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割増賃金 ~深夜手当と休日手当~
労働基準法の定めによると、事業主と労働者との間で「36協定」と呼ばれる労使協定を結ぶことで、事業主は従業員に、時間外労働や休日労働、深夜労働をしてもらうことができるとされています。
ただしその場合、事業主は労働者に対して割増賃金を支払わなくてはいけません。
割増賃金には、次の3種類の手当があります。
時間外手当 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて勤務させた場合などに支払う割増賃金 |
深夜手当 | 深夜時間帯(22時から5時の間)に勤務させた場合に支払う割増賃金 |
休日手当 | 法定休日(週1日)に勤務させた場合に支払う割増賃金 |
今回こちらの記事ではこれらの手当のうち、深夜手当と休日手当に注目して、割増賃金について解説していきます。
深夜手当とは
深夜手当とは、22時から5時の間の深夜時間帯に行う労働に対して支払う割増賃金です。
深夜時間帯に労働させた場合には、25%以上割増の賃金を支払わなくてはいけないと定められています。
例えば、交代制による夜勤で、所定労働時間が深夜時間帯になるという場合も、深夜手当そのものが、深夜時間帯に働くことに対する手当ですので、所定労働時間であっても割増賃金を支払う必要があります。
時間外労働が長くなって、22時を超えてしまったというケースについては、22時以降は、時間外手当に深夜手当をプラスして、両方の手当を支払わなくてはいけません。
また、労働基準法第41条により労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されないことになっている労働者(農水産業従事者・管理監督者等・監視断続的労働従事者・宿日直勤務者)についても注意が必要です。
これらの労働者は、時間外手当や休日手当支給の対象外となっていますが、深夜手当については対象外とはなりませんので、支払い義務が生じます。
休日手当とは
休日手当とは、法定休日に勤務させた場合に支払う割増賃金のことです。
法定休日に勤務させた場合には、35%以上割増の賃金を支払わなくてはいけません。
では、この法定休日とはいったい何なのでしょうか?
労働基準法には、事業主は労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなくてはいけないと定められています。
これが、法定休日です。
なお、法定休日以外の休日に労働させた場合については、休日手当を支払う必要はありません。
これはどういうことなのかというと、例えば、週休2日で実質的には土日が休みだけれど、その会社が法定休日として定めているのが毎週日曜日のみだとすると、土曜日に勤務をしても休日手当を支払う必要はないということです。
ちなみに法定休日に8時間以上働いた場合はどうなるのでしょう?
この場合、休日手当に時間外手当をプラスする必要はなく、休日手当のみ割増されます。
深夜手当の割増
では、実際の勤務時間を見ながら、どのように深夜の割増賃金が発生するのか見ていきましょう。
ケース1 交代制の深夜勤務
交代制の深夜勤務で、所定労働時間の22時から7時(休憩1時間)に勤務したケース。
22時~5時 | 深夜手当25%割増 |
5時~7時 | 割増なし |
深夜手当は、時間外労働かどうかにかかわらず、深夜時間帯に労働した場合に支給する手当ですので、所定労働時間内であっても深夜手当を支給する必要があります。
ケース2 深夜におよぶ時間外労働
所定労働時間は9時から18時(休憩1時間)だけれど23時まで残業したケース。
9時~18時 | 割増なし |
18時~22時 | 時間外手当25%割増 |
22時~23時 | 時間外手当25%割増+深夜手当25%割増 |
時間外労働が深夜時間帯まで長引いた場合は、時間外手当にプラスして深夜手当を支給する必要があります。
休日手当の割増
同じように、今度は実際の勤務日を見ながら、どのように休日の割増賃金が発生するのか見ていきたいと思います。
ケース1 週休2日の労働者が土曜日に出勤
本当は土日休みの労働者が、月曜日から金曜日までの間、9時から18時までの勤務(休憩1時間)をし、土曜日も9時から18時まで働いたというケース(法定休日は日曜日)。
月曜日~金曜日 | 割増なし |
土曜日 | 時間外手当25%割増 |
土曜日は休日ではありますが、法定休日ではないため、休日手当を支給する必要はありません。
ただ、月曜日から金曜日までの間にすでに40時間勤務していますので、土曜日に働くと法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えてしまいます。
そのため、このケースでは土曜日の労働に対して時間外手当を支払わなくてはいけません。
ケース2 振替休日を利用して法定休日に出勤
あらかじめ木曜日と振り替えて法定休日の日曜日に出勤したケース。
日曜日 | 割増なし |
木曜日 | 休日 |
