自社計算の罠!年末調整、自社負担で年は越せない!

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給与計算と年末調整の基本的な仕組み

年末調整は、日常的に行っている従業員の給与計算事務の「1年間の総まとめ」としての意味がある手続きです。
ごく大まかに説明すると、年末調整とは以下のような仕組みです。

まず、雇用主である会社は、雇用している従業員のお給料から所得税のだいたいの金額を計算し、その所得税を税務署に毎月納めなくてはなりません。
従業員の所得税の金額はその人の年収に基づいて計算を行いますが、毎月のお給料を支払う時点では当然ながら年収は確定していませんから、やむをえず「だいたいの金額」を納めるというわけです。
(なお、この「だいたいの金額」は法律で具体的な金額が決まっています)

もちろん、これをそのままにしておくことはできませんから、その従業員の年収額が確定した時点(つまり1月~12月分のお給料支給が完了した時点)で正確な所得税の金額を計算し、差額を調整することになります。

このように、毎月税務署に納めている「だいたいの所得税の金額」と、年末時点で初めて確定する「正確な所得税の金額」を調整する手続きが年末調整です。
(「年末」時点で正確な金額に「調整」するから「年末調整」といわれます)

年末調整の計算例

以下では、具体的な事例を用いて、毎月の給与計算と年末調整の計算をしてみましょう。
例えば、次のような従業員を雇用していたとします。

・勤続5年目の30歳男性
・専業主婦の奥さんがいる
・毎月の給与支給額は30万円
・給与から天引きされる社会保険料の合計額は4万3200円
・年末時点で確定した正確な所得税額は6万円

上でも見たように、「毎月のお給料から概算額を天引きして納付する」「12か月分の概算納付が完了したら、年末調整によって正確な金額に調整しなおす」という2つの流れを知っておくと理解しやすくなります。

毎月のお給料から天引きする源泉所得税の金額を計算する

まず、この人の毎月のお給料から天引きする源泉所得税の金額を計算します。
お給料から天引きする源泉所得税の金額は、税務署から毎年送られてくる「源泉徴収税額表」によって決まります。
(税額表は毎年微妙に内容が変わりますので、必ず最新のものを参照しましょう。国税庁のホームページでも最新の税額表を確認できます)

源泉徴収税額表から源泉所得税の金額を知るためには、「社会保険料控除後のお給料の金額」と「扶養親族等の人数」を知る必要があります。
上の例では、以下のようになります。

・社会保険料控除後の金額=30万円-4万3200円=25万6800円
・扶養親族等の人数=奥さんのみなので1名

この2つの情報を源泉徴収税額表に当てはめると、この人の源泉徴収税額は5140円となります。
5,140円の源泉徴収を12か月間にわたって行いますので、年末時点でのこの人の源泉徴収合計額は5140円×12か月=6万1680円となります。

年末調整によって源泉徴収した合計額と正確な年税額の差額を調整する

従業員の正確な年間の所得税額は、当然ながら年末時点にならないと確定しません(所得税は年収に基づいて計算を行うからです)
そのため、12か月間にわたって行った毎月の源泉徴収額は、あくまでも概算額(つまりだいたいの金額)ということになります。
だいたいの金額をそのままにしておくことはできませんから、年末時点で正確な金額に計算をし直す必要がありますが、そのための計算手続きが年末調整というわけです。

上のケースでは、毎月5140円を12か月間にわたって源泉徴収していますので、合計で6万1680円を源泉徴収していることになります。
年末時点で確定した正確な所得税額は6万円ですから、源泉徴収税額の合計6万1680円と、この金額との差額である1680円(6万1680円-6万円=1680円)をこの人に変換する必要があります。

具体的には、徴収しすぎの場合はお金を返し、徴収額が足りない場合には追加で徴収を行うこととなります(通常は源泉徴収額の方が大きくなりますので、年末や年始のお給料に加算して従業員に返します)

年末調整をしないとけない従業員と必要ない従業員

企業が雇用する従業員には、さまざまな種類の人たちがいます(正社員やアルバイト・パートの社員、時短勤務の人や期間限定で雇用している人、試用期間中の人など)
こうした従業員に対して支払うお給料については、上で見てきたように毎月のお給料から源泉所得税を概算で天引きし、年に1度の年末調整によって正確な税額に調整を行う必要があるのが原則です。

一方で、以下のような従業員については、雇用主が年末調整を行わなくても良いこととなっています。

・年間の給与支払額が2000万円を超えている人
・別の勤務先からもお給料を受け取っている人で、メインの収入が別の勤務先である人
・年の途中で退職した人(ただし、退職にともなって源泉徴収票を渡します)
・日雇い労働者の人

