開業時の資金調達方法として代表的な手段の1つが「日本政策金融公庫での融資」で、多くの起業家が活用しています。
日本政策金融公庫(以下、公庫)の融資は民間金融機関と違い、創業時でも比較的融資が受けやすいことで有名ですが、当然のことながら金利は発生します。融資を受けるなら、金利も計算に入れて返済計画を立てなければなりません。
この記事では、創業時に利用できる公庫の融資制度6つとそれぞれの金利条件、公庫で融資を受けることのメリット・デメリットについて説明します。
資金調達の方法は、開業にあたり重要な課題です。創業融資における金利のしくみを理解して、しっかりとした資金計画を立てましょう。
目次
創業時に利用できる融資制度6つとその金利
公庫には融資の種類たくさんがありますが、ここでは創業時に利用できる融資制度6つをピックアップして解説します。
それぞれの融資制度でどれくらい金利がかかるのかを確認しましょう。
【新創業融資制度】
対象 | 融資条件 | 金利 |
・新たに事業を始める人 ・事業開始後、税務申告を2期終えていない人 | 3,000万円 (うち運転資金1,500万円) | 基準利率:2.41~2.90% 特別利率:1.51~2.50% |
【新規開業資金】
対象 | 融資条件 | 金利 |
・新たに事業を始める人 ・事業開始後おおむね7年以内の人 | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) | 基準利率:1.11~2.20% 特別利率:0.30~1.80% |
【生活衛生新企業育成資金】
対象 | 融資条件 | 金利 |
生活衛生関係の事業を営んでおり、 生活衛生同業組合等の実施する経営指導を受けていて、 生活衛生同業組合等の長の推薦を受けた人 | 設備資金:7,200万円~7億2,000万円 運転資金:5,700万円 | 基準利率:1.11~2.20% 特別利率:0.30~1.80% |
【女性・若者/シニア起業家支援資金】
対象 | 融資条件 | 金利 |
女性または35歳未満か55歳以上であり ・新たに事業を始める人 ・事業開始後おおむね7年以内の人 | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) | 基準利率:1.11~2.20% 特別利率:0.30~1.80% |
【挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)】
対象 | 融資条件 | 金利 |
創業・新事業展開・海外展開・事業再生等に取り組む中小企業・小規模事業者であって、 地域経済の活性化のために、一定の雇用効果が見込まれる事業、 地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組む方 | 4,000万円 (事業承継・集約・活性化支援資金をご利用の方は別枠4,000万円) | 0.95~6.20% |
【創業支援貸付利率特例制度】
対象 | 融資条件 | 金利 |
・新たに事業を始める方 ・事業開始後税務申告を2期終えていない方 | – | 各融資制度に定める利率 – 0.3% |
【出典:日本政策金融公庫公式ホームページ】
どの融資にも「基準利率」「特別利率」という2つの金利が設定されていますが、この「特別利率」というのは一定の条件を満たすことで適用される通常よりも低い金利のことです。
一般基準でも金利は3%程度と民間金融機関の融資に比べればかなり低く、さらに特別金利が適用されるとより低金利で融資を受けることができます。
金利はどう決まる?「特別利率」にも注目
ここでは公庫の融資における金利のしくみ・低金利で融資を受ける方法について説明します。
まず金利のしくみですが、これがわかると先ほど紹介した各制度の金利がどのように決まったのかがわかります。
各制度には基準利率・特別利率があると説明しましたが、それぞれ下記のように一定の利率が定められています。
(特別利率はD以降もありますが、ここでは省略しています)
担保を不要とする融資 | 担保を提供する融資 | |
基準利率 | 2.06~2.55% | 1.11~2.20% |
特別利率A | 1.66~2.15% | 0.71~1.80% |
特別利率B | 1.41~1.90% | 0.46~1.55% |
特別利率C | 1.16~1.65% | 0.30~1.30% |
そしてこの利率を基に、利用する制度によって適用される利率が決まります。
例えば新規開業資金は基本的に担保を提供する融資なので、基準利率が適用されると利率は1.11~2.20%になります。
一方、新規開業資金では特別利率A~Cまであるため、特別利率は0.30~1.80%の範囲で適用されます。
以上が公庫の融資における一般的な金利のしくみです。
さらに、次のような方法で金利を低くできる可能性もあります。
- 金利の低い特別利率の適用を受ける
- 担保を提供する
- 返済期間を短く設定する
- 経営者保証を付ける
順に解説していきます。
