給与計算業務は、バックオフィス業務の中でも非常に重要な分野と言えます。
給与計算の正確性は、自社で働いてくれる従業員の、会社への信頼性を担保するための重要な要素であるからです。
もし、給与計算の誤りが頻繁に生じるような事態となっては、有望な従業員のモチベーションを下げ、最悪の場合には人材の流出という事態にも発展しかねません。
こうした給与計算実務は、自社内で安定的に運営できるのが理想的ではありますが、そうでない場合には外部の専門家にアウトソースすることも選択肢に入れる必要があるでしょう。
具体的には、給与計算代行サービスの活用が考えられます。
この記事では、給与計算に関する実務上の重要ポイントを解説するとともに、給与計算実務を外部に委託することのメリットやデメリットについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
給与計算とはどのような業務か
給与計算とは、その名の通り社員の給料の計算を行う業務のことをいい、実務を行うためには、税金や社会保険料に関する実務知識が必須となります。
また、従業員の給与に関する情報は、多くの企業にとって機密情報に当たりますから、業務上知りえた内容については細心の注意をもって扱う必要があります。
以下では、給与計算実務とは具体的にどのようなことをする仕事なのかについて解説いたします。
従業員に関する人事データの把握
給与計算においては、従業員個人の人事データ(家族の数や勤続年数などの情報)の把握がとても重要です。
というのも、実際に従業員個人の銀行口座に振込する給与からは、社会保険料や税金を控除しなくてはならないのですが、これらの控除額はその従業員個人の扶養親族の数などをもとに計算する必要があるためです。
また、従業員に対して支払った給与の情報は、賃金台帳という資料として保存しておかなくてはなりません。
給与計算専用のソフトを利用している場合には、従業員別に人事データの入力を行い、給与の支払いを行うたびに賃金台帳作成用のデータも作成されますので便利です。
給与総支給額の計算
社員に実際に支払う給与額を計算するために、給与総支給額の計算を行います。
給与総支給額とは、簡単に言えば税金や社会保険料を控除する前の給与額のことで、「額面」と呼ぶこともあります。
給与総支給額は、以下のような項目の合計額となります。
- 基本給の金額
- 通勤手当の金額
- 残業代の金額
- その他手当の金額(残業手当や扶養手当、住居手当など)
なお、通勤手当については一定の非課税枠が認められていますから、他の手当とは明確に区別して計算を行う必要があります。
源泉所得税や住民税特別徴収額の計算
給与の総支給額と人事データが把握できたら、税金や社会保険料の金額を計算することが可能となります。
給与総支給額から控除される税金には以下の2種類があります。
- 源泉所得税
- 住民税特別徴収額
「源泉」や「特別徴収」というのは、言い換えると「天引き」という意味です。
源泉所得税の金額は、国税庁の公式ホームページで確認できる「税額表」をもとに計算します。
毎年金額が微妙に変わりますので、必ず最新の税額表を使いましょう。
所得税の正確な金額は年末にならないと確定しませんから、源泉所得税の金額は、概算額となっていることに注意しておきましょう。
当然ながら正確な金額との調整が必要となりますから、12月分の給与額が確定した段階で、概算額と正確な金額との調整を行う手続きが必要となります。これを年末調整と呼びます。
一方で、住民税は前年分の所得額をもとに、市役所が計算して5月ごろに通知をしてきます。
この通知額をもとに毎月のお給料から住民税額を天引きし、翌月の10日までに納付書を使って納付しなくてはなりません。
社会保険料の計算
給与総支給額からは、上で見た税金(所得税と住民税)の他に、以下のような社会保険料を控除する必要があります。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
それぞれの項目について、順番に見ていきましょう。
健康保険料と厚生年金保険料の計算
健康保険料と厚生年金保険料の金額は、協会けんぽ(全国健康保険協会)のホームページで確認できる保険料額表をもとに計算します。
おおまかな計算方法は以下の通りです。
なお、健康保険料と厚生年金保険料は、会社と従業員が2分の1ずつ折半で負担します。
- 標準報酬月額×健康保険料率×2分の1=給与総支給額から天引きする金額
- 標準報酬月額×厚生年金保険料率×2分の1=給与総支給額から天引きする金額
なお、「標準報酬月額」とは、給与の支払い額ごとに決まっている「等級」のようなもののことです。
例えば、月給55万円の人であれば、32等級(給与額54万5000円~57万5000円)に該当しますから、健康保険料の金額は折半額で2万8532円となります(令和元年5月現在の金額)
また、介護保険の第2号被保険者に該当する従業員(40歳以上64歳以下の人)の場合は、健康保険料に介護保険料を合算して納付する必要がありますので注意しておきましょう。
雇用保険料の計算
雇用保険料は、「給与総支給額×雇用保険料率」の計算式で計算します。
雇用保険料率は1000分の9で計算しますが、従業員負担額はこのうち1000分の3となりますので、給与総支給額からは以下の金額だけを控除することとなります。
給与から天引きする雇用保険料=給与総支給額×1000分の3
なお、雇用保険料の料率は企業の業種によって微妙に異なる場合がありますので、厚生労働省のホームページで確認しましょう(農林水産業や建設業など)。
従業員への給与支払い
