会社設立には、資本金が必要です。資本金が1円でも会社設立は可能ですが、事業を始めるのに1円の資本金というのは現実的ではありません。
この資本金は、払込をすることが義務付けられています。すでに残高がある場合でも、会社のために用意したお金だと第三者にわかるようにしておかねばなりません。
この記事では、会社設立時に行う資本金の払込について、その方法や注意点、証拠となる払込証明書の作り方を解説します。よくある疑問も解消していくので参考にしてください。
なお、今回は最も一般的な形である、「株式会社」を「発起設立」で設立する場合についての説明です。
目次
「資本金の払込」とは
会社を設立する際は、設立を決めて手続きを行う「発起人」が必ず出資をする、すなわちお金を出す必要があります。会社法では「出資の履行」といいます。
この出資の額がすなわち資本金の額であり、資本金は「出資の履行」を証明するため銀行などの口座に入れる必要があります(現物出資の場合は引き渡しなど)。これが「資本金の払込」です。
資本金の払込には、守るべき2つのポイントがあります。
- 出資額の全額を払い込むこと
- 発起人の銀行口座に払い込むこと
それぞれ説明します。
出資金の全額を払い込むこと
【会社法 第三十四条】
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。
発起人は、資本金の額(複数の発起人がいる場合はそれぞれが出す額)を決めたらなるべく早く、その全額を払い込む必要があります。一部のみ先払いし、「残りは用意ができてから…」というのは認められません。
ただしこの「全額を」とは、払込を「一括で」という意味ではなく、「もれなく」という意味です。一度に振込できる金額にも金融機関により限度がありますし、何回かに分けて振り込んでもOKです。
発起人の銀行口座に払い込むこと
【会社法 第三十四条2】
前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(中略)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。
株式会社の場合、資本金は、出資されたことがわかるよう、金融機関の口座に払い込む必要があります。原則として、口座は発起人の名義でなくてはなりません。
発起人が複数いる場合は、代表者の口座に払い込むか、それぞれの口座に払い込むのでもOKです。
「そもそも発起人って?」という人は、こちらの記事を参考にしてください。
資本金を払い込むタイミング
資本金の払込は、前述のとおり資本金額(1人1人が出資する額)を決めたらなるべく早く行う必要があります。
一般に推奨される流れ
会社設立の流れの中で見ると、次のタイミングで行うのが一般的です。
【株式会社設立の流れ】
1.会社の基本情報を決める
2.会社用の印鑑を作成する
3.定款を作成、資本金額や発行可能株式総数などを決める
4.公証人による定款認証を受ける
5.資本金の払込を行う
6.法務局に登記申請をする
7.設立の登記完了
資本金の額は定款(または発起人全員の同意)で決まるため、払込は定款が正式なものとして認証された後に行う形が推奨されています。
定款認証や作成の前でも
しかし、令和4年6月に法務省より「定款作成日または発起人全員が同意した日はもちろん、その前に払い込んだ場合でも、設立のために出資されたものだと確認できればよい」という旨の通知が出されました(令和4年6月13日付け法務省民商第286号法務省民事局商事課長通知)。
つまり、定款認証の前どころか、定款作成の前に払込をしても問題はないということです。
ただし、発起人の口座への払込であるなど、会社設立のための出資であるという明確な証拠を残すことは必須です。とはいえ何カ月も前では、資本金なのかどうかの判断がつきにくくなります。
資本金払込の手順4ステップ
では、資本金の払込をどのように進めていくかを具体的に見ていきましょう。手順は次の4ステップです。
- 発起人名義の口座を用意
- 口座に資本金を振り込む
- 通帳の該当部分をコピーする
- 「払込証明書」を作成する
順に説明します。
1.発起人名義の口座を用意する
資本金の払込は、銀行口座にしなくてはなりません。この場合の銀行とは、信用金庫やゆうちょ銀行など一般的な金融機関です。
発起人が自分1人の場合は、自分名義の口座を使えばOKです。資本金払込のために新たな口座を開設する必要はありません。
発起人が複数いる場合、代表者の個人口座に払い込むなら代表者の口座、それぞれが自身の口座に振り込むならそれぞれの口座が必要です。
