資金繰りの問題は、飲食店を経営する人の多くが抱える悩みです。
単に売り上げが立たないといった状況だけでなく、高い利益が出ているのにもかかわらず資金繰りが悪くなり、最悪の場合、黒字倒産してしまうこともあります。
このような事態に陥らないためには、日々の入出金をきちんと管理するなど、あらゆる点で資金繰りを調整していく必要があります。
この記事では、飲食店の資金繰りが悪化する5つの原因について解説し、経営を悪化させない資金繰り対策や資金調達方法について紹介していきます。
目次
飲食店の資金繰りが悪化する5つの原因
飲食業はそもそも売り上げが伸びても利益があまり出ない、いわゆる薄利多売のビジネス形態です。
そのうえ、飲食店経営には資金繰りが悪化するいくつかの共通原因もあります。
まずは資金繰りを悪化させる主な原因5つについて見ていきましょう。
原因 1 . 開店時に初期投資をしすぎた
お店作りに対する思いが強い方に多いのが、自分のこだわりや理想を優先して開店までに多額の初期投資をしてしまうことです。
飲食店の経営では、固定費や仕入れ費が利益を圧迫する傾向にあります。
開店直後から順調に売り上げを確保できるケースは少なく、半年程度は手持ちの資金を崩すなどしていく必要があるでしょう。
多額の初期投資によって運転資金が減少すれば、開店直後から資金繰りが圧迫されてしまいます。
原因 2 . 売り上げが減少した
開店すれば継続して客が来てくれるとは限らないのが、店舗経営の難しいところです。
社会情勢や消費のトレンドなどによっても売り上げは大きく左右されるので、一度人気が出ても長期的に継続した利益が確保できるとは限りません。
例えば、開店直後は繁盛して大きな利益を確保できていたとしても、客足が落ちるなどして売り上げが下がれば当然、資金繰りは悪化してしまいます。
原因 3. 入金と出金のタイミングのずれ
飲食店では、代金をキャッシュレス決済やクレジットカード払いで受け付けることにより入金のタイミングが遅れることがあります。
しかし、家賃や光熱費といった固定費や仕入れの代金などは遅滞なく支払わねばなりません。
これによって入金と出金のタイミングにずれが生じ、資金ショートを起こしてしまうことも多いのです。
毎月の利益はきちんと出ているのに、手元の資金が足りないがために黒字倒産してしまう。
飲食店経営ではそういった事例も少なくありません。
原因 4 . お金の流れが把握できていない
特に少人数でお店を回している場合、日々の仕事に追われてつい帳簿の管理が疎かになってしまう…というケースも多いです。
しかし帳簿の管理がきちんとできていないと、お金の流れを把握できません。
売上と支出をおおまかに把握しているだけでは、先の予定が見通せず、資金ショートや黒字倒産のリスクを回避できなくなってしまいます。
売上が現金として入ってくるタイミングや固定費・変動費など支出のタイミングをきちんと把握していなければ、突然多額の出費が必要となって困ることになってしまいます。
勘やどんぶり勘定で順調な経営ができる人は、いたとしてもほんの一握りの稀有な存在でしょう。
原因 5. 固定費やFLコストの比率が高い
固定費が高ければ、毎月その分のお金が経営を圧迫することになります。
また、飲食店の経営で重要とされる指標の1つが、FLコストの比率です。
FLコストとは「Food(食材費)」と「Labor(人件費)」を合わせたコストのことで、「FL比率」とは売上のうちFLコストが占める割合のことです。
次の計算式によって算出します。
- FL比率=FLコスト(食材費+人件費)÷ 売上高
FL比率は、そのお店が「どれくらい効率的に利益を上げられるか」を測る指標です。
つまりFL比率が高ければ、どんなに売上が伸びても利益UPにはつながりにくいということになります。
具体的な目安としては、FL比率60%未満というのが理想的な状態で、65%を超えると危険な状態と考えられます。
経営を悪化させない資金繰りの対策
資金繰りの悪化は経営危機に直結するので、事前にしっかり対策しておかなければなりません。
ここでは、資金繰りをよくするには何をすべきかについて見ていきましょう。
資金繰りをよくする方法として、大きく次の5つのポイントが挙げられます。
- 資金繰り表を作成する
- 損益分岐点を把握する
- 入金と出金のタイミングを調整する
- 仕入れロスの削減
- 集客方法の見直し
それぞれ説明します。
対策 1. 資金繰り表を作成し、損益を管理する
資金のショートや黒字倒産のリスクを避けるためには、資金繰り表を作成して損益を管理する必要があります。
資金繰り表は、資金の流れを表でわかりやすく管理し、手元資金を確認するためのものです。
月ごとのお金の動きを把握すれば、資金繰りの予測が立てやすくなります。
月ごとの動きを見る「月次資金繰り表」を作るのが一般的ですが、資金繰りが悪化した場合などには日単位での資金繰り表を作成し、細かく管理していく必要があります。
資金繰り表によって収支が明確になれば、問題点も見つけやすくなります。