上で計算した税金(源泉所得税と住民税特別徴収額)と、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)を天引きした金額を、給与総支給額から差し引きすれば、従業員に対して実際に支払う給与の金額を計算できます。
この金額を一般的に「給与手取り金額」と呼び、実際に従業員の銀行口座に振り込む金額となります。
計算式にまとめると以下の通りです。
給与手取り金額=給与総支給額-(源泉所得税+住民税特別徴収額+健康保険料+厚生年金保険料+雇用保険料)
繰り返しになりますが、健康保険料や厚生年金保険料は雇用主と従業員が2分の1ずつ折半で負担しますので、計算間違いをしないよう注意しておきましょう。
社会保険料・税金の納付
上の一連の流れで計算した社会保険料や税金は、指定された期日までに役所に納付する必要があります。
※雇用保険料については、毎年6月1日~7月10日の期限で行う「年度更新」の手続きで、概算額1年分をまとめて納付します。
それぞれの納付期限は以下の通りです。
- 源泉所得税:翌月10日
- 住民税特別徴収額:翌月10日
- 健康保険料:翌月末
- 厚生年金保険料:翌月末
口座振替なども利用できますので、期限に遅れないように納付を行うようにしましょう。
給与計算ソフト・会計ソフトへの入力作業
上の計算手続きに従って給与支給が完了したら給与計算ソフトに支払に関する情報を入力するとともに、会計ソフトへも入力処理を行います。
給与計算ソフトと会計ソフトとは、以下のように用途が異なりますので注意しておきましょう。
- 給与計算ソフト:賃金台帳の作成や年末調整の計算に使います
- 会計ソフト:決算書や税務申告書の作成に使います
これら2つのソフトは同期による入力作業の簡素化が可能なケースがほとんどですから活用しましょう。
誤りが生じやすい給与計算のトラブル事例
すでにみたように、給与計算は従業員の給与を扱うデリケートな職務ですから、細心の注意をもって実務に当たらなくてはなりません。
以下では給与計算実務ではどのようなトラブル事例があるのか?について理解し、ミスが生じないためにはどうしたらよいのかを理解しておきましょう。
通勤交通費の課税・非課税判断の誤り
従業員が勤務先に通うために利用した交通費を「通勤交通費」として給与に合算して支給した場合、従業員のお給料から天引きする税金や社会保険料の計算間違いが生じないように注意が必要です。
というのも、通勤交通費の支給に関しては、所得税の計算では一定の非課税枠が認められているからです。
具体的には、交通費の支給額が月額15万円までであれば所得税の計算においては非課税となりますから、源泉所得税の計算では給与総支給額に含めません。
一方で、社会保険料の計算においては、この通勤交通費を含めた金額をもとに標準報酬月額を認定しますから、混同しないように注意しておきましょう。
税金や社会保険料の徴収額誤り
税金や社会保険料の計算は、複雑な計算手続きを行う必要があります。
具体的には、在籍している従業員の税額や社会保険料の計算をリアルタイムで把握したうえで、下記のような諸手続きを期限までに行わなくてはなりません。
- 健康保険料や厚生年金保険料:算定基礎届という手続きを毎年行います
- 雇用保険料や労災保険料:年度更新という手続きを毎年行います
- 所得税の計算:年末調整という手続きを毎年行います
社会保険料や税金の徴収額に誤りがある場合、過去の年度分にさかのぼって追徴を受ける可能性もありますから、慎重に計算を行う必要があります。
給与計算の実務経験がある人材の確保が難しい理由
多くの企業にとって、給与計算業務の経験がある人材を確保することは困難な課題と言えます。
従業員の数を増やし、それにともなって給与計算実務の経験がある人材を採用しようと考えても、なかなか思うような経験を持った人が見つからないというのが実情です。
以下では、給与計算の実務経験がある人材の確保が難しい理由と、その対策方法について解説いたします。
給与計算を任せられる人材は限られている
給与計算は実務の中でも機密性が高い仕事です。
ある従業員の給与手取額を、別の従業員が知る…などということになっては会社への信用問題に発展しかねませんから、情報の機密性には細心の注意を払う必要があります。
そのため、多くの企業ではある程度の勤続年数がある従業員に限定して、給与計算実務を担当させています。
必然的に、自社内で給与計算実務を処理するためには、長期にわたって勤続してくれる総務スタッフの確保が必須となります。
高額な人件費負担と代行サービスの比較
前述のような理由から、給与計算実務を任せる総務スタッフの人件費は高額になりがちです。
管理部門の人材は売上に貢献することは基本的にありませんから、こうした人材を雇用することのコストとリターンは慎重に判断する必要があるでしょう。
スタッフの人件費や教育費用といったコスト削減にお悩みの方は、給与計算代行サービスを活用するのも1つの選択肢です。
代行サービスの費用相場は1人あたり1,000円程度が相場です。
従業員を雇用する人件費と比較して、はるかに安いコストで給与計算業務を処理することが可能となります。
なお、実務知識や専門知識が豊富な人材を新たに雇用するとしたら、初年度の月給でも30万円程度は必要となるでしょう。
給与計算代行で依頼できる給与計算実務の例
代行サービスを使えば、以下のような給与計算業務を代行してもらうことが可能です。
- 月次の給与計算や賃金台帳等の作成
- 税金や社会保険料の計算
- 年末調整業務
おすすめの給与計算アウトソーシングサービス
給与計算はどこに依頼できる?
