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「半沢直樹 第四話」の解説・今後の考察※ネタバレ注意
第四話は、ドラマ「半沢直樹」の前半部分(原作の『ロスジェネの逆襲』分)の結末になります。
電脳雑技集団と東京スパイラルの買収劇は、どう決着したのでしょうか。
第四話の焦点は、電脳の粉飾決算が半沢直樹の活躍により明るみにされたことで、三笠副頭取や伊佐山を追い落とす展開になっています。
今回は、第四話のテーマである「粉飾決算」についての劇中の描写の解説と、実際、過去に起こった事例を紹介しながら、どうしてこのようなことをするのか、その理由と背景、リスクについてご紹介していきたいと思います。
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半沢直樹セカンドシーズン第四話のあらすじ
今回の買収劇のカギを握る、電脳の財務担当・玉置に接触しようとする半沢と森山。
そこに現れたのは電脳の社長・平山夫妻でした。
平山夫妻は、玉置が「一身上の都合」で辞めたことを告げます。
半沢は手掛かりを求め、玉置の父親の会社へ向かいました。
ゼネラル電設は電脳によって子会社化されており、新会社として電脳電設という名前になっていたのです。
そこで玉置の父親が所有する特許を電脳が握っているため、逆らえないことを知ります。
半沢は電脳電設への新たな出資者を探し出し、特許権の買戻しを提案。
中堅電機メーカーが名乗りを挙げ、実現寸前まで漕ぎつけますが、寸前でメインバンクである東京中央から反対を受け頓挫してしまいました。
その中堅電機メーカーの相談に対し、大和田は出資に賛成したにも関わらず、伊佐山が強硬に反対したため、と知るのですが…。
半沢は、電脳の財務状況にこのゼネラル電設の子会社化を巡って、不審な点があることを突き止めており、電脳への500億円の追加融資を進めている伊佐山に、この件を調査するように書いたメモを部下の諸田に託しました。
もっとも、その直後、何者かによってメモは諸田から奪い取られてしまいます。
その頃、大田和は中野渡頭取より「帝国航空再建プロジェクト」のメンバーについて聞かされますが、そこに大田和の名前はなく、なぜか伊佐山がリーダーに納まっていました。
さらに、退任予定だった常務も翻意し退任を取り消したとのこと。
怒りに震える大和田は伊佐山を呼び出しますが、すべては大和田に取って代わろうとする伊佐山の画策だったと判明します。
前シーズンラストで、半沢に完敗し土下座させられた大和田に失望した伊佐山。大和田に「この土下座野郎!!」と罵声を浴びせられ、あまりの屈辱に膝から崩れ落ちます。
奇しくも、かつて土下座した因縁の場所で再び。
そんな中、東京中央の電脳への追加融資の計画は着々と進んでいました。
大和田は、常務へ返り咲く条件で三笠副頭取と裏取引をしていましたが、伊佐山に裏切られ、単に追加融資の賛成票集めのために利用されてしまったことを知り、半沢は大和田に協力を依頼します。
ここで大和田の名ゼリフ「死んでも嫌だねっ!!」が出るのですが、伊佐山に受けた屈辱から考えを改めた大和田は、いやいやながら半沢と共闘する道を選択しました。
大田和の計らいにより、追加融資を決定するための役員会に現れた半沢は稟議書を「ゴミクズ」と言い切り、玉置の協力で得た裏帳簿から以下のすべてを暴露します。
1・電脳は実は50億円の赤字を出しておりこの赤字を埋めるためゼネラル産業からの架空発注を捏造して粉飾決算をしていた。
2.電脳と三笠副頭取は癒着しており、見返りとして買収案件を引き受けていた。
伊佐山・諸田はもちろん、二人を切り捨て逃れようとした三笠副頭取も、メモを握りつぶした事実を追求され、平山夫妻から個人的な賄賂を受けていたことを暴露します。
これにより電脳への追加融資は中止が決定。
取締役会の場で、すべてを明らかにされた三笠副頭取と伊佐山と諸田は、融資した債権の回収を行うため、電脳に出向させられることとなりました。
逆に半沢はこの功績を認められ、無事に東京中央銀行・本店に復帰。
さらに帝国航空再建プロジェクトメンバーに任命されます。
こうして半沢の「倍返し」は見事、成し遂げられたのです。
電脳が行った粉飾決算のしくみ
第一話から第四話までの悪の根源はこの電脳と、ゼネラル産業にあります。
2年前、電脳は赤字を出していました。
そこで、同じように赤字で資金調達に支障をきたしていたゼネラル産業に目を付け、子会社であるゼネラル電設の経営権を300億で購入。
この300億円でゼネラル産業が黒字となり、白水銀行からの資金調達が可能になりました。
実は、ゼネラル電設の本当の価値は120億円です。
電脳はこれを300億円で購入したため180億円のおつりが必要でした。
このおつりを戻すとき、電脳のゼネラル産業に対する「売上高」という形で少しずつ計上します。
