そもそも経理の役割って?
会社は売上を稼ぐために、日々さまざまな業務を行っています。
その営業活動に関する情報を帳簿に記録し、年度の終わりに年次決算として財務諸表を作成するのが、経理の主な業務となります。
これらの作業の流れを、1年間というサイクルで繰り返し行っています。
具体的な業務としては、仕入管理・売上管理・現預金管理・給与計算・雇用保険、健康保険などの社会保険料の計算・ 法人税、所得税、消費税などの税金の計算などがあります。
会社を経営していくには、「どれだけ収益があるのか」や「どのくらい資産があるのか」といった、会社のキャッシュフローを正確に把握しなければいけません。
一般に、経理の仕事というと「お金の管理をする」ことと捉えられがちですが、経営資産の有効活用により、経営者の意思決定を助けることこそが、経理の役割と言えます。
経理はなぜ必要なのか?やらずに困る4つシーン
経理業務については、業種・業態によって多少の違いはあるにしても、基本的な業務については大きく変わることはないと言えます。
中小企業経営者の方の中には、「仕事は好きだけど経理だけは苦手」という方や、「経理に関してはスタッフに任せっきり…」という方も少なくないのではないでしょうか。
その反面、経営者仲間から「経理をやっていないと税務調査で困る」とか、「銀行融資の審査が通りにくくなる」といった話を聞いて、危機感を感じているという方もおられるかもしれません。
この記事では、経理がなぜ必要なのかを具体的に理解していただくために、「日常的に経理をしていなくて困るシーン」を紹介します。
中小企業の経理方法として、よく選択される方法についても紹介しますから、よその会社ではどうしているんだろう?と気になっている方もぜひ参考にしてみてください。
1. 銀行に融資を申し込む時に困る!
経理業務をしっかりと行っていなくて経営者が困るケースの1つ目は、銀行に融資を申し込んだ場合です。
銀行の融資担当者は、融資先の会社が、きちんとキャッシュを生み出しているのかを厳しくチェックします。
銀行というのは貸したお金に利息をつけて約束通りに返済してもらう商売ですから、融資先の会社にその能力があるのか(魅力的な事業を運用しているのか)に重要な関心を持っているのです。
融資担当者がこうした判断をどのような判断材料に基づいて行っているのか?ですが、もっとも重要な判断材料が、会社の決算書や試算表ということになります。
これらの資料には会社の事業の状態、つまり健康状態が如実に現れますから、融資担当者はこの資料をベースに融資の可否を判断しています。
融資を受けたいのに帳簿がなければ、スタートラインにも立つことができません。
経営者個人の能力・事業への社会的ニーズは融資担当者にとっては二の次
経営者の人柄やバイタリティ、事業そのものに対する社会のニーズといった定性的な情報も融資交渉では重要な判断材料にはなりますが、それらはあくまでも会社が会計上の利益を出しており、現実にキャッシュを生み出していることが大前提です。
経理には、決算書や試算表の作成を通して、「会社の経営状況を証拠づける財務データを提供する」という重要な役割があることを、理解しておく必要があるでしょう。
2. 税務調査に来られて困る!
2つ目は、税務署による税務調査が行われた場合です。
税務調査では、あなたの会社が申告した決算書の内容から、日常的な経理処理のあり方を詳細にチェックされることになります。
請求書や領収書の内容を、1枚1枚チェックしていくといったことが行われます。
もし、税務署に申告した決算書が、実際の事業内容を正しく反映されていない場合には、追徴課税としてペナルティを課せられてしまう可能性があります。
だからこそ、決算書をはじめ日々の経理はとても重要な業務の一つと言えます。
小さな会社には税務調査は来ない? は迷信です
このように書くと、「うちはまだ開業間もない小さな会社だから、税務署に目をつけられるようなことはないよ」と考える経営者の方もひょっとしたら多いかもしれません。
しかし、税務調査は「この会社が怪しいからチェックしに行く」という性質のものではなく、定期的なチェックとして行われるケースがほとんどのため注意が必要です。
まだ設立間もないし、事業規模の小さい会社から安心……ではなく、その場合でも税務調査が行われるケースは決して珍しいことではありません。
事業をスタートした初期の段階から、経理業務が適切に行われる体制を構築する必要があります。
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
3. 事業は黒字なはずが金庫にお金がなくて困る!
