役員の任期は何年にするべきか
株式会社の場合、会社法332条の規定により、役員の任期は原則2年と定められています。
ただしこれは公開会社の場合で、非公開会社は10年まで延ばすことが可能です。
起業時には、非公開会社となる場合がほとんどですので、役員の任期にはさまざまな選択肢があります。
それではいったい何年にするのが良いのでしょうか。
役員の任期を最長の10年にした場合
まず、役員の任期を最長の10年にした場合を考えてみます。
役員選任にからむ登記のコストを抑えられるメリットがある半面、解任をめぐりトラブルが生じるリスクがあるのがデメリットです。
メリット:登記のコストを抑えられる
役員変更に当たっては登記が必要で、登録免許税として印紙代1万円がかかります。
また、登録完了後に内容確認のための会社謄本を取得すると、480円かかります。
役員の顔ぶれが全く同じであっても留任ではなく、一度退任して再任するという形になりますので、登記が必要となります。もちろん都度、登録免許税は必要です。
役員任期を最長の10年にすると、この登記に必要なコストを抑えられるというメリットがあります。
デメリット:解任をめぐるトラブルが生じる可能性あり
役員交代させる場合、株主総会を開いて解任したうえで、新たな役員の任命が必要なため、もし役員に選んだ人の能力に問題があった場合、任期が長いと大きな問題が生じます。
選んで1~2年で能力不足が判明した場合、任期が10年だと解任しない限り8~9年も役員の座に居座り続けることになるからです。
(その際、解任自体は、正当な理由がなくても可能です)
問題は役員を解任された人が、残りの年月分の報酬について損害賠償を求めてくる可能性があることです。
任期を長くした場合には、こうしたリスクが付いて回ります。
役員の任期を原則2年にした場合
次に、役員の任期を公開会社に準じて、原則2年にした場合を考えます。
役員の交代にからむトラブルは生じにくいですが、登記にコストがかかるのがマイナス点と言えます。
メリット:役員の交代にからむトラブルが生じにくい
役員の任期が原則2年である場合、仮に役員の能力不足が判明したとしても、焦る必要はありません。
なぜなら、役員の座に居座り続けられるのは、最長でも2年だからです。
このため、その2年間は我慢しておき、次の役員改選のタイミングで再任しなければいいのです。
よほどのことがない限り、急いで解任しなければならないということは考えにくいでしょう。
再任されなかった方も、決められた役員報酬は全額手にしているわけですから、損害賠償を求めるということも考えられません。
交代にからむトラブルが起きにくいのは、このためです。
デメリット:登記にコストがかかってしまう
前述のように、役員はたとえ全員が前期と同じだったとしても、留任にはなりません。
一度退任し、株主総会によって再任されるという形になるのです。
このため、登記は2年毎に必ず行わなければなりません。
もちろん、そのたびに登録免許税の支払いと、会社謄本取得のための手数料がかかります。
こうした業務を司法書士に頼んだ場合、さらに手数料がかかってしまいます。
コストの高さと交代にからむトラブルの少なさ、どちらを重視するかは判断が分かれるところでしょう。
役員に任期は何年にするのが良いのか
適切な役員の任期は、今後の事業展開をどう考えているかによって変わってきます。
まず、役員が経営者のみとか、極めて少ない身内だけにとどめたい場合は、長い方がいいでしょう。
逆に、将来的に事業を拡大してくことを考えているのなら、役員の数も増えるでしょうし、フレキシブルに対応できる原則2年が良いでしょう。
任期が長いほうが良い場合
役員が経営者1人だけの場合、わざわざ2年ごとに登記を行う、登録免許税を支払うのは無駄なコストと言えるため、可能な限り、コストを抑制したいところです。
それならば、役員任期を最長の10年にしてしまった方がいいでしょう。
役員が身内のみで、極めて数が少ない場合でも、同じようなことが言えます。
ただし身内であっても、解任にからむトラブルが生じないとは言えません。
このリスクについては、前もって考慮に入れておいた方がいいでしょう。
任期を原則2年にした方が良い場合
将来的に事業の拡大を考えている場合、役員の数を増やしていく可能性が高いです。
また、状況に合わせて役員を入れ換えていくことも、視野に入れておかなければなりません。
役員任期が長いと、入れ換え時に解任手続きが必要となり、トラブルの原因となりかねません。
それならば、役員任期を最短の原則2年とし、トラブルを避けるのが賢明です。
もちろん、登記に当たって支払う登録免許税は多くなります。
しかし、組織をフレキシブルに動かすためなら、これは必要経費と考えた方がいいでしょう。
最適な役員の任期はケース・バイ・ケース
経営者が起業後の事業展開をどう考えているかによって、最適な役員の任期は変わってきます。
最長の10年がいいか、最短の原則2年がいいか、起業時に経営者がしっかりと考えておきましょう。
役員の任期によって将来の登記費用が変わる!