資金繰りの悪化が予想される状況なら、売掛金の早期回収、買掛金の支払い延期などができないかなど、対策を検討しましょう。
収支がマイナスになり、直近に売掛金の回収予定もないなどの場合には、融資など資金調達の方法を考えなくてはなりません。
対策 2. 損益分岐点を把握し、赤字を回避する
損益分岐点とは、利益を出すために最低限必要な売上金額のことです。
売上高と変動費(売上に伴い変動する経費)・固定費(売上に関わらず必要な経費)から、次の計算式によって算出します。
- 損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
現在の売り上げが損益分岐点を超えていれば赤字は回避できます。
もし損益分岐点を超える売上が出ていない場合、売上を伸ばす以外の改善方法として、変動費や固定費の削減により損益分岐点を下げる必要があります。
固定費を削減するには、例えば電気代やインターネット回線、設備の定期メンテナンスなどの契約プランを見直したり、各種システムや機械の導入で人件費を削減したりすることなどが考えられます。
変動費の削減方法には、安い仕入れ業者を選ぶ、まとめ買いなどにより割引をしてもらう、いわゆるスケールメリットを利用するといった方法があります。
もちろん、コスト削減のために客や従業員の満足度が下がったり、在庫を大量に抱えてしまったりするようでは逆効果なので、現状にあった対策は何かを熟考しなくてはなりません。
対策 3. 入金は早め、支払いは遅めに設定
入金と出金のタイミングのずれが黒字倒産などの事態を生むというのは前述の通りです。
入金が遅く出金が早いことが資金繰り悪化の原因となるため、逆に「入金は早め・支払は遅め」になれば資金ショートのリスクを減らすことができます。
入金を早めるには、代金の支払いを現金払いのみにするのが一番ですが、クレジットカードなどキャッシュレス決済による利用客の利便性や集客効果は無視できません。
最近では翌日入金や週ごとの入金ができる決済サービスも出てきているので、このような決済事業者と契約するのも良いでしょう。
また支払いを遅めに設定するには、仕入れ業者との取引にカード利用や月払いが可能にならないかを打診したり、スタッフの給料支払日を月末に調整したりする方法が考えられます。
対策 4. 食材などの仕入れロスの削減
必要以上に在庫を抱えないようにする、食材のロスが出ないメニュー作りをする、といったことも有効な対策です。
仕入れのロスを削減するためには、日々使う食材などの量と在庫の管理を徹底することが必要です。
在庫過多はよくないとしても、頻繁に欠品するようでも利益を得るチャンスを失います。
在庫の適正量は店舗によって異なるので、経験を重ねて自店に最適な仕入れ量を調整し、ノウハウを蓄積していくしかないかもしれません。
対策 5. 集客方法を見直す
集客は飲食店にとって欠かせない施策ですが、広告宣伝費に費用をかけ過ぎると資金繰りの悪化につながります。
集客のために広告を出すのであれば費用対効果をきちんと検証し、効果が高い集客方法に絞っていかなければなりません。
例えば、チラシ配布や雑誌広告などは比較的コストが高いものです。
インターネット広告やホームページ制作なども、ターゲットに届いていなければ費用だけがかかってしまうことになります。
何によって集客ができているのか、現状を把握するためには、来店客に来店のきっかけを聞いてみるのも良いでしょう。
インターネットの利用が当たり前となった現在、低コストでの集客方法として欠かせないのはSNSの活用です。
TwitterやInstagram、Facebookなどいくつかのツールがあるので、それぞれの特性に合った使い方をしましょう。
例えばリアルタイムでの情報発信にはTwitter、見栄えの良い新メニューや人気メニューの紹介はInstagram、といった具合です。
資金繰りが悪化したときに使える助成金・補助金
資金繰りが悪化したときには、何らかの形で資金調達をしなければならないこともあります。
そんなときにまず活用したいのが、公的機関が取り扱う助成金や補助金です。
ここでは資金繰りの助けとなり得る助成金・補助金を3つ紹介します。
雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金)
雇用調整助成金は、経済的な事情で事業活動の縮小をせざるを得なかった事業者を対象にした助成金です。
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、特例措置などが設けられています(令和4年9月現在)。
雇用調整助成金を使うことで、従業員に支払った休業手当など一部の助成が受けられます。
新型コロナウイルス感染症の特例措置では、支給した休業手当等の金額に対し中小企業で5分の4、大企業で3分の2が助成されます。
解雇等を行わず雇用を守った企業にはより高い助成率が適用されるほか、売上高の減少が著しい企業や緊急事態宣言等の発令地域には助成率を引き上げるなどの特例があります。
