赤字が積み重なって倒産する。
これが一般的な「倒産」のイメージだと思われます。
ですが実際には、毎月利益が出ているのにもかかわらず、債務の返済が滞って経営が成り立たなくなるケースもあります。
それが今回解説する「黒字倒産」という現象です。
どのような企業でも黒字倒産してしまう危険があります。
黒字倒産を回避するためには原因を正しく理解して、きちんとした対策をとらなければなりません。
本記事では黒字倒産とは何か、原因は何かや、黒字倒産を防ぐための対策や注意点、そして経営者がとるべき資金繰り対策まで解説します。
経営においては利益ばかりに捉われがちですが、この機会に資金繰り対策や黒字倒産の知識もしっかり身に付けておきましょう。
目次
黒字倒産とは
帳簿上は利益が出ているにも関わらず、倒産してしまうことを指して「黒字倒産」と呼びます。
それではなぜ黒字で利益が出ているにも関わらず、会社は倒産してしまうのでしょうか。
ここではなぜ黒字倒産が起こるのかということについて、通常の赤字倒産と比較しながら解説します。
そもそも倒産とは
倒産とは、破産法・民事再生法などの倒産法に基づき法的整理手続を開始することです。
ただしこれは法律上の定義であり、一般的には赤字経営によって会社の財務状況が悪化し、債務の返済ができなくなる状態のことを倒産といいます。
このように法律上の倒産と一般的に使われる倒産は意味が異なるので、両者を区別するために、特に一般的に使われる倒産のことを「事実上の倒産」と呼ぶこともあります。
黒字倒産と通常の倒産(赤字倒産)の違い
通常の倒産は、赤字が続いて会社の財務状況が悪化し、債務の支払いが滞ることで起こるものです。
しかし黒字倒産の場合、会計上はきちんと利益が出ているにもかかわらず、債務の返済ができなくなってしまうのです。
なぜこのようなことが起こるのかというと、その原因は入金と出金のタイミングのズレにあります。
例えば、300万円の商品の売り上げと200万円の仕入れが同じ月に発生したとしましょう。
その場合、会計上は以下の計算式で100万円の利益が計上されます。
300(売上)-200(仕入)=100万円
しかしここで売上代金は翌月払い、仕入れ代金は同月払いだったとします。
その場合、その月に実際に動くお金の流れとしては、以下のとおり200万円のマイナスになるのです。
0(売上)-200(仕入)=-200万円
例え会計上の利益は黒字になっていたとしても、手元の現金が底を付けば債務の返済をすることはできません。
このように、会計上の利益と現実のお金の動きは必ずしも一致しないため、入金と出金のズレによって債務が返済できなくなることで黒字倒産が起こるのです。
どのような場合に会社は倒産するのか
会社が倒産するのには、いくつかの共通する原因があります。
どのような場合に会社が倒産するのか、倒産の原因を5つ紹介します。
販売不振
会社にとって売上は収益の源泉であるため、販売不振で売上が減少すれば当然収益も減少します。
そして、収益が減って赤字経営が続くと債務の返済もできなくなり、やがて最終的には倒産となります。
販売不振の原因としては、競合からシェアを奪わることや業界の衰退などさまざまなことが考えられるでしょう。
中小企業庁が令和3年8月に株式会社東京商工リサーチの調査の結果を取りまとめたデータによれば、販売不振は中小企業が倒産する原因の約7割を占めています。
つまり、多くの中小企業は販売不振を原因として倒産するのです。
