支給対象者に該当する必要があります。
対象者 | 概要 |
創業前の個人 | 都内での創業を具体的に計画している個人 |
個人事業主 | 税務署へ開業の届出を行ってから5年未満の個人事業主 |
法人 | 法人登記を行ってから5年未満の法人の代表者 |
ここでは、「事業の経歴が5年未満かどうか」が特に重要です。
個人事業主もしくは法人の代表者の経験が5年以上ある場合、創業助成金を申請することができません。
支給要件.2 利用する創業支援事業
創業助成金の申請をする前に、東京都や公社が実施する創業支援事業を利用しなければなりません。
対象となる創業支援事業は全部で18事業あり、その中のどれかを申請前に利用する必要があります。
例えば支援事業の1つに、公社が実施する「TOKYO創業ステーション」のプランコンサルティングがあります。
プランコンサルティングは専門分野を持つコンサルタントと相談しながら事業計画ができるというものであり、そこで事業計画書策定の支援を受けることが助成金の申請要件となります。
また公社が設置した創業支援施設である「東京コンテンツインキュベーションセンター」への入居も創業支援事業の1つ。
他にもスタートアップ支援を行う「青山スタートアップアクセラレーションセンター」のアクセラレーションプログラムを受講することなどが申請要件となっています。
創業支援事業の利用にはおよそ2カ月以上の期間がかかるため、創業助成金の申請までに少なくとも2カ月程度かかることは頭に入れておきましょう。
支給要件.3 事業に関する申請要件
創業助成金を申請するためには、自社の事業が下表の要件を満たしている必要があります。
【個人の申請要件】
- 創業前・個人事業主を問わず個人開業医による病院や診療所での医業としての申請ではないこと
- 個人事業税の納税地が都内にあること
- 実務上、都内で実質的に事業を行っている主たる事業所等が実在していること
【法人の申請要件】
- 中小企業に該当すること
- 登記が都内にあること
- 実務上、都内で実質的に事業を行っている本店または主たる事務所が実在していること
法人の場合には中小企業が助成金の対象になりますが、中小企業かどうかは資本金の額と従業員の数によって決まります。
例えば小売業の場合、資本金5000万円以下または従業員50人以下であれば中小企業と認められます。
その他にも法人・個人に共通する要件があるので、いくつかを簡単に紹介します。
- 助成事業者が、必要な許認可を取得し、関係法令を遵守していること
- 事業内容が、都内経済への波及、社会貢献、課題解決につながるものであること
- 助成金の交付がない場合であっても、事業の実施が可能な資金計画であること
- 助成対象期間の終了(中間払については、6カ月経過時点)から一定の期間を経過した後に、助成金が支払われる点を踏まえた資金計画であること
- 民事再生法、または会社更生法による申立て等を受けて、助成事業の継続について不確実な状況が存在していないこと
支給要件.4 所在地などに関する申請要件
創業助成金は都内での事業活動を支援する制度なので、次のような事務所や事業所などの所在地や納税に関することも要件とされています。
- 本店・納税地と主たる事業所等が共に都内にあること
- 住民税・都や公社に対する賃料使用料等の滞納がないこと
住民税の滞納に関しては、区市町村発行の「住民税納税証明書」「住民税非課税証明書」「住民税課税証明書」のいずれかでチェックされます。
この他、以下のようなケースも申請ができません。
- 公社・国・都道府県・区市町村等から、本助成金以外の助成金・補助金を受けている本助成金と同一経費への重複助成・補助となる
- 過去に受給した補助金で不正等の事故を起こした
- 風俗関連営業、射幸的娯楽業等、その他公社が公的資金の助成先として、社会通念上適切ではないと判断するもの
- 暴力団関係者
特に、同じ経費に関してすでに他の助成金・補助金を受けている場合、創業助成金は受けられないという点に注意してください。
創業助成金の申請の流れ
申請から助成金交付までのおおまかな流れは、次のとおりです。
STEP.1 申請書作成
SIEP.2 申請書提出
STEP.3 書類審査
STEP.4 面接審査
STEP.5 交付決定
STEP.6 事業実施
STEP.7 完了報告
STEP.8 助成金交付
申請の際にはまず申請書を提出し、提出した資料をもとに書類審査・面接審査が行われます。
申請書の提出期間は令和3年10月1日(金)~令和3年10月12日(火)なので、まずは期間内に申請書が提出できるよう準備を整えましょう。
審査に通過できれば助成金の交付が決定しますが、過去の採択実績をみてもわかる通り決して簡単ではありません。
年度 | 平成29年 | 平成30年 | 平成31年 (令和元年) | 令和2年 |
申請者数 | 863 | 600 | 808 | 1,037 |
採択者数 | 115 | 151 | 152 | 156 |
申請書の中でも「事業計画書」は創業者の熱意や事業の将来性が表れる重要な資料なので、しっかり作り込んでください。
また、審査をクリアしたとしても助成金は後払いです。
交付が決定してすぐに支給されるわけではなく、助成対象期間終了後の実績報告を受け、証拠書類などを確認したうえで支給されます。
