飲食業を始めるには、さまざまな準備が必要です。店舗運営の経験がなければ不安もありますし、開業資金の調達も1人でまかなうのは難しいでしょう。
また、飲食店経営には興味があるものの、自分で調理などはできない人、逆に調理の腕には自信があっても経営のノウハウを全く知らない人も多いのではないでしょうか。
そこで選択肢として候補にあがるのが、家族や知人などと共同で始める「共同経営」です。共同経営であれば心強いですし、資金集めの助けにもなります。
しかし、共同経営にはデメリットも多く、継続は簡単でないことも。飲食業で共同経営を考えるなら、まずはメリット・デメリットを知り、失敗のリスクを極力減らしておきましょう。
共同経営とはどのようなものか
飲食業で開業するにあたり、同じ想いを持って開業する同志と夢を実現させるため、あるいは経営に関するリスクを低減させるために、共同経営という道も選ぶ人たちもいます。
この共同経営とは具体的にどのようなものなのか、そのメリット・デメリットは何かについて見ていきましょう。
共同経営とは
共同経営とは、文字通り複数の人が同じ事業を経営していくことです。一般的に経営者と言えば1人で、その人が実質かつ唯一の最高責任者となるわけですが、共同経営者ではその経営者が2人以上いる形となり、立場も同等です。
例えば、友人同士や以前同じ飲食店で働いていた同僚と、資金やアイデアを出し合って共同で店舗を立ち上げたいと考える人もいるでしょう。共同経営なら1人で起業することへの不安も払拭できますし、それぞれが自分の得意分野を担当することで経営失敗のリスクを軽減できます。
共同経営で成功した2つの例
飲食業ではありませんが、日本でもっとも有名な共同経営の例と言えば「SONY(ソニー株式会社)」の盛田昭夫氏と井深大氏によるものでしょう。
この2人の場合、ともに技術者として出会い、創業後は盛田氏が営業を、井深氏が技術を担当することで共に力を発揮し、世界的な企業にまで成長させました。
「Honda(本田技研工業株式会社)」の本田宗一郎氏と藤澤武夫氏が進めた事業運営の形も、共同経営と言えます。
創業こそ本田氏1人によるものでしたが、技術・開発専門の本田氏と経営に長けた藤沢氏がタッグを組んだことで、規模を健全に拡大させ、オートバイの世界シェアナンバー1の地位を築きました。
いずれも、成功のポイントは役割分担。
その人の得意分野を活かした役割に分かれることで、それぞれの責任の所在がはっきりし、自発的な行動が取れることが大きいでしょう。
このように共同経営で大きく成功した例がある一方、共同経営には失敗してしまうケースもたくさんあります。
共同経営でカフェやレストランなどを立ち上げ、メディアで取り上げられた例はいくつもあります。しかし、数年後にそのお店がなくなっていることも少なくないのです。
次の章からは、飲食店を共同経営することにどんなメリット・デメリットがあるのかを見ていきましょう。
飲食業を共同経営するメリット
同じ夢を持つ仲間と一緒なら、経営でさまざまな困難に面しても心強く、お互いが精神面でも大きな支えになるはずです。ほかにも、飲食業の共同経営には、次のようなメリットがあります。
それぞれ具体的に説明します。
不安やプレッシャーを軽減できる
起業することに不安を感じている場合も、仲間である共同経営者がいればその不安は軽減できます。経営に長けた人が一緒ならなおさら、安心して始められるでしょう。
起業してからも、経営を軌道に乗せるまでや新たな取り組みなどの挑戦時、何らかの危機やトラブルに面したときなど、あらゆる場面で1人より2人、2人より3人のありがたみがわかるのではないでしょうか。
資金力が上がる
飲食店の開業には多額の資本が必要です。店の規模にもよりますが、夢を実現させるには自分の手持ちだけでは足りないということも多いでしょう。
しかし、共同経営者と資金を持ち寄る形にすれば、それだけ多くの資金が集まります。それでも足りなかったとしても、自己資金が多いほど融資が受けやすいというメリットにつながります。
