会社のトップにいる人の役職としてよく耳にする「代表取締役」や「取締役」、「CEO」。これらの違いをはっきり区別して説明できる人は少ないかもしれません。
法律上、株式会社には1人または2人以上の取締役を置くことが義務付けられています(会社法第326条)。また、会社の機関として株主総会のほか取締役会などの設置をすることができ、取締役会を設置した場合にはその中から代表取締役を選ばなくてはなりません。
この記事では、代表取締役や取締役とCEOの違い、権限や法律上の地位などにおける違いについて解説します。
目次
代表取締役と取締役の違いとは?
冒頭でも述べたように、株式会社には取締役を1人以上置くことが義務付けられています。代表取締役は、3名以上の取締役で構成される取締役会によって選ばれます。1名に限らず、複数の代表取締役を置くことも可能です。
代表取締役と取締役(いわゆる「ヒラの取締役」「平取」)とは、会社の代表権を持っているかどうかが異なります(会社法349条)。
会社の代表権とは、簡単にいえば自分の判断で会社名義の契約の締結ができるなど、社内外に対する権限を持っているということです。訴訟など裁判上の行為に対しても代表取締役に権限があります。ただし、その権限に制限を課すことも可能です。
一方で取締役にはこの代表権がありません。通常は契約の話があったらいったん会社に持ち帰り、取締役会にかけて最終的な決断を行う流れとなります。
単なる「取締役」が「代表取締役」として取引をしたらどうなる?
代表取締役を選定している場合、それ以外の取締役が独断で社外との契約を結ぶことは認められていません。しかし、代表取締役でなくとも「社長」「副社長」「専務取締役」などの肩書を持つ人が存在することもあります。
そのような肩書を持つ取締役が自身の判断だけで契約を締結してしまった場合はどうなるのでしょうか。
会社法では、第三者に会社を代表するような権限を持つと思わせる肩書を会社が与えていた場合、そして権限があることを信じた第三者との契約を行った場合には、その契約に責任を負わなければならないと規定されています(会社法354条「表見代表取締役」)。
代表取締役と社長との違い
「代表取締役」のほか、一般によく使われているのが「社長」の肩書です。代表取締役が上記のように会社法で定められている立場であるのに対し、「社長」には法律上の定義はありません。一般的にはその会社の最高責任者につけられる肩書ですが、法律上のルールはないのです。
法律上「代表取締役」が1つの会社に複数存在し得るのに対し、「社長」はその会社に1人だけというのが一般的であり、「代表取締役社長」という肩書を持つ人も数多くいます。
CEOとは
「CEO」は「Chief Executive Officer」の略で、日本語では「最高経営責任者」と訳されます。
CEOはもともとアメリカの企業で使われることの多い肩書であり、日本でいう会長や社長にあたる人が兼任しているケースが多いものです。アメリカの企業では取締役と実質的な経営の執行役とが分けられていることが一般的なためこのような役職が存在しています。
経営の決定権や最終責任を持つことから、日本においては社長と同義で使われたり、代表取締役兼CEOといった肩書で使われたりします。社長と同じく法的な設置義務はないため、定義やルール、権限は定められていません。
「役員」とは何か
企業のトップである代表取締役、取締役のほか、上層部の人たちのことを「役員」と呼ぶこともあります。一般的には会社の中枢を担う人たちをまとめて役員と呼ぶことも多いですが、会社法では次の3つが当てはまります(第329条)。
- 取締役・代表取締役
- 会計参与
- 監査役
それぞれについて説明していきます。
会計参与の資格と役割
会計参与とは、文字通り会社の経理や財務といった会計の面で中心的な役割を持つ役員です。
税理士や公認会計士など、会計に関する専門家の資格を持つ人でないとなることができません。
最近では、顧問税理士などを会計参与に任命するケースが増えてきています。
なお、自社の従業員の中に税理士や公認会計士の資格を持つ人がいたとしても、その人を会計参与に任命することはできません。正確性や透明性を確保するため、会計参与に任命にできるのは外部の人に限られます。
中小企業への融資をメインとしている金融機関(地方銀行や信用金庫など)では、会計参与を設置している企業に対して有利な条件で融資を行うこともあります。
監査役の資格と役割
監査役は、取締役や会計参与の業務をチェックする役割を担います。取締役会設置会社であれば、監査役を置くことが義務付けられています。ただし会計参与を設置する非公開会社であればその必要はありません。
具体的には、決算書が実際の取引情報に基づいて行われているかを見る会計監査のほか、取締役や会計参与による業務の執行が法律や社会常識に沿っているかをチェックする役割があります。
「法律上の監査役」と監査役設置会社
なお、監査役の役割を会計監査に限定するというルールを設けることも可能です。
ただしその場合の監査役は「法律上の監査役」とはいえず、会社は「監査役設置会社」という法律上のカテゴリにはあてはまらないことになります。
例えば監査役設置会社では、取締役と会社との間に訴訟などが生じた場合、監査役が会社側の代表者となることが認められています。しかし、法律上の監査役に該当しないとなれば、こうした権限も持たないこととなります。
執行役員とは
役員と呼ばれるものには、法律上で定められた上記3つ以外にもさまざまなものがあります。近年増えているのは「執行役員」です。
ただ、法律上では執行役員は「役員」ではなく、通常の従業員と同じ扱いです。そのため、取締役会設置会社における取締役のように代表取締役の選任や解任にかかわる権限などはありません。
実質的には、会社の部長職や支店長職といった「従業員としての最上級職」の人が役員入りの前段階として執行役員という肩書を与えられることが多いようです。
まとめ
会社の組織については、一般常識としての肩書が持つイメージ(社長やCEO)と、法律上決まっている組織のルール(代表取締役や取締役)とで異なることも多いものです。そのため、自社の設立時や他者との契約締結時には特に注意が必要です。
重要な取引を行う際には、登記簿謄本の情報を参照するなどして、相手方に法律上の会社の代表権があるのかどうかをきちんと確かめると安心でしょう。
誰がどのような権限を持って会社の経営にかかわるかは極めて重要な問題です。さまざまな権限を持つ役員の設置が可能なので、自社の状況に合わせて幹部の役割を決めるようにしてください。