飲食業界でも浸透してすでに定番サービスとして定着した感もある「サブスク(サブスクリプション)サービス」。
牛角や令和納豆など、サブスク導入の失敗事例として大きく取り上げられましたから、「導入してみたいけど、自分のお店でも同じようになってしまうんじゃないか…」という不安はつきまとってきるはずです。
サブスク導入を成功させるには、どんな対策が必要なのでしょうか?
本記事では、飲食店のサブスク導入についてメリット・デメリットや実際の導入事例、成功させるポイントなどについて解説します。
目次
サブスクリプション(定額課金)サービスとは
そもそもサブスク(サブスクリプション)とは、毎月決まった料金を支払ってサービスを継続利用するビジネスモデルを指します。
Apple MusicやNetflix、Amazonプライムなどのサービスがサブスクモデルとして有名なところでしょう。
これらのサービスは、毎月数千円の利用料を支払えば音楽や映画が見放題になったり、いくら注文しても配送料がかからなかったりという恩恵を受けることができます。
これまでは前述のようにオンラインサービスを中心に使われていたサブスクモデルですが、近年では実店舗でも活用が進んでいる注目度の高いビジネス形態となっています。
実店舗でも導入が進むサブスクサービス
実際に実店舗で導入されているサブスクサービスとしては、次のような事例が代表的です。
- 美容院:月額プランでカットやヘッドスパに通い放題
- コインランドリー:月額会員制で利用し放題
- スポーツジム:月額定額でパーソナルトレーニングが通い放題
- 飲食店:月額定額で既定のメニューが注文し放題
これまでは1回利用するごとに料金がかかっていたビジネスモデルを、毎月の継続課金に置き換えている形です。
なぜこうしたサブスクモデルが最近導入され始めているのか、導入することでどんなメリットがあるのかを見ていきましょう。
飲食店のサブスクビジネスモデル3パターン
飲食店でサブスクが導入される場合、次の3つのビジネスモデルに分類することができます。
それぞれの具体的な内容を解説していきましょう。
1. 定額使い放題・無料サービス
- 月5,000円支払えば、系列店舗の居酒屋で何度でも飲み放題
- 月1,000円支払えば、平日1杯ビールが無料
- 月10,000円支払えば、平日1杯ラーメンが無料
こうした事例のように、毎月一定額を支払えば食事が食べ放題になるというビジネスモデルがよく導入されています。
「使い放題」や「無料」というフレーズは消費者にとってはインパクトが大きく、お店に通う強い動機になることは間違いありません。
2. 割引サービス
- 月500円支払えば、毎回会計から100円引き
- 期間中に200円支払えば、牛丼が70円引き
- 期間中に300円支払えば、天ぷらが一品100円引き
毎月の課金ではなく、キャンペーン期間中に割引パスポートを発行して、割引サービスを用意するビジネスモデルもあります。
「期間中なら何度でも利用可能」というメリットを打ち出すことで、消費者に来店を促す効果が期待できます。
3. 会員限定サービス
- 年会費を1,5000円支払えば、コース料理を通常の半額で提供
- 月30,000円支払えば、何度来店して飲食しても無料
- 月4000円支払えば、カレーが1日1杯無料
会員制の飲食店は、サブスクが登場する以前から珍しくないビジネスモデルでした。
特に高価格路線の飲食店では、年会費を支払ったり、招待を受けないとお店に入れないというルールを設けていることも珍しくありません。
「一般人が簡単には食べられない」という付加価値を提供することにより、客単価を上げることに成功したビジネスモデルと言えます。
飲食店でサブスク導入するメリット
飲食店がサブスクモデルを導入するメリットは、次の4つが挙げられます。
メリット.1 安定した収入源の確保
サブスクを導入すると、従来のビジネスモデルと比べて売上が安定しやすくなるメリットが得られます。
というのも、サブスクを購入してくれるお客さんは、リピートしてもらえる可能性が非常に高く、しっかりと付加価値を提供していればサブスクの会員数も大きく増減しませんから、ほぼ固定収入としての売上を期待できるようになります。
サブスクの料金が5,000円で、月に100人程度の会員数が見込める場合、月50万円の売上はほぼ確定した売上と見込めます。
天候や曜日による売上のばらつきを抑え、安定した売上で事業リスクを低減することができるわけです。
メリット.2 新規集客力の向上
サブスクを導入することで「使い放題」「無料」「割引」など、消費者へのメリットを打ち出せば新規客の集客効果も期待できます。
「話題になっているから、試しに寄ってみよう」という気持ちを促し、新規顧客を獲得できる可能性がアップします。