ここで必要書類が揃っていないと助成金の支給額が減額されることもあるので、見積書・発注書・振り込みの証拠書類などはしっかり保管・管理しておきましょう。
ほかにもある!創業時に使える補助金・助成金
東京都の創業助成金のように、創業者・事業主を支援する助成金や補助金の制度は他にもあります。
その他の主な補助金・助成金をいくつか紹介するので、活用できるものがないか確認しておきましょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金(一般型)は、小規模事業者が行う販路の開拓や生産性向上に向けた活動にかかった費用の一部を支援する制度です。
地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ることを目的としています。
一般型の補助額上限は50万円であり、補助率は費用の3分の2となり、補助対象には店舗改装・チラシ作成・広告掲載など様々なものが含まれます。
IT導入補助金
※1:「プロセス」とは、業務工程や業務種別のことです。
※2:ツール要件(目的)について、詳しくは公募要領をご確認ください。
※3:賃上げ目標について、詳しくは公募要領をご確認ください。
上記は大まかな相違点の抜粋のため、詳しくは公募要領をご確認ください。
(出典:一般社団法人 サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2021」)
IT導入補助金は、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入した中小企業を支援する補助金です。
ITツールにより業務の効率化・売上アップといった経営力の向上を図ることを目的としています。
補助の対象となるのはソフトウェア費・導入関連費・ハードウェアレンタル費など。
導入するITツールの内容やかかった費用、非対面化ツールの導入有無などによってA~D類型に分かれており、それぞれ補助率と補助の上限・下限額が異なります。
ものづくり補助金(一般型)
中小企業などが生産性向上のために要した革新的なサービスや試作品の開発、生産プロセス改善のための設備投資を支援する補助金です。
補助金額は100万円~1000万円、補助率は中小企業者が2分の1で、小規模企業者・小規模事業者は3分の2となっています。
ちなみに海外事業の強化・拡大などを目的とした「グローバル展開型」では、補助金額は最大3000万円です。
補助対象となる経費には、機械装置やシステム構築費、技術導入費や原材料費、知的財産権等の関連費などが含まれます。
キャリアアップ助成金(人を雇う場合)
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進する制度です。
全部で7つのコースがありますが、なかでも比較的利用しやすく人気があるのが「正社員化コース」です。
正社員化コースでは、有期雇用労働者等を正規雇用に転換したり、直接雇用したりした場合に一定額の助成金が受け取れます。
助成金額は下表のとおりです。
転換区分 | 中小企業の助成額 | 左記以外 |
有期雇用→正規雇用 | 57万 | 42万7,500円 |
有期雇用→無期雇用 | 28万5,000円 | 21万3,750円 |
無期雇用→正規雇用 | 28万5,000円 | 21万3,750円 |
(出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和2年4月1日)」)
非正規雇用労働者の処遇改善で助成金を受けられるだけでなく、従業員のモチベーションアップ等も図ることができるでしょう。
地方自治体ごとの補助金・助成金
起業する人を応援するため、東京都以外にも多くの自治体で補助金・助成金制度が用意されています。
例えば、愛知県が行っているスタートアップ支援事業には「あいちスタートアップ創業支援事業費補助金(起業支援金)」があり、愛知県内で地域課題の解決を目指す事業経費の一部を支援する補助金です。
補助金の交付額は25万円以上200万円以下で、補助率は2分の1以内です。
また、大阪府では大阪経済の持続的な成長のため、将来有望な起業家を発掘して支援する「大阪起業家グローイングアップ」事業が行われています。
その事業の一環として「大阪起業家グローイングアップ補助金」があり、限度額は100万円、補助率は2分の1以内となっています。
他にも北海道の「創業促進支援事業」や兵庫県の「ポストコロナ・スタートアップ支援事業」など各地に支援制度があるので調べてみてください。
まとめ
創業助成金の申請をしたいと思ったら、まずは申請要件を確認しましょう。
特に要件の1つとなっている創業支援事業の利用には時間がかかるため、できるだけ早めに準備を進めておく必要があります。
また、どんな経費でも対象となるわけではないため、申請対象経費にはどんなものがあるのかも事前に確認しておきましょう。
この記事で紹介したように、東京都の創業助成金以外にも創業時に利用できる助成金・補助金はいくつかあります。
自社が利用できる助成金・補助金を知りたい、要件が細かすぎてよくわからない、という人は、専門家へ相談するというのも1つの方法です。
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