経理担当者にとって、給与計算は正直面倒な業務の1つかもしれません。出勤簿やタイムカードを確認し、時間外手当や各種手当の計算なども必要となるため、時間もかかりますし神経も使います。
相手がお客様など社外の人でないとはいえ、給与という大切なお金を扱うわけですからミスのないように十分気を付けているはずです。それでも、人間のすることですからミスが起こってしまうこともあるでしょう。
些細なミスであっても、社員当人にとっては見逃せない問題ですし、労使間の信頼にもかかわります。この記事では、給与計算を間違えた場合に会社としてどう対処すべきかを見ていきましょう。
目次
まずは当該社員に説明・謝罪する
給与計算のミスが発覚するきっかけは当該社員からの連絡だった、というケースも多いでしょう。
給与額が間違っているのではないか、と問い合わせがあった場合には、即座に確認してください。事実であれば、払い過ぎでも不足でも迷惑をかけていることに変わりはないので、当人に謝罪をします。どうしてミスが起こったのかの説明もしておきましょう。
もちろん、本人からの申告でなく業務の流れで発覚した場合にも、すぐに当人に知らせます。
給与が不足していた場合の対処法
支給した給与の額が本来支払うべき額よりも低かった場合、不足分は早急に、当月中に振り込むなどして対処しましょう。
手続きが面倒だから来月分で調整したい、と思う人もいるかもしれませんが、賃金の支払いには労働基準法で「全額払いの原則」というルールがあります(労働基準法24条)。
支給日に支払うことが確定している金額については、全額を残らず支払わなければなりません。不足しているということは、「全額」の支払いではなくなってしまいます。
これは「原則」のため、当該社員が了承してくれた場合などには次月の支払いも可能ではあります。しかし、日々働いてくれる社員に敬意を払い、誠意を見せるためにも、会社として速やかに対処することをおすすめします。
給与を過払いしてしまった場合の対処法
給与を払い過ぎていたケースでも、その月のうちに返還してもらい調整するのが基本的な対処です。
社員への対応も適切に行いましょう。返してもらうのに「当人に損はさせていないから」と謝罪しなかったり、当人に知らせず勝手に給与から控除してしまったりしてはいけません。過払い分を一方的に控除することも、前述の「全額払いの原則」に反することとなります。
1カ月分などでなく長期にわたって間違っていたと判明した場合には、金額も大きくなるため、当人に無理のない範囲で複数回での返還を求めるべきでしょう。
当人が返還に応じない場合には?
多く払いすぎた場合、中には「自分には非がないから返す必要はない」と返還を拒否する社員がいるかもしれません。
しかし、会社側のミスによる過払いでも支給する義務のないお金であれば返還を請求できます。これは「不当利益返還請求権」として民法でも認められています。
また、法律上は、当人が過払いされたことを知っていたかどうかによって対応が異なります。本人が過払いの事実を知らなかった場合には、過払い分の金額のみを返還してもらいます。しかし知っていた場合には、過払い分の金額に民法上5%の利息を付けることも可能です。
ちなみに、過払い分の返還について社員に返還を請求できる不当利益返還請求権の期間は、その権利を行使できると知ったときから5年、あるいは権利を行使できるときから10年のどちらか早い方となります。
当人が過払いの事実を知っていた場合の時効は、不法行為に基づく賠償請求権の消滅時効が適用となり、最長で20年です。
支給額の調整で気を付けるべきこと
給与の支給額を修正することは、雇用保険料や社会保険料、所得税などにも影響してきます。
給与のうちどの部分(基本給や各種手当など)で修正が必要なのかによって、控除項目の修正が必要となるケースがあるので注意が必要です。
給与計算の間違いをなくすために
給与間違いがあっても、即座に判明して対処すれば社員からの理解も得られやすく、トラブルにならないケースの方が多いかもしれません。しかし、社員にとっては「正確に支給されて当たり前」のものです。信頼性の問題もあり、ミスはないに越したことはありません。
