目次
出資と銀行借入の違い
起業時の資金調達
起業してビジネスを展開するに際しては、ビジネスアイデアはもちろん、アイデアを具現化するための人材、設備等、その環境を整えるための資金が重要になります。
ビジネスを成長させるためには、どれだけ優れたアイデアであっても資金がなければ具体的に何も進みません。
起業家にとって資金調達は、事業を動かすためのキーになる要素であると言え、起業時の最も重要な課題の一つです。
起業時のリスク
特にスタートアップのケースでは、革新的な技術・アイデアをベースにした事業を通じた急成長と、将来の大きな収益獲得を想定する一方で、起業当初は大きな赤字を抱えながら、成長段階に応じて将来計画を前提としたプレゼンテーションを行い、個人投資家からの資金調達を成功させながら、事業を進めるケースが大半です。
こういったスタートアップのケースでの、資金提供を行う投資家は、将来の大きなリターンのために、事業の成長のみならず、事業そのものがどうなるか分からないというリスクを受け入れて、資金をその企業に提供しており、言い方を変えればギャンブルに近い性質の資金提供を行っていると言えます。
スタートアップと性質が近いのは…
スタートアップと性質が近いベンチャー企業でも同じです。
ベンチャー企業は、スタートアップに比べると規模の小さい新規事業創出と言えますが、資金調達が重要である点は変わりません。
例として、新薬を開発しているバイオベンチャー企業があります。
新薬の開発途中では全く収益の獲得ができず、研究開発のための先行投資費用だけが発生することになるため、経常的に赤字が発生する状態が継続することになります。
そのため、成功するか未確定ではある上に、開発期間中は、研究開発のための資金を常に獲得し続ける必要があります。
資金調達は事業継続のための、最も重要な活動となってくるのです。
資金調達の方法
資金調達方法
資金調達の方法には、自己資金、金融機関からの借入、ベンチャーキャピタル等からの出資などがあります。
これらは同じ資金調達方法ではあっても、それぞれ性質の違いがあります。
(要件が整えば、補助金・助成金といった選択肢もあります)
自己資金
自己資金は創業者自身が用意した開業資金です。
本来はこれが潤沢で、必要な運転資金を賄えれば一番いいのですが、そういったケースは稀ではないでしょうか。
親族や友人知人から資金を集める点も、広くは自己資金に近い性質であり、起業した方の個人的な繋がりからの資金調達です。
安心感ある資金調達であり、利率やリターンの面でも外部からの調達に比べると厳しくないという点がありますが、人とのつながりによる信用によって成り立つ調達法なので、金額にある程度の限度がある点は大きなデメリットであると言えます。
金融機関からの借入
次に金融機関からの借入です。
これが一般的には、最も利用される資金調達の方法のひとつでしょう。
金融機関には民間銀行などの他、日本政策金融公庫に代表される「100%政府出資の金融機関」があります。
特に公的な金融機関では、雇用創出という政策的な観点から、比較的、融資審査が通りやすく、原則として無担保・無保証人となるなど、金利や融資条件が有利になっているケースも多いため、まだ実績のない創業時の創業資金や、中小企業の資金調達方法として多く活用されています。
その一方で、新規性が高く安全性の評価が難しいビジネスの場合や、規模の大きい資金調達のケースでは、金融機関からの資金調達は審査通過が難しい傾向にあるというデメリットもあり注意が必要です。
ベンチャーキャピタル等からの出資
最後にベンチャーキャピタル等からの出資です。
ここには個人投資家(エンジェル投資家)による出資も含まれるでしょう。
これらの投資専門家は、ビジネスや商品・サービスそのものの革新性・将来性を評価した上で、大きなリターンが見込める場合に出資します。
出資のため融資と異なり返済不要で、その金額も非常に大きいため、この資金調達は大きな成長を想定するスタートアップやベンチャー企業にとっては魅力的な資金調達の方法と言えるでしょう。
見方を変えれば、こういった投資専門家から資金提供を受けることができるということは、事業の将来性が評価されたとも言えます。
大きな成長を目指すビジネスにおいては、こういった投資専門家からの資金調達も想定して準備を進めておくことが必要になります。
資金調達方法の性質の違い
大きくは、これら3つの資金調達方法がありますが、それぞれ性質の違いがあります。
それらの違いについて解説します。
自己資金は創業者自身もしくは近い関係者からの資金提供、金融機関からの借入・ベンチャーキャピタル等からの出資は外部者からの資金提供という点で、内部・外部という違いがあります。
また、外部からの資金提供である「借入」と「出資」の2つは性質が異なるため、相違点は後述しますが、メリットやデメリットも含めてこの違いを押さえておくことは起業・ビジネス運営において非常に重要です。
資金調達は、調達して終わりではありません。
事業開始後も、何かしらの形で資金提供を受けた企業と、資金提供者の関係が続くという意味で、取引関係のスタート時点であると言えます。
企業活動のキーとも言える資金を通じた関係は、非常に重要であり企業の将来を大きく左右する要素です。