一般的に、給与計算の代行を依頼する先として3つの方法があります。
1.税理士に依頼する
税理士は税務業務の専門家です。
確定申告や消費税など、税に関する申請書の作成、申請代行のほか、税に関するコンサルティングなどが業務範囲になっています。
給与計算では所得税などの計算だけでなく、年末調整や税務署などへの提出書類の作成手続きなども必要となるため、年末調整の手続きも含めて税理士に給与計算を依頼する企業も多いようです。
2.社会保険労務士に依頼する
社会保険労務士(社労士)は社会保険業務の専門家です。
人事や労務管理を専門とし、労働保険、社会保険の手続きのほか労働者名簿や就業規則の作成などに対応可能です。
給与計算では従業員の雇用時や退職時の雇用保険と社会保険の手続きなども必要となります。
社労士なら、従業員の入退社手続きや毎年の社会保険の更新、変更手続きなどをワンストップで依頼ができます。
3.代行サービスに依頼する
近年、様々な業務の外部委託による効率化が盛んになっており、給与計算を専門とした代行サービスも増加しています。
代行業者への依頼は、税理士や社労士などに依頼するよりも比較的料金が低い傾向にあり、コスト面でのメリットが特徴と言えます。
ただし、税理士や社労士の有資格者でない場合、年末調整や社会保険等の手続き代行はできないので、それぞれの専門家に分けて依頼する必要があります。
おすすめの給与計算アウトソーシングサービス
代行サービスに依頼する場合のポイント3つ
給与計算代行を利用するメリットは多いですが、業者選びを間違えると後々トラブルが発生する可能性もあります。
ポイントを押さえて、失敗のない業者選びをしましょう。
ポイント.1 料金が予算に合うか
給与計算をアウトソーシングすることによって得られるメリットのひとつが「コスト削減」ですが、導入のために逆にコストが増大してしまってはデメリットの方が大きくなってしまいます。
まずは給与計算代行の利用にかけれる予算を決め、その予算内で対応してくれる業者かをチェックするようにしましょう。
多くの業者はサービス内容に応じて、複数の料金プランを設定していますので、自社のニーズにあったサービス内容と価格か、費用対効果を慎重に精査することが大切です。
ポイント.2 必要な業務範囲をカバーしているか
業者の選び方は必要な業務範囲によって異なります。
任せたい業務範囲をすべてカバーしているかを事前に確認しておくようにしましょう。
- 勤怠計算や管理
- 賞与計算作業
- 年末調整の作業
- 労務や社会保険の手続き
給与計算の際に必要な主な業務としては、上記が挙げられます。
ポイント.3 機密保持の体制がしっかり整っているか
給与計算や税金に関する個人情報は、その性質上、外部に漏洩すると悪用される危険性もあり、取り扱いには細心の注意が要求されます。
業者がきちんとセキュリティ体制を整えていれば良いのですが、現実にはそうではない業者も存在します。
中には中間代行を行っているだけで、実際にはさらに別会社に外注している場合もありますので、どのような業務体形の会社かきちんと確認する必要があります。
まとめ
今回は、給与計算実務の具体的な内容について解説するとともに、実際に給与計算を社内で導入する際の具体的な方策について解説いたしました。
本文でも見たように、煩雑な給与計算実務の経験がある人材を確保することは多くの企業にとって困難な課題となります。
社内で人材を育成することも一つの選択肢ではありますが、高額な人件費コストや教育コストに見合った活躍をしてくれるとは限りません。
給与計算代行サービスを活用すれば、格安の費用で経験豊富な専門家事務を任せ業務効率を改善することができます。
機会があればぜひ利用を検討してみてください。