会社の経営者なら誰しも、事業からたくさん利益を生み出して、そこから給与や役員報酬もたくさんとって…とさまざまな希望を描いているものです。
こうしたことを現実に達成するためには、何よりも事業が黒字であること(利益を出していること)が大前提。
だからこそ経営者は、会社が利益を生み出すために、さまざまな努力をしていらっしゃることでしょう。
一方で、経営者は「事業が黒字であること(赤字であること)」と、「会社の金庫(預金口座)に実際どれぐらいのお金が残っているか」は必ずしもイコールとはならないことを理解しておく必要があります。
「事業が黒字なら金庫にお金はたくさんあるんじゃないの?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、会社の利益とお金の残高は厳密には一致するものではありません。
「事業が黒字でもお金がない」が生まれる仕組み
例えば、会社が取引先から仕事を受注した段階で、その会社には売上が立ち、利益が発生することになりますが、実際にその売上金があなたの会社の銀行口座に振り込まれるのは数か月先…というのが普通でしょう。
そうなると、決算書を見るとたくさん売上が上がっている会社であっても、実際にはまだその売掛金は回収されていなくて、金庫や銀行口座の現金残高はほとんど空、ということもあり得るのです。
(売掛金の回収が間に合わず、現金不足で不渡りを起こす「黒字倒産」と呼ばれる現象も起こり得ます)
このように、会社の利益の状況と、実際にお金がどれぐらい残っているのかの確認は、経営者にとって常に気をつけておくべき重要なデータと言えます。
こうしたデータを経営者に提供するのが、まさしく経理の仕事です。
日常的に、会計ソフトに会社の取引状況や、資金の出入りのスケジュールをきちんと記録しておけば、会社の損益の状況と資金の状況を正確に把握することが可能です。
会社の現在の状況を正しく把握し、事業を安定的に運営していくために、経理は非常に重要な役割を担っているのです。
4. 会社の将来をまったく予測できなくて困る
経理作業によって作成される会社の財務諸表(試算表や決算書といわれるものです)がもし存在していなかったとしたら、その会社の経営は「経営者自身の感覚やセンス」だけで経営をしていくことになりかねません。
もちろん、天才的な商才やビジネスセンスのある人であれば、そのような形でも会社を上手に回していくことはできるでしょう。
実際、この記事を読んでいる方の中には、「自分は経理はよくわからないけれど、事業でキャッシュをこれだけ生み出しているし、役員報酬も毎月○○万円取っているから大丈夫だ」とおっしゃる方もおられかもしれません。
会社は経営者1人で発展させていくことはできない
しかし、結論から言うとこのような状況は、会社の経営として非常に不安定と言わざるをえません。
経営者自身が天才的なセンスを持っていたとしても、会社は経営者一人で継続的に大きくしていくことはできないからです。
会社が安定的に成長していくためには、会社の会計や財務の状況について、会社のスタッフと情報共有することがどこかのタイミングで必要になります。
会社の会計や財務についてのデータを作成するのはまさしく経理の仕事ですから、経理業務を安定的に運用していく体制を、できるだけ早いタイミングで会社内部に構築しなくてはなりません。
中小企業のよくある4つの経理方法
上で見たように、会社に経理をきちんと処理していく体制がないと、会社経営の重要なシーンで大きな不利益を受けてしまうことも少なくありません。
ここまで読まれて「それでは、よその会社は経理をどうやって処理しているのだろう?」と気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以下では、従業員数名~数十名の中小企業でよくある経理処理の仕方について、具体的に紹介いたします。
これからご自分の会社で、経理の体制を構築していくことを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. 社長や社長の家族が経理を担当
一般的に、開業してまだ間もない事業の場合、経営者自身や、経営者のごく近しい親族(奥さんや親戚の従業員など)が経理を担当しているというケースは少なくありません。
事業が始まってまだすぐのときには、良くも悪くも「事業の運営=経営者の生活」となっているのが普通です。
経理についても社長のプライベートな資金の出し入れと、事業の収支が密接な関係を持っているということが多いことでしょう。
そうなると、経理内容が会社の外部には、あまり知られたくない内容になっているということもありますし、重要な資金の出入りについて、スピーディな処理をするために、「経営者自身が経理を担当するのがもっとも都合がよい」というケースもあります。
社長や家族が経理を担当するデメリット