1. 特別利率の適用を受ける
【特別利率Aの条件】
- 地域おこし協力隊の任期を終了した人で、地域おこし協力隊として活動した地域で新たに事業を始める人
- Uターン等により地方で新たに事業を始める人
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受け、新たに事業を始める人
- 地域創業促進支援事業または潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受け、新たに事業を始める人
- 外国人起業活動促進事業における特定外国人起業家で、新たに事業を始める人
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資(転換社債、新株引受権付社債、新株予約権および新株予約権付社債等を含む)を受けた人
【特別利率Bの条件】
- 地方創生推進交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて新たに事業を始める人
【特別利率Cの条件】
- 地方創生推進交付金を活用した起業支援金および移住支援金の両方の交付決定を受けて新たに事業を始める人
【特別利率A~Cの条件】
- 技術・ノウハウ等に新規性がみられる人
【出典:日本政策金融公庫公式ホームページ】
上記のような条件を満たせば、特別利率A~Cの利率で融資を受けることができます。
ここでは新規開業資金を例にしましたが、特別利率の適用条件は制度によっても異なります。
それぞれ利用を検討している融資制度の場合はどのような条件になっているか、自分に当てはまるものはないか、融資を受ける際にあらかじめ確認しておきましょう。
2.担保を提供する
公庫の中にも、担保が必要な融資制度と担保不要の融資制度があります。
例えば新創業融資制度・挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)などは担保不要の融資制度ですが、担保がある方が貸し倒れのリスクが低いので、そのぶん金利は低くなるしくみになっています。
ちなみに新創業融資制度・挑戦支援資本強化特例制度を利用するときも、あえて担保を提供することで金利を下げることもできます。
無担保・無保証は各制度における大きなメリットですが、担保があることで金利は0.3~1%程度低くすることができるので、低金利で融資を受けるためにはあえて担保を用意するというのも一つの手段でしょう。
3.返済期間を短く設定する
公庫の融資に限らず、借入においては返済期間が長びくほど金利も高くなります。
例えば、新規開業資金の基準利率は1.11~2.20%と紹介しましたが、返済期間が短いほど1.11%に近い金利になるということです。
つまり返済期間を長くすれば月々の返済額を減らすことができますが、その分、金利は高くなります。
このことを踏まえ、月々の返済額と金利のバランスをよく考えて返済期間を決めるようにしましょう。
4.経営者保証を付ける
公庫には「経営者保証免除特例制度」というものがあります。
これは一定の条件を満たせば、経営者保証がなくても融資が受けられる制度であり、これを利用することで公庫の融資がさらに活用しやすくなります。
ただし、こちらの制度を利用して融資を受けると、元々適用されるはずだった金利に対してさらに0.2%上乗せされてしまいます。
ですから金利を少しでも下げたいのであれば、通常どおり経営者保証立てて融資を受けたほうがよいでしょう。
低金利だけではない!公庫で融資を受けるメリット
公庫の融資における金利について詳しく説明しましたが、基準利率であっても民間金融機関と比べれば公庫の融資は低金利です。
このように低金利であることは公庫で融資を受けるメリットのうちの一つですが、それ以外にも公庫の融資には様々なメリットがあります。
ここでは低金利であること以外の公庫で融資を受けるメリットをいくつか紹介するので、こちらもぜひ参考にしてください。
メリット.1 創業期でも融資が受けられる
公庫の融資の特徴は、創業間もないベンチャー企業でも将来性を考慮して融資をしてくれるということです。
これは公庫がもともと中小企業支援を目的とした公的機関だからです。
民間金融機関は、預金者から資金を預かり利益を上げなければならないので「利益になるかならないか」という視点で融資の可否を判断します。
そのため、実績のない創業期の融資は非常に審査のハードルが高くなっているのです。
対して、公庫では審査のハードルも低い上、無保証・無担保で受けられる制度もあります。
このような民間金融機関にはない大きなメリットがあるため、創業期に公庫の融資がよく使われているのです。
メリット.2 創業計画のブラッシュアップが受けられる
公庫は、これまでも民間金融機関では困難な融資に積極的に取り組んできました。
その中で起業に関する様々なノウハウが蓄積されており、どのような計画の下でどのように事業を展開していくべきなのか、経営者に対してアドバイスをすることができます。
