飲食店の開業資金の4割~5割を占めるのが、内装工事にかかる費用です。店舗の内装工事には、建物内部の天井や床、壁などの仕上げのほか、照明や什器などのインテリア、電気・ガス・水道といった設備の工事なども含まれます。
飲食店の内装工事の相場は、坪単価で示すのが一般的。業種や物件の状態、店のコンセプトなどにもよりますが、坪単価で30万円~50万円というのが相場となっています。
この記事では、飲食店の内装工事について、業種別の相場から依頼時の注意点、資金調達の方法まで解説します。
目次
飲食店の内装工事の内訳
飲食店の内装工事には、次のような費用が含まれます。
- 設計デザイン料
- 設計監理料
- 内装・設備工事費
- 厨房工事費
設計デザイン料は、店内のレイアウトや動線を含めた店舗のデザインにかかる費用です。
設計監理とは、設計書・仕様書のとおりに工事がなされているかを確認することです。これがおろそかだと、設計と実際の仕上がりが違う、などのトラブルが発生します。
設備工事費とは、電気やガスなどの敷設にかかる費用のこと。内装工事にかかる費用の半分程度が、この設備工事にかかります。厨房工事費は、ガスレンジやフライヤー、冷蔵・冷凍設備といった厨房特有の設備を設置する工事です。
飲食店の業種別 内装工事費用の相場
飲食店の内装工事の費用相場を、金額を大きく左右する業種と状態の違いで見てみましょう。
業種 | 居抜き | スケルトン |
---|---|---|
カフェ、フルーツパーラー | 15万円~30万円 | 30万円~50万円 |
レストラン、中華料理店、居酒屋、寿司店、小料理屋 | 35万円~50万円 | 50万円~70万円 |
バー、スナック、クラブ(一等地の高級店)、焼肉店 | 50万円~100万円 | 80万円~150万円 |
居抜きとは、前の店舗の設備などが残っている物件のこと。スケルトンは建物の構造のみが残された物件です。居抜き物件を活用すれば、半分あるいは4分の1程度の費用で内装工事ができる可能性も高いです。
ただしこれは目安であり、場合によっては居抜きでもスケルトンと大差がなくなる可能性もあるので注意が必要です。
内装工事費用の高低を決める要素
飲食店の内装工事は、相場はあるものの個々のケースで異なります。特に次のような要素で金額は大きく変わります。
- 業種(カフェ、イタリアンレストラン、料亭などの種別)
- コンセプトやターゲット
- 物件の状態(居抜きかスケルトンか)
- デザインの担当業者
- レイアウトなど大幅な変更の有無
業種による費用の違い
カフェやフルーツパーラーのように、ガスなどによる調理の頻度が低い業種であれば、内装工事は比較的低い費用で済みます。
一方で、火を使った調理がメインとなる食堂や中華料理店、イタリアンレストランなどでは、ガスレンジやオーブン、ピザ窯など、必要な機器も増えます。
中華料理店などでは、火力の強さに耐えうる設備も必要となるため、工事費用が高くなる傾向です。
コンセプトやターゲットの違い
店のコンセプトやターゲットの違いでも、費用は大きく異なります。例えば接待に利用するような寿司店や料亭では、個室や高級な木材を使用した部屋など、上質な空間が必要です。厨房設備などのスペック、壁に飾る絵画のクオリティまで高い物にする必要があるでしょう。
また、例えばジャンルは同じ「中華料理店」でも、町中華と高級中華で内装工事にかかる費用が大きく異なることは容易に想像できます。
居抜きかスケルトンかによる違い
繰り返しになりますが、「居抜き」とは、前に営業していた店舗の設備や什器などが残された状態で貸し出される物件のこと。「スケルトン」とは柱などの構造のみが残る状態です。
居抜き物件で残る設備や備品がそのまま利用できれば、当然ながら費用は安上がりに。2分の1から4分の1程度が節約できる可能性があります。
レイアウト変更などの有無
居抜き物件であっても、修理が必要だったり、ガスや電気の容量が足りなかったり、大きくレイアウトを変えたりなどすれば、費用は高額になります。
居抜きであれば、「そのまま使えるかどうか」が大きなポイントです。
デザイン設計の担当業者
店舗デザインをどこに任せるかによっても、費用は大きく異なります。目安として全体の10~15%とされていますが、設計デザインと施工会社が別の場合、より個性あるデザインが可能になる代わりに、料金が高くなることに。
建物の規模などによるというよりは、業者による価格差が大きいのがこの部分です。
ちなみに、広さももちろん費用の高低を決める要素です。店舗の場合、狭くても最低限必要となる設備は同じなため、店舗が小さい方が坪単価は高くなります。
飲食店の内装工事はDIYでも可能?
