「高年齢者雇用安定法」とは、働く意欲のある人は年齢に関係なく、だれでもその能力を発揮できるように、高年齢者が働く環境を整えるための法律です。
少子高齢化が進み、今後ますます人手が足りなくなっていくことが懸念されています。
労働力の確保のため高年齢者が安定して働けるということは、今後の日本経済にとってとても重要になってきます。
目次
現行の高年齢者雇用確保措置
現行では、高年齢者雇用確保措置として、事業主に対して、次のいずれかの措置を講じることを義務付けています。
- 定年を65歳まで引き上げる
- 定年制の廃止
- 65歳までの継続雇用制度の導入
令和3年の高年齢雇用安定法改正のポイント
今回の改正で、現行の65歳まで雇用を確保する義務に加え、70歳までの就業確保措置が努力義務になりました。
対象となる事業主は、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主や、65歳までの継続雇用制度を導入している事業主です。
今回の改正により、高年齢者就業確保措置として、次のいずれかの措置を講じるよう努めなければいけなくなりました。
- 定年を70歳まで引き上げる
- 定年制を廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に、事業主が自ら実施する社会貢献事業や、委託・出資する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入
なお、いずれの措置を講じるかは、労使間で十分に協議をし、高年齢者が希望する措置を講じることが望ましいとされています。
70歳までの継続雇用制度について
再雇用や勤務延長の制度がこれに当たりますが、年齢に応じて継続雇用することができる事業主の範囲が広がります。
- 60歳以上65歳未満:自社、特殊関係事業主
- 65歳以上70歳未満:自社、特殊関係事業主、特殊関係事業主以外の他社
なお、特殊関係事業主とは親会社や子会社・関連会社などを指し、自社と特殊関係事業主等との間に継続雇用を約束する契約書が必要です。
創業支援等措置の実施
創業支援等の措置とは、高年齢者就業確保措置のうち、次のような雇用以外での就業確保を指しています。
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
- 社会貢献事業に従事する制度
雇用関係はなくなり、つまりはフリーランスとして活躍してもらうということです。
会社員として働いてきたときとは大きく異なり、雇用関係がないということは労災なども適用されないということになります。
そのため、これらの創業支援等措置を実施する場合には、次のような手続きを踏むことが必要です。
1.計画を作成
次の必要事項を満たした計画を作成します。
- 高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
- 高年齢者が従事する業務内容
- 高年齢者に支払う金銭
- 契約を締結する頻度
- 契約に係る納品について
- 契約の変更について
- 契約の終了について(契約の解除事由を含む)
- 諸経費の取扱いについて
- 安全衛生について
- 災害補償や業務外の傷病扶助について
- 社会貢献事業を実施する団体
- 上記以外に創業支援等措置の対象となる労働
2.過半数労働組合等の同意
作成した計画は、過半数労働組合等の同意を得なければいけません。
同意を得る際には、次のことを十分に説明する必要があります。
- 雇用されるわけではないので、労働関係法令が適用されないこと
- 労働関係法令が適用されないために計画が定められているということ
- なぜ創業支援等措置を選択するのかという理由
3.計画を周知
過半数組合等の同意を得た計画は、次のいずれかの方法で労働者に周知しなければいけません。
- 常に事業所の見やすい場所に掲示するか備え付ける
- 労働者に書面を交付
- 磁気テープ・ディスク等に記録し、いつでもこれを確認できる機器を事業所内に設置
なお、事業主が用意した業務が、労働基準法における労働者性の認められる働き方だと判断できる場合は、創業支援等措置ではなく雇用による措置を行わなければいけません。
高年齢者が離職する場合は?
前述のとおり、今回の改正で、70歳までの就業確保措置が努力義務になりました。
これにより、高年齢者が定年や事業主都合により退職する場合に、事業主がやらなくてはいけない次の3つの事柄についても、対象が70歳未満で退職する高年齢者に拡大されています。
- 事業主が努力義務を負う「再就職援助措置」
- ハローワークへの届け出を義務付けられている「多数離職届」
- 希望があれば本人に交付すべき「求職活動支援書」
なお、現行制度では45歳~65歳までが対象になっています。
【再就職援助措置】
- 教育訓練受講などのための休暇付与
- 求職活動に対する経済的支援
- 再就職のあっせん
- 教育訓練受講などのあっせん
- 再就職支援体制の構築など
【多数離職届出】
同一事業所で、1か月以内に5人以上の高年齢者等が、解雇などによって離職する場合には、離職者数や離職する高年齢者等に関する情報を、公共職業安定所長へ届け出る義務
【求職活動支援書】
求職活動支援書には次の事項を記載。
- 氏名・年齢・性別
- 離職日(未定の場合はその時期)
- 職務の経歴(主な業務内容、実務経験、業績など)
- 保有資格・免許・受講した講習
- 保有技能・知識など
- その他、職務経歴書などを作成する際に参考になることや再就職のためになること
再就職援助措置等を実施する事業主
では、再就職援助措置等を実施するのは、どの事業主なのでしょうか?