創業期には経営者自身もわからないことが多いので、このような多くのノウハウを蓄積した第三者からのアドバイスはとても参考になります。
こうしたアドバイスを基に創業計画をブラッシュアップすれば、事業に成功する可能性をはより高まるでしょう。
メリット.3 審査は数字だけで判断されない
公庫は中小企業支援を目的とした機関なので、可能な限り融資を行いたいというスタンスをもっています。
そのため、売上などの目に見える数字だけで判断するのではなく、経営者の熱意や事業の可能性も考慮して融資をしてくれるのです。
例えば、自己資金の金額が多いことは単に貸し倒れリスクが低いということだけでなく、それだけ起業にかける思いの本気度が高いものと評価します。
また事業計画をしっかり作り込んでいれば、将来性にも考慮されるでしょう。
創業期には数字で実績を示すことが難しいので、審査を数字だけで判断しないというのも公庫の融資の大きなメリットと言えます。
メリット.4 民間金融機関からの融資を受ける呼び水になる
先ほど説明した通り、創業期に民間金融機関で融資を受けるのは難しいですが、公庫の融資が呼び水になり民間金融機関でも融資を受けられる可能性があります。
理由としては、「公庫が融資可と判断した」という事実が、企業に一定のお墨付きを与えることになるからです。
また、融資をきちんと期限までに返済することができれば、返済における実績を証明することもできます。
このようにまずは公庫の融資で実績を積み、その後に民間金融機関からの融資を受けるという戦略は実際によく行われています。
メリット.5 長期借入が可能
公庫の融資期間は融資制度にもよりますが、運転資金で最長7年、設備資金の場合は最長20年もの長期で融資を受けることができます。
これは、民間金融機関での融資がおおむね数カ月~数年以内であることと比較すると、非常に長期であることがわかります。
事業においては収支が黒字化するまでにある程度時間がかかるのが一般的で、短い期間で借入を返済するのはかなり厳しいものです。
そのため、長期借入により余裕をもった返済計画が立てられることは、起業する上でとても助けになると言えるでしょう。
公庫で融資を受けることのデメリット
公庫の融資にはメリットも多いですが、デメリットもいくつかあります。
公庫での融資を検討している方は、きちんとデメリットも押さえて融資を受けるかどうかを検討してください。
デメリット.1 どんな財務内容でも金利は同じ
通常、民間金融機関で融資を受ける場合、業績が良く貸し倒れリスクの低い企業ほど低金利で融資をしてくれます。
しかしこれまで説明してきた通り、公庫の融資は制度の内容や担保の有無などで金利が決まるため、創業後の業績がよいからといって金利が低くなるわけではありません。
このように財務内容では金利は変わらないということは、業績のよい企業からすればデメリットとなるでしょう。
デメリット.2 融資実行まで1カ月程度はかかる
公庫は融資において事業計画の内容や面接時の印象などを総合的に考慮し、融資の可否を決定します。
そのため検討にどうしてもある程度の時間が必要となり、多くの場合に申込から融資実行まで3週間~1カ月はかかります。
すぐに資金を調達したいという場合には、このような待ちの期間がデメリットとなるでしょう。
デメリット.3 提出書類が多い
公庫の融資は民間金融機関よりも審査のハードルが低いのがメリットですが、その分、融資申込時や面談時の提出書類が多いのがデメリットです。
公庫の融資は数字や実績ではわからない企業の将来性も考慮して融資をするため、どうしても必要な書類が多くなってしまいます。
これに関しては、ある意味で公庫の融資における厳しい点とも言えでしょう。
実際のところ、個人で融資に必要な書類を過不足なく揃えるのはかなり難しいことです。
できれば創業融資に詳しい専門家のサポートを受け、きちんと書類を揃えたうえで万全な状態で融資に臨むことをおすすめします。
以上、公庫で融資を受けるメリット・デメリットについて紹介してきましたが、これについては下記の記事でも詳しく説明しています。
また、創業融資を比較的受けやすい制度としては、公庫の創業融資の他にも保証協会の制度融資もあります。
公庫以外の融資にも興味がある方は、こちらもぜひ参考にしてください。
まとめ
公庫の融資における金利は基本的に民間金融機関よりも低いので、起業後の業績が安定するまでの期間でも返済がしやすいと言えます。
さらに特別利率を受けたり担保と提供するなどして、金利を下げることも可能です。
また、公庫の融資にはこのような低金利であるという点だけでなく、創業融資が受けやすかったり民間金融機関から融資を受ける呼び水になったりと、様々なメリットがあります。
提出書類が多いなどのデメリットもよく考慮したうえで、公庫の融資を受けるかどうかを最終的に判断してください。
必要な提出書類をきちんと過不足なく揃えるためには、専門家からのサポートを受けるというのも有用な対策です。
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