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経理をしっかりとやらない会社で困る事③ 金融機関からの借入ができなくなる
中小企業経営者にとって、金融機関からの借入を必要な時にスムーズに受けられるかどうかは、文字通り死活問題といっても過言ではないでしょう。
企業にとって資金繰りは血液のめぐりのようなものですから、最低でも3か月程度先までの必要資金をいつでも手元に準備できていなくてはなりません。
金融機関の融資担当者は、融資の可否を判断するにあたっては、御社の財務状況を「もっとも重要な情報」として参考にしていることを理解しておきましょう。
会社の財務状況を説得力のある形で説明するためには、あらかじめ社内で構築したルールに従って、組織的に経理処理が行われていることをアピールしなくてはなりません。
この記事では、中小企業経営者が金融機関との関係を良好に保つために、どのような経理体制を構築していく必要があるのか?について具体的に解説していきます。
金融機関の融資をスムーズに受けるためには信頼性の高い経理体制の構築が必須
金融機関の担当者は、常に貸付先の企業(つまりあなたの会社です)の財務状態を気にかけています。
金融機関もビジネスでお金を貸していますから、もしお金を貸した相手の業績が悪くなり、お金が返ってこなくなってしまったらとても困ってしまうからです。
それでは、彼らはどういうときに「この企業ならお金を貸しても大丈夫」と判断するのでしょうか。
それは、次の2つの条件にあなたの会社合致する場合です。
・①あなたの会社の決算書が、金融機関の担当者を満足させるものであった場合
・②その決算書が、信頼性の高い経理体制をもとに作成されたものであること
ごく簡単にいえば、「あなたの会社が黒字で余計な資産を持っておらず、しかもその情報がウソでないこと」が必要なのです。
①の「会社の業績」については良いときもあれば悪い時もある、というのが実際のところでしょう。
一方で、②の「信頼性の高い経理体制」については、会社の業績がどうあれ、経営者の努力次第で達成することができる課題です。
以下では、金融機関の担当者から見て「信頼性の高い経理体制」とは具体的にはどのようなものなのか?について解説します。
信頼性の高い経理体制とは?チェックリスト
金融機関の担当者から見て、「この会社の経理体制は信頼性が高い」という判断をしてもらうためには、次のような点が重要となります。
・会社の売上を意図的に操作していないか
・経営者のプライベートな収支と、会社の収支とがごちゃ混ぜになっていないか
・在庫が架空計上されていないか
・回収不能な売掛金を放置していないか
・無駄な買い物をしていないか
・過去の決算書と比較して、不自然な点がないか
それぞれの項目について、順番に見ていきましょう。
会社の売上を意図的に操作していないか
会社の売上は、「いつのタイミングで売上を計上するか」によって金額が大きく変わる可能性があります。
現金商売のビジネスであれば、お客さんからお金を受け取ったタイミングで売上を毛状すれば問題ありません。
しかし、1か月に1回売上を締めて、まとめて請求書を送るというような形のビジネスの場合は、お客さんへの商品の納品が完了したときに売上を計上するのか、あるいはお客さんの検収が完全に完了した時に売上を計上するのか…など、計算を締めるタイミングによって計上金額が変わる可能性があります。
一度決めた売上計上のルールは守り続ける必要がある
特に、年度末などは少しでも売り上げを多く計上するために、本来は来期の売上に回すべきものを、当期の売上として処理してしまいたくなることもあるでしょう。
しかし、こうした意図的な売上高の操作は、会社の経理体制の信頼性を根本的にくつがえしてしまう可能性がありますから、絶対に避けなくてはなりません。
重要なことは、過去に選択した売上計上のルールを、その時々の都合によって変更するようなことをしていないかです。
過去に「売上の計上はお客さんの検収が済んだとき」というルールを決めたのであれば、現在も将来も一貫してそのルールを守り続ける必要があります。
どのようなタイミングで売上を計上するかは、それぞれの企業の状況に応じてある程度柔軟に決めることができますが、いったん決めた以上は未来永劫同じ基準によって売上を計上する必要があることを理解しておきましょう。
経営者のプライベートな収支と、会社の収支とがごちゃ混ぜになっていないか
創業間もない企業の場合、経営者が一人でビジネスを回しているということもあるでしょうし、時には事業で足りないお金を社長が立て替えるということもあるでしょう(逆もあるかもしれません)
しかし、こうした「経営者と会社のお金のやり取り」は金融機関の担当者が厳しくチェックしているポイントです。
社長の個人的な買い物が会社の資産として処理されているのは、経理の信頼性という観点からはマイナスポイントとなります。
また、会社から社長個人への貸付金や、逆に社長個人から会社への貸付金が多くあるようなケースも問題となる可能性があるでしょう(具体的には役員貸付金や役員借入金といった勘定科目の金額がチェックされます)
在庫が架空計上されていないか
事業年度末に売れ残った商品は、実地棚卸を実施して、正確な棚卸試算表を作成しなくてはなりません。
棚卸の金額がどれだけあるか?は、会社の粗利益の金額に直接的に影響を与えますから、事実に基づいて正確に期末の棚卸高を計上しなくてはなりません。
