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経理をしっかりとするメリットとは?
経理の仕事は直接的には売上を生まない仕事(売上を生まない部署)ですから、「経理にお金や時間をかけるぐらいなら、得意先を一件でも増やす努力をしたほうが良いのでは…」と感じている社長さんもいらっしゃるかもしれません。
しかし、結論からいうと、経理を日常的にしっかりと行っておくこと(経理業務の体制をしっかりと構築しておくこと)は経営者として必須の仕事といえます。
会計の情報を活用することで、経営者としての意思決定に自信を与えてくれる存在にもなります。
今回は、経理をしっかりと行なうメリットとして、「経理で経営状況が把握できる」点について解説いたします。
これから起業を考えている方や、スタッフも設備も増やして事業をドンドン拡大していこう!と考えている経営者の方はぜひ参考にしてみてください。
経理で経営者が把握できる情報とは
経理の基本的な目的は税金の計算ですが、それ以外にもさまざまな情報を得ることができます。
会社の経営者が経理から得ることのできる有益な情報(経営判断に生かすことができる情報です)としては、次のようなものがあります。
・資金繰り状況の正確な把握
・管理会計の導入
・納税まで視野に入れた損益の管理
それぞれの項目について順番に見ていきましょう。
資金繰り状況の正確な把握
資金繰りとは、ごく簡単にいえば「現在会社にいくらのお金があって、何カ月先までお金がなくなることなく経営をしていけるか」の情報のことをいいます。
経理を日ごろからしっかりと行っておくことで、この資金繰り状況の把握をより正確に行うことができるようになります。
売上が上がればお金が入ってきて、仕入れや経費支払いを行えば、お金は出ていくことになりますが、売上が上がったとしても、その入金は数か月先になるのが普通です。
万が一、この間に必要なお金(仕入れ代金や外注費、従業員のお給料など)をまかなうことができなくなれば、「売上が上がっていて利益も出ているのに倒産…」ということにもなりかねません。
(つまり、「資金繰りの失敗=企業の倒産」です)
そのため、売上入金までの数か月の間の支払いをきちんと行っていけるか?は経営者としてもっとも重要な問題の一つといえます。
資金繰りをどの程度まで正確に把握すべきか
もっとも、経営者であれば「おおよその状況は頭の中に入っている」という方がほとんどでしょう。
しかし、企業の規模がある程度大きくなってくると、経営者個人の能力だけで資金繰りを完璧に把握することは難しくなるのが現実です。
資金繰りの失敗とはすなわち企業の倒産のことですから、「おおよその状況が分かっている」というだけでは残念ながら不十分といわざるを得ません。
具体的には、会計ソフト上で「次の売上入金日である〇月×日までに出ていくお金のトータルは△円・何か月以内にこれだけのお金が必要」というところまで、最新の情報をもとに把握することが求められます。
キャッシュバーンレートとは
経理をしっかりと行っていると、実際の会計データをもとに、さまざまな会計指標を知ることができます(会計ソフトが自動的に計算してくれます)
企業の資金繰りがどれぐらい健康か?を見る会計指標としては「キャッシュバーンレート(現金燃焼率)」という指標が有名ですので、計算方法を簡単に紹介しましょう。
キャッシュバーンレートとは、ごく簡単にいえば「企業の寿命」を表す指標で、手持ちの資金を毎月の現金収支で割り算することで計算できます(余命数カ月、という形で把握します)
(※現在のかたちでビジネスを継続したとして、企業があと何カ月間存続できるのか?が分かります)
例えば、以下のような状況の企業のキャッシュバーンレートを計算してみましょう。
- 手元にあるお金:300万円
- 年間の収入合計:1000万円
- 年間の支出合計:1720万円
- キャッシュバーンレート
300万円÷((1720万円-1000万円)÷12か月)=約5か月
この企業の場合、毎月60万円((1720万円-1000万円)÷12か月)だけ現金が減少していっており、手元にあるお金が300万円ですから、5か月以内になんらかの対策を講じないと企業が倒産してしまいます。
キャッシュバーンレートを正確に把握することによって、この5か月の間に何らかの対策(融資を受けたり、新商品をリリースしたりして資金を回収するなど)を講じることが必要であることが分かります。
会計指標の具体的な活用事例
開業間もない企業の場合、ビジネスから安定的に利益が出るようになるまでは数か月~1年以上かかることもあるでしょう。
そのような場合に、「いつまでに利益が出るようにしないといけないのか」という目標設定を行うような目的で、キャッシュバーンレートは活用されることが多いです。
新しい商品のリリースが控えているというような場合に、経営目標としていつのタイミングまでに商品を市場に出す必要があるのか、といったことを正確に把握できる点で優れた指標といえます。
経理を日ごろからしっかりと処理しておくことで、社長のPCやスマホ上でこのキャッシュバーンレートを常に正確に知ることが可能になります。
管理会計の導入
経理体制の構築によってぜひ導入したいものとして、管理会計があります。
管理会計は、主に製造業を営む企業で「どうすれば商品の製造を少しでも低コストで行って、粗利率をあげることができるのか?」を明確にするために使われる会計情報です。 もちろん、製造業以外の企業でも活用することができます。
管理会計を導入すると、さまざまな経営指標を一覧で見ることができるようになりますが、以下では代表的な経営指標として「従業員一人当たり売上高」の計算方法と活用事例を紹介しましょう。