「自分の店を自分で作りたい」「日曜大工の腕を生かしたい」「開業費用を少しでも安くしたい」と、内装工事のDIYを考える人もいるでしょう。ただ、DIYができるところとできない箇所があるので注意が必要です。
資格が必要な作業がある
まず、内装工事の中には、次のような資格がないとできない作業があります。
資格の名称 | 有資格者ができること |
---|---|
(第二種)電気工事士 | 店舗など小規模施設の電気工事 ・配線やコンセントの設置・交換 ・照明、エアコンの設置工事など (600V以下) |
簡易内管施工士 | ガス機器の設置工事に伴うガス栓の増設や位置替え(ガス事業者との契約が必要) |
給水装置工事主任技術者 | 給水装置(排水管~蛇口)の新設や改造、修繕、撤去工事 |
下水道排水設備工事責任技術者 | 排水設備(店舗から出る汚水や雨水などを下水道などに流す排水管など)の新設など (指定工事店に専属) |
このような店の根幹部分にかかわる作業は専門業者に任せましょう。
DIYは避けるべき作業・場所
飲食店が注意すべき「安全」は食事だけではありません。そのため、次のような部分もDIYは避けるべきです。
- 建物の構造に関する部分
- デザイン性や見た目を重視される部分
- 安全性を考慮すべき部分
建物の構造にかかわる部分、つまり柱や窓、玄関や階段といった部分も、DIYでは安全上の大きなリスクが伴います。また、玄関部分などは仕上がりが美しくなければ集客にも影響しかねません。
また、大きな棚や重いテーブルなどを設置する場合も、倒れるなどすれば大きな事故の危険性があります。コスト削減より、客の安全が第一です。
DIYでもできる箇所
次のような作業は、DIYでも問題ないでしょう。
- ホール部分の壁の張替え・塗装
- 床のクッションフロアやタイル貼り・塗装
- 小物類や小さな棚などの製作
- エプロン、コースタ―など布小物の製作
ただし、DIYには安全以外にも注意すべき点があります。
店舗の内装工事をDIYですることの注意点
DIYによって、工事費の節約になったり、店への愛着が増したりするのはよいのですが、次のことも頭に入れておきましょう。
- 時間をかけすぎないこと
- 予算を決めておくこと
- DIYを無理にしないこと
DIYで作業に時間がかかりすぎると、開店日が延びてしまいます。そうなれば、営業していないのに家賃を支払う期間が長引き、コストの無駄遣いになります。
また、素材などを自分好みにできるのがDIYのメリットではありますが、良いものは往々にして価格も高く、結果として高くつく可能性も。節約のためのDIYなら、業者に頼む費用よりも安い予算を設定し、その範囲内でのDIYにとどめる必要があります。
DIYに慣れていない人が無理にやるのはおすすめしません。塗装の色や素材一つとっても、プロなら全体のバランスや耐久性などを考慮して選びます。知識が乏しければ、壁だけ浮いて見える、なんて結果になるおそれも。途中で嫌になってしまえば、出来も中途半端になってしまいます。
内装工事を業者に依頼する際のポイント
内装工事を業者に依頼する際は、次のポイントを押さえておきましょう。
- 業者は複数の比較で決める
- 料金より実績で選ぶ
- デザインも施工もできる業者を選ぶ
- 「全額前払い」に注意する
- 工事中も現場に足を運ぶ
- 引渡時のチェックも怠らない
複数の業者を比較して決める
まずは複数の業者に相談し、見積もりを出してもらいましょう。料金やサービス内容を比較して決めてください。
1つの業者の話だけでは、よくわからないために希望が通らなくても我慢するしかなかったり、他より高い料金を取られたりしかねません。
料金より経験・実績で選ぶ
複数の業者を比較する際は、飲食店の内装工事を請け負った実績の有無やその数のほか、どんなジャンル・規模の店を手掛けたのかなどもポイントにしましょう。
「安かろう悪かろう」といった業者も残念ながら存在します。また、最も安い業者にしたつもりが、後からあれこれと追加事項が発生し、結局は高くついてしまったケースも。
飲食店の内装は設備など独特な部分もあるため、経験がなければミスや不具合が発生するリスクもあります。
デザインも施工もできる業者を選ぶ
コスト削減という面では、デザイン・設計・施工を一括して請け負える体制の業者を選ぶのも1つの方法です。デザイン部分を別の会社に依頼すると料金が高くなる傾向にあります。