「金融機関の担当者は、会社の倉庫までチェックしに来るわけではないから大丈夫だろう…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、棚卸に不自然な計上があればそれは会社の粗利率に現れてしまいます。
ビジネスの形が変わらなければ、粗利率が大幅に変動することはないはず
会社のビジネスの形や売っている商品が大きく変わらない限り、粗利率が大幅に変動するということは通常ないものです。
会社が営んでいるビジネスの内容は何年も変わっていないはずなのに、粗利率が前事業年度と比べて大幅に変動している…ということになると、「棚卸をいじっているのでは?」と疑われてしまう可能性があります。
もちろん、突発的な事情によって粗利率が変動することも考えられますが、そうした場合にはきちんと根拠を示して説明ができるように準備をしておかなくてはなりません。
回収不能な売掛金を放置していないか
会社が持っている売掛金の金額がたくさんあれば、会社の経営に余裕があるように見えがちです。
しかし、売掛金というのは現金化できて(つまりお客さんに入金してもらえて)初めて会社の経営に貢献するものですから、回収不能なことが明らかな売掛金は、決算の段階できちんと損切りする必要があります。
具体的には、長期間にわたって請求しているのにもかかわらず、支払いをしてくれない得意先の売掛金は、回収不能として貸倒れ損失を計上しなくてはなりません。
決算書に載っている売掛金が健全なものであるかどうかは、得意先の台帳を精査すればだいたいわかってしまいます。
貸し倒れの計上についてどのようなルールを設けているかといったこともチェックされる可能性がありますから、きちんと受け答えができるようにしておきましょう。
無駄な買い物をしていないか
会社の貸借対照表には「会社がどのようなことにお金を使っているか」がすべて現れています。
資産はたくさんあればあるほど良いものと考えがちですが、必ずしもそうではないことを理化しておかなくてはなりません。
資産の金額に対して、会社があげている利益が小さい場合には、最悪の場合は「商売が下手」という評価をされかねません。
少ない資産で多くの利益を上げるのが優秀な経営者
例えば、同じ年間1000万円の利益を上げている会社であっても、資産が1000万円の会社と資産が1億円の会社とでは、前者の方が10倍効率的に利益を上げていることになります。
会社が持っている経営資源(これが資産として現れます)を上手に利益に変換できているかどうかは、経営者としての腕の見せ所ともいえるでしょう。
会社がどのような資産を持っているかについて把握していることにとどまらず、それらの資産が会社の利益にどのように影響しているのか?といったことについてもきちんと答えられるようにしておく必要があります。
過去の決算書と比較して、不自然な点がないか
金融機関に融資を申し込んだときには、過去3年分の決算書を提出するように求められるのが一般的です。
上で見てきたような様々な項目に関して、金融機関の担当者は期間比較を通して不自然な点がないかチェックしているものと考えておきましょう。
会社の決算書は、いわば経営者の成績通知表のようなものですから、これまでにどのような経営を行ってきたのかということがすべて現れています。
不自然な会計処理をしてしまうと、何らかの形で決算書の内容に現れてしまうものですから、経理の信頼性をアピールするためにも、正しい会計ルールに従って厳格な経理処理を継続することがとても大切です。
必要な財務情報をスムーズに提出できる体制を作る
ここまで見てきたような「信頼のおける経理体制」を構築することは、経営者として必須の課題といえますが、実際にはなかなか難しいことです。
特に、事業をスタートしてからまだ間もない新規事業者の場合、経理専門のスタッフを雇用するコストを負担できないということもあるでしょうし、実際問題として社長が経理にかけられる時間がほとんどない…ということもあるでしょう。
そのような場合には、税理士事務所が提供している「経理代行」のサービスを活用するのもおすすめです。
経理代行サービスとは?
経理代行とは、従来の記帳代行サービス(会計ソフトの入力代行)からさらに進んで、「経理に関する業務のすべて」を外部に任せることができるサービスをいいます。
得意先に送付する請求書の発行や、売掛金や買掛金の管理、月次決算といった複雑な業務についても外部の専門家が迅速かつていねいに処理してくれます。
金融機関に対して提出する決算書その他の書類も、法律に基づく適切な会計処理をもとに作成してもらうことができますから、会社が必要な時に資金調達をスムーズに行うことに貢献してくれるでしょう。
経理代行を使えば、コストの面でも経理スタッフを雇用して教育するのと比べて格安で済みますから、事業をスタートしたばかりの経営者にとって、強い味方になってくれるでしょう。
まとめ
今回は、経理を日常的にしっかりやっておかないと会社が困ることとして、金融機関空の借入がスムーズに受けられなくなる可能性があることを、具体的な例をあげながら解説いたしました。
金融機関との交渉をスムーズに進めるためには、会社の状況が好調であることをアピールできることが第一ですが、提出する決算書が信頼のおける経理体制をもとに作成されたものであることも不可欠な条件といえます。