一方で、経営者自身・経営者の親族が、経理を担当することで生じるデメリットもあります。
例えば、銀行の融資交渉ではどこまでが事業の損益で、どこまでが社長のプライベートなのか?ということが融資の可否を分ける重要な判断材料とされます。
また、税務署が定期的に行う税務調査では、経営者自身のプライベートな支出が事業の経費として処理されているような場合に、追徴課税としてペナルティを課せられてしまう可能性があります。
経営者自身が経理を担当している場合、どうしても社長のプライベートと事業の損益とが一体となってしまいがちです。
だからこそ事業の成長に合わせて、別の方法を検討する必要があるといえるでしょう。
2. 専門のスタッフが経理を担当
ある程度の規模に成長した事業の場合には、経理業務を担当する専門のスタッフを雇用しているというケースが多いでしょう。
経理専門のスタッフを雇用するメリットとしては、上でも説明したように、社長のプライベートと会社の収支の分離を促進しやすいという点があげられます。
会社経理の客観性を高めることは、会社の外部から見たときの決算書や試算表の信頼性を高めることにつながりますから、資金調達や税務調査への対応で大きなメリットがあるといえます。
また、経理専門のスタッフは事業のさまざまな側面について、定量的なデータを作成することに適正があります。
日常的に経理処理を担当し、決算書や試算表を作成するのは、もっとも基本的な経理の仕事ですが、これらに加えて商品を製造するためのコストを正確に計測したり、どの得意先からの受注が粗利の向上に貢献しているのか、といった重要な経営指標を作成したりすることも期待できます。
経理業務を任せられるというだけでなく、経営に役立つデータを経営者に適切なタイミングで提供してくれるということも、経理を専門とするスタッフを雇用する大きなメリットということができます。
経理専門のスタッフを雇用するデメリット
一方で、経理専門のスタッフを雇用することには、デメリットもあります。
第一には、経理専門のスタッフは会社の売上には直接貢献しない業務を担当することになりますから、コストとして発生する人件費に応じた業務パフォーマンスを発揮してもらえない可能性があります。
もっとも、ある程度の規模に成長した事業では、人件費を負担してでも経理スタッフを雇用し、経営者や営業部門の人員は、売上に直結する仕事に集中したほうが効率的であるケースが多いです。
しかし、まだ事業がスタートアップの段階にある場合には、経理業務と言っても専門のスタッフに担当させる程の業務量がなく、社長自身やそれぞれのスタッフが協力しながら処理をしたほうが、メリットが大きいことも考えられます。
スタッフの人件費は売上の有無に関わらず、毎月必ず支払わなくてはならない経費ですから、売上に直結しないスタッフを雇用するべきかどうかは、会社の成長段階にあわせて慎重に判断する必要があります。
4. 経理を外注(アウトソーシング)化
中小企業の経理方法でよくあるケースの4つ目は、経理業務を外注化しているケースです。
経理業務の外注化とは、簡単にいえば経理業務の代行を専門にしている業者と契約し、お金を払う代わりに経理をやってもらうこと。
つまり経理のアウトソーシングです。
経理を外注化するメリットとしては、第一に専門の経理スタッフを雇用する場合に比べて、圧倒的に低いコストで経理業務を処理できる点です。
専門の経理代行業者では、会計ソフトに入力する仕訳1本につき、50円~100円といった相場で経理業務を代行してくれます。
まだ事業の規模が小さい事業者の場合、1か月あたりの仕訳本数が100本未満ということもあるでしょうから、1か月あたり数千円~数万円程度のコストで経理処理を代行してもらうことが可能となります。
経理の外注化は「卒業すべきタイミング」がある
反面、経理を外部の業者にアウトソーシングすることには、「会社の内部に、経理や財務について処理するノウハウが育たない」というデメリットがあります。
会社が成長軌道に乗った段階では、会社の外部からの資金調達が重要な要素となりますから、こうした業務に対応できるスタッフが会社の内部にいるかいないかは、会社の成長に大きな影響を与える可能性があります。
実際、ある程度の規模の企業では必ず経理部や財務部といった部署が存在し、経理財務分野の仕事を専門で処理しているスタッフが存在します。
経理の外注化という選択肢は、事業をスタートして間もない段階の事業者にとっては非常に大きなメリットがある一方で、企業の成長段階に合わせて、どこかで卒業する必要があることを理解しておくと良いでしょう。
今回のまとめ
今回は、これから事業をスタートする起業家の方向けに、経理という仕事がなぜ必要なのか?について解説いたしました。
経理は企業経営のさまざまなシーンで、重要な役割を持つ仕事です。
本文で説明した経理処理方法のさまざまな選択肢を参考に、会社の経理業務のあり方について、ぜひ検討してみてください。