そのため、今後、自らの企業がどういった方向に進みたいのか、進む必要があるのかという点を考えて、資金調達の方法を慎重に検討する必要があります。
出資と銀行借入の違い
以下にまとめていきます。
出資と借入の共通点
出資と借入は、いずれも資金を自身以外の企業から調達するという点が共通します。
また、資金を提供する側からみると、いずれも何かしらのリターン、つまり収益を見込んで資金提供をしているという意味で同じです。
出資であれば、企業の価値の上昇によるキャピタルゲイン(売買差益)や配当金、融資であれば資金提供先から支払われる利息が、このリターンに該当します。
資金を受ける側としては、資金が増加するという点でどちらも同じ効果がありますが、会計的には出資の場合は資本金として、借入の場合は負債として認識されるということになります。
出資と借入の違い
次に相違点ですが、大きく3つの相違点があります。
資金提供の方法
出資は、株式などと引き換えに資金を援助します。
出資先企業の持ち主の一人になるということなので、出資先の企業の業績が悪くなると、得られるリターンがそれに応じて減少する、逆であればリターンが増えるという、企業の状況が直接的に出資に対する成果として現れるという意味で、経営にも参画する非常にコミットの高い資金提供方法です。
一方で、借入はあくまで「資金を貸す」という形で資金提供を行うものです。
資金提供を受けた先にとっては借入金という負債です。
出資とは違いお金の貸し借りだけの関係なので、企業の状況は間接的に資金繰りなどで影響はあるものの、契約内容で定めた資金の返済や利息の受け取りに直接的に影響することはありません。
資金の返済義務
出資は基本的に返済の必要性はありません。
資金提供を受けた企業は、資金を返済しなくていい一方で、成長した際にはその成長に応じた多くのリターンを、出資者に与えることになります。
逆に出資先の企業が傾いた場合には、提供した資金を回収できないこともあります。
しかし借入の場合は、当然ですが返済義務があります。
借入に際して契約書を締結しているので、その契約条件に従った条件通りに資金を金融機関等に返済していく必要があるのです。
その代わり、出資とは異なり、企業が大きく成長したとしても、返済額が増えるということはありません。
資金提供に対する対価(リターン)の相違
三つ目は、資金提供に対する対価(リターン)の相違です。
出資は資金提供先の企業の資本、つまり持分を持つという形式の資金提供方法ですが、借入とは異なり利息の支払い等はなく、資金提供の対価は出資先企業の資本価値の上昇という形(キャピタルゲイン)になります。
具体的には、資金提供を受けた出資先企業が大きく成長し、株式上場を達成したというようなケースでは、出資先企業の株式の価値が、何倍~何十倍にもなるということがあります。
当初の出資額がその何倍~何十倍の価格にまで値上がりするため、出資をした側は、大きな利益を得ることが可能となります。
また株式上場以外にも、M&Aという形で、出資先企業の株式を売却するというパターンもあります。
出資は言い換えると出資先企業を購入したということなので、その企業の価値を高くして売却することで売却益というリターンを得ることができるのです。
投資をメインで行っている専門家は、大きな成長が見込まれる複数の企業に出資をし、そのうちいくつかが成功し、その他の成功していない出資金額もカバーできるほどのリターンを得て、投資自体を事業として成立させています。
一方で、借入の場合は、資金提供元にとっての資金提供の対価は利息です。
借入の場合、資金提供をした金額を返済することと、利息を支払うことの2点が大きな条件となりますが、返済される資金は自身が提供した資金額を超えることはなく、ここではリターンは生まず、受け取る利息が借入として資金提供を行ったことの対価になるのです。
出資と借入のまとめ
資金提供元から見た場合、出資は資金の返済がない一方で成功した場合のリターンは非常に大きいためハイリスク・ハイリターン、借入は資金の返済を受けるため、資金回収に関するリスクは出資よりも低い一方で、定額の利息の受け取りだけが対価となるという点で、ローリスク・ローリターンという特徴があると言えます。
資金提供を受けた側としては、出資は返済の必要がない一方で、外部者の経営への関与割合が増える方法であり、借入は経営の自由度は確保できる一方で、資金の返済義務があり資金繰りへの対応が必要という違いがあると言えます。
まとめ
起業において資金提供は非常に重要な要素ですが、出資や借入などの資金調達の方法によって、財務状況だけでなく、将来の事業の進め方にも大きな影響があります。
出資は、多額の資金調達の可能性が高い一方で、企業の持分を資金提供元に保有されるという意味で、経営判断への意見も強いものになるため経営の自由度が減少する可能性があります。
また、借入は企業の持分を持たれることはないものの、返済義務があるため資金繰りに大きな影響があったりと、それぞれのメリット・デメリットを理解しておく必要があります。
起業において資金調達は避けて通れない課題です。
資金調達方法の違いを理解した上で、自社の事業の成長という資金調達の目的を達成するのに、最も適した資金調達の方法を選択することが重要です。