収益を上げることができる自信のあるビジネスプランを持っているのに、資金調達ができないからと起業を諦めてしまっていませんか?
かつて存在した資本金の下限設定が今はなくなり、資本金がいくらでも会社設立ができるようになりました。
とはいえ資本となるものが何もなしでは企業としての信頼にも関わるため、資本はなるべく多くしておきたいもの。そんなときに使えるのが「現物出資」です。当面の運転資金の証明として「不動産」や「車」などで出資することができます。
現物出資によって会社を興すこと、また別子会社を立ち上げることは、手元資金に余裕がない事業者に広く利用されている正当な手段です。
この記事では、資本金として用意できる現金が少ない人におすすめの現物出資のしくみやメリット・デメリットについて解説します。
目次
資本金1円でも会社設立はできる
2006年5月の会社法改正により「資本金1円で会社を立ち上げられる」ことになりました。
会社法が改正されるまでは「商法第168条」による「最低資本金規制」により、次のように会社形態で異なる資本金の下限がありました。
- 株式会社を設立する場合の資本金:1000万円
- 有限会社を設立する場合の資本金:300万円
これは、万が一の倒産によって債権者が背負うことになるリスクを軽減するために定められたルールです。
しかし、「資本金が多い=倒産リスクが低い」という図式が必ずしも成立するわけではないこと、また起業を促進して新たな有望産業をバックアップしたい、という国の意向から、条件が緩和されることとなったのです。
とはいえ1円では困るのが資本金
確かに、法律上では、資本金1円での会社設立も可能です。しかし、事業を始めるのに「資金」は欠かせません。
そもそも設立時の資本金とは、創業時の運転資金ともなるものです。資本金がまったくない状態で会社設立をしても、起業後の資金繰りに行き詰まることは目に見えていますよね。
通常、会社設立時には発起人が資本金となるお金を準備します。しかし、金銭以外の財産で出資をすることもできます。それが「現物出資」の制度です。
現物出資とはどんな制度?
では、現物出資とはどのような制度なのか、具体的に見ていきましょう。
現物出資とは
現物出資とは、資本金を金銭で用意する代わりに不動産や動産などを出資の手段として用いることです。現金以外の固定資産を払込財産として出資することで、株式を引き受けるしくみです。
創業時に限らず、資本金を増やす(増資)の際に利用されます。
土地や建物、光学機器やソフトウェア、知的財産権などが広く認められるため、現在では、会社創業もしくは子会社増資などの場合の、出資手段として定着しています。
最近では、海外でも現物出資は一般的な増資調達手段となっています。
有名な例では、2020年10月に「メルセデスベンツ」がイギリスの高級車ブランド「アストンマーティン」への追加出資2億8,600万ポンド(約390億円)を、自動車部品を提供する現物出資としました。
現物出資によって会社を設立するには?
現物出資は、出資対象の現物が、資本金額に対して妥当な価値を持つものでなければなりません。
現物出資対象物の「価格」は、発起人の自己申告となっています。もし後で悪質とみなされるような価値の乖離(かいり)が発覚した場合、発起人がその差額を支払わなければならなくなる可能性もあります。
よって、現物出資財産の価額を第三者の目で調査することが必要です。調査には、裁判所に検査役の選任の申し立て(裁判所選任による調査役or会社設立時の取締役)を行わなくてはなりません。
あわせて調査報告書、財産引継書の作成が必要となります。調査が完了して初めて、定款に現物出資の内容について記載できるようになります。
現物出資のメリット
現物出資をすることには、主に次のようなメリットがあります。
- 資本が増額できる
- 現物出資した人も発起人になれる
- コスト削減が可能になる
- 節税が可能になる
それぞれ具体的に説明します。
会社の資本が増額できる
多額の現金を用意することはできなくても、貸借対照表に計上できる「現物資産」は探せば意外と見つかるものです。
たとえば、土地や建物などの「不動産」プリンターやパソコンなどの「OA機器」、ローン支払いが終わった「車」などです。
また、特許などの知的財産権も現物資産対象となります。
現物出資によって、それらの現物資産を会社資本として計上できます。
会社資本の増額によって対外的な信用度が増し、事業の安定が期待できる点が大きなメリットです。
発起人になれる
会社設立時に支援する人にとっても、現物出資はメリットがあります。
設立後に出資した金額に応じて、株式が発行されて株主になれる「発起人」という立場を得ることができます。
現金は用意できないけれど、現物資産を出資できる場合に有効な手段です。
コスト削減が可能になる
事業に必要な備品を、現物出資として計上しておけば、創業後に取得した時に「経費」として処理することが可能です。
もしこれが現金決済の場合は、実際に支払いを行わなければ経費とはみなされません。
結果として確実に「経費扱いできる」現物出資の方が、より節税効果が高くなります。
節税が可能になる
現物出資の対象となる物品が、固定資産として計上できる場合(土地建物、高額機械、車両など。目安は10万円以上)は、法人の税務処理として減価償却が可能となり、法人税の節税につながります。
現物出資のデメリット
現物出資には、デメリットとなる次のような側面もあります。
- 設立時の手続きが複雑になる
- 手元資金に余裕がない
それぞれ説明します。
設立時の手続きが複雑になる
現物出資には、現金出資より複雑な手続きが必要になります。
前述したように、調査報告書や財産引継書の作成など、さまざまな手続きを済ませなければなりません。専門的な知識がないと難しいため、税理士など専門家のサポートが必要になるかもしれません。
手元資金に余裕がない
会社資本金として計上されている金額と、実際の会社の口座にある資金額とのギャップは、経営において大きな課題となります。
実際に動かせる現金が少ないため、会社設立にはこぎつけたとしてもその後の運転資金を用意できないおそれが。事業を継続できないようでは、本末転倒となってしまいます。
現物出資による会社設立を実行するなら、創業後の資金繰りについて綿密に計画を立てましょう。
「現物出資」はリスクもあるが便利な制度
現金出資は手持ち現金が少なくても、会社設立のチャンスや資本増資を得られる便利な制度です。ビジネスチャンスを逃したくないなどの事情でスピーディーに動きたい人向けと言えます。
しかし現物出資には手続きが複雑になったり、その後の資金繰りに困るおそれがあったりするリスクやデメリットもあるので、安易に利用するのは危険です。
堅実な創業後の収益プランを用意した上で、選択肢の一つとして検討するとよいでしょう。