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企業規模ごとの最適な経理体制
経理の仕事は、すべての経営者がなんらかの形で関わらないといけない仕事です。
一方で、経理の仕事そのものは「売上を生まない仕事」ですから、企業内で経理スタッフが不必要にたくさんいる…という状態は避けなくてはいけません。
経理体制の構築には、必然的に人件費を中心とするコストの増加(それも売上に関係なく毎月必ず発生する出費です)を伴いますから、企業の規模に合わせてじょじょに拡充していくのが適切です。
この記事では、主に創業間もないスタートアップ期の企業経営者の方向けに、企業の規模に応じて経理体制を構築していく具体的な方法について解説いたします。
企業規模ごとの最適な経理体制とは
どのような形で経理体制を構築すべきか?は会社の規模によって異なります。
以下では従業員数名~10名前後のスタートアップ期の企業を想定し、経営者が構築するべき経理体制について具体的に解説していきます。
結論から言うと、この企業規模においては「社長が経理作業にかけている時間をいかに少なくするか?」を考えながら経理体制を構築していくことが重要です。
以下で具体的に解説していきます。
従業員数名~10人規模の企業の経理体制
創業間もないスタートアップ期の企業では、社長自身が経理を担当しているというケースも少なくないでしょう。
しかし、経理は売上に直接貢献する仕事ではありませんから、創業期の経営者が経理にかかりっきりになってしまうことは望ましくありません。
スタートアップ期の企業においては、社長が経理作業に割かないといけない時間はなるべく少なくし、売上に貢献する活動のための時間をいかに確保するか?を考えるのが基本となります。
「社長の時給をいかに上げていくか?」を考える
これは、「社長の時給(時間当たりにどのぐらい会社の利益に貢献する仕事ができているかという意味です)」をいかに上げていくか?という問題でもあります。
「社長の時給」は、「実際に会社があげている利益÷社長の労働時間」で計算できます。
経理作業からは売上は直接的に生まれることはありませんから、社長が経理作業にかける時間が長くなればなるほど、社長の時給はどんどん下がっていってしまうのです。
社長が時給の低い仕事をしていては企業の存続そのものが危うくなってしまいますから、創業期の企業においては、必要最低限の経理体制を準備していくという視点で経理体制の構築を進めていきましょう。
具体的には、安価で利用できる外部のサービス(経理代行サービス)をうまく活用しつつ、社長が「現実に会社の利益を生み出すための活動」に全力投球できる環境を作っていくことが大切です。
※「社長の時給」は、より厳密には「(役員報酬+営業利益)÷労働時間」という形で計算できます。
具体的な施策:経理代行を選択するメリット
記帳代行では、社内で保存した領収書などの資料を月に1回程度のペースで税理士事務所に対して渡し、その資料に基づいて税理士事務所が会計ソフトの入力作業など代行してくれるというものでした。
記帳代行サービスの費用は「会計ソフトに入力する取引100件までは月額この値段、100件超~300件まではこの値段」というような形で課金されますから、まだ事業規模が小さく、取引が少ない企業では非常に安いコストで経理体制を構築できるというメリットがあります。
経理代行サービスは、記帳代行からさらにすすめて「経理に関する業務すべてを外部に委託できる」というサービスです。
具体的には、会計ソフトへの入力業務に加えて、次のような業務も代行してもらうことができます。
・得意先への請求書発行
・債権残高の管理
・得意先からの入金管理業務
・債務管理
・支払業務
・従業員の経費精算業務
経理代行を選択した場合、経理に関する業務をすべて外部の専門家に処理してもらうことが可能になりますから、業務負担を減らしながらも安定的に経理業務を処理していくことが可能となります。
代行サービスを利用するデメリット
記帳代行や経理代行などのサービスを利用した場合には、次のようなデメリットが生じます。
・会計情報の把握に時間がかかる(記帳代行の場合)
・顧問税理士から受けられるアドバイスが質、量ともに下がる
・経理専門スタッフの育成ができない
順番に説明します。
会計情報の把握に時間がかかる
記帳代行サービスを利用した場合、経理処理を完全に社外のサービスに外注することになりますから、必然的に社内で会計に関する情報を把握するのに時間がかかります。
一方で、経理代行の場合は経理に関する業務をすべて外部の専門家がその都度処理をしていきますから、こうしたタイムラグは生じません。
経営判断を会計数字に基づいて行うためには、経営者の手元に自社の最新の会計情報が常にあることがのぞましいのはいうまでもありません。
そのため、長期的な目線に立つのであれば、記帳代行サービスに頼る段階から「社内での経理処理→顧問税理士によるチェック」という体制に移行していくのがのぞましいといえるでしょう。
もっとも、スタートアップ期においては経営者自身が会社の資金繰りや損益情報について頭で全体像を把握できていることも少なくありませんから、事業規模の成長に合わせて段階を踏んでいくことが適切です(最初から完璧を求めるべきではありません)
顧問税理士から受けられるアドバイスが質、量ともに下がる
税理士と顧問契約を結んでいる場合、月に1回~数回という頻度で税理士が自社の事務所を訪問してさまざまなアドバイスをしてくれます。
税理士は単に経理の処理を代行してくれるだけでなく、節税対策や助成金の活用、さらには経営コンサルティング的なアドバイスにも力を入れていますから、こうした情報を活用することは大きなメリットがあるでしょう。
しかし、記帳代行サービスを利用している場合には、どうしてもすでに完了した経理処理内容に関する報告がメインとならざるを得ません。
税理士の側も1社の相談にかけられる時間は限られていますから、必然的に税理士から受けられるアドバイスの質が下がってしまうことになります。
