「会社設立(法人化)すると節税できる」という話はよく聞きます。
確かに、会社設立には税金面でのメリットは大きく、いくつかの方法で節税が可能です。
しかし具体的にどのような場面で節税ができるのかは、あまり知られていません。そのため、個人事業主でいるべきか、法人成りすべきかを悩む人も多いのではないでしょうか。
この記事では、会社設立で得られる8つの節税メリットを紹介します。ただしそれだけで会社設立を決めるのにはリスクもあるので、会社設立のデメリットについても見ておきましょう。
目次
会社設立で得られる7つの節税メリット
会社を設立すると、主に次の7つの点において税金面でのメリットが享受できます。
法人化することで節税となるのは、主に「経費」としてさまざまな費用が計上できるようになるからです。
収入から経費を引いたものが所得となり、さらに各種控除を引いた金額が課税所得となります。税金は課税所得の部分にかかるので、経費が多いほど節税となるのです。
それを踏まえ、この7つの節税メリットについて詳しく見ていきましょう。
節税メリット1.自分への役員報酬
法人を設立すると、事業主個人は会社から「役員報酬」という形で収入を得ることになります。
これにより、会社には「経費の計上」、事業主本人には「給与所得控除」という2つの節税効果が得られます。
まず、役員報酬は経費として計上することができます。
ただし、経費計上するためには決まりもあります。例えば役員報酬の額は毎月一定額とし増額しない(定期同額給与)、不当に高額の役員報酬を設定しない、など。決まりを守らなければ、全額を経費にはできません。
給与所得控除とは、給与の金額に応じて一定額を差し引くものです。会社でいう経費のようなもので、課税所得が減ることから所得税の節税につながります。
節税メリット2.家族や親族への役員報酬
法人化することで、所得を家族や親族への役員報酬として分散させられるようになります。
所得税は累進課税であり、所得が多い人ほど税率が高くなります。
そのため役員報酬を社長1人だけに支払うのではなく、配偶者などの家族や親族に振り分けて1人あたりの収入の額を下げれば、税金の額も減らせるのです。
前述の自分のケースと同じく、支払った報酬は適正な額であれば経費として計上もできます。
個人事業主の場合も、青色申告の特典として家族への給与を経費にできる制度(青色事業専従者給与)はあります。
しかし生計が同じ、事業に6カ月以上専従しているなどの条件があります。
節税メリット3. 退職金の支払い
法人化すれば、役員や従業員に退職金を支払うことで高額な費用を経費として計上できます。
受け取る側も、退職金の課税額は次のように算出することになっていて、税金の面で優遇されているのです。
まず勤続年数に応じて「退職所得控除額」を計算します。
- 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
- 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
この計算式で算出された退職所得控除額を、収入から引きます。その金額を次の式のようにさらに1/2にした金額のみが、「退職所得」として課税の対象となります。
- 退職所得=(収入-退職所得控除額)×1/2
ただし、勤続年数が5年以下の場合には「×1/2」での計算はできず、収入から控除額を引いた金額が退職所得となります。
また、あまりに高額な退職金は、過大と見なされた部分を除いての計算となります。
節税メリット4.出張手当
法人化すれば、会社が自分や家族従業員に支払う出張手当も経費に算入できるようになります。
ただし出張手当を経費にするためには、出張旅費規程をきちんと作成して「出張」の定義を明確化しなければなりません。
旅費の種類や支給額、適用範囲なども定め、きちんと規定に基づいて支給するようにしましょう。
節税メリット5.社宅の費用負担分
会社設立をすれば、役員や従業員が住む家を会社名義で借り、「社宅」として役員に貸した場合も節税が可能。会社が貸主に支払った家賃と、役員や従業員から受け取った家賃との差額が経費に計上できます。
会社として負担する適切な家賃の割合の目安は50%程度。 役員などから受け取る額が少なすぎると節税になりません。
むしろ、家賃相当のお金が給与支給されたと見なされ、本人の所得税や社会保険料が高くなるので、会社が負担する社会保険料や労働保険も高くなってしまいます。
節税メリット6.10年の赤字の繰り越し
法人の場合、赤字を繰り越し控除できる期間が10年と長いこともメリットの1つです。 翌年以降に発生する事業所得の黒字と相殺することができるので、納めるべき所得税の額も低くなります。