紙の通帳があればコピーが必要なので、通帳も用意しておきましょう(ネット銀行の場合はweb通帳の画面などをコピー)。
2.口座に資本金を払い込む
資本金を、上記で決めた銀行口座に入金します。後で通帳のコピーが必要なので、キャッシュカードでなく通帳を使うのがおすすめです。
ちなみに、口座にたとえ資本金の額以上の残高があったとしても、そのままでは「払込」をしたことにはなりません。いったん引き出し、あらためて入金する作業が必要です。
数回に分けて入金しても問題ありませんが、第三者にわかりやすいよう、なるべく近い日付でまとめておくのが得策です。
発起人が複数いる場合は、各自が代表者の口座に振り込むのが一般的ですが、各自の口座にそれぞれ入金するのでも問題ありません。
STEP.3 通帳の必要な部分をコピーする
資本金の払込を行った証拠として、通帳の次の部分のコピーをとります。
- 資本金の振込・入金がわかる部分
- 表紙
- 表紙裏(名義や口座番号が記載されたぺージ)
印刷する用紙の大きさは、登記申請で必要となる他の書類と同じA4サイズにすることをおすすめします。
資本金の払込以外の入出金記録も記載されて見にくい場合は、該当の行にマーカーなどで印をつけておきましょう。
発起人が複数いる場合で、各自が自身の口座に払い込んだ場合、全員分の通帳のコピーが必要です。
ネット銀行やウェブ通帳の場合は、振込や入金のわかる履歴部分と、銀行名や口座番号、口座名義人の記載部分をプリントアウトしてください。
4.払込証明書を作成する
代表取締役の名前で、「資本金の払込を確認した」という旨を記載した「払込証明書」という文書を作ります。具体的な内容は次の章で紹介します。
その文書と通帳のコピーをあわせて綴じます。
資本金の払込証明書の作成方法と書式例
資本金の払込とコピーの作成が終わったら、払込証明書を作成します。これは設立登記の申請に必要となる書類です。
払込証明書に様式はないので、Wordなどの文書作成ソフトで自作するなどする必要があります。
また、様式はないものの、記載しておくべき事項はほぼ決まっています。細かいところですが、「綴じ方」にも注意が必要です。
順に見ていきましょう。
払込証明書に記載する項目
払込証明書は、これから「設立する会社」が証明する形で作成します。次の項目を記載します。
記載項目 | 概要 |
---|---|
タイトル | 「証明書」「払込証明書」など |
本文 | 全額の払込を受けた旨の文(下のフォーマット例に記載) |
払込を受けた金額の総額 | 金○○円(定款に記載のとおり) |
設立時発行株式数 | ○○株(定款に記載のとおり) |
証明書の作成日付 | 払込が完了した年月日(複数回の場合は最後の払込日) |
会社の所在地 | 定款に記載の本店所在地の住所 |
商号(社名) | 定款に記載のとおり |
設立時代表取締役名 | 氏名 |
資本金の払込証明書には、押印の必要はありません。
印鑑の要不要の扱いについては、令和3年2月に変更の通達が出ています(令和3年1月29日/法務省民商第10号)。
申請に関する書類に押印が必要かどうかは、法務省の公式サイトでも確認できます。
払込を受けた金額の総額や株式の数、商号や本店所在地などは、定款と同じになるようにしてください。
払込証明書の記載例
払込証明書の記載例も見ておきましょう。
便宜上、記載事項に合わせたサイズで紹介しています。
実際には通帳コピーと合わせて綴じ、他の登記申請書類と合わせて提出するため、登記申請書と同じA4サイズの大きさで作成することをおすすめします。
払込証明書と通帳コピーの綴じ方
払込証明書と通帳コピーは綴じておく必要があります。
1.払込証明書と通帳コピーを次の順に重ねる
- 払込証明書
- 通帳の表紙コピー
- 通帳の表紙裏のコピー
(口座番号・店番・名義人氏名・銀行印など) - 資本金の振込・入金がわかる部分のコピー
2.左端2カ所をホチキスで留め、冊子にする
赤い印の箇所をホチキス留めするといいでしょう。
払込証明書には押印の必要がないため、契印や訂正印も不要です。
ちなみに、会社法施行以前はこのような払込証明書ではなく、金融機関による「払込金額保管証明書」が必要で、審査などに時間がかかっていました。
現在でも、発起設立でなく一般に株主を募る募集設立の場合には、金融機関に「払込金額保管証明書」を発行してもらう必要があります。
資本金払込についてのよくある疑問
ここまでひととおり説明したところで、資本金払込についてよくある疑問を解消していきましょう。
払込先口座は発起人名義でないと絶対ダメ?
