2021年6月4日に「プラスチック資源循環促進法」が参院本会議にて全会一致で可決されました。
小売業者や飲食店の経営者の中には、同法案の可決によってどのような影響があるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
こちらの記事ではプラスチック資源循環促進法の成立背景・概要から、同法が飲食業界に与える影響や今後、取り組むべき対策について解説します。
小売業者や飲食店には今回の法案成立は大いに影響があることなので、ぜひこちらの記事を参考にして今後の対策に活かしてください。
目次
「プラスチック資源循環促進法」が成立・その背景
環境問題は世界中で深刻化しており、世界各国では環境に配慮しつつ経済を持続的に発展させるべく様々な対策がとられています。
そんな中で、日本は世界の先進国の中でもプラスチック生産量が非常に多く、国民1人当たりのプラスチックごみ廃棄量は米国に次ぐ第2位。
つまり日本にとってプラスチックごみ対策は大きな課題になっているのです。
しかし、現在の日本は飲食業界でのテイクアウト需要の拡大などでプラスチックごみの排出量はさらに増加傾向にあり、プラスチックごみ対策はいまだ不十分であるというのが現状です。
そのような背景から、2021年6月4日に「プラスチック資源循環促進法」が成立。
2022年4月からの施行が決定したのです。
同法の成立によってプラスチックごみの削減のための規制が設けられ、プラスチック資源循環の促進を図ることを目指すことになりました。
「プラスチック資源循環促進法」の概要
プラスチック資源循環促進法では、プラスチックの資源循環の促進等を総合的かつ計画的に推進するため、次の事項に関する基本方針を策定しています。
- プラスチック廃棄物の排出の抑制、再資源化に資する環境配慮設計
- ワンウェイプラスチックの使用の合理化
- プラスチック廃棄物の分別収集、自主回収、再資源化
(出典:環境省 報道発表資料)
以上の基本方針に沿って個別に5つの措置事項が定められているので、その内容について順番に解説します。
プラスチック使用製品設計指針
製造事業者等が努めるべき環境配慮設計に関する指針を策定し、 指針に適合した製品であることを認定する仕組みを設けています。
認定製品を国が率先して調達するとともに、リサイクル材の利用に当たり設備への支援を行います。
ワンウェイプラスチックの使用の合理化
使い捨てのプラスチック製品である「ワンウェイプラスチック」の提供事業者(小売・サービス事業者など)が取り組むべき判断基準を策定することで、ワンウェイプラスチックを削減します。
これによってワンウェイプラスチック提供事業者がプラスチック排出量の抑制に向け取り組みを始めることが期待されますが、具体的にはストロー・プラスチックスプーン・フォークの有料化などが行われます。
市町村の分別収集・再商品化
プラスチック資源の分別収集を促進するため市区町村と再商品化事業者が連携して行う再商品化計画を作成します。
主務大臣が認定した場合には市区町村による選別・梱包等を省略し、再商品化事業者が実施することが可能になります。
製造・販売事業者などによる自主回収及び再資源化
製造・販売事業者等が製品等を自主回収・再資源化する計画を作成します。
また的確な回収・再資源化の計画を作成して実行できる事業者には規制緩和措置が適用され、プラスチック資源の循環利用が可能になることが期待されています。
排出事業者の排出抑制及び再資源化
排出事業者等が再資源化計画を作成し、排出抑制や再資源化等の取り組むべき判断基準を策定します。
主務大臣が認定した場合には廃棄物処理法の許可が不要になるため、民間ビジネスによる自主的な力が発揮されるよう期待されています。
促進法成立が飲食業界に与える影響は?
