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無期転換ルールに対して会社がしなければいけないこと
平成24年8月の労働契約法改正により、「無期転換ルール」という制度が導入されていることはご存知でしょうか。
無期転換ルールとは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するルールです。
ざっくりとルールを把握しているものの、よくわからない、という企業の担当者の方もいるでしょう。
そこでこのページでは、無期転換ルールに備えて会社がしなければいけないことや、無期転換ルールの内容について解説します。
無期転換ルールの内容
無期転換ルールに備えるためには、まず無期転換ルールについて把握しておく必要があります。
無期転換ルールが開始されたのは西暦で言うと2013年で、対象となるのは2013年5月1日以降です。
つまり2013年5月1日より前の期間は通算されません。
また制度ができた当初はそれほど厳しくなかったのですが、2018年以降無期転換ルールに関するトラブルが相次ぎ、注目度が上がりました。
2018年にトラブルが相次いだ理由は単純で、2013年5月1日から最初の無期転換ルールの期末が訪れたからです。
主に企業側が無期転換ルールを守らず、雇用者側から訴えが起こる、といったトラブルが相次ぎました。
そして2018年以降トラブルの発生件数が増えていて、今後も継続すると考えられます。
むしろ令和に入ってから無期転換ルールの認知度は上がっているため、遵守しないと労働者側から提訴される可能性は高まると考えられます。
そこで今回は、無期転換ルールの詳細についてご紹介します。
5年を1日でも超えると対象となる
無期転換ルールは、企業と労働者の間にどのような契約が交わされていたかを問題視しません。
言い換えると、有期労働契約でさえあれば対象となり、たとえば無期転換ルールを無効とするような契約は違法です。
無期転換ルールに関しては明らかに労働者側に有利なので、企業側で無視したり無効とするような措置は取れません。
この点は最初に押さえておいた方が良いでしょう。
労働者側が把握していなければ適用する必要はない
無期転換ルールは自動的に適用されるものではありません。
つまり、労働者側から申し込みがあって初めて適用されるものです。
逆に言えば労働者が無期転換ルールを把握しておらず、申し込みがなければ有期労働契約のままでも問題ないということです。
有期労働契約期間が満了すれば無期転換ルールは無効となる
労働者が無期転換ルールの申し込みを使えるのは、「現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間」です。
言い換えれば、契約期間が満了してしまえば企業側は無期転換ルールの申し込みを受ける義務はありません。
ただし契約を更新してしまうと、労働者側から無期転換ルールの申し込みがある可能性が考えられるので、言い方は悪いですが、企業側の裁量で無期転換ルールの申し込みが発生しないようにコントロールすることも可能です。
空白期間6カ月でクーリング期間となる
クーリング期間とは、一定期間契約が空くと、無期転換ルールの通算が無効になる、という制度です。
クーリング期間は具体的には6カ月となっています。
つまり、有期労働契約の期間が満了したあと、6カ月の空白期間を作れば労働者側が無期転換ルールを使えなくなるということです。
実際、無期転換ルールを行使されるのを嫌がる企業が、クーリング期間を悪用するケースが相次いでいます。
クーリング期間の悪用に対して、どのような措置が取られるかは明記されていません。
決して推奨はしませんが、企業側はクーリング期間というものを使える、ということは把握しておいた方が良いでしょう。
意図的な無期転換ルールの回避に対しては無効の可能性も
クーリング期間だけでなく、無期転換ルールを回避したい企業側が、無期転換ルールの権利が労働者側に発生する直前に契約を終了させたり、選抜試験を設けて意図的に落としたり、無期転換ルールを適用する場合労働条件を引き下げたり、といったことを行っています。
意図的に労働者側の無期転換ルールの権利を阻害した場合、企業側の主張が無効になる可能性もあります。
一応、厚生労働大臣が
「無期転換を避けることを目的として無期転換申込権が発生する前に雇い止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいとは言えない」
