金銭的な利益はさておき社会に大きく貢献したい、コストをできるだけ抑えて安定的に事業を運営したい、ボランティアの枠を超えて人材雇用の機会をもっと増やしたい・・・
このような場合に検討したいのがNPO法人の設立です。
この記事では、NPO法人とはそもそもどんな組織をいうのか、その他の団体・法人とはどのような違いがあるのかについて解説します。
NPO法人を設立することのメリットやNPO法人設立の手続きの進め方についても説明するのでぜひ参考にしてください。
目次
まず「NPO」「NPO法人」とは
NPOとは「Non-Profit Organization=利益を目的としない組織」の略称で、さまざまな社会貢献活動を行う団体を指します。
NPO法人とは、その団体の主な活動が特定非営利活動促進法(NPO法)に基づく「特定非営利活動」にあたるものであるとの認証を受け、法人格を取得したものです。
令和元年3月時点で、NPO法人として全国に52,406の団体があることがわかっています(内閣府/令和2年度「特定非営利活動法人に関する実態調査」)。
利益を目的としないとはいえ、事業をすべて無償で行うわけではありません。特定非営利活動としての事業以外の事業を行うことは、法的にも認められています(NPO法第5条)。事業で収入を得ることはあっても、利益を分配するのではなく、特定非営利活動のために使います。
ただし、労働の対価を支払うことは「利益の分配」とは異なるので、職員に給与を支払うことも可能です。
NPOの認定対象となる20種の特定非営利活動
前項の「特定非営利活動」とは、NPO法で規定された次の20種類のいずれかに当てはまる活動をいいます。いずれも、社会への貢献度の高い活動です。
- 保健、医療または福祉の増進を図る活動
- 社会教育の推進を図る活動
- まちづくりの推進を図る活動
- 観光の振興を図る活動
- 農山漁村または中山間地域の振興を図る活動
- 学術、文化、芸術またはスポーツの振興を図る活動
- 環境の保全を図る活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護または平和の推進を図る活動
- 国際協力の活動
- 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
- 子どもの健全育成を図る活動
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発または雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護を図る活動
- 上記の活動を行う団体の運営・活動に関する連絡、助言または援助
- 上記に準ずる活動として都道府県または指定都市が条例で定めた活動
例えば、「保健、医療または福祉の増進を図る活動」には、ホームヘルパーの育成を行う事業や介護タクシー派遣事業の運営などが考えられます。
「消費者の保護を図る活動」には、商品やサービスによる消費者被害を防ぐための活動や、被害者の権利保護を訴える活動などが該当します。
具体的に各団体が行う事業がこれらの条件に当てはまるかどうかは、所轄庁である都道府県や市区町村の長が認証を行うという形でチェックします。
NPO法人の職員の給料はどこからくるのか
NPO法人は利益を目的としない組織で、事業で得た収入を組織で分配するわけではない、と説明しました。では、そこで働く人たちはどうやって収入を得ているのでしょうか。
NPO法人も資金がないと活動を続けていくことができません。そのため、非営利とはいっても収益を出すための活動を一定の範囲で行っているのが実際のところです。
具体的には、大きく分けて次の4つの方法があります。
- 【会費】会員制度を設けて会費を徴収する
- 【助成金・補助金】政府や民間の団体から支援を受ける
- 【寄附】活動への支援として寄附を受ける
- 【事業収入】講演活動など対価を得る事業を行う
4つめの事業収入は、一般的な株式会社などと同じように事業を行って収益を得るものです。主目的である社会貢献活動とは別に、収益を得るための事業を行うNPO法人もあります。
「非営利活動=ボランティア活動」ではない
NPOでは、活動に参加する人をボランティア(無報酬)でまかなうことも少なくありません。