サブスクというとリピート利用による売上アップ効果が注目されがちですが、こうした新規集客力の向上も大きなメリットです。
メリット.3 リポート客の獲得
新規顧客だけではなく、リピート客が増えることもサブスク導入のメリットです。
実際にサブスクモデルを導入した後、来店回数が増加したというケースが多く見受けられます。
サブスクで月額費用を支払うと「お得に利用し続けたい」という動機につながりますから、来店頻度が高まる可能性がアップします。
さらに「ついで買い」を促し、客単価が上昇する効果も見込めるでしょう。
メリット.4 顧客情報の活用がしやすくなる
マーケティング上のメリットで言えば、顧客情報を獲得できることが大きな利点になります。
飲食店の場合、お客さんの属性を把握するのが非常に困難で、ポイントカードを作って個人情報を得るなどのやり方以外では、なかなか精度の高いデータを集めることができません。
その点サブスクモデルの場合は申し込みの際、顧客情報を入力しますので、必然的に名前や連絡先が入手できることになります。
その結果、お客さんの属性データを集め、「30代女性が多いので、この層向けのメニューを増やそう」といった商品開発にも活かすことができるのです。
これは長期的な経営戦略を考える上では、非常に大きなメリットになることでしょう。
飲食店でサブスク導入するデメリット
サブスクを導入することには当然デメリットも存在します。
具体的には、以下のようなデメリットが考えられます。それぞれ解説していきましょう。
デメリット.1 決済システムなどの導入コストが発生
サブスクを導入するにあたっては、継続課金してもらうための決済システムを用意しなければなりません。
これまでは店頭支払いだけに対応すればよかったところが、決済の手間やコストが増えてしまうわけです。
システムの導入には初期費用もかかりますし、クレジットカード決済やスマホ決済を新たに導入する場合、ランニングコストとして手数料も差し引かれることになります。
こうした費用をしっかり回収できるだけの見込みがあるのか、サブスク導入前にしっかり吟味する必要があります。
デメリット.2 トラブルやクレームの危険性
サブスクを導入することによって、トラブルやクレームが増加する危険性もあります。
「無料だと思っていたのに、条件付きだなんて聞いてない!」とお客さんの怒りを買い、ネガティブな口コミや評判が広がる可能性もゼロではありません。
サブスク目当ての新規客が急増した結果、常連客が利用しずらくなるなど不公平感が生まれれば、長くリピートしてくれていたお客さんが離れてしまうリスクも否定できないでしょう。
サブスク導入前には、きっちりとルールや規則を明文化し、お客さんごとに不公平感が生まれないような仕組みを考えることが必要です。
デメリット.3 赤字にならないよう価格設定に注意
お客さんにとってのお得感を追求するあまり、「サブスクを売れば売るほど赤字になる…」というパターンもよく聞く話です。
そもそもサブスクモデルは、最初のうちは赤字覚悟でスタートし、長期的に黒字を目指していく戦略になります。
なので初期の頃の損失をカバーするできるだけの体力が必要になり、経営がギリギリの状態で始めるべき戦略ではありません。
デメリット.4 サービス品質の低下リスク
サブスク導入によってコストが増加し、さらに損失をカバーするできるだけの資金力がない、来店客の増加に満足な接客対応が出来ない、などサービスの質の低下につながることがあります。
「サブスクを始めてお客さんが増えてから、なんだか味が落ちたよね」という口コミが広がってしまえば、既存客離れにもつながってしまいます。
流行りのビジネスモデルだからといって安易に飛びつくのではなく、しっかり計画を立てて始めることが重要になるでしょう。
飲食店でのサブスクのビジネスモデル事例
現在、導入されている飲食店のサブスク事例を取り上げます。
実際に活用されているサブスクのビジネスモデルを知ることで、具体的なサービス形態のアイデアにつながるはずです。
串カツ田中
全国展開する居酒屋「串カツ田中」では、「田中で飲みpass」というサブスクサービスを提供しています。
月額550円の定期券を提示することで、1杯490円以下のドリンクが250円で注文可能。
一見するとお店側が不利なサブスクのように感じられますが、グラス交換制としていたり、本人1人にのみ適用されるルールになっていたりと、しっかりと利益を確保する工夫が感じられます。
COFFEE MAFIA
西新宿に店舗を構える「COFFEE MAFIA」は、サブスク型コーヒーショップを売りにしているお店です。
- LIGHT会員:2,000円
- STANDARD会員:4,800円