プラスチック資源循環促進法案が成立し、使い捨てストロー・スプーン等のプラスチック製品を無償で提供している飲食店などに対して、プラスチック製品の削減が義務化されます。
それでは飲食業界には具体的にどのような影響があるのか、削減義務の内容と従わない場合の措置・罰則について解説します。
飲食店に削減の義務化
削減が求められるのは、無料配布しているプラスチック製のストロー・フォーク・スプーンなどです。
削減のための具体的な対策としては今後省令等で定められるようですが、無料配布のプラスチック製品の有料化もしくは紙製・木製へ変更を求めるなどの措置が検討されています。
後述しますが、既に大手企業ではプラスチック削減のため様々な取り組みがなされていますが、未だ多くの飲食店では紙製・木製の製品導入にあたる品質や価格が障壁となり、切り替えが進んでいないのが現状です。
そのため削減の義務化によって徐々にこの流れは加速していき、今後は大手企業だけでなく業界全体でさらに削減の動きは普及していくでしょう。
従わない場合の措置・罰則
上記のようなプラスチック製品削減の義務化にあたり、プラスチック製品削減のための対策を行わない店舗には国からの指導・勧告・改善命令などが行われることとされています。
さらに指導・勧告・命令に従わず違反を繰り返した場合には、50万円以下の罰金が科されます。
プラスチック削減を始めている大手飲食企業の例
プラスチックごみによる環境問題意識が世界的に高まっている中で、今回の法案成立に先駆け既に様々な取り組みを実施している企業もあります。
そんな積極的な取り組みをしている企業の事例をいくつか紹介します。
スターバックス
スターバックスはアメリカ初の世界的に有名なコーヒーチェーンですが、以前から再利用可能なカップやマイタンブラーの利用を促進するなど環境保護対策には積極的に力を入れています。
2020年1月からはプラスチックストローから紙ストローへの変更を開始し、年間約2億本分ものプラスチックストローを削減しました。
他にもプラスチックカップ・リッドも順次ペーパーカップやストローレスのリッドに変更するなどの対策がなされており、スターバックスはプラスチックの削減に大きく貢献しています。
マクドナルド
マクドナルドもプラスチックごみの削減にいち早く取り組んでいる企業の一つです。
例えば、持ち帰り商品にはプラスチックバックではなく紙袋の使用を基本としていたり、2016年よりすでにアイスコーヒーのカップをプラスチックから紙に変更しています。
また2019年内にイギリス・アイルランドでプラスチック製のストローから紙製のストローに切り替えることを発表し、2025年までにはプラスチック製ストローの全廃を目標としています。
さらにハンバーガーの包装紙やパッケージなどをリサイクル可能な資源に切り替えるなど、マクドナルドでもプラスチック削減のための様々な取り組みを見せています。
シャトレーゼ
菓子メーカーの「シャトレーゼ」は、2021年4月よりプラスチックスプーンを1本2円に有料化しました。
プラスチックスプーンの有料化は現在、国でも検討段階なので、シャトレーゼの取り組みは他社に先駆けいち早く取り組んだ事例と言えるでしょう。
シャトレーゼは同時期に木製スプーンも1本2円に有料化しており、2030年までにプラスチック製品50%の削減を目標として取り組みを進めています。
すかいらーくグループ
大手外食チェーンのすかいらーくは「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」など有名な外食チェーンをいくつも運営していますが、すかいらーくでは2018年にプラスチック製ストローの廃止を発表して2019年7月末にはグループ全店で廃止を完了しました。
また2020年8月より順次、系列のレストラン全店において竹割り箸の包装をプラスチックから紙へと変更しています。
その他にも2019年12月にはプラスチック製のレジ袋をバイオマスプラスチックに変更するなど、様々な取り組みでプラスチック削減対策に力を入れているのです。
セブンイレブン
コンビニエンスストア最大手のセブンイレブンですが、「セブンカフェ」ではスターバックス同様プラスチックカップやストローを使用するため同社でもプラスチックごみ削減の取り組みを進めています。
例えばストローを環境配慮型の素材へ変更し、ホットカップの外側のスリーブ部に間伐材を使用しています。
また、アイスカップにはリサイクルPETを配合した素材を使用するなど、様々な対策が行われています。
そのほかにも、できる限りプラスチック製品を軽量化するといった資源削減のための工夫をしており、プラスチックの全面廃止とまではいかなくとも環境に配慮した取り組みを進めていることがわかります。
今後、飲食店が取り組むべき対策は?