互いの不得手を補い合える
飲食業を開業する場合には、料理人が独立して自分の店を出すというケースも多いでしょう。ただ、調理の腕は超一流でも、経営やマネジメントなどには疎い、という人も。
その場合には、経営の知識がある人やマネジメント能力の高い人を共同経営者とすれば不得意分野をカバーできます。
「独りよがり」を防げる
1人で飲食の経営をする場合、最も大きなメリットは自由な経営ができることでしょう。しかし、自分がすべての決定権を握るとなると、無意識に視野が狭かったり、凝り固まった考えで事を進めてしまったりすることも。
共同経営なら、自分以外に同じ立場で別の視点から店のことを考える人がいます。同等の出資なら決定権も同等なので、独りよがりにはなりません。
自分の代わりとなる存在がいる
共同経営者がいることで、自分に何かあった場合などに代わりを務めてもらえるメリットもあります。
1人での事業経営で困るのは、体調を崩して働けなくなったときや、同時にやりたいことが複数あるときなど。「自分がもう一人ほしい」と思うこともあるでしょう。
事業を知った間柄なら、店のことを頼むのもスムーズですし、立場が同じなのでいい加減なことはしないと信頼できます。
飲食業を共同経営するデメリット
共同経営には大きなメリットもありますが、次のようなデメリットに注意が必要です。
それぞれ具体的に説明します。
意思決定に時間がかかる
経営者が2人以上いれば、何かを決める際にも各人の意見を聞く必要があり、意見が異なると説得やとりまとめをしなくてはなりません。そのため、意思決定には時間がかかりがち。
飲食業は流行り廃りに影響されることも多く、経営にはスピーディーな判断が必要なことも多いもの。早い決断を必要とする場合にはジレンマを抱える可能性も高いです。
不公平だという不満が出やすい
共同経営者という同じ立場の人間が複数いる状態だからこそ、人と比べて不公平感を感じやすいというのもデメリットの1つ。
事業に関するすべてを全くの等分にするのは難しいものです。 仕事量などに違いがあるのに報酬が見合わなければ、「不公平だ」という不満が生じるでしょう。
人間関係の悪化が経営に影響する
例えば「2人でカフェを始めよう」と決めたときには、お互いの関係が良好で、信頼関係も強い状態のはず。
しかし、店舗の運営であらゆることを共にこなしていくと、知らなかった部分が見えてきます。例えば頼んだことが放置されていた、言われたとおりにしなかったなどの些細なすれ違いでも、日々の積み重ねで少しずつ関係性が悪くなるでしょう。
関係が良好でなければ、経営の相談をしても素直に向かい合うことができず、経営にも悪影響を及ぼします。
方針が合わなくなることもある
誰しも、生きていく上で変わっていくものです。ものの考え方や価値観が変われば、経営する店の方針も変わっていく可能性が。
共同経営は、複数の経営者が同じ方向を見て進もうとするからこそ成り立つものです。
例えば世界各地の素材を贅沢に使った料理が売りのレストランを開いたのに、1人が地域の活性化に目ざめ「地産地消をすべきだ」と訴えはじめるかもしれません。価値観や考え方はそれぞれが決めることで、変化を止めることは難しいでしょう。
離脱されてしまうこともある
上記のような人間関係の悪化や方向性の違いが原因で、あるいは健康上や家庭の事情で「共同経営を辞めたい」という人が現れる可能性もあります。
その人が抜けても回していける経営状態になっていればよいのですが、役割の分担ができなくなれば残る人への負担が大きくなります。例えば唯一経営に長けた人に抜けられてしまえば、存続も難しくなるでしょう。
あわせて読みたい
1人で起業することのメリット・デメリットについて書いた記事もあります。迷っている人はこちらも参考にしてください。
共同経営の成功に必要な7つのこと
共同経営のデメリットである人間関係の悪化は、そのまま共同経営の失敗につながります。飲食店の共同経営を成功させるには、次のようなポイントを押さえておく必要があるでしょう。