ごく大まかに言うと、雇用主が年末調整を行うのは「自社をメインの勤務先として勤めている人で、年間を通じてずっと雇用関係にある人」です。
自社からのお給料は副業としての位置づけで、別の会社から受け取るお給料をメインの収入として生活している人は、年末調整を行う必要がありません。

なお、どの収入がメインであるかの判断は「扶養控除等(異動)証明書」という書類を、どの勤務先に対して提出しているかによって決めます。
「扶養控除等(異動)証明書」は、いわば「私は御社をメインの勤務先として指定しますので、年末調整の手続きをお願いします」と従業員側から指定する書類といえますから、毎年必ず提出してもらうようにしましょう。

(「扶養控除等(異動)証明書」は雇用主が年末調整の事務を開始する直前のタイミングまでにもらうようにします)

年末調整事務の手続き

以下では、一般的な年末調整事務の手続きの流れについて解説します。
年末調整事務は、従業員を雇用する限り必ず発生する事務ですので、手続きの全体の流れをイメージできるようにしておきましょう。

各種必要書類の確認

雇用主である企業が従業員の年末調整を行うためには、従業員から以下のような書類を提出してもらう必要があります。

扶養控除等(異動)申告書従業員の扶養親族の数を知るための書類
配偶者特別控除申告書従業員の配偶者の年間所得を知るための書類
保険料控除申告書従業員が加入している生命保険や地震保険の内容を知るための書類
住宅借入金特別控除申告書従業員が住宅ローンを組んでいる場合にその内容を知るための書類

源泉所得税と実際の税額の差額を計算する

従業員に対して年末調整の手続きの結果を報告するために、毎月源泉徴収した所得税の合計額と、正確な所得税の金額との差額を記した「源泉徴収票」を従業員に交付します。
源泉徴収票にはその人の所得の金額や納めている税金の金額が記されていますから、重要な書類です。

従業員が生活のさまざまなシーンで利用する可能性がありますので、できるだけ早いタイミングで渡してあげるのが良いでしょう。

法定調書合計表の作成

年末調整の計算が完了し、源泉徴収票の発行まで完了したら、毎月の源泉徴収額~年末調整による調整の手続きの過程を記した「法定調書合計表」を作成し、税務署に提出します。
なお、法定調書合計表には、次で見る「報酬の支払額」に関する情報も含める必要があります。

報酬の支払調書の作成

企業が所得税を源泉徴収するのは、第一には上で見てきたように従業員のお給料ですが、外部の個人事業主に対して仕事を依頼した場合も含まれます。
具体的には、税理士や弁護士といった専門家や、ライターやデザイナーといった人に対して報酬を支払った場合には、その報酬額から源泉所得税の金額を計算して税務署に納付しなくてはなりません。

こうした人たちへも源泉徴収事務の報告書として、「支払調書」を発行して交付するのが親切です(必ずしも義務ではありません)
これらの外部の個人事業主の人たちは、自分の所得税を計算するために確定申告の手続きを行いますが、その際には報酬を支払った企業が発行する支払調書を使うというわけです。

給与支払報告書の作成

法定調書合計表の作成まで完了したら、市町村に対しても従業員の税額を報告する書類(給与支払報告書といいます)を作成します。
市町村が課税する住民税の金額は、所得税(税務署に報告する国税です)の金額に応じて市役所が計算を行いますので、そのための計算資料を送付する仕組みになっているのです。
給与支払報告書の作成と送付が完了したら、年末調整の手続きは一通り完了したことになります。

毎年の年末調整事務をわずらわしく感じている経営者の方へ

ここまで読まれた方の中には、「年末調整って複雑」「自力ではとても処理しきれそうにない…」と感じてしまった方もいらっしゃるかもしれません。
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まとめ

今回は、年末調整業務の法律上の意味や、実際に年末調整の事務を行う際の手続きの流れについて解説いたしました。
本文でも見たように、年末調整は従業員の税金の金額を確定する大切な手続きです。

もし計算間違いが生じてしまうと、生活のさまざまな場面で影響が出てしまいますから、結果として会社への信頼感を大きく下げてしまうことにもなりかねません。
雇用主である企業の立場としては、「やり直しは基本的にできない」ものとして慎重に計算を行なうようにしましょう。

年末調整手続きを自社内で処理するのが難しい…と感じる方は、経理代行のサービスを活用することも検討してみてください。

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