従業員一人当たり売上高の計算方法
従業員一人当たり売上高は、年間の売上高を従業員の数で割ることで計算できます。
従業員の数が100人で、売上高10億円の起業であれば、従業員一人当たり売上高は1000万円ということになります。
売上高10億円 ÷ 従業員数100人 = 一人当たりの売上高 1,000万円
重要なことは、従業員一人当たり売上高は、上場企業などの優良企業の数字を具体的に知ることができる点です。
以下、従業員一人当たりを経営にどのように活用できるのか?についてトヨタ自動車の数字を見ながら紹介しましょう。
従業員一人当たり売上高からわかること
経営者の多くは「いつかはわが社も上場するような超優良企業に…!」という目標をお持ちだと思いますが、その目標を具体的な数値で把握するのはなかなか難しいのが実際のところでしょう。
その理由としては、「他社との比較」がうまくいっていないことが挙げられます。
非上場の企業の情報というのは基本的に非公開ですから、目の前のライバル企業の状況を知りたいと考えても情報ソースを見ることができません。
一方で、誰でも見ることができる上場企業の情報では、企業規模が自社と差がありすぎて参考にならないということもあるでしょう。
そのような場合に、従業員一人当たり売上高を活用します。
上場企業のような大企業であれ、中小企業であれ、従業員を雇用して売上をあげているのは同じですから、従業員一人当たり売上高は同じように計算することができるからです。
トヨタ自動車の従業員一人当たり売上高を自社の比較するとわかること
例えば、トヨタ自動車は売上高約30兆円、従業員約37万人の超大手企業ですが、従業員一人当たり売上高に直すとおよそ8100万円と計算できます(30兆円÷37万人=約8100万円)
あなたの経営する会社の売上高が仮に3億円で、この会社を従業員5名(社長含む)で経営しているとしたら、従業員一人当たり売上高は6000万円(3億円÷5人=6000万円)と計算できます。
従業員5名で売上高3億円というのは非常に優秀な企業といえますが、それでもトヨタ自動車と比較すると、従業員一人当たりの売上高は2100万円も少ないことがわかります。
自社だけの情報を見ていると「今年もよく頑張った」といえるような状況でも、目標を高くかかげれば(例えば上場企業と比較してみる)とまだまだ課題が見えてきます。
このように、管理会計からわかる指標によって、同業他社や目標とする企業との差を知り、具体的な目標として掲げることは経営者として重要な役割ということができるでしょう。
経理処理を日常的にしっかりと行うことによって、会計ソフトを通して管理会計の正確なデータを知ることができるようになりますので、導入を検討してみてください。
納税まで視野に入れた損益の管理
あなたは今年度のおおよその納税額を把握していますか?
利益がたくさん出ている会社でも、納税の負担が予想外に大きくて倒産…というケースは少なくありませんから、常に正確な最新情報によって納税見込み額を把握しておくことは大切です。
納税額は企業が1年間を通してあげた利益に対して課税されます。当然ながら年度末にならないと正確な納税額はわかりません。
一方で、毎月の損益管理をしっかりと行っておけば、毎月ごとの納税予想額はある程度正確に計算することが可能です。
毎月の納税予想額を12か月間積み上げれば年間の納税額を計算できますので、経理体制の構築によって、納税まで視野に入れた損益の管理が可能となるのです。
必要に応じて節税対策を行う
納税の負担を少しでも小さくするためには、節税対策を適切に行うことが必要です。
節税対策とは、ごく簡単にいえば「企業の利益を意図的に減らして、納税額を少なくすること」を言います。
もちろん、ムダ遣いをしては意味がありませんから、企業にとって将来的にプラスとなる形で利益を減らすことが必要です。
具体的には、次のような方法が節税対策として選択されるケースが多いでしょう。
- 経営者を被保険者とする生命保険への加入(保険料を企業の経費とできます)
- 将来的に投資資金を回収できる固定資産の購入
- 人材への投資(雇用や研修費)
- 経営者の役員報酬の増減(役員報酬は会社の経費となります)
- 小規模企業共済への加入
一方で、不必要な節税対策を行ってしまうと、資金繰りが極度に悪化してかえって経営を苦しくしてしまうことにもなりかねません。
そのため、節税対策を有効に行うためには、正確かつ最新の会計データが蓄積されていることが大前提といえます。
節税対策を適切に行うためには経理体制の構築が必須
会計ソフトを使って最新の経理処理を日常的に行うとともに、その状況を税理士事務所にチェックしてもらうことで、迅速かつ適切なタイミングで節税対策を提案してもらうことが可能となります。
具体的には、年度末の1か月~2カ月前のタイミングで、最新のデータから年間の損益状況を把握します(10か月分~11か月分の会計情報をもとに試算を行うのでかなり正確に把握できます)
その上で、あなたの企業が選択できる節税対策を提案してもらい、年度末までのタイミングで実際に施策を実行するというのが、実際の節税対策の流れとなります。
今回のまとめ
今回は、経理を日常的にしっかりと行うことによって経営者が知ることができる会計データの活用事例について紹介いたしました。
本文でも見たように、会計ソフトの導入によって経理処理を正確に行うことで得られる会計情報は、経営者にとって必須のツールということができるでしょう。
こうした経理体制の構築は税理士事務所の支援を得ることでより確実に進めていくことができますから、ぜひ活用を検討してみてください。