この売上高は実質「おつり」なので、全部実体のない架空のもの。
これが「粉飾」です。
このトリックによって電脳は、新設の子会社「電脳電設」という300億円の資産を手に入れ、さらに180億円の売上が上がるわけですので、50億円の赤字は一気に吹っ飛び、業績絶好調の会社として決算を発表できます。
株式市場でも株価に好影響を与えたことでしょう。
この悪事をうやむやにするために、1,500億円もの資金調達をしてスパイラルを買収しようとたくらんでいたわけです。
粉飾決算が実際に行われた現実の事例
ドラマ内で電脳が行った「粉飾決算」。
劇中のスパイラルに対する電脳の敵対的買収劇は、2005年のライブドア事件がモデルだと言われています。
実際にライブドア社はその後、粉飾決算が明るみに出て、堀江貴文氏らは逮捕されてしまいますが、この事件を振り返ってみましょう。
ライブドアは2004年9月決算期に連結で、本来ならば3億円の経常損失が発生していました。
第3四半期も赤字だったため、このまま期末を迎えて決算を発表すれば株価が下がってしまいます。
これは、時価総額経営で矢継ぎ早に企業買収を進めていたライブドアとしては、かなり不都合なことになります。
そこで、すでに子会社化することが決定していた信販会社の「ロイヤル信販」と結婚仲介サイト「キューズネット」に対する架空の売上を、子会社化が完了する直前に計上し、2社で合計して約16億円の売上高があったことにしたのです。
この取引には実体がなく、売上金とされる現金はロイヤル信販の預金をライブドア社とその子会社に移し替えたものでした。
ライブドア社の粉飾決算はそれにとどまらず、別な形でも行われていました。
当時、携帯電話販売のクラサワコミュニケーションズ社を8億円で買収する話がまとまっていましたが、ライブドア側は現金でなく自社株で買い取ろうとしており、クラサワ側と最終的な折り合いがつかずにいました。
そこで、ライブドアは傘下の投資会社「M&Aチャレンジャー1号投資組合」に8億円を出しておきクラサワの株主から全株を現金で買い取らせます。
そしてライブドア社の株を、M&Aチャレンジャー1号投資組合が保有するクラサワ株と交換を行い、ライブドアは、クラサワの全株を取得。
M&Aチャレンジャー1号投資組合は、所有するライブドアの株を、これもまた傘下の「VLMA2号投資事業組合」というところに現物出資し、VLMA2号投資事業組合は、ライブドア株を市場で売却して37億円あまりを得ました。
ライブドアの子会社である投資組合は、株式の運用で利益を得ることが目的なので、株式の売却で得られた金額は売上高とすることができます。
この状態で連結決算を行えば、ライブドアは自社株の売却益が売上となって決算に現れるわけです。
こうして、本当は赤字で終わるはずだったライブドア社は、50億円の黒字で決算を迎えます。
しかしその中身は、架空売り上げと自社株の売却によるもので、おおよそ本業の業績が向上した結果とはいえない、虚偽の内容だったのです。
粉飾決算の罪状
粉飾決算は、金融証券取引法197条に罰則が書いてある「有価証券報告書虚偽記載」という罪に当たります。
罰則の内容は、「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金」となっています。
電脳の平山夫妻が逮捕されるシーンはありませんでしたが、これが明るみに出ると上場は廃止、これに関わった平山夫妻は逮捕、法人には罰金がくるということなります。
ちなみに堀江貴文氏には懲役2年6ヶ月の実刑判決が下りました。
この「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」という粉飾決算の罰則ですが、どれくらい重いか、同じ懲役10年以下の罰則が書かれている他の刑事罰と比べてみましょう。
以下のようになります。
【10年以下の懲役が科される主な罪状】
- 恐喝罪
- 詐欺罪
- 業務上横領
- 窃盗
- 強制わいせつ
- 覚せい剤所持、譲渡、譲受
- 拳銃などの不法所持
これをみると「粉飾決算」が、いかに「重い犯罪」であることがよくわかると思います。
上場企業の責任は極めて重く、ITバブルで上場したのはいいけれど、金さえあれば何をやってもいいという倫理観のない人が会社をやっていては、大勢の人が損失を被ることから法制度は厳格になっているのです。
粉飾決算をする理由とリスク
そもそも企業はなぜ粉飾をしようとするのか、そのよくある理由を整理してみましょう。
【粉飾をする主な理由】
- 赤字になってしまうと銀行が融資をしてくれなくなってしまうから
- 株価を下げたくないから
- 上場廃止になってしまうから
上場企業では、金融商品取引法において非常に厳しい基準のもとに、公認会計士の監査が義務付けられており、そうした粉飾を行うことはハードルが高いものとなっています。
