目次
アルバイト・パートの有給計算が問題となるケース
「有給休暇は正社員にだけ認めれば良い」
「繁忙期に有給休暇を取るなんて、非常識な社員だ」
「アルバイトやパートにいちいち有給休暇を認めていたら、とてもお店はまわらない…」
経営者の立場としては、雇用している従業員にはお給料の範囲内でしっかりと仕事をしてほしいというのが正直な気持ちですよね。
しかし、有給休暇に関しては法律で厳密にルールが決まっていますから、もしルールに反した社内ルールを構築してしまうと、将来的にトラブルの原因となってしまう可能性があります。
具体的には、従業員の退職時にまとめて有給休暇分の未払い賃金を請求されたり、仕事の繁忙期にいきなり有給休暇を取られて仕事が回らなくなる…といったリスクに備える必要があるでしょう。
以下では、特にアルバイトやパートとして雇用している人への有給休暇付与のルールについて解説いたします。
これから従業員を雇用する経営者の方や、人事に関する事務を担当しているスタッフの方はぜひ参考にしてみてください。
法律上、アルバイトやパートとして働いている人でも、一定の条件を満たした場合には有給休暇を取得することができるのが法律の大原則です。
(そもそも、正社員とアルバイト・パートは、法律上は区別がされていません)
もし、有給休暇に関する法律のルールと異なる社内ルールを作って、長期間に渡り運用していた場合、さまざまなケースで従業員との法律トラブルが生じてしまう可能性があります。
以下では、アルバイト・パートの有給休暇取得が問題となる具体的なケースと、その対応方法を紹介しましょう。
退職時にまとめて有給休暇を請求されたら
従業員の退職については「1か月前までに申し出ること」といったようにルールを定めているケースが多いでしょう。
上でも見たように、アルバイトやパートの人であってもこのルールは変わりませんから、退職予定日が決まった後に従業員から有給取得の申請がされたら、それを認めないといけないというのが原則です。
しかし、例えば1か月後の退職を申し出てきた従業員の有給休暇が30日間残っていたとしたら、実質的には退職を申し出た日以降は出勤日がなく、退職する従業員による業務の引継ぎ等が行ってもらえない…ということも考えられます。
こうした状況で、雇用主側が従業員の有給取得を拒否したり、取得時期を変更したりすることは可能でしょうか。
結論から言うと、こうしたケースであっても雇用主は従業員の有給休暇取得を拒めないというのが大原則です。
近年の裁判例では、退職前の有給取得が正常な業務運営を妨害すると認められる場合に、雇用主による有給取得の時季変更を認めたケースもありますが、これは退職する従業員による業務の引継ぎが事業の運営上不可欠であるような場合に限られるのが実際のところです。
雇用主側の対応としては、有給取得を拒否したり、取得日を指定したりすることは原則としてできないことを認めたうえで、退職する従業員との交渉で残有給日数の買取りや、退職する日の延期といった次善の策を講じる必要があるでしょう。
繁忙期にいきなり有給休暇を請求されたら
衣料品小売業や飲食店といった職場では、業務の繁忙期に従業員から有給取得をされてしまうと、実質的に職場の運営が不可能になってしまうというケースもあるでしょう。
このような場合には、有給休暇の取得はやむを得ないとして、その取得時期を繁忙期とずらすことをできないかを検討するのが賢明といえるでしょう。
有給休暇をいつ取得するか?を指定する労働者側の権利を「時季指定権」と呼び、従業員側はこの時季指定権を自分の判断で行使できるというのが大原則です。
一方で、雇用主側にも、業務に支障がある場合に従業員が指定する有給取得の日時を変更する権限を「時季変更権」という権利が認められています。
時季変更権を使えば業務の繁忙期などを避けて有給取得をさせることが可能になるケースもありますが、現実に時季変更権が認められるのは非常に限られたケースというのが実際のところです。
ここでも雇用主が有給取得日を指定するのは難しいのが法律上の建前ですから、その点を認識したうえで退職する従業員との交渉を行う必要があります。
アルバイト・パートの有給休暇についての法律のルール
有給休暇は、正社員であるかアルバイトやパートであるかは関係なく付与しなくてはならない労働者の権利です。
また、時短勤務などの形で雇用している人であっても、通常の従業員と同じ内容の仕事を行っている場合には、正社員と同様の有給休暇を付与しなくてはならないというのが法律上の建前です(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条)。
以下では、企業が従業員を雇用する際、どのような条件で有給休暇を付与しなくてはならないのかを解説いたします。
有給休暇の付与要件
有給休暇は、以下のような条件を満たす従業員に与える必要があります。
・雇用契約を結んだ日から、6か月以上継続的に勤務している人であること
・あらかじめ決められた出勤日の80%以上出勤していること
こうした条件を満たす従業員は、正社員であるかアルバイト・パートであるかによらず有給休暇を取得させなくてはなりません。
時季指定権(労働基準法第39条第5項)
従業員側は、有給休暇取得の理由を説明する法律上の義務はありませんし、事前に取得する日時を指定していればその通りに有給を取得できるのが原則です。
このように、従業員が「いつ有給休暇を取得するか」を自由に決められる権利のことを、法律上は「時季指定権」と呼んでいます(労働基準法第39条第5項)
時季変更権(労働基準法第39条第5項但書)