「無期転換ルールを免れる目的で雇い止めをしているような事案を把握した場合は、都道府県労働局においてしっかりと啓発指導に取り組む」
といった発言をしています。
とはいえ具体的に方針が固まっているわけではなく、企業側が有利な状況には変わりありません。
今後労働者側に有利な条件が設定される可能性はあるでしょう。
現状このような状況ですが、だからといって企業側に無期転換ルールの回避を推奨しているわけではありません。
あくまでも、表面的なルールだけでなく、どのような事例があって、企業側と労働者側にそれぞれどのくらいの力があるのかを把握しておいた方が良い、という話です。
無期転換ルールによる企業側のメリット
無期転換ルールは労働者を不利にしないためのルールです。
そのため企業によってはデメリットを感じているのも事実なのですが、企業側にまったくメリットがないわけではありません。
具体的に企業側にどのようなメリットがあるのかご紹介します。
有能な人を継続雇用しやすい
有期労働契約で5年以上契約が継続している時点で、その人はある程度企業にとって有益な人材と言えるでしょう。
しかし労働者側は、多くの場合、有期労働契約であることに一定の不安を感じています。
たとえ会社に貢献していても、いつクビを切られるかわからないからです。
しかし無期転換ルールがあれば、入り口が有期労働契約であってもいずれ無期の労働契約に移行できる、という心理が働きます。
そうすると会社への貢献度が上がり、転職活動をして流出してしまう人材を引き止めることになります。
採用段階で有期労働契約にしやすい
従来であれば、有期労働契約を嫌う労働者は多かったです。
今ももちろん無期で契約したいと考える人は多いのですが、働き方の多様化と無期転換ルールが相まって、有期労働契約が必ずしも悪ではなくなっています。
労働者側があえて有期労働契約を選択したり、企業側は入口を有期労働契約にした上で無期転換ルールのことを説明して労働者を納得させる、といった事例が多々あります。
労働者側からすると、長く勤めれば無期労働契約に移行できる可能性があり、企業側は実際に働いてもらって能力を判断した上で無期労働契約に移行する、といったことができます。
つまり見方によっては、労働者にとっても企業にとってもメリットがあるということです。
無期転換ルールによって発生しているトラブル
無期転換ルールによってトラブルが発生していると解説しましたが、具体的にどのようなトラブルが発生しているのか、過去に発生した事例をご紹介します。
トラブル事例1. 国立大学の事例
国立大学で、非正規職員1043人のうち、限定正社員になれたのは551人、障害者雇用枠では500人弱のうち19人しか無期非正規職員になれなかった、という問題が発生しました。
そしてこれに反発した職員が署名活動やデモ活動を展開し、最終的には裁判沙汰にも発展しています。
雇い止め自体は違法ではないのですが、客観的に見て納得のいく理由がないまま雇い止めを行うと、無効となる可能性があります。
国立大学の事例では、長年にわたって雇用されていたにも関わらず、無期転換できない職員が多かったため、納得のいく理由がないとして問題に発展しています。
企業側から見ると、必要なら雇って不要なら雇用しないのは当然のことで、次の仕事を探すなり生活の術は自分で考えてほしいと思うかもしれません。
たしかにその通りなのですが、突然雇用を打ち止めすると行き場を失った労働者たちがなんらかの反発をしてきたり、最悪の場合裁判にまで発展するということでした。
トラブル事例2. 大手自動車メーカーの事例
ある大手自動車メーカーでは、無期転換ルールを回避するために、再雇用までの期間を6カ月以上空けるとしました。
無期転換ルールは本来、労働者を守るための法律なのですが、大手自動車メーカーの対応だとかえって労働者にとって不利な状況になっています。
客観的に見て、無期転換ルールを回避するための雇い止めであったことは明白ですが、断定はできないとして対応が認められています。
労働者からすると、急に6カ月の空白期間を設けられることに納得がいかず、企業側からすると法改正の影響で仕方がなかったと言えるでしょう。
まとめ
無期転換ルールを巡って、企業側と労働者側でいざこざが多く生じています。
またルール的に曖昧な部分もあり、抜け道が多いのも事実です。
企業側ができることとしては、抜け道のことを把握しつつ、過去の事例も把握しつつ、トラブルにならない程度に企業側にとって都合の良いように動くことでしょう。
労働者の雇用を守ることは重要ですが、企業も営利目的に動いている団体なので、ルールやモラルを踏まえて判断していくしかありません。