ところが、組織ぐるみ、取引先グループが共謀しての粉飾決算事例もあり、すべての証拠がきちんとそろった状況を作り上げているので、なかなか発見されにくいこともあると言います。
たとえば、ある商品を取引先間で転売を繰り返して売上高を積み重ね、現金も循環させる「循環取引」と言われる不適切な手口があります。
この手口の場合は、すべて事実関係と証憑が一致していて、外部監査では発見しにくいのです。
元締めとなる企業は業績が不振なため、こうした手口に手を染めて実態とかけ離れた業績絶好調のように見せかけるうち、止まらなくなっていきます。
企業というものは、本業の業績が上がらない場合、どんなに粉飾しても結局いつかは破綻します。
粉飾決算をされると一般の投資家はそれに気づかないまま、損失を被ってしまうのです。
特段、成長性の見受けられない企業が、急成長しているような場合は注意したほうがよさそうですね。
電脳の平山夫妻のモデル
話をドラマに戻しましょう。
電脳の社長、平山一正とその妻、美幸ですが、モデルとなった人物がいます。
それは、落合正美と小川智美という2人の人物です。
落合正美は大手商社の日商岩井に勤務していましたが、小川智美はその部下でした。
落合正美は独立して、1995年に株式会社ノザーク・ビーエヌエスを立ち上げました。
ほどなく小川智美も同社に入社。
その2年後「インデックス」に社名変更をし、携帯電話向けコンテンツ制作、提供とその関連の事業を手掛けます。
1999年、NTTドコモが携帯電話でインターネットに接続できる「iモード」のサービスを開始すると。
小川智美はiモード向けに占いコンテンツの「恋愛の神様」を開発しました。これが大ヒットします。
このヒットをきっかけに2001年インデックスはジャスダックに上場。
その後は積極的にM&Aを行い、インデックスホールディングスという持ち株会社となり、2005年有名な日活を買収するなど急激に規模を拡大していきます。
上場した年の2001年8月期に38億円だった連結売上高は、2007年同期には1298億円にまで成長。
実に6年間で34倍という驚くべき急成長です。
そして、2007年、落合正美には先妻がいましたが、離婚して智美と結婚しました。
しかし、その積極的なM&Aのつけが回ってきたのか、2006年8月期ごろはじめて減益になり、追い打ちをかけるように、それ以降、携帯電話向けコンテンツ事業は下り坂となります。
その後は、業績不振を原因としたためか、保有している株式の売却が続き、2009年、せっかく買収した日活株も売却、その2か月後には日本振興銀行の傘下に入りました。
ところが、日本振興銀行も翌年には破綻。
インデックスホールディングスは、倒産が危ぶまれる企業ランキングの常連となり、2012年8月期まで5期連続で最終赤字を計上しました。
とうとう2013年に民事再生法の手続開始の決定を受けるに至ります。
しかし、再生計画を完了できずに民事再生手続きは中止、破産することとなり、2016年法人格は消滅しました。
インデックスホールディングスの粉飾決算とは
さて、電脳の平山夫妻は粉飾決算を行っていましたが、モデルとなったこの落合夫妻はというと、2012年8月期の決算を粉飾したとして金融商品取引法違反の容疑で、2014年5月、東京地検特捜部に二人そろって逮捕されています。
当時、インデックスホールディングスは2期連続債務超過によるジャスダック上場廃止を、回避しなくてはならないと考えていました。
落合夫妻は、架空の売買を帳簿に記載すると同時に、約80社の関連会社を使って循環取引を行っていたといいます。
落合夫妻の指示で、無理な経理操作が行われ、本来は赤字で債務超過のはずであるにもかかわらず、黒字でかつ、資産超過となるよう、虚偽の財務諸表を作成し有価証券報告書に記載していたのです。
落合夫妻へは、両者とも求刑通り、懲役3年、執行猶予4年の判決がでました。
夫妻は東京高裁へ控訴しましたが、東京高裁は東京地裁の判決を支持、夫妻の控訴を棄却して、判決は確定したのです。
まとめ
第四話に出てきた、実際のモデル事例、その理由、背景について説明してきました。
上場していない会社では、減価償却を少なくしたり、棚卸資産の価値を多めに見積もったりする経理処理は、業績を良く見せたいときにしばしば行われます。
これも粉飾なのですが、この程度でとがめられることはありません。
しかし、不特定多数の株主がいる上場会社は、多くの株主の財産を預かっているわけであり、虚偽の記載を行うことはその株主を欺く行為であり、到底許されるものではありません。
ITバブルで急激に成長したライブドアやインデックスは電脳同様、会社本来の目的を見失い、M&Aで成長したように見える業績を自分の手柄や能力のように勘違いしたのではないでしょうか。
さて半沢直樹は次回から後半に入ります(原作の『銀翼のイカロス』分)。
今度はいよいよ、JALをモデルにした帝国航空再建のお話です。
次回もぜひお楽しみに。