原則、離職時に高年齢者を雇用している事業者が、再就職援助措置等を実施します。
創業支援等措置の場合には、その時に高年齢者と業務委託契約を締結している事業主が実施することになります。
ただし、以下の高年齢者に対しては、高年齢者を定年まで雇用していた事業主が実施す ることになっています。
- 他社での継続雇用制度で、制度の上限年齢(70歳未満の場合に限る)に達した高年齢者
- 他の団体が実施する、社会貢献事業に従事できる制度により就業する高年齢者
中小企業の負担増への懸念と高年齢者雇用支援
いったん、今回の法改正では70歳までの就業確保措置は、「努力義務」にとどまりました。
しかし、今後義務化される可能性は大いにあります。
定年の延長だけでなく業務委託契約の導入などの選択肢もあるものの、特に中小企業にとっては負担の大きい法改正ですよね。
そのため、助成金をはじめとした高年齢者雇用に関する支援についてはぜひ知っておきたいところです。
中小企業がより優遇される助成金もありますよ。
高年齢者を雇用するときに使える助成金
まず、高年齢者を雇用する際には、助成金が支給される場合があります。
65歳超雇用推進助成金
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の雇用の推進を図ることを目的とした助成金制度です。
定年を65歳以上に引き上げた事業主などに支給されるもので、3つのコースがあります。
- 65歳超継続雇用促進コース:「定年を65歳以上に引き上げる」「定年制の廃止」「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度」のいずれかを導入した事業主に対する助成
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース:高年齢者向けの雇用管理制度の整備などを行った事業主に対する一部費用の助成
- 高年齢者無期雇用転換コース:50歳以上でまだ定年の年齢を迎えていない有期契約労働者を、無期雇用に転換させた事業主に対する助成
特定求職者雇用開発助成金
高年齢者など、就職が特に困難な人たちの雇用の機会を増やし雇用の安定を図るために、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介によって、このような人たちを継続して雇用する事業主に対して支給される助成金制度です。
特定求職者雇用開発助成金には8つのコースが用意されています。
そのうち、高年齢者の雇用に関するものは主に次の2つです。
- 特定就職困難者コース:高年齢者や障害者など、就職が特に困難な人を雇用保険被保険者として継続して雇い入れる事業主に支給される助成金
- 生涯現役コース:65歳以上の離職者を、雇用保険の高年齢被保険者として1年以上継続して雇い入れる事業主に支給される助成金
事業主に対する相談・サポート
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、実務的な知識や経験のある「高年齢者雇用アドバイザー」という専門家が、事業主からの相談を受けたり、適切なアドバイスをするなどのサービスを提供しています。
高年齢者が地域で働く機会を確保するための支援
地域において、高年齢者のさまざまなニーズに合わせた就業機会を確保するための支援もあります。
- シルバー人材センター事業:人手不足の分野へ就業機会を広げたり、地方自治体等と連携して就業機会を作り出す事業などを実施
- 生涯現役促進地域連携事業:地方自治体中心に構成される協議会から出された提案をもとに、地域における高年齢者の就労促進のための事業を幅広く実施
高年齢者の再就職のための支援
高年齢者の再就職のための支援も強化されています。
- ハローワークの生涯現役支援窓口:全国の主要なハローワークに生涯現役支援窓口を設置し、65歳以上の高年齢者の再就職支援や求人開拓等を強化
- 高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業:公益財団法人産業雇用安定センターに能力やスキルなどの情報を登録した高年齢退職予定者とその能力を活用したい事業者とのマッチングを強化
まとめ
この記事では、令和3年4月1日に施行される改正高年齢者雇用安定法で定められた、70歳までの就業機会確保の努力義務についてまとめました。
現行の高年齢雇用安定法と、今回の法改正のポイントについて詳しく解説しています。
今回の改正は中小企業にとってはとても負担の大きい改正だといえます。
そのため、知っておくとよい助成金をはじめとした高年齢者雇用に関する支援についても併せてご紹介しました。
ぜひ参考にしていただき、法改正に備えてください。