一方で、業務の繁忙期など、従業員が指定してきた有給取得の日時が業務運営に支障をきたすタイミングである場合に、別の日程で有給休暇を取得するようにうながすことができる雇用主側の権限を「時季変更権」と呼びます。
ただし、すでにみたように雇用主の時季変更権行使は実務上非常に限られたケースでしか認められないのが実際のところであることは理解しておきましょう。
アルバイト・パートの有給計算
アルバイトやパートの人への有給休暇付与のルールを理解したところで、実際にどのような形で有給休暇を取得させる必要があるのかを理解しておきましょう。
ここでは、以下の3点が重要です。以下、順番に解説いたします。
・有給休暇を取得した際に支払う賃金の計算方法
・有給休暇を認める日数
・有給休暇を取得せずに放置した場合の時効の扱い
与えないといけない有給日数と計算方法
従業員に与えられる有給休暇の日数は、その人の勤続年数によって異なります。
具体的には、雇い入れ後最初の半年間の勤務で10日間の有給休暇が付与され、その後1年間が経過するごとに、以下のように日数が増加していく形になります(最大20日間)
勤務年数 | 勤続0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
時短勤務のアルバイト・パートの有給付与
なお、正社員として働く人に比べて勤務時間が短いアルバイト・パート従業員がいる場合、その人の有給休暇は一定の条件に基づいて変更することが認められます。
具体的には、以下の条件を満たす場合には、通常の従業員とは異なる有給付与日数とすることが認められます(比例付与と呼びます)
・所定労働時間が1週間に30時間に満たない場合
・所定労働日数が1週間に4日以下の場合
上の条件に当てはまる場合、有給休暇は以下のように比例付与の形で行います。
週の所定労働日数 | 勤続0.5年 | 勤続1.5年 | 勤続2.5年 | 勤続3.5年 | 勤続4.5年 | 勤続5.5年 | 勤続6.5年 |
4日勤務 | 7日間 | 8日間 | 9日間 | 10日間 | 12日間 | 13日間 | 15日間 |
3日勤務 | 5日間 | 6日間 | 6日間 | 8日間 | 9日間 | 10日間 | 11日間 |
2日勤務 | 3日間 | 4日間 | 4日間 | 5日間 | 6日間 | 6日間 | 7日間 |
1日勤務 | 1日間 | 2日間 | 2日間 | 2日間 | 3日間 | 3日間 | 3日間 |
例えば、「週に4日間だけ勤務している、勤続5年のアルバイト従業員」であれば、年間13日間の有給休暇を与える必要があります。
有給休暇の時効について
従業員に付与した有給休暇は、その従業員が2年間にわたって取得せずに放置した場合、時効にかかって消滅します。
有給休暇は1年ごとに新たに付与されますから、1年目に使わなかった有給休暇は1年後に繰り越されることとなりますが、その後さらに1年間取得せずに放置した場合には、最初の1年目に付与された有給休暇は時効にかかることとなります。
例えば、以下のように有給休暇が付与と取得が行われた場合、この人には最終的に「2年目残り11日間・3年目残り12日間」の合計23日間の有給休暇が残ることとなります。
・2019年1月15日:雇い入れ
・2019年7月15日:最初の10日間の有給休暇が付与される(1年目残り10日間)
・2019年8月31日:1日だけ有給休暇を取得した(1年目残り9日間)
・2020年7月15日:2年目の有給休暇として11日間が付与される(1年目残り9日間・2年目残り11日間)
・2020年9月20日~24日:1年目の有給休暇のうち、5日間を取得した(1年目残り4日間・2年目残り11日間)
・2021年7月15日:3年目の有給休暇として12日間が付与されるとともに、1年目の有給は時効となる(2年目残り11日間・3年目残り12日間)
従業員の立場としては、有給休暇が時効にかかるのを避けたいと考えるのが普通ですから、時効直前にまとめて有給休暇を取得するといった行動をとることが予測されます。
繁忙期などであっても、こうした時季指定を雇用主側は拒めないのが実際のところですから、業務に支障が出てしまう可能性があります。
こうした事態にならないよう、数か月に数日といったような形で、日常的に有給休暇を消化させておくのが職場における業務遅滞のリスクを避けることにつながるといえます。
給与計算や有給休暇のルール作成に困ったら
このように、有給休暇については法律上さまざまなルールが定められていることに注意が必要です。
特に、起業して間もない経営者の方や、スタートアップ期の事業においては、給与計算や有給休暇に関する法律知識を持ったスタッフがいなくてお困りの方も多いのではないでしょうか。
給与計算や有給休暇などの事務に対応するためには、労務知識にくわしいスタッフを確保することも1つの選択肢ですが、もう1つの選択肢として「経理代行」のサービスを活用することも考えられます。
経理代行とは、従来の記帳代行サービスから一歩進んで、経理や給与計算に関する事務のすべて丸投げで代行してもらえるサービスです。
経理代行サービスを活用すれば、給与計算に関する専門スタッフを雇用するよりもはるかに安いコストで給与計算事務を正しく処理できるようになりますから、導入を検討してみてください。
まとめ
今回は、アルバイトやパートの方の有給休暇付与の条件について解説いたしました。
有給休暇付与の条件は法律で厳密にルールが定められていますから、もしこれに反する社内規則などを長期間運用してしまうと、退職時に高額の有給給与を請求されるといった事態にもなりかねません。
有給計算や給与計算が適切に行えているか不安がある…という場合には、本文で紹介した経理代行のサービスを活用することも検討してみてください。