連鎖倒産
連鎖倒産とは取引先の倒産が影響して自社も倒産してしまうことで、収益が特定の取引先に依存していると起こりやすい傾向にあります。
また、仕入が特定の取引先に依存している場合も、代わりになる取引先がみつからなければ連鎖倒産の原因になり得るでしょう。
東京商工リサーチの調査の結果によれば、連鎖倒産は中小企業が倒産する原因のうち3番目に多い原因です。
連鎖倒産を避けるためには、できる限り取引先を分散させるなどのリスク対策が必要です。
設備投資が過大
過大な設備投資をすると手元資金の余裕がなくなってしまい、一時的に資金繰りが悪化します。
企業の成長に設備投資は欠かせないため、積極的に設備投資すること自体は悪いことではありません。
しかし設備投資が収益につながるまでには時間がかかるので、一時的に手元資金が減少して経営が苦しくなるリスクもあります。
設備投資をする場合には、投資と手元資金のバランスが大事なのです。
債権回収を怠った
会社間の掛取引や商品販売時のクレジット決済など、事業を営むうえで代金後払いの取引はよくあることです。
このような代金後払いによって発生する債権の回収を怠ると、資金繰りが悪化します。
利益が出ていることに安心して債権回収を怠りがちですが、どんなに利益が出ていても未回収債権が増えると倒産する危険が高まります。
そのため債権回収は軽視することなく、きちんと対策をとらなければなりません。
在庫状態の悪化
在庫は資産ではあっても現金のように代替性がないため、過剰在庫はキャッシュフローの悪化につながります。
そのため在庫を大量に抱えると資金繰りが悪化し、黒字倒産の原因になるのです。
在庫状態の悪化は、ずさんな在庫管理や収益性を見誤ったことが原因で発生します。
在庫が足りなくなると収益が得られる機会を失うため、つい在庫過剰に陥ってしまいます。
しかし、在庫状態の悪化は倒産につながるほど危険なことなので、適切な在庫管理を保つことが重要です。
黒字倒産を防ぐための対策
黒字倒産を防ぐためには、いくつかの有効な対策があります。
ここでは黒字倒産を防ぐための対策について2つ紹介します。
売掛金の管理
売掛金とは代金後払いで販売した商品の代金、つまり債権のことです。
商品を販売すれば売り上げになるので、会計上は利益が計上されます。
しかし、債権を未回収のまま放置しておくと手元に現金が入らないため、キャッシュフローは悪化してしまうのです。
売掛金を適切に管理せず債権回収を怠ると、黒字倒産につながる危険があります。
黒字倒産を防ぐためには利益をあげるだけでなく、キャッシュフローを意識して売掛金の管理をきちんとおこなうことも大事なのです。
在庫の管理
在庫状態の悪化は黒字倒産の原因であるということを説明しました。
このような在庫状態の悪化を防ぐためには、適切な在庫管理をする必要があります。
在庫不足は収益の減少につながりますが、だからといってただ在庫を増やせばよいというわけではありません。
会計上では在庫は資産として考えます。
しかし、これはあくまで帳簿上の資産であって現金ではないため、過剰な在庫はキャッシュフローの悪化につながります。
常に適切な在庫を保つことを心掛け、手元資金をできるだけ確保しておくようにしましょう。
また、売れない商品を大量に仕入れてしまうことも在庫状態の悪化の原因になるので、仕入れの際は商品の収益性も意識することが重要です。
こんな会社は黒字倒産に注意!
