個人事業が軌道に乗ってきたら、次に考えるのは会社設立でしょう。
立ち上げには決めることがたくさんありますが、その1つが役員の構成とその人数。
必要な役員は決まっているのか、企業規模によって数も変わってくるのかなど、疑問がたくさん浮かんでいませんか。
この記事では、これから株式会社を設立するなら知っておきたい、役員に関する決まりについて詳しく解説していきます。
目次
株式会社の役員には「取締役」が必須
株式会社の設立・運営は、1人でも可能です。
1人しかいない会社なら、その人が「取締役」として会社の役員を務めます。
取締役がいない状態で株式会社を立ち上げることはできません。
2006年まで適用されていた旧会社法では、株式会社には3名以上の取締役が必要でした。
しかし新会社法では、株式譲渡制限会社には取締役が1人以上いればよいことに変更されています。
株式譲渡制限会社とは、すべての株式について、取締役会または株主総会の許可がなければ譲渡ができないという制限を付けたものです。
その旨を定款に記載することによって規定します。
取締役とは
「取締役」は、会社のトップとして事業経営を行う立場をいいます。トップと言っても前述のように一人の場合もあれば複数の場合もあります。
そのうちの代表者が「社長」や「CEO(最高経営責任者)」といった肩書を兼任することも多いです。
自分ひとりで会社を立ち上げることを決めた場合、自分は会社の「発起人」であり「取締役」です。
会社設立後には、発起人は株主となります。
発起人が別にいる場合には、取締役は発起人が決めます。
会社設立後には株主総会によって選出されたり解任されたりします。
「取締役会」の決まり
取締役はすべての株式会社で設置する必要がありますが、「取締役会」は設置しなくてもいいケースがあります。
前述の株式譲渡制限会社であれば、取締役会は設置しなくても問題ありません。
取締役会を置かない場合には、取締役の最低人数は1人。
取締役会を置く場合(取締役会設置会社)には、3人以上の取締役が必要です。
代表取締役とは
代表取締役は、取締役が集まる取締役会で必ず選ばれる役職です。
会社の「代表権」を持ち、自身の判断で会社単位の契約を結ぶ権限を持ちます。
人数に決まりはないので、1人の場合もあれば3人の場合もあります。
ただ、取締役会で選ばれるということは、取締役の設置義務がない株式譲渡制限会社では代表取締役を選ぶ必要もないということです。
1人で会社を設立した場合には、取締役会は設置できないので本人が代表取締役となります。
社長と取締役の違い
取締役や代表取締役は会社法に規定されている会社の役員ですが、「社長」は法律上の定義がない呼称です。
しかし会社の組織の中では代表という扱いであり、代表取締役が社長も担っているのが一般的です。
「代表取締役」は会社に複数人いる可能性のある肩書きですが、社長という肩書きを持つのはたいてい1人のみ。
「社長=代表取締役」である会社も多いですが、その場合も代表取締役社長と名乗るのはたいてい1人です。
株式会社の役員は取締役1人でもOK
自分ひとりで株式会社を立ち上げる際には、取締役として自分がいるだけで役員の要件を満たすことができます。
個人事業主が法人成りする場合は、このパターンに当てはまる人が多いのではないでしょうか。
取締役の数について、法律上の決まりを改めて知っておきましょう。
新会社法での決まり
会社法第326条は、「株式会社には、一人または二人以上の取締役を置かなければならない」としています。
また、第39条には取締役設置会社を設置しようとする場合には、その時の取締役が「三人以上でなければならない」とされています。
そして、第327条では取締役会を置かなければならない株式会社として「公開会社」や「監査役設置会社」を挙げています。
「公開会社」とは、発行する株式の譲渡について会社の承認を必要としない(必要だと定款に規定していない)会社のこと。
前述の「株式譲渡制限会社」はこの逆で「非公開会社」と呼ばれます。
これらを踏まえると、立ち上げる会社が「非公開会社なら取締役は1人でもよい」と解釈できます。
個人事業主が1人で株式会社を立ち上げる場合には、非公開会社=株式譲渡制限会社を設立することがほとんどのため、取締役は1人でOKなのです。
公開会社では「3人以上」の取締役が必須
前の項で、会社法において株式の一部でも譲渡制限をかけていない「公開会社」には取締役会の設置が必要だと説明しました。
取締役会が必須だということは、3人以上の取締役が必要だということです。
そのため、公開会社として立ち上げる場合には1人では不可能です。
なお、公開会社だと株式が自由に売買できてしまうため、自分とまったく面識のない人、関わりのない人が株式を保有するリスクが生まれます。
株式は会社の所有権そのものなので、最悪の場合は会社が乗っ取られるおそれもあります。
そういったリスクを回避する狙いもあり、まずは非公開会社での会社設立が一般的です。
将来的に会社が証券取引所に上場するタイミングになった際、一部でも譲渡制限を外し公開会社への切り替えを進めることになるでしょう。
取締役1人で実質的に会社運営は可能 ?
