
個人事業主として新規開業する際、「開業届の提出」が必要ということはご存じでしょうか?
開業届は事業を始める際に税務署に提出する書類で、届出等の手続きが遅れるとトラブルの元となるため注意が必要です。
今回は、開業届の基礎知識や開業届を出すメリット・デメリットを説明し、開業届の書き方についてわかりやすく解説します。
個人事業主で開業を検討中の方はぜひ参考にしてください。
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目次
開業届ってなに?
開業届とは、事業を始めた人が、個人事業を開始したという事実を国に届け出る書類です。
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、所得税法第229条によって手続きの内容が定められています。
法律で定められている開業届の提出期限は、事業開始から1か月以内です。
期限を過ぎてしまった場合の罰則はありませんが、開業届を提出しないと青色申告による確定申告ができません。
事業を継続する以上、確定申告が関わってきますし、青色申告することで得られるメリットは決して小さくないので、個人事業を開始した際は、必ず1カ月以内に開業届を提出しましょう。
所得税法施行令第63条によれば、継続的に対価を得る行為は「事業」とみなされます。
そのため、会社勤めをしながら副業としてビジネスを始める場合であっても、開業届の提出は必須です。
こんな得がある!開業届を出すメリット
開業届を提出すれば、節税や社会的な信用性など得られるメリットは多くありますが、主なメリットには以下があります。
- 青色申告で税金の控除が受けられる
- 赤字が最長で3年まで繰り越せる
- 個人事業の屋号で銀行口座が開設できる
- 家族への給与を経費として扱える
- 小規模企業共済に加入できる
- 就労証明書の代わりとして使える
それぞれについて見ていきましょう。
青色申告により最大65万円の控除が受けられる
開業届を提出して青色申告をすることで、税金の控除を受けることが可能です。
事業を始めると、得た所得に応じて支払うべき税額を届け出る「確定申告」が必要になりますが、確定申告には白色申告と青色申告があり、提出書類の形式や税金の控除額などが異なります。
個人事業主として青色申告を行うためには、開業届の提出が必須となっています。
その際、開業届と同時に「青色申告承認申請書」の提出も必要となります。
青色申告を選択した場合、白色申告よりも多くの控除を受けられることが最大のメリットと言えます。
青色申告特別控除では、課税の対象となる所得金額から最大65万円が差し引かれます。
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最長で3年まで赤字を繰り越せる
開業届を提出すれば、事業で赤字が出た場合に最長で3年まで繰り越せます。
例えば、ある年度の事業所得が30万円の赤字で、次の年度は200万円の黒字だった場合、確定申告の際に赤字を繰り越して相殺することが可能です。
200万円の黒字が出た年度は、前年度の赤字30万円分を差し引いて、170万円の黒字として確定申告ができます。
個人事業主が支払う税額は、1年間で発生した課税所得を元に計算される仕組みのため、赤字を繰り越すことによって翌年度以降の課税所得が減れば、節税につながります。
個人事業の屋号で銀行口座が開設できる
開業届を提出する際、事業の名前を表す「屋号」の設定が可能です。
開業届を提出しておけば、事業者本人の個人名ではなく、屋号を名義とした銀行口座が開設できます。
屋号名義の銀行口座を開設すれば、顧客に振込先口座を伝える際に、個人名より信頼度が高まることが最大のメリットです。
また、銀行振込で支払いをする際も、取引先から認識されやすくなります。
ただし、屋号を名義とした銀行口座の開設を受け付けていない銀行や、審査条件の厳しい銀行もあるので注意が必要です。
開業届の控え以外に、事業内容や数年分の実績がわかる書類が必要となる場合もあります。
家族への給与を経費として扱える
開業届を提出し、青色申告を選択した場合、仕事を手伝う家族への給与を必要経費として扱えることも、メリットの1つです。
開業届を出さなかった場合は白色申告しか選べないため、家族へ支払った給与を経費とすることはできません。
白色申告には「事業専従者控除」という仕組みがあり、配偶者は86万円、ほかの親族は1人につき50万円の控除額が設定されています。
一方、「青色事業専従者給与」なら、事業専従者が働いた期間や仕事内容を加味して、妥当な金額を経費とすることが可能です。
ただし、家族への給与を経費扱いとする場合は、開業届のほかに「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要となります。
小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済とは、個人事業主や企業経営者が加入できる制度です。
加入して掛け金を積み立てれば、事業を廃業したり会社を辞めたりした際に、給付金が受け取れます。
また、小規模企業共済は掛け金が所得控除の対象となることや、掛け金に応じて事業資金の貸し付けが受けられることなどもメリットです。
事業を始めてすぐに加入する際は、確定申告書の代わりに開業届の控えを提出する必要があります。
就労証明書の代わりとして使える
開業届の控えは、就労証明書が必要なシーンで利用できます。
企業から独立して個人事業主になった場合、勤め先から就労証明書を得ることができません。
そのため、働いていることの客観的な証明が難しくなります。
