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人材不足の飲食業界 離職率を下げるためには?
日本国内に飲食店はあふれていますが、万年、人手不足という問題が指摘されています。
せっかく人を雇用しても、すぐに辞められてしまうと、お店を開いてもスムーズに経営できません。
飲食業界の離職率を下げるにはどうすればいいか解説します。
本当に飲食業界の離職率は高い?
厚生労働省が調査した「新規学卒就職者の離職状況(平成26年3月卒業者の状況)」で、飲食業界の離職率に関するデーターが公表されています。
業界関係なく全体の離職率を見ると、新規高卒就職者40%以上、新規大卒就職者の30%以上が、就職後3年以内に離職しているという状況です。
この中で「宿泊業と飲食サービス業」の離職率を見ると、大卒で50.2%、高卒では64.4%になっています。
この離職率は業界内で一番高いパーセンテージです。
全業界の離職率平均が32.2%であることを踏まえると、大卒者50.2%、高卒者64.4%という結果は、宿泊業が含まれているとはいえ、離職率は非常に高い業界と言えるでしょう。
飲食業界の離職率が高い6つの理由
経営者として離職を防ぐには、まず理由を考えなければなりません。
理由を知れば、事前に対策を行えるからです。では、どんな理由が考えられるのでしょうか。
飲食店があふれており働ける場所がたくさんある
飲食業界が万年人不足である理由のひとつに、働く場所がたくさんありすぎることが挙げられます。
繁華街だけではなく、郊外にも多くの店舗が立ち並んでいる状況です。
尊敬するシェフの元で修行したい、老舗で勉強したいという人ならともかく、飲食店で働けるならどこでもよいという人もたくさんいます。
また大手チェーン店などは競合店に負けないよう、店舗数を増やすことを使命としている現状もあるでしょう。
必然的に、飲食店で働く人にも限りはあるので分散されます。結果、人手不足になる店舗が出ても不思議ではありません。
人員不足の悪循環による労働条件の悪さ
平成30年農林水産省食料産業局「第4回働く人も企業もいきいき食品産業の働き方改革検討会 外食・中食産業における働き方の現状と課題について」において、外食・中食産業での働き方の現状と課題では、早出、残業について指摘されています。
早出や残業が発生する理由として、人員が足りないという答えがトップで51.7%です。
飲食業界も対応策を取ろうとしていますが、現実は「人員不足のために対策を取れない」という答えが33%となっています。
2番目に多い理由は「売上や収益が悪化するおそれがある」というもので24.8%です。
対策をしようとしても対策ができないというジレンマに業界全体が陥っていることが考えられます。
求人情報とのギャップも問題点
飲食店の求人募集において「働きやすい環境です」「家族のような温かいお店です」「昇給あり」など、多くの魅力的な言葉を目にしたことはないでしょうか?
その通りなら問題はありませんが、現実は、厚生労働省や農林水産省の調査結果のように、人手不足による労働環境の悪さがあります。
求人内容の利点を見て、過剰に期待し、実際に働き始めたら早出や残業も当たり前、休日も少ないと感じれば嫌になるのも不思議ではありません。
労力と対価のバランスが取れていないという問題
飲食業界は、価格競争が激しい業界です。利用者の利便性を考え、深夜や24時間営業という店舗も少なくありません。
しかし、人手不足のためにシフトが組めないという問題が生まれています。
また、職場環境も、生鮮食品などを保管する冷凍庫での作業は凍えるほどの寒さ、厨房で揚げ物や焼き物を作る場合は高温です。
料理を作るときも同じ体勢で長時間、単調な作業を行う必要があります。作業時の環境も楽ではありません。
給料が高ければよいのですが、他業種と比較しても飲食業界の給料は高いとは言えない状況です。
厚生労働省「平成 29 年賃金構造基本統計調査の概況」による賃金の調査では、他業種と比較しても、宿泊業・飲食サービス業は最も低くなっています。
このことからも、労働と対価のバランスが取れていないため離職率が高くなり、対策をしたくても、人手不足という悪循環に陥っていることが考えられるでしょう。
働く場所は、飲食業界以外にもたくさんあるため、働き手が異なる業種に進むことは当然とも言えます。
やりがいがなくモチベーションが上がらない
モチベーションがなかなか上がらないという問題もあります。
単純作業が多い飲食店の場合、毎日、同じことを繰り返さなければなりません。
アルバイトという立場なら、リーダーから指示されることを黙々とこなすという働き方になりがちです。
そのような環境に、やりがいやモチベーションを感じられない人もいるでしょう。結果として、離職につながってしまうのです。
飲食業界の不安定さ
飲食業界は、競争率の激しさ、人材不足などのネガティブ要素のため、将来への不安を感じる人も少なくありません。