この特例措置の対象期間は令和4年9月現在、令和4年11月までとされています。
IT導入補助金
A類型 | B類型 | C類型 | D類型 | |
補助率 | 1/2以内 | 1/2以内 | 2/3以内 | 2/3以内 |
上限額・下限額 | 30万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 | 30万円~450万円以下 | 30万円~150万円以下 |
(出典:一般社団法人 サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2021」)
IT導入補助金は、自社の経営課題やニーズに合ったITツールを導入する中小企業を支援する補助金です。
業務効率化や売上アップといった経営力の向上を目的としています。
補助の対象となる費用は、ソフトウェア費やITシステム等の導入関連費、ハードウェアのレンタル費など。
導入するITツールの種類やかかった費用、非対面化ツールの導入の有無などによってA~D類型に分かれており、それぞれ補助率と補助の上限・下限額が異なります。
小規模事業者持続化補助金(一般型)
小規模事業者持続化補助金(一般型)は、小規模事業者が行う販路開拓や生産性向上の取り組みにかかった経費の一部を支援する制度です。
地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ることを目的としています。
一般型の補助額上限は50万円であり、補助率はかかった費用の3分の2となります。
補助対象となる費用には店舗の改装費や新商品の開発費、販促チラシの作成費などさまざまなものが含まれます。
これから開業するなら創業融資制度を利用しよう
飲食店の開業には多額の費用がかかるので、多くの人が開業時に融資を受けることになるでしょう。
開業後の資金繰りの悪化を防ぐには、ここで十分な融資を受けておくのも1つの方法です。
飲食店に限らず創業時によく利用されている、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」について見ておきましょう。
日本政策金融公庫の新創業融資制度とは
新創業融資制度とは、新たに事業を始める人や事業を開始して間もない人を対象に、設備資金や運転資金を無担保・無保証で融資してくれる制度です。
創業時ということで、実績でなく起業にかける熱意や計画の内容、実現可能性などが判断基準となること、民間の大手金融機関などに比べて審査のハードルが低いことがこの制度の大きな特徴です。
新たに事業を始める人、または税務申告を2期終えていない人でなければ申込ができません。
そのため創業時や起業当初でまだ実績がなく、民間金融機関の融資を受けにくい人こそが利用すべき制度と言えます。
自己資金はできるだけ多めに用意する
新創業融資制度は融資のハードルが低いといっても、ある程度の自己資金は必要です。
要件としては「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」が必須ですが、起業前に同じ業種で業務経験があるなどの場合にはこの要件が緩和されることもあります。
ただ、これに関わらず自己資金が多いほど事業に対する熱意があることが伝わりますし、計画性があることも認められるでしょう。
そのためできる限り多くの自己資金を用意しておくべきです。
また自己資金が多いほど借入が少なく済むので、月々の返済も楽になり、創業後にしばらく赤字が続いても対処できるでしょう。
自己資金の額は最低でも融資希望金額の3割程度、できれば5割程度あるとより安心できます。
創業融資は開業前がベストタイミング
創業融資制度の制度上は「起業前」と「起業後2年以内の事業者」が融資の対象ですが、より融資が受けやすいのは起業前と言えます。
起業してからの数年はまだ経営が安定しておらず赤字が続くことも多く、資金繰りが悪化している状態からの融資だと審査通過が非常に困難になるからです。
なお創業前で実績がない場合に、融資担当者が融資の可否を判断する材料となるのが事業計画書です。
前述のように事業に対する熱意や計画性、将来性や計画の実現可能性などをこの計画書でチェックされます。
そのため、融資を受けるには融資担当者を説得できるだけの確かな事業計画書を作成する必要があります。
まとめ
資金繰り悪化の原因は、高額な初期投資・売上の減少という基本的なことから、入出金のずれ・高いFLコスト比率といった見落としがちなことまで様々です。
まずはどのような原因で資金繰りの悪化が生じるのかをきちんと理解しましょう。
資金繰りの悪化を防ぐには、資金繰り表の作成や入出金タイミングの調整、そして仕入れロスの削減などさまざまな対策があります。
しかし資金繰りが悪化してからの対処では遅過ぎます。日々の経営管理を適切に行うのが最善の方法です。
資金繰りに困る前、開業時に公庫の融資制度を利用して資金に余裕を持たせることもおすすめです。
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