俗に「会社を作ると節税になる」と耳にすることがあります。
そのため個人事業が軌道に乗ると法人成りを考える人も多いのですが、実際のところなぜ会社を作ることが節税になるのか、その理由を説明できる方は少ないのではないでしょうか。
会社を設立すると、個人事業では認められなかった自分への給与支払いや退職金その他の経費が計上できます。
そのほか、法人税率の適用による税負担の軽減などにより、節税が可能になるのです。
しかし、誰がいつ法人成りしても節税になるわけではない点に注意が必要です。タイミングやインボイス制度との関係なども考慮しなければいけません。
本記事では、会社設立により可能になる税金対策と知っておきたい注意点を解説します。
目次
会社設立でできる税金対策
会社を設立するとどのような節税メリットがあるのか、具体的例を挙げながら解説します。
1 役員報酬による税金対策
会社を設立すると自身や家族の給与として、個人事業主には存在しない「役員報酬」を支払うことができます。
この役員報酬は経費として扱えるので、課税所得を減らせ大きな節税になります。
役員報酬は株主総会や定款などで自由に設定できます。
一人会社であれば自身の裁量である程度まで高額に設定することも可能です。
さらに、役員報酬を受け取った側には給与所得控除が適用されるので、所得税を減らすことも可能です。
2 退職金による税金対策
会社を設立すれば退職金を払い、それを経費とすることができます。
個人事業主には役員報酬(給与)と同じく退職金という概念もないので、法人ならではの節税メリットといえます。
また退職金を受け取る側にもメリットがあります。
退職金を一時金として受け取れば「退職所得」として優遇措置があり、他の所得とは切り離して税額を計算することができます(分離課税)。
さらに退職所得控除もあり、課税対象となるのは控除した後の金額の2分の1です。
ただし、勤続年数5年以下の役員が勤続年数に応じた退職金を受け取る場合、2分の1とする措置は受けられません。また、年金形式で受け取る退職金は退職所得とは見なされず計算方法も異なります。
3 法人保険の加入による税金対策
法人保険とは、社会保険でなく法人として加入・契約する生命保険や損害保険などを指します。
会社を契約者、役員や従業員を被保険者とし、会社が保険料を負担して病気やケガ、事故といったリスクに備えるものです。
会社が負担した保険料は、保険の種類にもよりますが一部または全額を経費とすることができます。2019年の税制改正により法人保険による節税効果は以前ほどではなくなったものの、検討すべき対策です。
4 欠損金の繰越控除による税金対策
確定申告を青色申告で行っていれば、赤字を繰越欠損金として計上し、過去の黒字と相殺することができます。
個人事業主にも同様の制度はありますが、繰り越しできる期間が個人の場合3年間のところ、法人の場合は最大10年間。法人化すればより長い期間の節税が可能です。
5 消費税の免税期間による税金対策
会社設立をすると、1期目と2期目、つまり最長2年間は原則として消費税の納付が免除されます。
消費税は、基準期間(2期前)の課税売上高が1,000万円を超えた場合に納税義務が発生します。
しかし、会社設立して2期目までは「2期前の売上」が存在しないため免税となるのです。
ただし、資本金が1000万円以上だったり設立から6カ月間の売上が1000万円を超えたりした場合には、課税対象となるため注意が必要です。
消費税の免税で知っておくべきポイント
前章で解説した消費税の納付免除については、知っておくべきポイントが2つあります。
- 法人成りからのタイミングで最長4年間の免税が可能
- インボイス制度により免税事業者は取引減のおそれあり
それぞれ見ていきましょう。
個人事業主からの法人成りで最高4年間免税
個人事業主から法人化する場合、タイミングを合わせれば節税の期間が最長4年間に延ばせます。
個人事業主として事業を始め、課税対象となるのは2年後です。
課税対象となる直前に法人成りをすることで、個人事業主として課税されることなく法人になり、個人の免税2年間に続いて会社設立時の免税2年間、計4年間が免税となります。
インボイス制度で免税事業者にデメリットも
2023年10月から始まったインボイス制度により、免税事業者であることがデメリットとなり得る事態となりました。
インボイス制度の下では、取引先が仕入税額控除(消費税分の仕入額からの差し引き)をするには、課税事業者が発行する適格請求書が必要となりました。
つまり、自分が免税事業者だと取引先は仕入先控除を受けられず、相手に負担を強いることになります。
そのため、取引先が免税事業者との取引を避けるなどし、取引や収入が減ってしまう可能性があります。
