事業をはじめよう!と起業を思い立ったら、ついて回るのが「資金繰り」の問題です。
事業を運営するためには家賃や仕入れ、人件費など「経費」がかかります。
その資金繰りをうまくこなせるかの不安、そして何より創業時の開業資金が足りず、夢を諦めている人は少なくありません。
そんな起業家にとって心強い、無担保・無保証人の融資制度が、経済産業省や日本政策金融公庫などの公的機関によって準備されています。
この記事では、最もよく知られた起業前事業者貸付「新商業融資の制度」のほか、もっとも汎用性の高い組合特例貸付制度である「生活衛生改善資金貸付」をご紹介します。
目次
実は色々ある公共機関による創業融資
新創業融資制度
起業時に融資を受ける制度として広く認知されているのが、国民政策金融公庫による「新創業融資制度」です。
日本政策金融公庫では、個人事業主や零細小規模企業を対象とした小口融資を行っています。
既に事業をスタートしている事業者への貸付だけではなく、創業前の起業家向けの融資制度が新創業融資制度です。
原則として「無担保・無保証人」の融資制度であること、融資上限額が3,000万円(運転資金1,500万円まで)であることから、まず起業を目指す人のほとんどが利用する融資制度です。
しかしながら、「雇用の創出(人を雇うことが前提)」「事業必要資金の10%準備」など、起業準備段階の人にとってはハードルが高い条件があります。
また、新創業融資制度は「利率が高め(2020年10月現在基準利率2.06~2.45%)」という声もあります。
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新規開業資金(新企業育成貸付)
担保や保証人については担当者と相談できるうえ、融資上限額7,200万円(運転資金4,800万円まで)まで融資希望を出せる制度です。
しかし「地域おこし協力隊経験者」「Uターン組」など対象者が極めて限定的であるところがネックです。
また、設備資金の返済期限は20年以内ですが、運転資金については7年以内の返済が求められています。
小規模事業者経営改善資金
一般的に「マル経融資」として知られる融資制度です。
商工会議所もしくは、商工会から経営指導を受けている事業者が対象となっています。
融資上限額2,000万円の用途は自由なため使い勝手の良い融資制度です。
また、金利もおおむね「新創業融資制度」よりも有利な設定となっています。
ただし所属するエリアの商工会議所会頭もしくは、商工会会長等の推薦が必要です。
組合による創業融資もある
企業などに雇用されて働く人には、労働組合という団体が組織されています。
多くは、日本労働組合総連合会による「連合加盟労働組合」として所属しています。
労働組合や生協の組織員には、協同組織の福祉カラーの強い金融機関「労働金庫(ろうきん)」の生活応援融資制度や、自治体提携融資制度が用意されています。
実は、自営業者にも組合が組織されていることをご存知でしょうか。
自分の事業に関係する組合が独自の融資制度を設けていれば、組合員となることで組合推薦により創業融資を受けられる可能性があります。
例えば、厚生労働省が所管する法律「 生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律 (生衛法)」によって、サービス業飲食業など18の事業が生活衛生関係営業として規定されています。
これらの事業に携わる営業者の自主的な活動団体として、生活衛生同業組合という組合組織があり、独自の融資制度として運営しているのがが「生活衛生改善資金貸付」です。
生活衛生同業組合による融資制度(創業融資・生活衛生改善資金貸付)
生活衛生関係営業とは?
前述した、厚生労働省が所管する法律「生衛法」によって定められた18種のいずれかの業種が生活衛生関係営業としてみなされます。
多くの個人事業主、零細小規模事業をカバーする業種がリストアップされています。
【サービス業(8種)】
理容店
美容店
興行場(映画館)
クリーニング店
公衆浴場(銭湯)
ホテル・旅館
簡易宿泊所
下宿営業
【販売業(3種)】
食肉販売店
食鳥肉販売店
氷雪販売業(氷屋)
【飲食業(7種)】
すし店
めん類店(そば・うどん店)
中華料理店
社交業(スナック・バーなど)
料理店(料亭など)
喫茶店
その他の飲食店(食堂・レストランなど)
生活衛生同業組合の融資制度
組合員だけが利用できる有利な融資制度など、様々な貸付制度が用意されています。
特筆すべきは、借入利率に基準金利より0.9%低い「特利C(2020年10月現在1.51~1.90%)」が適用されることです。
新興事業貸付
振興事業に関する事業を展開する場合は組合員だけが利用できる「振興事業貸付」があります。
組合からの融資申請だと「所在地のある都道府県知事の推薦書」が必要ありません。
また、融資上限金額が一般貸付限度額が7,200万円に対し、組合からの融資申請だと「設備資金1億5,000万円」+「運転資金5,700万円」まで借り入れ可能です。
新創業融資制度
担保や保証人が不要の「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない」事業者のための融資制度です。
貸付限度額は「3,000万円(運転資金1,500万円以内」となっています。
生活衛生改善資金貸付(えいけい貸付)
こちららも担保や保証人が不要です。さらに特利F(2020年10月現在1.21%)が適用されます。貸付限度額は「2,000万円以内」となっています。
組合特例貸付制度で融資を受けるメリット
ご紹介したように金利や担保、保証人設定などの融資条件のハードルが低く、借りやすい制度であることが大きなメリットです。
組合員となることで、同じ地域の同業者との横のつながりができ情報交換などができるようになります。
事務局に業務サポートや事業相談を依頼することができるのも、創業前後の新米起業家はもちろんベテラン事業家であっても心強いでしょう。
また充実した共済制度によって、割安な料額で医療保険、災害保険(団体料金が適用される)など)を利用できることも大きな魅力です。
組合特例貸付制度で融資を受けるデメリット
年間の加入料金の支払いが別途発生することが、スタートアップ企業にとってはデメリットに映るかもしれません。生活衛生改善資金貸付制度の融資を受けるには、生活衛生同業組合に加入する必要があります。加入にあたっては等級別組合費年年ごとに料金を負担することとなります。例えば「兵庫県クリーニング生活衛生同業組合」の場合を見てみましょう。21人以上の従業員がいる7級の場合「賦課金11,900円」のほか、組織運営 宣伝費 政治資金、そして生命共済、火災共助などの諸費用が別途加算されることになります。
創業融資を受けるなら組合制度の利用も検討しよう
起業するからには、利益を得られるという確証があってスタートするのが大前提です。
そして初期投資分はなるべく早い段階で取り戻すことが理想です。
「〇年以内に返済できる!」という自信をもって企業に臨むなら、創業融資を受けるという選択は決して冒険ではありません。
様々な創業融資がありますが、ここでもう一度まとめておきます。
- 新創業融資制度
- 新規開業資金(新企業育成貸付)
- 小規模事業者経営改善資金(マル経融資)
- 組合員特例貸付
そして意外と知られていない組合員特例貸付の中で、最も広い事業種類をカバーするのが「生活衛生同業組合による融資制度」となっています。
まとめ
金利が低く返済しやすい制度を、うまく利用して資金難を乗り越えたいものです。
年金原資の先細りが懸念され、コロナ禍をはじめ不透明な時代が続くなど、生活設計に危機感を覚える人も少なくないでしょう。
創業時にお金を借りるといえば家族親戚友人知人、という時代は終わってしまったかもしれません。
今回ご紹介したような公的機関からの融資制度は、最優先で検討すべき資金調達先になりつつあります。
創業融資が必要と判断したら、ぜひ早めに検討されることをおすすめします。