大手の飲食企業の事例を紹介しましたが、法案成立により今後は全ての飲食店でプラスチック削減の取り組みを進めていかなければなりません。
それでは具体的にどのような対策が必要になるか、いくつか例を挙げて紹介しましょう。
使い捨てフォーク・スプーンを紙製や木製のものへ変更
既に説明した通り、プラスチックごみの削減がすべての飲食店に義務化されるため、今後はプラスチック製の使い捨てストロー・フォーク・スプーンなどを紙製・木製へ変更しなければなりません。
もっとも多くの飲食店ではコストの問題などでほとんど対策に手が回っていないので、切り替えはなかなか進まないことが予想されます。
一方、メーカー側もこの流れに対応すべく、紙製・木製の使い捨て製品開発を進めています。
例えば長時間飲料に浸しているとふやけてしまう紙ストローの難点を解消するため、間伐材を薄くスライスして巻きあげた木製のストローが開発されました。
こうしたメーカー側の努力にもよってコスト面の改善も進めば、今後さらにプラスチック削減の取り組みは進んでいくことでしょう。
プラ容器を自然素材の製品に変更
プラスチック製品を紙製・木製に代替するということの他に、自然素材の製品に変更するという手段もあります。
具体的には生物由来の資源を原料にしたプラスチックである「バイオマスプラスチック」を使用することです。
バイオマスプラスチックとは再生可能な生物由来の資源を原料にしたプラスチックのことであり、トウモロコシ・サトウキビ・トウゴマなどを原料として作られます。
再生可能なので資源が枯渇することはなく、温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出も抑えることができるため、同じプラスチックであってもバイオマスプラスチックを利用すれば環境負荷をおさえることができるのです。
ホット・アイス兼用のペーパーカップの導入
ペーパーカップの事例では、スターバックスがホット・アイス兼用のペーパーカップの導入を開始したことが有名です。
アイスドリンクを紙のカップにすると結露によって紙がふやけてしまうという問題がありますが、スターバックスでは内外両面にラミネート加工を施すなどの工夫によってこの難点を克服しています。
先ほど紹介したようにスターバックスはプラスチック削減に積極的な取り組みを実施している企業の一つなので、このような例にならって同様の取り組みを検討してみるのもよいでしょう。
取り組みアピールでイメージアップ
プラスチックごみ削減のための対策には時間やお金などのコストもかかるため、取り組みを進めていくことは飲食店にとって大きな負担になるでしょう。
しかし、環境問題に対する意識の高まりは消費者にも浸透しており、環境問題に真剣に取り組むことで消費者からの信頼を得られる効果もあるのです。
プラスチック製品の有料化や削減義務化には今後対応していかなければなりませんが、各自が工夫して取り組みを進めれば自社の宣伝効果にもつながります。
環境問題への対策は社会全体で見ればプラスになることなので、目先の利益だけでなく広い視点で対策に力を入れましょう。
このように環境と経済を両立させる意識をもって飲食店を経営することは、今後の飲食店経営においてとても重要なポイントになると考えられます。
まとめ
世界中で環境問題が深刻化している中、環境問題対策の一環としてプラスチック資源循環促進法が成立しました。
今後、飲食店には無料配布のプラスチック製品の有料化や紙製・木製への変更などプラスチック削減対策が義務化され、指導・勧告に従わない場合には50万円以下の罰則も課されます。
現在、飲食業界はコロナ禍の影響も特に大きく、業績が厳しい中、今後はプラスチック削減対策にも追われることになり、経営は一層困難になることが予想されます。
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