実際に、インボイス制度の開始に伴い、取引先との兼ね合いで売上高1000万円以下でも課税事業者となった事業主は少なくありません。
会社設立に伴って生じるデメリット
会社設立は節税メリットが大きいのは確かなのですが、デメリットも存在するので把握しておく必要があります。
1 設立に手間や費用がかかる
株式会社を設立するためには、定款の作成や認証、法人設立の商業登記などを行う必要があります。
このような書類の作成や手続きには時間と手間がかかる上に、定款には4万円の印紙税や認証手数料(株式会社のみ3~5万円)、登記には登録免許税(株式会社は15万円以上、合同会社は6万円以上)といった費用がかかります。
さらに資本金も必要となります。
会社法では資本金は1円からでも設定できますが、さすがに事業経営するのに1円は現実的ではないため、目安として100万円程度は確保しておきたいものです。
2 赤字でも一部税金の納付義務がある
会社の売上が赤字なら、法人税や地方法人税などは免除されます。しかし、法人住民税の均等割部分は赤字でも納付しなくてはなりません。
というのも、法人税の均等割は、売上にかかわらず法人なら等しく払わねばならない税金だからです。
金額の目安は、資本金1000万円以下であれば7万円ほど。赤字でも納め続けねばならないのは大きな負担です。
3 社会保険の加入が義務
会社を設立すると、社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入が義務付けられます。
個人事業主も国民健康保険や国民年金に加入して保険料を負担しています。
しかし、保険料は健康保険や厚生年金の方が概して高く、会社と従業員による折半のため、従業員が増えるほど会社の負担が大きくなります。
従業員を1人でも雇えば、労働保険(労災保険、条件を満たせば雇用保険も)の加入義務も生じます。
労災保険は全額が会社負担、雇用保険も一部は会社負担です。
4 法人契約だと契約料金が高くつく可能性がある
事業に必要な各種サービスの契約では、個人で契約するより法人で契約した方が契約料金や手数料が高くなることがあります。
例えば、銀行のインターネットバンキングの利用料金や、インターネット通信のプロバイダとの契約料金、賃貸の敷金などは法人契約だと高めの料金が設定されています。
契約する前に、料金プランや条件をよく確認しておきましょう。
5 廃業する際の手間や費用が大きい
会社は、設立する時と同様に、廃業する際にも手間や費用が生じます。
廃業するには、会社の清算という手続きを行う必要があります。書類作成・提出の手間はもちろん、解散登記(3万円)、清算人の選任登記(9,000円)、清算結了登記(2,000円)、官報公告(3万~4万円)といった費用がかかります。
また、手続きは簡単ではなく、専門家の手を借りるとなれば報酬の支払いも必要です。
設立前から廃業のことを考える人はなかなかいないと思いますが、廃業届を出すだけの個人事業主と比べて手間も費用もかかります。まずは法人成りすべきか、事業の継続という点から考えてみる必要があるでしょう。
税金対策にはこんな方法もある
ここまで会社設立による税金対策について解説してきましたが、これまでの内容を踏まえて、会社設立時からできる税金対策を紹介します。
会社設立の節税メリットを十分に享受するには、次のような手段も有効です。
- 自宅を社宅にする
- マイカーの名義を会社にする
- 開業費用を経費計上する
- 確定申告を青色申告にする
- 家族を役員にして報酬を払う
- 役員報酬を抑え社会保険料を減らす
- 携帯電話を法人契約にする
自宅家賃を会社の経費にする
自宅が賃貸住宅なら、賃貸借契約を会社に切り替えて役員社宅にすることで、家賃の一部を会社の経費にできます。
この場合、会社が大家に払う家賃と自分(役員)が会社に払う家賃との差額が経費となります。
ただし、経費を増やすため全額もしくはほとんどを会社負担にすると、給与の現物支給と見なされ課税される可能性が高いので要注意です。
マイカー名義を会社にする
保有するマイカーを個人名義から会社名義へと変更することで、購入費用やガソリン代、駐車場や車検費用、保険料などが会社の経費にできるようになります。
もっとも、車両購入費は高額なため一括で経費にはできず、減価償却費として数年にかけて計上する必要があります。
開業のためにかかった費用を設立費用に計上
経費として計上できるのは、基本的には会社設立後の事業運営にかかった諸費用です。
ただ、開業前にかかった費用も設立費用として遡って計上することができます。
設立費用には、法人登記にかかる登録免許税や手続きに代理人に支払う費用、開業前の市場調査費用、名刺作成費用などが挙げられます。領収書などをしっかり保管しておきましょう。