資本金は発起人名義の個人口座に払い込むのが原則ですが、設立時(代表)取締役の名義の口座でもよいという例外があります。
ただしその場合は、払込金の受領権限を発起人から取締役に委任する委任状の添付も必要です。
また、発起人と設立時取締役の全員が海外在住で日本に住所がない場合には、発起人や取締役以外の第三者の口座でもよいとされています。
ただしこの場合は、発起人からその第三者への委任状が必要です。
ちなみに、この場合の委任は発起人1人からでよく、発起人全員や過半数である必要はありません(平成29年3月17日/法務省民商第41号)。
「振込」じゃなくて「入金」でもいい?
発起人が複数いる場合、払い込む先が発起人の口座であればよく、自分の口座からの振り込みでも、現金での入金でも構いません。
振込先の名義は発起人であること、資本金額が払い込まれていることが必須ですが、振り込んだ人物の名前が発起人であるかどうかの確認は取られません。
払込した資本金はすぐに使ってもいい?
資本金は、会社運営の元手となるお金です。出資したという事実を払込証明書で残しておけば、その後は開業のために使ってもOKです。
ただしもちろん、使いみちは事業のために限られ、私用での引き出しなどであれば「見せ金」を疑われます。
見せ金についてはこちらの記事を読んでみてください。
法人口座を作ったら資本金はどうする?
会社設立の登記が完了すれば、会社名義の口座(法人口座)が作れるようになります(ただし審査は厳しいため断られるおそれあり)。
会社の口座ができたなら、資本金はその口座に移すのがおすすめです。移さねばならないという決まりはありませんが、公私の区別がつきやすく、管理がしやすくなります。
このとき、個人口座から法人口座への振込手数料は、会社負担の経費にすることができます。
合同会社の場合はもっと簡単!
合同会社を設立する場合は、株式会社とは異なる点があります。
合同会社なら口座への払込が不要
合同会社の場合は、合同会社から合同会社の社員(=出資者)への「領収書」をもって資本金払込の証明とすることができます。
なぜなら、会社法で金融機関への払込を条件としているのは、株式会社だけだからです。
合同会社の「出資金領収書」の例
合同会社を設立する場合、払込証明書の代わりとなる領収書は次のように作成します。
ただしもちろん、合同会社であっても払込証明書を作成することに何の問題もありません。より正確な記録を残すことができます。
領収書でなく払込証明書を作成するなら、株式会社と同様に通帳のコピーなども一緒に綴り合わせて提出することが必要です。
合同会社の設立には、設立費用が安く済むなどもメリットもありますが、信頼性の面で劣るなどデメリットもあります。こちらの記事を参考にしてください。
資本金の払込は正しく行うことが重要
会社を設立するには、資本金を用意し、口座に払い込む必要があります。
また、払込したことを証明する書類を作成し、登記申請時に提出する必要もあります。
資本金払込と払込証明書作成で注意すべきなのは、「払込されたお金が今回の会社設立のための出資である」ことが第三者から見て明らかでなくてはならない、ということです。そのためにルールが存在します。
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