- 誰がどの業務の責任者となるのかを決めておく
- 公平な報酬の基準・体系を決めておく
- 店舗の経営方針を一本化し、共有する
- 意見が分かれた場合はどうするかを決めておく
- 常に互いの意思疎通を図る努力をする
- 「尊重しあう関係」を維持する努力をする
- 決めたことを文書化しておく
それぞれ説明します。
担務や責任の範囲を決めておく
単に「経営者がたくさんいる」という状態ではなく、各人が責任を持って担当する業務や分野を決めておきましょう。
多人数で同じ分野の仕事を担うと、仕事の量や質に関して優劣や意見の相違が生まれがち。各自の得意分野を活かした業務を割り当てておくとよいでしょう。
責任を明確にすれば、他人事のように傍観するのを防げます。どこまでの責任を負うか、責任の範囲も決めておくと安心です。
公平な報酬の基準・体系を決めておく
共同経営の揉め事をなくすには、金銭面での不公平感をなくすことも必要です。
責任の度合いや職務の範囲など、会社への貢献度を図る基準をつくり、誰もが納得できる基準や体系を作っておくとよいでしょう。
店舗の経営方針を一本化し共有する
経営方針は、必ず一本化して共有しましょう。共同経営者それぞれが別のビジョンを持っていては、何を決めるにも食い違ってしまいがち。目標売上を達成するのも難しくなるでしょう。
特に飲食店には、コンセプトからターゲット層、メニュー構成やサービスに至るまで、実にさまざまなやり方があります。具体的な理想形を共有しておいてください。
意見が分かれた場合の解決法を決めておく
基本的には、出資の割合によって決定権の有無が異なります。それぞれがほぼ同額の出資で共同経営をする場合、「どのように最終決定を下すのか」を決めておきましょう。
公正に、全員が納得できる方法を決めておくことが重要です。
常に互いの意思疎通を図る努力をする
家族や仲間との共同経営の場合であっても、いわゆる「あうん」の呼吸でうまくいくようになるには、何年もの月日が必要です。
言わなくてもわかるだろうと決めつけず、常に思うことや考えていることなどを話せる環境づくりをしておきましょう。
「尊重しあう関係」を維持する努力をする
人間関係を悪化させないためには、各人がお互いの存在や意見を尊重することが大切です。
経営が上手くいっているのは自分のおかげだ、などとおごったりすることなく、相手の能力を認めて尊重してください。自分と異なる意見にも耳を傾け、それぞれが納得できる道を選ぶ努力をすれば、良好な関係を維持できるでしょう。
決めたことを文書化しておく
店を運営していく上で、ルール決めが必要となることも多いでしょう。決めたことは、言葉のやりとりだけでなく必ず文書に残しておくことをおすすめします。
「言った」「言わない」の揉め事はどこにでも起きますし、言葉の意味の取り違えなどで別の解釈をしてしまう可能性もあります。
店舗や従業員が増え、規模が大きくなるほどまとめるのは難しくなります。誰もが確認できる文書にしておきましょう。
あわせて読みたい
出資率に関わらず決定権などが自由に決められる合同会社の設立も、複数人で起業するのに用いられる起業のスタイルです。
合同会社と株式会社の違いについては、こちらの記事を読んでみてください。
まとめ
共同経営には、資金繰りや担当業務を分担でき、負担が軽減できるメリットがあります。飲食店なら、それぞれの得意分野を活かし経営部門と調理部門で分けて担当することもよくあるケースです。
1人での開業では得られないメリットも多数ある一方で、利益が絡む共同経営において難しいのは人間関係。仲が良かった2人が共同経営を始めたものの、些細なことから互いに不信感を抱き、うまくいかなくなるというケースもたくさんあります。
育った環境や価値観が違う人間同士が1つのことを成し遂げるには、相互理解や信頼が欠かせません。良好な関係を続けようとする努力も必要でしょう。
あらゆることをルール化し、文書にして明らかにするなどして、いつも誰もが同じ思いを共有できる環境を作るなどしてください。