法的には取締役1人だけで会社として成り立つ、とはいえ、実質的に1人で会社を運営することはできるのか、デメリットはないのか、というのも気になるところです。
取締役1人でのメリット
取締役が自分1人だけなので、会社経営にかかるすべての事柄を自分で決めることができます。
他の誰かと話し合う必要もないので会社の意思決定がスムーズになり、スピード感を持って行動できます。
取締役1人でのデメリット
デメリットとして挙げられるのは、社会的な信用度が低くなることです。
複数人の視点が入り経営がワンマンになりにくい取締役会があれば、それによってある程度の信頼性が生まれます。
また、自分ですべてを行うなら、自分の知識や経験がすべてです。知識や経験不足で困ることもあるでしょう。
経営で壁にぶつかったとき、当事者として信頼し相談できる相手もいないとなれば、孤独や心細さを感じるかもしれません。
従業員や外部の人を頼る手も
もちろん、取締役は1人でも「従業員を雇う」という手があります。
業務以外の専門知識がなく不安なら、社外で公認会計士や税理士など専門家に依頼することも可能です。
まずは取締役1人の状態で会社をスタートし、何かトラブルがあった際には外部の専門家を頼ってみるというやり方も1つの方法です。
それでも解決しない場合には、取締役を増やしたり取締役会を設置したりすることを検討しましょう。
株式会社の役員の種類とそれぞれの人数
会社法でいう「役員」には、取締役のほかに会計参与や監査役、執行役についての規定もあります。
まず第326条では「取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査当委員会または指名委員会等を置くことができる」とした上で、必須とするケースもあります。それぞれについて見ていきましょう。
- 取締役
- 会計参与
- 監査役
- 執行役
取締役
前述のように取締役の数としては非公開会社なら1人以上、公開会社なら3人以上というのが法律上の決まりです。
とはいえ、実際に他の会社には何人の取締役がいるのかも気になるところです。
東京証券取引所の調査によれば、上場会社の数字ではありますが東証一部上場の企業で取締役会の人数は平均8.9人。
第二部では7.6人、マザーズでは6.1人となっています。
(2021年「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」)
最大人数に関してのルールはなく、会社の裁量で何人でも取締役を選ぶことが可能です。
とはいえ、多くの取締役がいることで意思決定に時間がかかるなど弊害もあることを考慮して決めるべきでしょう。
社外取締役
取締役は、社内の人間が昇格してなるだけでなく社外から迎え入れることも可能です。
社外取締役がいることで、第三者としての客観的な立場・視点で経営をチェックしてもらうことができます。
社外取締役には、その会社で社員や役員としての経験や利害関係がない人のみがなれます。
公開会社かつ大会社の監査役設置会社(後述)、および指名委員会などを設置する場合には、社外取締役を設置することが義務付けられています。
会計参与
会計参与は、財務諸表の作成など財務の面で社内の中心的な役割を担います。
取締役会を設置する会社であって後述の監査役を置かない場合には、会計参与を置く必要があります。
取締役が1人の場合には会計参与の設置も義務ではありません。
会計参与になれるのは、税理士や公認会計士などの関係に関する専門家(個人または法人)のみ。
取締役や監査役、従業員などから選出することはできず、必ず外部から選任する必要があります。
監査役
監査役の仕事は、取締役や会計参与の業務を監査、つまりチェックすることです。
設置義務があるのは、取締役会を設置している会社。
取締役が1人なら取締役会はないので、監査役の設置も必須ではありません。
取締役会設置会社を設立する場合の監査役の必要人数は「1人以上」。
ただ、非公開会社で会計参与を置いている場合には設置する必要はありません。
ちなみに取締役と監査役は兼任できないので、別の人に役員になってもらう必要があります。
なお、会社法では「大会社」は3名以上の監査役による「監査役会」と会計監査人も置かなければならないとされています。
公開会社でない大会社では会計監査人のみ必須です。
大会社とは、資本金が5億円以上、負債額が200億円以上である会社です。
監査役会設置会社では、監査人は3人以上必要で、そのうち半分以上は社外取締役でなくてはなりません。
会計監査人とは、社外から会計を監査する役割を持つ人のことで、公認会計士または監査法人に限られています。
執行役
「指名委員会等設置会社」では、1人あるいは2人以上の「執行役」の設置が義務付けられています。執行役は取締役会によって決まります。
「指名委員会等」というのは、「指名委員会」と「監査委員会」「報酬委員会」の3つの委員会を指します。
執行役は、取締役などが決定した経営方針に基づき、経営を実行する立場です。取締役はその監督をするということで立場を分ける狙いなどがあります。
また、各委員会を設置した場合は、その委員の過半数が社外取締役でなければならないという決まりもあります。
執行役と執行役員
執行役と似た言葉に「執行役員」があります。
執行役は会社法でいう「役員」ですが、執行役員は「役員」という呼び名でありながら従業員だという点で異なります。
役員寄りの従業員として、部長や支店長などが担うことが多い肩書きです。
ただし、企業によっては執行役のことを執行役員と呼ぶケースもあるので、具体的に何を指すかは確認が必要です。