前述の通り、役員を任命する際、任期は一定の期間から選ぶことになっており、10年以内であれば任意の年数で設定が可能です。
役員を任命するときは必ず登記費用がかかります。
何らかの変更があったときや、任期満了後の再任にも登記が必要となるため最初の任期設定は重要です。
将来の登記費用にも大きな差が出てくるでしょう。
役員の任期によって登記費用が変わるのは何故?
役員の任期を短く設定すると、そのぶん変更や再任の手続きが必要です。
短期間に設定するほど余分に費用がかかると考えておきましょう。
役員の変更だけでなく、同じ役員を再任するときも一律の費用がかかります。
役員の変更により登記が必要になる
役員の情報を変更するには登記手続きが必要です。
登記には必ずお金がかかってくるため、2年ごとに任期を設定していれば、任期が切れるごとに登記手続きを行うことになります。
対して10年の任期を設定しておいた場合は、10年で1回登記手続きをすればよいだけです。
1回の登記にかかる費用はほぼ一律のため、2年ごとに計5回の登記手続きをするより、10年に1回だけ手続きをするほうが費用は安く上がります。
同じ役員を再度任命する場合も登記費用がかかる
もし会社の取締役が1人だけで同時に会社経営の責任も保有しているような場合、ほとんど役員の変更はありえません。
同じ人を同じように再任するだけですが、登記費用は役員の変更と同じです。
結局同じ人を任命すると決まっているなら、任期を長く設定したほうが有利でしょう。
役員の変更や再任時にかかる主な登記費用
役員の変更や再任にかかる登記費用には、どのようなものがあるのでしょうか?
自分で登記をするのであれば高額な費用はかかりませんが、司法書士などに登記手続きを依頼するなら5〜10万円程度の費用を考えておきましょう。
1回で済めば最大10万円ほどですが、5回に増えれば50万円です。
余計な費用をかけたくない場合は、任期設定についても会社設立時に考えておくことをおすすめします。
手数料
司法書士などに代理で登記手続きを頼むときは、手数料がかかります。
一般的には数万円です。
手続きの内容や件数、状況により変化しますが最低2~3万円はかかります。
登録免許税
登記には登録免許税の納税が義務付けられています。
役員変更や再任にかかる費用は3万円または1万円です。
資本金1億円以上の大会社では3万円かかりますが、それ以下の会社では1万円かかります。
自分で登記手続きをした場合でも、登録免許税は免除されないため、登記手続きには最低1万円以上の費用がかかると考えておきましょう。
証明書発行費用
登記手続きの際は登記事項証明書と印鑑証明書が求められます。
どちらも発行にかかる手数料は数百円程度ですが、代理で発行を依頼した場合の手数料は数千円です。
自分で発行したとしても、登記のたびに発行手続きや処理に時間がかかります。
不必要な手間をかけるのであれば、役員の任期は長いにこしたことはありません。
役員の任期を長くするメリット
役員の任期を長く設定するメリットは、登記費用を抑えられることです。
また、手続きに手間がかからないのもメリットと言えるでしょう。
登記費用が少なくなり手間がかからない
毎年数万円の費用をかけて役員の再任をしているより、10年に1度の手続きのほうが費用や手間がかかりません。
役員の変更がありえない場合や、登記費用をなるべく抑えたいのであれば、任期を長く設定したほうがお得です。
役員の任期を長くするとデメリットもある
任期を長く設定した場合、メリットだけとは限りません。いくつかのデメリットもあります。
将来の登記費用だけでなく、総合的なメリットとデメリットを比較して、都合のよいほうを選びましょう。
途中での解任時にトラブルが起こる可能性がある
任期を長く設定した場合、よほどのことがなければ役員の変更は行われません。
経営に問題がある場合には解任もできますが、トラブルになることも考えられます。
なお、正当な理由がなければ役員をやめさせられない、というようなルールはありません。その代わり、訴えられる可能性があることも注意が必要です。
外部の人間を役員にする場合、途中解任後のトラブルも視野にいれておきましょう。
任期が短い場合、円満に任期満了後に退任してもらうこともできます。
任期満了時の手続き忘れに注意が必要
2〜3年に1回登記手続きがあるなら予定に組み込みやすいですが、10年に1回しか手続きがないと忘れてしまう可能性が高まります。
ルール上、役員の再任や変更時には、すみやかに登記手続きをしなければならないため、忘れてしまうと厄介です。
長期間手続きをしないままでいるとペナルティにより、余計な費用が発生してしまいます。
再任以外の手続きが不要な場合でも、きちんと処理ができるか把握しておくことが大切です。
まとめ
役員の任期満了時には、登記手続きが必要です。
任期を短期間に設定しておくと、そのたびに登記をしなければなりません。
任期を長く設定するだけで登記費用が抑えられるため、役員変更がありえない小規模な会社などでは延長も検討しましょう。