社内で店舗デザインが可能なのかを聞いてみてください。希望のデザインがあるならはじめに話しておきましょう。
「全額前払い」に注意する
内装工事の支払いに、ローンを組むことはできません。とはいえ、「全額を前払いで」と言われた場合は要注意です。
通常は、融資を受けて分割で払います。工事の規模などによって、契約時と引渡後の2回払い、あるいは契約時・中間時・引渡時の3回払いとするのが一般的です。
「全額を前払いしたら連絡が取れなくなった」といった事態は避けなくてはなりません。信頼できる業者かどうかをよく見極めてください。
工事中も現場に何度か足を運ぶ
依頼した後、完成まで業者に任せっぱなしというのもよくありません。必ず何度か足を運び、設計図やスケジュールどおりに工事が進んでいるかをチェックしてください。
監視の目がなければ、いい加減な作業をされるおそれもあります。場合によっては、完成したらコンセントの位置が違っていた、数が足りない、なんてことに。
施主の想いが作業する人たちに伝わり、良い店ができていく、というのが理想の形でしょう。
ただ、例えば毎日のように行って作業をじっと見続ける、作業中にいちいち細かいことを言うなど、やりすぎは逆効果となるので気を付けてください。
引渡時のチェックも怠らない
完成後、引渡の際にも必ず最終的なチェックは自分の目で行ってください。店の営業に影響する致命的なミスがないとも限りません。
細かいことで言えば、什器の搬入の際に壁に空いた穴がそのままになっている、壁紙がいい加減に貼られていて端がめくれている、なんてことも珍しくありません。支払いをすべて済ませる前に、納得のいく状態かどうかを確認しましょう。
飲食店の内装工事の資金を調達する方法
飲食店の内装工事には、坪30万円~50万円もしくはそれ以上の費用がかかります。10坪、約20畳のスペースとしても300万円~500万円と、決して安くはありません。
最後に、融資を受けるのにおすすめの制度2つと、他と異なる特徴がある場合におすすめの方法1つを紹介します。
- 日本政策金融公庫の創業融資
- 自治体・信用保証協会の制度融資
- クラウドファンディング
日本政策金融公庫の創業融資制度
1つ目は、政府系の金融機関である日本政策金融公庫の創業融資制度です。個人や小規模事業者、中小企業の支援を目的としているため、いわゆる普通の銀行よりも融資のハードルが低いのが特徴です。
とはいえ、審査は厳正に行われます。経営者としての資質や熱意、計画性や事業の将来性などが問われるため、創業計画書(事業計画書)を万全に整える必要があります。
自治体・信用保証協会の制度融資
もう1つは、各自治体が信用保証協会や金融機関と連携し、地域の経済活性化のために融資を行う制度です。正式な名称や制度の内容は自治体により異なりますが、一般的に「制度融資」と呼ばれています。
この制度では、信用保証協会が保証人の代わりとなるので、自分の周囲で保証人を探す手間が省けます。自治体では商工会などを通じ経営のアドバイスなどを受けられるほか、金利を一部負担してくれるところもあります。
クラウドファンディング
特徴のあるお店なら、クラウドファンディングでの資金調達が期待できるかもしれません。ただし、人がお金を払って支援したくなる要素が必要です。例えば食品ロスや環境汚染といった社会的な問題の改善になる、もしくは店主が相当な苦労人であり、店に再起を賭けている、など。
もしくは、コアなファンのいる何かに特化していれば、そのファンの支援を得られる可能性もあります。そこでしか提供できない価値があると認められれば、応援してくれる人もいるでしょう。逆に、そうでない普通の飲食店の立ち上げであればお金は集まりません。融資より高いプレゼン能力が問われます。
飲食店の内装工事の相場は坪単価30~50万円
飲食店の内装工事は、坪単価で30~50万円が相場されますが、実際には業種やコンセプトど、さまざまな要素によって金額は大きく変わります。富裕層をターゲットとする店や席数の多い焼き肉店などは、かかる費用もより高くなるでしょう。
内装工事は一部をDIYで行い、費用を節約することも可能です。ただし電気やガスといったインフラ系や、安全性にかかわる部分は業者に任せてください。何かあれば、節約どころではなくなります。
内装工事費用はローンが組めないため、融資を受けて2~3回に分けて支払うのが一般的。依頼の前に複数の業者に相談し、飲食店の内装工事実績のあるところを選びましょう。