成年後見制度とは、判断能力が不十分な人のために、後見人が代理をして法的行為を行う制度です。
必要な契約を結んだり、財産を管理したりといったことになります。
そして、成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の二つがあるので、それぞれ解説していきます。
目次
法定後見制度とは
法定後見制度は、被後見人の判断力がすでに不十分な場合に、法律に基づいて後見人が設定される仕組みです。
判断能力に応じて、後見、保佐、補助、の三種類があります。
まず後見は、非後見人にまったく判断能力がない状況で、後見人には代理権と取消権が認められます。
次に保佐は、被後見人の判断能力が著しく不十分な場合のものです。
保佐人には、特定事項以外の同意見と取消権が認められます。
補助は被後見人の判断能力が不十分な場合のもので、補助人には一部の同意見と取消権が認められます。
法定後見人の申し立て方法
法定後見人の申し立ては、後見人本人の住所地の家庭裁判所に対して行います。
その後家庭裁判所からの事情聴取が行われ、事情聴取の内容に問題がなければ審判を受けます。
その後、法定後見人の登記をします。
必要な書類は、申立書類、戸籍謄本、住民票、本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書、診断書です。
書類の準備や家庭裁判所での手続きなど諸々を合わせて、費用としては数万円~十数万円が目安で、費用に開きがあるのは、法定後見人本人、被後見人の精神鑑定が行われるケースがあるからです。
他にも、必要書類の枚数が状況によって異なるので、結果的に費用に開きが出ます。
また自治体によっては、一部の費用を負担してくれる制度があります。
任意後見制度とは
任意後見制度は法定後見制度とは異なり、非後見者本人が後見人を設定します。
将来判断能力がなくなったときに備えて、一番信用できる人を任意後見人に設定しておくということです。
任意後見人は誰にしても問題ありません。
血縁関係者でも、まったくの他人でも良いということです。
任意後見人は自由に事業承継ができる
任意後見人は、被後見人と同様の権限で法的行為を行うことが可能です。
つまり、事業承継も通常通り問題なくできるということです。
任意後見人なので、もちろん本人の同意なども必要ありません。
独断で事業承継できるということです。
ただし、そもそも任意後見は当事者同士の自由契約です。
言い換えれば、事業承継をできないような契約を結ぶことも可能です。
他にも財産管理に関する契約も自由で、事業承継後経営者としてどこまでの権限を持つのかの設定も自由です。
基本的には上記の通り事業承継後のすべての権限を与えるケースが多いでしょう。
任意後見人に事業承継を任せるという選択肢はあり?
任意後見人が事業承継することは可能ですが、実際のところこの選択肢はありなのでしょうか?
結論は、事例としては少数派です。
なぜなら後見人が必要になる前に、自分で事業承継するケースが大半だからです。
もしくは、事業をたたむケースも多いでしょう。
ちなみに、法定後見人が事業承継を行うケースの方が多いようです。
理由は法定後見人の場合、後見人も被後見人も意図しないタイミングで法定後見人になるケースも多いからです。
意図しないタイミングで法定後見人になってしまったため、事業を存続することが難しくやむを得ず事業承継に至るという流れです。
任意後見人の場合は意図的に後見人を選出しているので、普通は後見人が必要になる前に事業承継は完了させておくことになります。
息子に事業を承継したい場合、あえて任意後見人にするよりも、自分の意識がはっきりしているタイミングで事業承継を進めた方が、意図した形で事業承継しやすいと言えます。
任意後見制度を活用した事業承継を行うメリット
任意後見制度を活用することで、事業承継をギリギリまで引き延ばすことができます。
正常な判断ができる限り、自分が経営者でいたい、という方もいるかもしれません。
ギリギリまで経営者として頑張って、いよいよダメになったタイミングで事業承継をしたい場合、任意後見制度は便利でしょう。
任意後見制度を活用した事業承継を行うデメリット
任意後見制度を活用した事業承継は、どちらかというと少数派の選択肢とご説明しました。
単純に経営者の意識がはっきりしているうちに、事業承継する方が効率的ということもありますが、任意後見にすべて任せるのは危険というリスクもあります。
具体的には、引継ぎの準備が不足していると、事業承継後に会社が破産する可能性が高い、任意後傾人が意図した通りに動いてくれるとは限らないなどです。
これらのデメリットを考えると、後見制度が必要になる前に事業承継した方がリスクを軽減できるでしょう。
法定後見を避けて任意後見にするメリット
任意後見制度のメリットは上記でご説明した通りですが、法定後見でも事業承継を引き延ばせるのは同じことです。
ではなぜ法定後見ではなく任意後見制度を利用する必要があるのでしょうか?
その理由は、法定後見だと被後見人本人が後見人を選ぶことができず、意図しない形で親族が後見人になります。
そして、法定後見人によるトラブルは実際多いのです。
特に法定後見人として事業を引き継いだ後見人が、明らかに被後見人の意図しない形で事業を売却する、経営者としての能力が著しく欠如しているために会社を倒産させてしまう、といったことが実際に起こっています。
意図しない形で法定後見人に事業承継してしまうことは避けたいので、任意後見人を設定しておくことで会社を守れます。
株主も任意後見制度を使えるか?
任意後見人をあらかじめ設定しておくことで、被後見人の判断力がなくなったときに任意後見人が事業承継できるということでした。
では株主が任意後見人を用意していた場合はどうなのでしょう?
結論としては、株主としての立場をそのまま引き継ぎます。
株主総会に参加することも、議決権を行使することも可能です。
まとめ
任意後見制度を活用すれば、事業承継が可能です。
ただし任意後見制度の契約内容は当事者間の自由で、あらかじめ事業承継を認める契約を結んでおく必要があります。
とはいえ基本的には後見制度ではなく、普通に事業承継するケースの方が多いです。
後見制度を使わなければならないほど、ギリギリの状況まで経営者として事業に携わるケースは少ないからです。
任意後見制度を使わなかった場合、経営者に後見人が必要な状況になれば法定後見人が付くことになります。
法定後見人も事業承継を行うことが可能ですが、被後見人の意図しない形で事業承継を行ったり、事業承継後に事業を売却してしまったり、経営者としての能力が不足しているため会社を倒産させてしまったりということがあります。
法定後見人に比べると、任意後見人を立てておいた方が事業承継が成功する確率は高いでしょう。