開店しても利益が出ず、閉店へ追い込まれる店も非常に多いのです。
働いていれば、客がどれぐらい入っているかはすぐに分かるでしょう。
閑古鳥の期間が長ければ不安になってお店を辞めるだけではなく、他の業界に転職する人が出るのもしかたありません。
飲食店を経営するにあたり離職率を少なくするための対策
離職率を少しでも減らすには、人が離れる理由を知り対策をしなければなりません。
具体的にどんな対策をすればよいのか解説します。
人材不足になる一番の原因を探りましょう
これから起業する人は、採用してもすぐに辞めてしまう労働環境になっていないかどうか、事業計画を客観的にチェックしてみてください。
休みが少なくても「自分がたくさん働けばいい」とか「スタッフに、出てくれと頼み込めばいい」と考えているなら注意しましょう。
自分がたくさん働く場合、どうしても限界が来ます。疲れ切って自分が倒れてしまえば、経営を存続することもできません。
また、自分が楽をするためにスタッフへすべて押しつければいいと考えるのは止めましょう。
たとえば、休日出勤も1回程度ならスタッフも快く引き受けてくれるかもしれません。
何度も頼み込めば、不満がたまって急に来なくなる可能性も十分にあるからです。
無理な働き方になっていないか、客観的に判断しましょう。
休日や働く時間帯に柔軟な対応を見せる
人材不足にしないためには、ずっと働いていたいと従業員やアルバイトに思ってもらうことが第一なのです。
そのためには、休日や働く時間帯について、従業員の希望をできるだけ聞かなければなりません。
平日に休日が欲しい人がいれば、対応できるシフトを組む必要があるでしょう。
子どもの参観日や運動会などで、土日祝に休みたいという人もいるかもしれません。
そのような要望に経営者としてできるだけ応える必要があります。
働く人の要望に応えられる労働環境なら、従業員も辞めたいとはなかなか思わないでしょう。
口コミで噂になれば、ぜひ働きたいという希望者が多くなることも期待できます。
研修制度を設けると意識が高いスタッフが集まる
人材育成の観点から、離職率を減らす方法もあります。従業員の中には、将来的に自分の店を持ちたいと考えて本気で修行をしている人も多いはずです。
そのようなタイプの人は、スキルを磨けない、知識も学べないと思ったらすぐに辞めていくでしょう。向上心を持っている人をサポートするだけの度量を持ってください。
ピザ店なら、ピザの本場イタリアなどへ海外研修制度を設けるだけでも本気度が高い人には働く場所として魅力的に感じるはずです。
本格的にお酒類を取り扱う飲食店なら、ワイナリーなどへの研究を設けるのもよいでしょう。
接客を学びたい人もいるはずです。接客研修を設け、プロフェッショナルを育成する企業は魅力でしょう。
また、研修を通じ、知識やスキルの向上が感じられると自信もつきます。
自信を持てば仕事も楽しくなり、向上心にもつながるはずです。
それが店に還元されれば、離職率が減るだけではなく、お店全体のレベルアップにもつながります。
スタッフとコミュニケーションを積極的に取る
従業員と積極的にコミュニケーションを取ることも肝心です。
普段、まったく話をしたことがない経営者が突然店に来て、急に「あれをやれこれをやれ」と言っても従業員が緊張してしまうだけでしょう。
結果、上手く指示が伝わらないことも多いのです。
また、スタッフ同士のコミュニケーションが不十分なケースもあります。
コミュニケーションがスムーズでないと、スタッフ同士でトラブルに発展する場合があるのです。
誤解や連絡事項の伝達が上手くいかないなどが起きるリスクもあります。
評価が高いスタッフに昇給を与えてモチベーションを上げる
仕事に対しモチベーションがあるかないかは、離職を防ぐ上で重要な要素です。
また、モチベーションが高いスタッフは仕事に対する意欲もあるため、結果的に顧客にもよい印象を与えることができます。
ではスタッフのモチベーションを上げるにはどうすればいいのでしょうか?
対策の一つに、評価制度があります。評価が高い従業員には、昇給を検討してみてください。
評価については、従業員からアイデアを募集し採用できるものがあれば、昇給などを考えたり、普段の働きぶりから評価をしたりなどが挙げられます。
コンテストなどで受賞すれば、ボーナスや昇給なども考えたほうがよいでしょう。
コンテスト受賞者は、お店の強みにもなります。評価制度を作ることでモチベーションをアップさせて離職率を減らしましょう。
まとめ
飲食業界で、離職率の高さは業界全体の問題となっています。
ただ、業界全体の問題だからしかたがないとあきらめれば、簡単に人が辞めてしまうお店になってしまうでしょう。
そうならないよう、どうして離職率が高いのか問題を理解し、対策をすることが重要なのです。辞めたくないというお店になれば、次から次へ働きたいという人が増え、結果的にレベルの高い人材が集まり、お店のレベルアップにもつながるでしょう。