しかしある程度の規模のNPO法人を継続的に運営していくためには、フルタイムで働いてくれるスタッフが不可欠です。
「慈善的な事業で収益を出すべきではない」という人もいますが、慈善とはいえ活動を広く社会に届けるには資金力がある方が合理的かつ現実的です。
欧米では、チャリティで高額な寄付を受けたり、収益事業を積極的に展開してそこから得た資金を非営利事業に還元したり、といったことが普通に行われています。
日本でも資金を獲得するための事業を積極的に行う団体が増えていくことでしょう。
NPO法人と株式会社などとの違い
NPO法人とその他の法人・団体の違いについても見ておきましょう。
NPO法人と株式会社との違い
NPO法人と株式会社との最大の違いは、利益の分配を目的としていないことです。
また、NPO法人は前述のように事業内容が「非営利活動」に限定されています。株式会社には事業内容の限定はありません。
株式会社は、資金を株主から調達して事業を行い、得た利益を株主に分配する仕組みです。社会貢献だけでなく組織として利益を得ることも目的としています。
廃業する際にも、株式会社であれば残った財産を出資者に(持分に応じて)分配しますが、NPO法人では分配できず、財産は戻りません。
NPO法人と一般社団法人との違い
NPO法人と同じような非営利の法人に、「一般社団法人」があります。NPO法人と一般社団法人の違いは、運営する事業の内容に制限があるかどうかです。
一般社団法人の場合は、その事業に公益性があるかどうかは問われません(公益性があると認められた場合は公益財団法人となる)。
NPO法人は、前述のとおり指定された20種の非営利活動のいずれかを行うものである必要があります。
このほか、NPO法人の設立に不可欠な所轄庁による認証が一般社団法人では必要ないこと、設立に必要な社員の人数や情報公開義務の有無などの点にも違いがあります。
NPOとNGOの違い
NPOと似た名称の団体で、「NGO」というのもあります。NGOとは、「Non-Governmental Organization=政府でない組織」の略です。
一般的には、政府ではなく非営利で活動する組織であり、国際的に活動している団体をいいます。
国際的に有名なNGOとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 赤十字
- 国境なき医師団
- セーブ・ザ・チルドレン
- ワールド・ビジョン
- ヒューマン・ライツ・ウォッチ
- アムネスティ
「営利を目的としない」という点で、NPOとNGOは共通しています。それ以外の点についても、明確な区別は定められていません。ただ、日本で法人格を得ている場合には「NPO法人」と呼ばれます。
例えば、上記で挙げた「国境なき医師団」は国際NGOであり、日本の事務局である「国境なき医師団日本」はNPO法人です。
NPO法人を設立する4つのメリット
事業の法人化を検討する際に、株式会社や合同会社ではなくNPO法人としての設立を考える人もいます。
NPO法人の設立には、次のようなメリットが挙げられます。
- 事業内容への社会的信用度が高い
- 法人税の課税が限定的である
- 設立の費用が安い
- NPO法人のみのビジネスチャンスがある
それぞれの項目について具体的に見ていきましょう。
事業への社会的な信用度が高い
NPO法人として認められるには、事業内容が広く社会に貢献できるものである必要があります。
そのため、NPO法人であるということは「社会に貢献しようとする意欲が高い会社である」と言えます。
少なくとも事業内容については政府のお墨付きを得ていると言えますし、後述しますが認証の際には資料の一部が公開されます。何をしているかわからないような会社ではない、という点で信用度は高くなります。
法人税の課税は限定的である
株式会社や合同会社では、事業から得た利益のおよそ4割近い額を税金として納めなくてはなりません。
しかしNPO法人では、事業によって利益を得たとしても、その事業が「収益事業」と見なされた場合にのみ課税されます。
NPO法人のメイン事業は非営利事業であり、そのメイン事業の運営結果として利益が生じたとしても、その利益には税金が課税されない可能性が高いのです。