- PREMIUM会員:6,500円
このように3段階の会員システムとなっていて、クラフトティーが1日1杯無料のプランから、すべての対象ドリンクが1日2杯無料になるプランまで用意されています。
一人ひとりのライフスタイルに合わせて利用できる仕組みなっているため、幅広い客層にアプローチできそうです。
飲食店でサブスク導入する際の注意点
「自分のお店でもサブスクを導入しよう」と思った場合には、いくつかの落とし穴に注意する必要があります。
サブスクを導入したばかりのお店でつまずきがちなポイントを挙げて、それぞれ解説します。
初期費用をはじめとしたコストが必要
サブスク導入には、初期費用やランニングコストを含め、さまざまな費用が発生します。
そうした費用も込みで、きちんと利益が出せるのかを計算しておく必要があります。
サブスク会員が伸び悩んで赤字続きになってしまった場合のリカバリー策も用意しておくべきでしょう。
計画的な在庫管理
食べ放題や飲み放題のサブスクを導入したにもかかわらず、品切れで提供できない状態になってしまえば、顧客満足度が一気に下がります。
サブスク対象の商品は徹底して在庫管理する必要がありますし、万が一在庫切れを起こしてしまった場合には、代わりのクーポンを追加で発行するなど、顧客満足度を下げない工夫も必要です。
飽きさせないサービス開発
サブスクを導入することで来店頻度が増えるメリットがありますが、毎日お店に同じメニューしか並んでいなければ、いつかは飽きられてしまいます。
常に来店を促すために新しいメニューの開発を続けなければいけません。
大事なのは、安定した質で提供する定番メニューと、期間限定などで提供する新メニューをバランスよく用意しておくことです。
飲食店でサブスク導入を成功させるポイント
最後に、飲食店のサブスク導入を成功させるために押さえておきたいポイントを3つ紹介しましょう。
サブスク自体を主力サービスにしない
サブスクサービスはあくまでも商品提供の一形態であり、主力サービスとすべきものではありません。
もちろんサブスク型コーヒーショップの「COFFEE MAFIA」のように、最初からサブスクだけを提供すると割り切ってしまうのは、1つの戦略として有効です。
しかし、サブスクを中途半端に売り込んでしまうのは逆効果です。
サブスクが頓挫した場合のリカバリーも困難になりますから、1つのオプションとして提供する形がベストです。
損益分岐点を把握し赤字に注意する
サブスクを導入する際には、損益分岐点を把握することも重要になってきます。
例えば1杯1000円のラーメンを、1ヶ月10,000円で食べ放題のサブスクを始めるとしましょう。
この場合、サブスクを利用するお客さんが平均で月10杯以上注文すると、赤字になってしまう計算です。
もちろんトッピングなどで「ついで買い」が発生する場合は黒字化も見込めるでしょう。
ただ、実際にサブスクを始める際には、現在のお客さん一人当たりの来店頻度がどれくらいで、サブスク開始でどれくらい増える見込みで、「ついで買い」はどれくらい発生するのかをしっかり計算するべきです。
収益を挙げられなければ、赤字が続いて味が落ちてしまう結果にもなりかねません。
トラブル・クレームに注意
サブスク導入後の見通しが甘いと、お客さんからのクレームが多発したり、トラブルが発生したりする元になってしまいます。
実例としては、人気すぎて発売後1ヶ月で終了してしまった牛角の「焼肉食べ放題PASS」は、サブスクの利用客が多すぎて一般客が来店できず、発売中止に追い込まれました。
他にも、「納豆ご飯セット一生涯無料パスポート」をクラウドファンディング上で発売した令和納豆は、パスポートの没収騒動がSNS上で拡散されるなどのトラブルに巻き込まれ、2021年7月には活動休止を発表しています。
このようにサブスク導入が原因で大きなトラブルに直面してしまう事例もありますから、まずはお試しや期間限定で販売してテスト期間を設けるなど、事前に対策しておくと安心でしょう。
まとめ
サブスク導入には売上の安定化や集客力の向上など、さまざまなメリットがあります。
その一方で、トラブル・クレームに巻き込まれる可能性や、赤字から抜け出せなくなるなどのデメリットも存在します。
ここで紹介した注意点を押さえつつ、成功のポイントを実践してサブスクビジネスを成功に導いていきましょう。
なお、当サイトを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、これまで多くの起業家・経営者をサポートした実績を持ちます。
飲食店の開業資金の調達から、収支計画書の策定など、経営コンサル・集客支援まで一貫してお手伝いしていますので、ぜひお気軽にご相談ください。