個人事業主にも赤字の繰越は認められていますが、その繰越期限は翌年以降の3年間と決まっています。
繰り越せる期間が長ければ、大きな赤字も相殺できる可能性が高まります。
節税メリット7.消費税の免税期間
個人事業主でも会社でも、消費税は売り上げが1000万円以上あった場合に課されますが、基準となるのは2年前。つまり、実際に納税するのは2年後です。
一方、新たに法人化で会社設立をすると、この「2年前」という基準の期間は設立3年目まで存在しません。個人事業主と法人とでは別人格となり通算されないので、実質的に2年間は消費税が免除されるのです。
そのため、個人事業主として1000万円の売上が出たタイミングで法人成りすることで、節税効果は大きくなります。
ただし、資本金が1000万円を超える場合には納税は免除されません。その場合、売り上げが1000万円を超えれば2年目から課税対象となることに注意が必要です。
ここに注意!会社設立のデメリット
会社設立によってさまざまな節税効果があることは大きなメリットです。しかし会社設立にはいくつかのデメリットもあるので、節税だけを目的に会社を設立するのはおすすめできません。
総合的に判断するため、デメリットも見ておきましょう。会社設立によるデメリットには主に次の5つが挙げられます。
それぞれについて説明していきます。
デメリット1.設立するのに手間と費用がかかる
会社設立には、定款認証や登記など法的な手続きが必要で、それには費用がかかります。
一般的な会社形態である株式会社と、注目度が高まっている合同会社、それぞれの設立手続きにかかる費用とその内訳を見てみます。
株式会社 | 合同会社 | |
定款認証手数料 | 3万円~5万円 | – |
定款謄本手数料 | 2千円 | – |
印紙代 | 4万円 | 4万円 |
登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
株式会社の場合、作成した定款を公証役場で認証してもらわなくてはなりません。認証手数料は、資本金の額により3万円・4万円・5万円と異なります。
合同会社の場合、定款の作成は必須でも認証を受ける必要がありません。
会社設立の登録免許税は、株式会社・合同会社とも資本金の0.7%の額と決まっています。ただし、その額が株式会社の場合、15万円に満たない場合は15万円、合同会社の場合は6万円です。
このように、 法的な設立の手続きだけで株式会社は約25万円、合同会社であっても約10万円がかかります。
デメリット2.赤字でも住民税の納付義務がある
法人化することで納税が必要となる税金の1つが、法人住民税です。
法人住民税は、利益に対して課される法人税割と、事業所があるだけで資本金の額により課される均等割とで成り立っています。
このうち均等割の部分については、事業が赤字経営であっても納税義務は免れません。最低限の必要経費として押さえておく必要があります。
デメリット3.社会保険料の負担が増える
法人となると、従業員の数などに関わらずすべての事業所に社会保険への加入義務が生じます。
社会保険とは、厚生年金保険と健康保険の総称です。保険料の半額は会社が負担しなくてはなりません。
従業員の数や給与の支給額が増えるほど、金銭的負担は大きくなります。
デメリット4.各種契約料金が高くなる
個人と法人では、契約料金が異なるものがいくつかあります。例えば銀行によっては、法人口座を設立すると「口座維持費」「月額基本料」といった名目で料金が発生するところもあります。
インターネットのプロバイダ―契約も、法人契約では個人契約より高い料金設定がなされています。
また、オフィスや店舗物件を借りる際に必要な敷金も、法人契約の場合は高く設定される可能性があります。
デメリット5.廃業するにも手間や費用がかかる
会社は、廃業の際にも解散の登記や届出、清算業務と清算結了の登記など、いくつかの手順を踏んで行う必要があります。
登記の必要があれば登録免許税もその都度かかり、廃業手続きに必要な費用は4万円ほど。官報公告にも約4万円が必要で、少なくとも約8万円の費用がかかります。
さらに手続きを弁護士など専門家に任せることが一般的であり、専門家への報酬も必要になります。
まとめ
会社設立することで、個人事業主にはないさまざまな節税メリットが受けられます。
ただし、メリットを効果的に活用するには知識も必要です。税理士など専門家の力も借りるのが得策です。
また、会社設立には設立するだけで費用がかかるなど、デメリットもあります。法人成りのメリットやデメリットは、事業の内容や状況などによって変わることもあります。双方の観点から検討するようにしてください。
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