ただし、法人税が課税されるかどうかはあくまでも法人法のルールによって判断されます。メインとなる事業が非営利事業として認証を受けたものでも、次のような事業には法人税が課税されます。
物品販売業 | 不動産販売業 | 金銭貸付業 | 物品貸付業 | 不動産貸付業 | 製造業 |
通信業 | 放送業 | 運送業 | 倉庫業 | 請負業 | 印刷業 |
出版業 | 写真業 | 席貸業 | 旅館業 | 料理飲食店業 | 周旋業 |
代理業 | 仲立業 | 問屋業 | 鉱業 | 土石採取業 | 浴場業 |
理容業 | 美容業 | 興行業 | 遊技所業 | 遊覧所業 | 医療保健業 |
技芸教授業 | 駐車場業 | 信用保証業 | 無体財産権提供業 |
(法人税法施行令第5条「収益事業の範囲」より)
NPO法人では、メインの特定非営利活動による損益とその他の事業による損益を分けて管理するよう義務付けられています。
設立の費用が安い
会社を設立するには、一般的に株式会社なら25万円程度、合同会社では15万円程度の設立費用が必要です(定款の認証手数料や設立登記のための登録免許税)
その点、NPO法人なら基本的に費用をかけることなく設立の手続きができます。
とはいえNPO法人は設立手続き自体が複雑です。そのため設立の際は専門家(司法書士や行政書士)に依頼することも多く、その報酬などの費用が必要になります。
NPO法人の設立を専門家に依頼した場合の手数料の相場は、10万円〜20万円程度です。
NPO法人だけのビジネスチャンスがある
国や地方自治体が実施する事業では、参加要件として「非営利団体であること」が求められるケースがあります。
特に医療や介護に関連する事業では、営利目的の企業が事業に関わることに抵抗が生じることも少なくありません。そのためNPO法人が優先的に事業に参加できる可能性があります。
非営利団体が行う事業の機会を「ビジネスチャンス」と呼ぶのが適切かどうかはわかりませんが、NPO法人として事業を行うからこそ参画できる事業が存在しているのは事実です。
NPO法人を設立するための手続き
NPO法人を設立するには、大まかに次の2つの段階を経る必要があります。
- 設立の認証を受ける
- NPO法人設立の登記をする
- 登記をしたことを届け出る
それぞれ見ていきましょう。
1.所轄庁から設立の認証を受ける
NPO法人を設立するには、まず所轄庁(都道府県または市区町村)による認定を受けなくてはなりません。
それには、申請書とともに次のような添付書類の提出も必要です。
- 定款
- 役員名簿
- 役員の就任承諾および誓約書の謄本
- 役員の住所か居所を証明する書類
- 10人以上の社員の氏名と住所・居所を記入した書面
- 認証の要件に適合していることの確認書
- 設立趣旨書
- 設立への意思決定を証明する議事録の謄本
- 設立当初および翌事業年度の事業計画書
- 〃 活動予算書
これらの書類は、所轄庁に提出された後、一部を誰もが自由に見られるように2週間のあいだ公開されます。これを縦覧期間と呼びます。
縦覧期間後の2カ月以内に、認証あるいは不認証の決定が下されます。地域によっては2カ月より短い期間を定めている場合もあります。通知は書面で届きます。
2.NPO法人の登記をする
認証を受けただけでは設立とはなりません。認証後には、主な事務所の所在地で設立の登記を行う必要もあります。
登記は、認証の通知が来てから2週間以内に行わなくてはなりません。
3.登記をしたことを届け出る
登記をして法人の設立をしたら、登記の証明となる登記事項証明書とNPO法人設立時に作成する財産目録を所轄庁に届け出ます。
認証を受けてから6カ月を過ぎても登記がされなかった場合には、認証が取り消されることもあるので注意が必要です。
まとめ
NPO法人とは、国が指定する社会貢献活動に従事する営利を目的としない団体のうち、法に基づく法人格を持った組織のことを言います。
設立や運営にあたって所轄官庁によるチェックがあるなどのルールがありますが、税負担などにおいて優遇もあり、一般的な株式会社などより安い費用で設立が可能です。
非営利事業と言っても、収益を得る事業も可能ですし、従業員への給与の支払いも可能です。ダイレクトに社会に貢献できる事業の経営を検討しているなら、NPO法人を1つの選択肢として考えてみるのもよいでしょう。