
目次
有限責任と無限責任の違い
法人組織には有限責任とと無限責任の2種類の会社形態があります。
これは法人が負っている債務を返済できない場合に、出資者もその債務の支払い義務を負うかどうかの違いです。
法人設立時に選択する組織形態によって、有限責任となるか、無限責任となるかが決まりますので、これから設立手続きを行う方はメリット・デメリットを慎重に比較検討するようにしましょう。
この記事では、有限責任と無限責任の違いについて、法律上の扱いを具体的に分かりやすく解説いたします。
有限責任とは、ごく簡単にいえば「会社が会社名義で負った債務については、出資をした人たちは支払う義務を負わない」ということを意味します。
そのため、もっともポピュラーな法人形態である、株式会社や合同会社の出資者は有限責任となりますから、日本の会社の多くは有限責任の会社ということになります。
有限責任の具体例
例えば、Aという人がオーナー社長(出資者兼経営者)として資本金1,000万円を出して設立した株式会社Bがあったとします。
この会社Bが、事業で使うためのお金3,000万円を銀行から借りましたが、その後に経営不振でお金を返せなくなり、倒産したとしましょう。
このとき、オーナー社長であるAは会社Bの経営者ではありますが、会社Bが返せなくなった借金3,000万円については支払い義務を負いません。
オーナー社長Aは自分が出資した資本金1,000万円が返ってこなくなるというリスクだけを負うことになります。
このように、「会社の負った債務に関する責任(支払い義務)が有限であること」を有限責任と呼びます。
無限責任の場合
無限責任では、上とはまったく逆の結論となります。
オーナー社長Aは会社Bの借金3,000万円についても返済義務を負いますから、自分が出資したお金1,000万円が返ってこないのに加えて、銀行から会社名義で借りた3,000万円も自分のポケットマネーで返済しなくてはなりません。
無限責任を負うということは、実質的には自分の名義で債務を負うのと変わらないことに注意しておきましょう。
現行の法律では、合名会社や合資会社といった形式を選択した場合には、出資者は会社の債務について無限責任を負うこととなります。
無限責任の会社は個人事業と大きな差はありませんから、通常の起業家が選択するメリットは乏しいといえます。
有限責任であっても経営者の責任が問われるケース
上の内容を読まれたかの中には、「個人事業を法人化してオーナー経営者になれば、事業で生じた債務についてはすべて法人の責任できるわけだから、出資したお金さえあきらめれば経営者個人の責任はなくなる」と理解した方もいらっしゃるかもしれません。
原則的にその理解でも問題はありませんが、一定の場合には「会社=オーナー経営者」という観点から、会社の債務について経営者個人が無限責任を負うケースがあることに注意が必要です。
法人格否認の法理とは
具体的には、会社と経営者個人の活動がほとんど一体となっているようなケースで、個人が会社を隠れ蓑にして債権者からの請求を逃れようとした場合に、会社名義で負っている債務について、経営者個人が支払い義務を負担しなくてはならない場合があるのです。
(こうした考え方のことを、「法人格否認の法理」と呼びます)
例えば、会社の経営者として活動している人が、取引先と結んだ契約内容に違反する行為を、経営者個人名義で行うような場合に、会社と個人が実質的に一体であるとみなせる場合には、会社の契約上の義務を経営者個人にも及ぼせる場合があります。
ただし、法人格否認の法理は、会社法の建前である「間接責任」を否定する考え方で、法律上も明文での規定がありませんから、その適用は例外的に行われるのが実際のところです。
有限責任の組織と無限責任の組織
会社を設立するときには、「有限責任の組織形態」と「無限責任の組織形態」のいずれかを選択することができます。
もっともポピュラーな組織形態である「株式会社」や「合同会社」は有限責任の会社となります。
以下では、有限責任・無限責任それぞれの組織形態の特徴について順番に見ていきましょう。
(※なお「有限会社」は2006年に会社法という法律が施行されてからは廃止され、新たに設立することができなくなりました。現存の「有限会社」は、会社法の施行以前に設立された会社が、そのままの名称を使用しているものです。なお、有限会社の法律上の扱いは株式会社と同じになります)
有限責任を負う組織形態
出資者が有限責任を負う組織形態としては、以下のようなものがあります。
- 株式会社
- 合同会社
- NPO法人
- 一般社団法人
- 有限責任事業組合
それぞれの組織がどのようなものなのかについて、順番に見ていきましょう。
株式会社
株式会社は、現在もっとも利用されるケースの多い組織形態です。
株式会社の出資者(株主)となる人は、自分が出資したお金の範囲内でのみリスクを負いますので、会社が会社名義で負った債務については支払い義務を負うことがありません。
(ただし、上でも見たように「法人格否認の法理」が適用されるケースでは、例外的に出資者が法人名義の債務について義務を負うことがあります)
株式会社を設立するためには、1人以上の発起人が、1円以上の出資金を支払えば足ります。
株式会社の設立は、公証役場で定款の認証を受け、法務局で設立登記をすることによって行ないます。