給与計算でミスが起きないようにするために、次のような対策を取っておきましょう。
給与計算のルールを明確にする
ミスがよく起きる、担当者が変わるたびにミスが生じる、といった場合には、自社の給与計算のルールが複雑なのが原因かもしれません。
社員のために各種制度を備えたものの、適用の可否が判断しにくい、この手当を支払うときはこっちの手当も支給する、手当の額が状況によって変化するなど、ケースごとに計算が煩雑になる場合には、ミスも起きやすくなってしまいます。
フローチャートなどを作ってルールを明確にし、初めて給与計算を行う人であっても間違えないような体制を作る必要があります。慣例のようになっていて作業に改善の余地がある場合には、改めて見直すことも検討してみてください。
ルールが複雑だと、支払額は間違っていないのに社員の認識間違いでミスだと誤解されるケースもあります。説明する手間もかかりますし、説明して納得してもらえなければ不信感にもつながるでしょう。賃金規定の表記をわかりやすくする、あらためて社内に周知させるといった対応も効果的です。
ミスの原因を把握し、確認を徹底する
給与計算にミスが生じるのは特に、金額の変更がある場合でしょう。特に給与計算が起きやすいのは、次のようなケースです。
- 昇給や勤務地の異動などで給与額が変更になった
- 年齢によって社会保険料や雇用保険料の額が変わった
- 保険料や税金の額が変わった
- 臨時ボーナスの支給などがあった
- 扶養家族に変更があった
- イレギュラーな処理対応をした
社会保険料は、例えば40歳になる誕生月からは介護保険料の徴収が必要となります。これは65歳になると終了です。雇用保険料は毎年4月、健康保険料は毎年3月、住民税は6月、厚生年金は9月に金額が決まるので、もれなく対応しなくてはなりません。
子どもが就職したなどの理由で扶養から外れたり、いつもと違う担当者が急に頼まれて対応したりなど、何かしらの変更があった場合は特に要注意です。
イレギュラーな対応には必ずダブルチェックを行う、定期的に変更となるものについては共通のスケジュールで漏れないように管理するなど、十分な確認体制を作りましょう。
もちろん、基本的なルール、たとえば固定残業代より多くの残業があればその分を支払う、深夜や休日などの割増計算を失念しないといったことも徹底しなくてはなりません。
システムで自動計算する
手入力で給与計算ミスが多い場合には、給与計算の一部だけでもシステム化するのがおすすめです。
例えば入力した数字をそのまま読み込んで自動計算してくれるシステムを使えば、計算ミスを防げますし、経理担当者の負担も軽くできます。
勤怠管理と給与計算をつなげられるシステムであれば、複雑な勤務制度を導入している場合にもミスなく計算してくれるでしょう。
ただし一口に給与計算システムといってもさまざまな種類があるので、自社に合った製品を選んで使用する必要があります。
社外の専門家に依頼する
給与計算にミスが多く困っているなら、社外のリソースを利用するという方法もあります。
経理業務をアウトソーシングできる代行サービス業者は多数ありますし、社会保険労務士などに相談・依頼するのもよいでしょう。
今は社内で全てを簡潔しなくてもよい時代になっています。さまざまなサービスの活用も検討し、作業の効率化、正確化を図りましょう。
まとめ
給与の計算は、経理担当者にとって毎月神経を使う作業であり、複雑であれば時にはちょっとしたミスが起きてしまうこともあります。しかし当の社員にとっては、給与の額が間違っているなどあり得ないことでしょう。日頃の関係性によっては大きな不信感を生むことにもなりかねません。
ミスが発覚したら、不足・過払いにかかわらず判明次第すぐに説明・謝罪をし、速やかに調整処理を行いましょう。
原因が制度の複雑さにあるなら防ぐための体制づくりや改定を視野に入れる、システムを導入するなどの対処をしてください。給与計算など一部を経理アウトソーシング会社に委託する、社労士に相談するというのも1つの方法です。