株式会社の役員には任期もある
法に基づく株式会社の役員は原則として取締役・監査役・会計参与の3種類です。
これらは一度選任すればいつまでも続くものではなく、任期の定めがあります。
ただし任期は、会社の定款に定めることである程度は柔軟に決めることができます。
それぞれの原則としての任期と、定款に定めた場合の任期は次のとおりです。
(会社法第332条、第334条、第336条)
役員 | 原則の任期 | 定款に定める場合 |
取締役 | 2年 | 1~10年 |
監査役 | 4年 | 4~10年 |
会計参与 | 2年 | 1~10年 |
会計参与の任期は、取締役の任期に準ずるとされています。
取締役1人で会社を立ち上げる場合には、基本的に任期は最長の10年に設定することをおすすめします。
というのも、役員を変更したり更新したりする際には、その都度登記を行う必要があるからです。
登記には毎回登記費用が発生するため、回数を最小限にすればその分のコストが抑えられます。
ただし、役員を自分以外の人物に選ぶ場合には、任期は短めに設定しておく方が可能性もあります。
退任させたい場合の手続きがスムーズになるからです。
役員の人数が少なく役員変更の可能性も低いのであれば任期は長めに、役員の人数が増えて役員変更の可能性も高いようなら任期は短めにするなど、ケースに合わせて考慮するとよいでしょう。
ちなみに、東証上場の監査役設置会社における取締役の任期は、「1年」としているところが6割を超えています。
(東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2021/株式会社 東京証券取引所)
そもそも役員とは?社員との違い
会社の役員は、普通に働く社員や従業員とは立場が異なります。
役員は会社の事業主や経営者の側の人間であり、労働者を雇って使う立場です。
そのため労働者とは、労働時間の考え方や報酬・給料の取り扱いなども異なります。
それらの違いについても押さえておきましょう。
労働者かどうか
まず会社の役員は、労働基準法でいう「労働者」ではありません。
労働者とは、使用されて賃金を受け取る立場の人を指します。
労働者に該当しないということは、役員には労働基準法が適用されないということ。勤務時間の上限なども設けられていないので、時間外労働や手当という考え方も発生しません。
雇用保険や労災保険も対象外です。
健康保険や年金については、労働者の場合は労働時間によって適用されるかどうかが決まりますが、役員の場合は役員報酬の有無で決まります。
報酬を受け取っていない役員や非常勤の役員は対象とならず、国民健康保険等に入ることになります。
ちなみに、役員ではあるものの実質的に労働者と同じ仕事を兼務している場合には、雇用保険や健康保険、厚生年金などにも加入できます。
ただしハローワーク等で労働の実態を認めてもらう必要があります。
報酬が経費になるかどうか
役員と従業員とでは、支払われる報酬にも違いがあります。
従業員に支払われるお金は「給与」であり、会社の人件費として経費(損金)に計上することが可能です。
一方で役員に支払われるのは「役員報酬」であり、一部を除いては経費にできません。
役員報酬のうち経費計上できるのは、次のいずれかに当てはまる給与です。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
「定期同額給与」とは、同じ金額で一定期間(1カ月以下)ごとに支払われる給与のことです。
「事前確定届出給与」は、いわゆるボーナスのように職務に対して所定の時期に決まった額で支給されるもので、事前に税務署に届け出る必要があります。
「業績連動給与」は、業績によって額が決まる給与で、その内容が有価証券報告書に記載されているものを指します。
これは「今年は儲かったから自分にボーナスを払って税金を減らそう」などの、役員報酬をつかった税金逃れを防止する措置です。
上記の3点に当てはまるとしても、実質的に相応でない高額の支給であれば経費とは見なされません。
雇用契約か委任契約か
会社との契約形態も、役員と労働者とでは異なります。
労働者の場合は会社と雇用契約を結びますが、役員は委任あるいは準委任という形で契約します。
そのため、前述のように労働基準法が適用されないこととなるのです。
委任契約は法律行為を相手側に委託するもので、準委任契約は法律行為でない場合の契約形態です。
準委託契約にも委託契約と同じ規定が適用されます。
委任された側(受任者)には善管注意義務(善意なる管理者の注意義務)があり、能力や地位に応じて一般的に期待されるだけの注意を払って任務を遂行しなくてはなりません。
まとめ
株式会社を設立する際には、自分1人が取締役となるだけで他に役員がいなくても成立します。
株式のすべてに譲渡制限をかけている非公開会社であれば、取締役会などの設置も必要なく、監査役や会計参与を置く必要もありません。
個人事業主から株式会社への法人成りを検討している場合にも、特に新たなメンバーを揃えたりする必要はないということです。
しかし会社が成長して事業規模が拡大すれば、従業員も増えるもの。
そうなれば、経営を安定して回していくために複数の役員で役割を分担しながら経営していく必要が出てくるでしょう。
ただ、役員を増やして会社の権限を分散させることはリスクにもなり得ます。
外部の公認会計士や税理士などの専門家を頼ることも検討するのがおすすめです。
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