黒字倒産は、通常の赤字倒産とは違う原因によって起こります。
ここでは黒字倒産してしまう会社の特徴について説明するので、一つでも自社に該当するものがある場合には注意してください。
手元資金が少ない
黒字倒産の直接的な原因は、手元資金が少ないということです。
どんなに利益が出ていても手元資金が少なければ資金繰りは悪化し、資金ショートを起こしてしまうのです。
特に売り上げが増加した月は仕入れや人件費がかさむことも多いので、手元資金が急激に減少する可能性があります。
黒字倒産を防ぐためにはまず、出来るだけ多くの手元資金を確保しておかなければなりません。
売上の入金タイミングが遅い
黒字倒産は入金と出金のタイミングのズレが原因で起こります。
そのため売上の入金タイミングが遅いことも、黒字倒産の原因になり得ます。
キャッシュフローを健全化して黒字倒産を防ぐためには、取引時にできる限り入金のタイミングを早めるよう交渉しましょう。
もっとも、企業間の取引においては掛取引が一般的なので、ある程度入金のタイミングが遅くなることは避けられません。
そのため入金が遅くなることをあらかじめ想定したうえで、仕入れや設備投資を調整することも大事です。
支出タイミングが早い
支出のタイミングが早いことも、入金と出金のタイミングのズレを生じさせる原因になります。
そのため入金のタイミングが遅いことと同じ理由で、支出のタイミングが早いことも黒字倒産のリスクを高めます。
支出のタイミングが早いかどうかは入金のタイミングと相対的に決まるので、入金と出金を合わせて管理することが大事です。
売上が特定顧客に依存している
売上が特定顧客に依存していると、その顧客からの支払が遅れるだけでキャッシュフローが急激に悪化し黒字倒産のリスクが高くなります。
また、顧客や取引先の偏りは連鎖倒産を招く危険もあるので、顧客や取引先はできるだけ分散しておく方がリスクは軽減できるでしょう。
黒字倒産を回避するには
黒字倒産を回避するためには、きちんとした対策が必要です。
黒字倒産を回避するための方法を紹介するので、ぜひ実践してみましょう。
入金サイクルを早くする
キャッシュフローを管理して入金と出金のズレを把握したら、まずは入金サイクルをできるかぎり早めることを意識しましょう。
入金サイクルを早めればキャッシュフローは改善し、資金ショートのリスクを回避できます。
具体的な対策としては、掛取引時にできる限り入金を早めるよう交渉することです。
また、商品の販売を現金払いのみにすることも、入金サイクルを早める対策になります。
もっとも、掛取引においては取引先の都合があるし、商品販売ではクレジットカード・キャッシュレス決済の導入による集客効果も無視できません。
そのため入金のタイミングは資金繰りの都合のみで決めず、バランスを考えて柔軟に対処することが大事です。
出金サイクルを遅くする
出金サイクルを遅くすることもキャッシュフロー健全化につながり、資金ショートを回避する効果があります。
具体的な対策としては、仕入れ業者との取引にカード払いや月払いをお願いしたり、スタッフの給料支払日を月末に調整するなどの対策が考えられます。
これらの対策もやはり取引先や従業員の都合もあるため、資金繰りの都合のみで決めず柔軟に対応できるようにしましょう。
利益だけでなくキャッシュフローを把握
利益が出て黒字経営になっているとつい安心してしまいがちですが、黒字倒産を防ぐためにはキャッシュフローを把握することが肝心です。
そのためには帳簿をしっかり管理して、お金の流れを把握しなければなりません。
おおまかに売上と支出を把握しているだけでなく、売上が現金として入ってくるタイミングや固定費・変動費など支出のタイミングをきちんと把握しましょう。
このような適切な資金管理をすることで資金繰りに余裕ができ、黒字倒産を防ぐことができるのです。
毎月どれくらいのお金が入りどれくらいのお金が出ていくのか、損益がマイナスになって支払が滞りそうな日はないかといったことに関しては、日頃からきちんと把握しておくようにしましょう。
資金調達
資金繰りが悪化しているときは、手元の現金を増やすために資金調達をすることも考えましょう。
資金調達手段としては、融資や助成金・補助金などいくつかの方法が考えられます。
融資であれば金融機関や日本政策金融公庫、助成金・補助金であれば国や自治体にさまざまな制度があるので、どこから資金調達をするのか検討しましょう。
助成金・補助金は基本的に返済不要なので、活用できるものは積極的に活用してください。