振替休日とは、事前に他の出勤日と休日を振り替えることをいいます。
そのため、このケースでは事前に木曜日と法定休日である日曜日を取り替えただけということになります。
つまり、出勤した日曜日は、もともとの勤務日である木曜日と同じ扱いになり、休日手当の支払いは必要ありません。
ケース3 法定休日に出勤したが、後日、代休を取得
法定休日の日曜日に出勤し、後日、代休を取得して水曜日に休んだというケース。
日曜日 | 休日手当35%割増 |
水曜日 | 代休 |
この場合、あらかじめ休日を振り替えていなかったため、法定休日である日曜日に労働したという事実は消えません。
事後的に水曜日の労働を免除したとしても、休日を振り替えたことにはなりませんので、日曜日の労働に対しては休日手当を支払う必要があります。
振替休日と代休の違いを整理
先ほどのケース2とケース3で、振替休日と代休とでは休日手当の取り扱いが違うことに触れました。
そこで、振替休日と代休の違いについて、整理しておきたいと思います。
- 振替休日・・・「事前に」他の出勤日と休日を振り替えること
- 代休・・・休日労働をした「後で」他の出勤日を代わりに休みとすること
つまり、振替休日は、事前に振り替えたかどうかがポイントとなります。
休日を振り替える場合の注意ポイント
休日を振り替えれば、法定休日に働いたとしても休日手当を支払う必要がないというのは前述のとおりです。
ただ、休日を振り替えるにあたっては、注意しなくてはいけないことがあります。
同一週内で休日を振り替えれば問題ないのですが、週をまたいで振り替えてしまうと、1週間の法定労働時間を超えてしまう場合があるため注意してください。
例えば、日曜起算で土曜日までを1週間としている会社について見てみると…
<例>
- 日曜日:法定休日
- 月曜日~金曜日:7時間労働
- 土曜日:5時間労働
※週40時間労働
同じ週の日曜日と木曜日を事前に振り替えて日曜日を出勤日とし、木曜日を休日にしたとしても、1週間の労働時間は同じ40時間ですので、特に法定労働時間に影響はありません。
しかし、翌週の月曜日と振り替えたとしたらどうでしょう?
日曜日を翌週の月曜日と振り替えて7時間働いたとすると、その週の労働時間は47時間になってしまい、法定労働時間の週40時間を超えてしまいます。
法定労働時間の週40時間を超えた分は、時間外労働になりますので、その分の割増賃金は支払わなくてはいけません。
つまり、休日手当が必要なくても時間外手当が必要になるというわけです。
そのため、振替休日については、就業規則等で「休日を振り替える場合は同一週内で振り替える」など、振り替えるべき日を規定しておくのが望ましいといえます。
深夜手当や休日手当の未払いによるリスク
万が一、深夜手当や休日手当の未払いが生じると、事業主にとっては大きなリスクとなります。
労働基準法違反となるリスク
深夜手当や休日手当を正しく支給していないということは、つまり賃金未払いが生じているということです。
賃金未払いはとても重たい労働基準法違反ですので、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。
なお、是正勧告を受けたにもかかわらず改善されない場合や、わざと支払わないような悪質なケースについては、逮捕・起訴されることも考えられます。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という、罰則規定があります…要注意!
従業員が敵になる…?
そして、何よりも怖いのが、従業員が敵になる瞬間がここにあるということです。
支払われるべき手当が支払われていないということは、従業員の会社への信頼を失うということです。同時に従業員は労働意欲をなくし、場合によっては従業員から訴訟を起こされるリスクもあります。
そして、賃金未払いにより訴訟を起こされたなどということになれば、会社のイメージは著しく下がってしまうことでしょう。
これまでは同じ時間・空間を共にし、一緒に頑張って働いてきた従業員が、突如会社を敵として捉え、訴えを起こす…。 悪意を持って支払っていない経営者は言語道断ですが、もし「知らなかったから」という理由でそんな事態を巻き起こしてしまったのなら…。
そうなる前に、賃金について正しい計算が行われているかを今一度確認しましょう。これから経営者になる方にとっても、避けては通れない課題ですので、頭の中にはしっかりと留めておくことをおすすめします!
まとめ
今回は、深夜手当や休日手当に注目して、割増賃金について解説しました。
深夜手当は深夜時間帯の労働に対する手当で、休日手当は法定休日に労働したことに対する手当です。ご紹介したとおり、それぞれに注意すべきポイントがありますので、深夜手当や休日手当について正しい知識を持っていただきたいと思います。
深夜手当や休日手当に関する認識が間違っていたために、意図せず賃金未払いが生じてしまったなどということもあり得るからです。
事業主として、深夜手当や休日手当について、正しい知識を持って、従業員が敵になる瞬間を目の当たりにしなくて済むよう、ぜひこの記事を参考にしていただければ幸いです。