記帳代行からさらに進んで、こうしたアドバイスを受けたい場合には、基本的な経理処理は自社内で処理できるようになるのが理想といえます。
経理専門スタッフの育成ができない
記帳代行サービスを利用することは、経理作業のほとんどすべてを外注(アウトソーシング)することを意味します。
低コストで経理作業をすべて外部の専門家(税理士)に任せることができますので、人数の限られているスタッフをできる限り売り上げに貢献させるという観点では非常にメリットの大きい方法といえます。
一方で、当然のことながら社内に経理のノウハウが蓄積されることがありませんから、長期的な視点で見ると記帳代行サービスを使い続けることが企業の成長を阻害することも考えられます。
記帳代行サービスは創業間もないスタートアップ企業にもっとも適したサービスであり、企業の成長がある程度進んだ段階で次のステップ(「経理作業の社内処理化×顧問税理士のチェック体制」への移行)を検討するのが適切といえるでしょう。
経理体制構築の具体的なステップ
実際にゼロから経理体制を構築していくうえでは、次のようなステップを踏んでいく必要があります。
・①現状の把握
・②最低限必要な経理体制を整える
・③活用できる経理情報の幅を広げる
・④経理専門スタッフの雇用
なお、税理士と顧問契約を締結した場合、顧問契約を交わした最初の段階で、こうした手続きは税理士と具体的に相談しながら進めていくことになります。
①現状の把握
経理体制の構築は、まずは御社の現在の状況を把握することから始めます。
具体的には、次のような情報を知る必要があるでしょう。
・どこから商品を仕入れて誰に売っているのか
・日常的に発生する交通費や接待交際費
・社長が個人の生活費としてとっているお金がいくらなのか
・事業用に使っている資産がどれだけあるか(現預金から事業用の設備や自動車まで)
・従業員がいる場合には雇用契約の内容
すでに個人事業として活動をされている方であれば、何らかの形で過去に確定申告を行っていると思いますので、その際の資料を参考にしましょう。
②最低限必要な経理体制を整える
現状の把握ができたら、まずは最低限必要な経理体制を構築することを考えます。
日本国内で活動している企業である以上、1年に1回は必ず税金の申告をして納税をしなくてはいけませんから、そのための経理体制が必要となります。
具体的には、会計ソフトの導入によって会計取引を記録できるようにするとともに、従業員の給与計算と年末調整を行うための体制が必要でしょう。
会計ソフトの導入が完了し、日常的な経理処理を適切に行っていけば、年に1回集計作業(これを年次決算と呼びます)を行うだけでも最低限の税務申告を行うことができるようになります。
資金繰り表の作成
また、月次決算のタイミングで資金繰り予定表の作成も同時に行うのが良いでしょう。
当然のことながら、売上が上がってから実際に入金が行われるまでには時間的なラグがあります。
企業の損益と資金繰りの状況は必ずしも一致しませんから、これらはそれぞれ別個の情報として作成していくことが求められます。
月次決算を行うメリット
もっとも、集計を行うのが1年に1回だけでは大変な作業になりますので、税理士と顧問契約を結んでいる場合には1か月に1回というスパンで月次集計(これを月次決算と呼びます)を行うのが普通です。
月次決算を行なえば、そのつど試算表を作成することができますから、金融機関からの融資を受けたい際などに必要な情報をスムーズに提出することができます。
③活用できる経理情報の幅を広げる
最低限の経理体制が整い、数か月分の会計データが集まってきた段階で、そうした会計データから読み取れる情報を経営に生かすことを検討していきます。
具体的には、得意先別に売上や経費、外注費などの費用を日々入力していくことにより、本当に利益に貢献している得意先を洗い出したり、事業部門別に損益管理を行うことによって重点的に投資を行うべき事業を検討したりすることが考えられます。
また、1年分の会計データが蓄積され、年度決算が完了した段階で、翌事業年度の予算を過去の実績値に基づいて作成することが可能となります。
経理が作成する会計データには経営者の経営判断に役立つ「生の情報」が驚くほどたくさん詰まっていますから、これらを活用しないという手はありません。
もっとも、最初からこうした会計情報の作成をすべて行うことは大変ですから、少しずつ自社の状況に応じて導入を検討していくのが良いでしょう。
④経理専門スタッフの雇用
スタートアップ期における企業では、記帳代行サービスの活用によって経営者の活動の時間単価(簡単にいえば時給のことです)を高めていくことが大切です。
一方で、記帳代行サービスでは自社内に経理作業に関するノウハウを構築することができませんから、一定のタイミングで記帳代行サービスは「卒業」を考える必要があります。
具体的には、経理専門のスタッフを雇用し、長期的な視野に立って彼らの育成を行わなくてはなりません。
ひとまずは「基本的な経理作業は自社内で経理スタッフが処理し、月次決算を通して顧問税理士にチェックを受ける」といった形の経理体制の構築を目指しましょう。
基本的な経理作業を自社内で処理できるようになることで、顧問税理士から受けられるアドバイスも質的なレベルアップが期待できます。
(単なる記帳結果の報告だけでなく、各種の節税対策や長期的な視野に立った経営コンサルティングサービスを活用できるようになります)
まとめ
今回は、従業員数名規模のスタートアップ企業の経営者向けに、企業規模に応じた経理体制を構築していくための考え方について具体的に解説いたしました。
本文でも見たように、創業期の企業においては、外部のサービス(記帳代行や経理代行)を上手に活用しながら社長の時給(時間当たりの生産性)を高めていくことがとても大切です。
特に、経理代行を活用すればこれまで経理業務に充てていた時間をすべて別の業務に振り当てることが可能になります。
「経理処理にかける時間をなるべく少なくしたい」とお考えの経営者の方には非常にメリットが大きいといえるでしょう。