利益率の改善
利益率とは、売上に対する利益の比率のことです。
利益率=利益÷売上×100(%)
売上に対して利益が大きいほど利益率が高くなり、利益率が高いほど会社の収益性があると判断できます。
黒字倒産を回避するためには単純に利益の額だけをみるのではなく、利益率が高いかどうかも意識しましょう。
ちなみに利益といっても営業利益・売上総利益・経常利益などさまざまな種類があります。
目的に合わせて用いる指標を使い分けることで、より詳細に利益率を分析することができます。
負債を少なくする
会社が最終的に倒産するのは、債務の返済が不能になったときです。
つまり負債をできる限り少なくすれば、倒産のリスクを軽減することができるのです。
また、負債が多いと月々の返済に手元資金が圧迫され、資金繰りも厳しくなります。
そのため融資を受ける際は会社規模や利益の大きさから考えて、負債を適切な額に抑えることが大事なのです。
経営者が取るべき「資金繰り対策」
黒字倒産には資金繰りの悪化が大きく影響するので、黒字倒産を避けるためには資金繰り対策が重要です。
経営者が取るべき資金繰り対策について解説します。
キャッシュフロー計算書のチェック
キャッシュフロー計算書は現金の期末残高を計算するためのものであり、決算においても重要な書類のうちの一つです。
キャッシュフロー計算書では、以下の計算式で現金の期末残高を算出します。
現金期末残高=期首の現金残高+(期中の現金増加額-期中の現金減少額)
キャッシュフロー計算書を使えば、現時点で手元にある現金の額を把握することができます。
資金繰り対策においては利益の額よりもキャッシュフローの管理が重要なので、キャッシュフロー計算書のチェックは欠かさずおこないましょう。
資金繰り表を作成する
お金の流れを把握できていないと、資金ショートを起こしたり黒字倒産したりするリスクがあると説明しました。
このようなリスクを避けるためには、資金繰り表を作成して損益を管理することが有効な対策になります。
資金繰り表とは、資金の流れを管理して将来の手元資金を計算する表のことです。
資金繰り表を作成するなら月ごとの損益を管理する「月次資金繰り表」だけでなく、日単位で細かく入出金を管理できる「日繰り表」作成してより正確に資金繰りを把握しましょう。
もし損益がマイナスになる日が1日でもあるのなら、どのように資金を融通するかをあらかじめ考えておき、事前に対策ができれば資金ショートを起こすリスクは最小限に抑えることができるでしょう。
過剰な設備投資や仕入れに注意する
過剰な設備投資は手元資金の減少につながるため、資金ショートを起こして倒産する危険があります。
また、同じ理由で過剰な在庫も資金繰りが悪化して倒産のリスクを高めるので、在庫管理と収益性の把握に努め、最小限の在庫で利益を最大化することを考えましょう。
ただし設備投資や仕入れは将来の予想を含むので、結果的に過剰になってしまうこともあり得ます。
そのためできる限り適切な管理を心掛け、過剰になったときでも資金ショートしないよう日頃から手元資金に余裕を持たせておくことも大事なことです。
必要に応じて融資を受ける
資金需要を完全に予測することはできないので、どんなに慎重な経営をしていても手元資金が不足するということが起こり得ます。
そんなときは融資を受けることも検討しましょう。
融資は負債なので安易に利用するべきではありませんが、必要に応じて融資を活用することで経営も安定します。
きちんと黒字経営をしている企業であれば、一定額の融資を受けることも可能です。
利益はきちんと出ているのに一時的に資金繰りが困難になったときは、一度融資を受けてみるという手段も検討してください。
まとめ~倒産回避の資金繰りもBricks&UKにおまかせ~
黒字倒産は入金と出金のタイミングのズレにより、資金繰りが悪化することによって起こります。
入金のタイミングが遅い、あるいは支出のタイミングが早いために手元資金が少ないという場合には注意しましょう。
また黒字倒産を避けるためには、利益だけでなくキャッシュフローをしっかり管理することが重要です。
お金の流れを適切に把握することで、資金繰りの悪化を防ぐことができます。
キャッシュフロー計算書のチェックや資金繰り表の作成をしっかり行ってください。
場合によっては融資による資金調達も必要になるでしょう。
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