税務申告を青色申告にする
所得税などの税務申告を青色申告で行うことで、複数の節税メリットが受けられます。
前述のように赤字の繰り越しが10年まで可能になるのも、青色申告をした場合の法人のメリットです。
繰り越しだけでなく繰り戻しで前期の黒字と相殺することや、30万円未満の減価償却資産を一括計上することもできます。
家族を役員にする
会社を設立すれば、事業に携わる家族を役員とし、役員報酬を支払うことができます。
所得が家族で分散でき、1人あたりの所得税額が減らせます。
贈与税や相続税も累進課税のため、分散させることで将来に備えた節税対策が可能になります。
役員報酬を抑えて社会保険料の負担を減らす
前の章でも触れましたが、役員報酬が高くなると毎月支払う社会保険料も高くなります。そこで役員報酬を低く抑え、社会保険料の負担を減らすのも節税の1つの方法です。
反面、役員報酬を抑えすぎると「法人税の負担軽減」というもう1つの節税の効果が薄れます。
会社の負担と個人の負担、双方を総合的に見て金額を決めることが必要です。
携帯電話を法人契約にする
携帯電話やインターネットの通信契約など、個人契約していたものを法人契約に切り替えれば、通信費などを経費として計上することができます。
一方で、このように会社の経費として課税所得を減らすことによる節税は、当然ながら事業に関する部分のみしか経費にならないという点に注意が必要です。
出張旅費規程を作成する
事業で定期的あるいは頻繁に出張が必要となる場合には、出張旅費規程を作成して運用します。
そうすれば、日当などの旅費手当を経費にできます。
ただし、あまりに高額な旅費手当を設定している場合には経費として認められなくなるため、規程には適正な額を設定することも重要です。
小規模企業共済の加入を検討する
小規模企業共済への加入も、有効な税金対策の1つです。
小規模企業共済とは、個人事業主 や小規模企業の経営者・役員のための退職金制度とも呼ばれるもので、中小機構が運営しています。
その掛金は全額、所得控除が可能です。
掛金は年間で最大84万円(月額1,000円~7万円)まで設定することができます。もちろん節税になるだけでなく、退職・廃業時の大きな備えです。
倒産防止共済の加入を検討する
中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先の倒産などで売掛金債権などが回収できなくなった場合に、担保や保証人なしで借入が受けられる制度です。
これも中小機構により運営されています。
毎月の掛金(月額5,000円~20万円)を全額経費にすることができます。
会社設立が税金対策につながるかは利益がポイント
会社設立が節税に効果的だと言われるのには、もう1つ大きな要因があります。それが法人税と所得税の税率の違いによるメリットです。
個人事業主の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率は5%~45%と高くなります。
しかし法人税は、800万円までは15%、800万円を超えた部分の税率は一律で約23%。つまり、所得が高くなると、途中で所得税率が法人税率を抜き、税負担も大きくなります。
そのため、所得が少ないうちは個人事業主で事業を続け、所得税率が法人税率を超える直前でのタイミングで法人成りすること。
これが節税メリットを享受するための大きなポイントです。
税金対策やインボイス制度については税理士に相談
会社設立をするとさまざまな税金対策が可能になりますが、注意すべき点もあります。
例えば役員報酬を設定して節税しようとしても、あまりに高額では経費と見なされない場合がありますし、逆に社会保険料の負担が大きくなってしまう可能性もあります。
このように節税対策はあらゆる角度でものを見る必要があるため、専門的な知識が必要です。
また、インボイス登録をすべきかどうか、法人成りとのタイミングやメリット・デメリットなどについても状況により異なるため迷うところです。
そこで頼りになるのが、税金の専門家である税理士です。税理士に相談すれば、個々の事情に合った適切なアドバイスを受けることができます。
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節税による税金対策には専門的な知見が必要です。
知識が不十分だと、節税のつもりが別のところで負担増となり、メリットが半減もしくはデメリットとなる可能性も否めません。
そのため、効果的な節税には税理士に相談することが一番の対策と言えるかもしれません。
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