合同会社
合同会社も株式会社と同様に、出資者となる人は会社名義で負っている債務について間接責任を負います。
合同会社は「株式会社のミニ版」のような組織形態ですが、会社運営の組織を株式会社よりも簡素化できるなどのメリットがありますから、あえて株式会社を選択せず、合同会社を選択している大企業も存在します。
(グーグルやアマゾンといった大手企業の日本法人も、合同会社の形態を選択しています)
NPO法人
NPO法人は、法律で指定された20種類の公益的な事業を開始する場合に、所轄官庁の認証を受けることで設立できる法人です。
NPO法人では「出資金(設立時に出資するお金)」という考え方がそもそもなく、組織を解散する際にも組織参加者にお金が配分されることがない性質上、有限責任や無限責任といった考え方がなじみません。
もっとも、NPO法人が法人名義で負った債務などについて、法人を運営する理事が責任を負うことはありませんから、こうした意味では株式会社や合同会社と同様に法人の債務について有限責任を負っているとみることができるでしょう。
一般社団法人
一般社団法人は、営利を目的としない事業を行う場合に設立できる法人です。
(事業内容の厳密な指定がない点でNPO法人と異なります)
一般社団法人も株式会社や合同会社と同様に、法人名義の債務について間接的かつ有限の責任を負います。
ただし、一般社団法人では配当金や解散時に残っている財産を、理事などに分け与えるなどのルールを設けることができないことに注意を要します。
有限責任事業組合
有限責任事業組合(LLPともいいます)は、株式会社や合同会社とは異なり、法人ではなく、従来は「民法上の組合」として扱われてきた組織です。
民法上の組合とは、組織に参加する人たちがそれぞれ自分の名義と責任のもとに活動を行う組織で、組合として負った対外的な債務については組合員全員が直接責任を負うのが本来の形です。
有限責任事業組合は、この民法上の組合を有限責任で運営できるようにしたのが特色で、有限責任事業組合に参加する人は、組合名義で負った債務については直接的に支払い義務を負いません。
有限責任事業組合は、税務上の特徴(パススルー課税といいます)と相まって、複数の事業者が集まってプロジェクトを立ち上げるようなケースで利用が増えています。
無限責任を負う組織形態
一方で、組織への出資者が無限責任を負う組織形態としては、以下のようなものがあります。
- 個人事業
- 合名会社
- 合資会社
- 民法上の組合
典型的には、経営者となる個人が自分の名義で事業を行う個人事業が該当しますが、合名会社や合資会社といった法人組織でも、個人事業と同じように組織の構成員が法人名義で負った債務について無限責任を負うことになります。
合名会社や合資会社を選択するメリットは?
合名会社や合資会社を選択するメリットとしては、事業から利益が出た場合の税金を所得税ではなく法人税として計算できたり、後継者に事業承継を行う際に相続税の負担を回避できたりという点がありますが、その他の点においては実質的に個人事業と変わりがありません。
(なお、合資会社には無限責任を負う出資者と、有限責任を負う出資者の両方を置くことができます)
この経緯から、こうした組織を設立するメリットは近年においては一般的には乏しく、株式会社や合同会社などを選択する人が圧倒的に多数派となっています。
国税庁が発表している「会社標本調査」という統計によると、日本国内で運営されている法人組織の95%以上が株式会社です。
合名会社や合資会社を選択している法人組織は、全体の1%程度にすぎません。
実際には有限責任であっても代表者の個人保証が必要なケースが多い
上では、「株式会社や合同会社は有限責任であるので、出資者は自分が出資したお金の範囲内でのみリスクを負う」という説明をいたしました。
しかし、中小企業においては、オーナー社長となる人が経営する会社の借金について「個人保証」しているのが普通です。
個人保証とは、簡単にいえば「もし会社が借金を返済できない場合には、自分が全額を返します」という約束をすることです。
このような実情から、中小企業のオーナー社長は、自分が経営している会社の債務について実質的に無限責任を負っているケースがほとんどです。
個人保証が免除されるケースもある
なお、金融機関に対して相応の担保を提供した場合や、保証会社に保証料を支払うことによって経営者の個人保証を免除してもらえる場合もあります。
金融機関としては、貸したお金がきちんと返ってくることが見込めれば問題はありませんから、経営者の個人保証に代わる担保を取ることができればOKというわけです。
どのような担保の提供が必要となるかは、会社が融資を受ける際の信用状況によって異なりますので注意しておきましょう。
まとめ
今回は、有限責任と無限責任の違いについて、具体的な例を用いて解説いたしました。
本文でも見たように、有限責任の組織を選択したい場合には、株式会社や合同会社といった法人を設立するのが一般的です。
また参考までに、法律上はこれらの組織は有限責任となっていますが、実際にはオーナー経営者が個人保証を通して無限責任を課せられるケースもありますから、金融機関との間で結ぶ契約の条件についてはよく吟味するようにしましょう。