開業届を提出すれば返送される控えに税務署の印鑑が押されるため、就労証明書の代わりとして使うことが可能で、例えば、保育園への入園手続きの際などに開業届の控えが使える場合があります。
ここに注意!開業届を出すデメリット
反面、開業届を出す場合は、失業給付や扶養などの条件が変わる点に注意が必要です。
開業届を出すデメリットとして、次の項目があげられます。
原則として雇用保険の基本手当が受け取れなくなる
雇用保険の基本手当は会社を辞めたときに受け取れる給付金で、いわゆる「失業保険」と呼ばれるものです。
退職前に会社で雇用保険に加入していれば、失業時に手続きをすることで、失業保険が受け取れます。
しかし、失業保険は失職者が再就職するまでサポートする目的で用意されている仕組みのため、企業に再就職する意志がある人しか、失業保険を受け取ることができません。
開業届を提出した場合、事業を営んでいることから再就職の意思はないと判断され、失業保険を受け取れない可能性が高くなります。
健康保険における扶養に入れなくなる可能性がある
扶養とは、配偶者や親などから経済的なサポートを受けている状態のことです。
扶養に入っていると保険料を支払わなくても保険に加入でき、家族を扶養に入れている方は所得控除を受けられます。
ただし、健康保険組合が定める条件によっては、個人事業主は扶養に入れない場合があるため注意が必要です。
事業所得の金額にかかわらず、開業届を出した時点で個人事業主とみなされ、健康保険の扶養に入れなくなるケースがあります。
そのため、扶養に入っている人が開業届を出す際は、健康保険組合の加入条件を事前に確認しましょう。
確定申告の手続きが白色申告よりも複雑になる
開業届を出して青色申告を行う場合、白色申告よりも手続き方法が複雑になる点もデメリットです。
確定申告では、事業運営で発生した収入や支出を「帳簿」として記録し、所定の形式にまとめたものを税務署に提出する必要があります。
白色申告では、単式簿記と呼ばれる比較的簡単な方法で帳簿をつけられますが、青色申告で控除を受けるには、複式簿記による記帳が必須です。
開業届を出して青色申告をするなら、簿記に関して必要最低限の知識が必要になります。
副業していることを会社に知られる場合がある
副業をしていることを勤め先に知られたくない場合は、トラブルが起きないよう注意が必要です。
会社から給与を得ている人の税金は、基本的に会社が税額を計算し、給与から天引きされる形で納められています。
開業届を出し、副業によって事業所得が発生した場合は納めるべき税額が増えるため、会社の経理担当者などに知られる可能性が高いです。
実践!開業届の書き方・記入例
ここからは、開業届の書き方について、各項目に記入する内容やポイントを解説していきます。
開業届は、最寄りの税務署で入手できます。
そのほか国税庁のWebサイトからPDFをダウンロードして印刷したものも利用可能です。
では順に見ていきましょう。

1.所轄の税務署名と提出日を記入
開業届の提出先となる税務署名と、開業届の提出日付を記入します。
各地域の所轄税務署は、国税庁のWebサイトで検索可能です。
届け出の締め切りが事業開始から1カ月であることに注意してください。
2.納税地を記入
住所地、居所地、事業所等のいずれか該当する項目に丸をつけ、郵便番号と住所、電話番号を記入しましょう。
自宅で事業を行う場合は、住所地が納税地となります。
自宅以外の場所に事業所を構えていて、事業所のある地域を納税地としたい場合は、事業所の住所を記入してください。
ただし、原則として自宅住所を納税地とするのが一般的です。
3.納税地以外の住所地、事業所等があれば記入
自宅以外にある事業所の住所を納税地の欄に記入した場合は、この項目に自宅の住所を記入しましょう。
4.氏名、生年月日を記入
個人事業を開業する本人の氏名、フリガナ、生年月日を記入し、押印しましょう。
本人印または屋号印のいずれかを使用可能です。
5.個人番号を記入
マイナンバーカードまたは通知カードにある個人番号を記入しましょう。
6.職業を記入
個人事業として営む職業を記入しましょう。
法定業種によって個人事業主税の割合が異なるため、実際の業務内容に即した職業を記入してください。
7.屋号を記入
個人事業の名称である屋号とフリガナを記入しましょう。
屋号を決めていない場合は、空欄で提出し、あとから変更することも可能です。
8.届け出の区分で「開業」に〇をつける
開業に〇をつけましょう。事業の引き継ぎを受けて開業する場合は、受けた先の住所と氏名を記入してください。
その下にある「事務所・事業所の新設・増設~」や「廃業(理由)」などの項目は、開業届の提出時に記入する必要はありません。
9.該当する所得の種類に〇をつける
事業の種類に応じて、該当する所得の種類に〇をつけましょう。
不動産事業では「不動産所得」、山林事業では「山林所得」、そのほかの一般的な事業では「事業所得」に〇をつけてください。
10.開業日を記入する
事業を開始した年月日を記入しましょう。
どの時点をもって開業とするかに特にルールはありません。
開業準備を始めた日や、開業届の提出日などを開業日として設定できます。
11.事業所等を新増設、移転、廃止した場合
開業時は該当するものがないため、空欄でOKです。
12.廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
開業する際は、この項目は空欄のままで構いません。
13.開業・廃業に伴う届出書の提出の有無にチェック
開業届と同時に、青色申告承認申請書や、消費税に関する課税事業者選択届出書を提出する際は「有」に〇をつけましょう。
14.事業の概要を記入する
事業で取り扱う商品やサービス、対象となる顧客などについて具体的に記入しましょう。
15.従業員を雇用する場合は、給与等の支払いの状況を記入する
開業時点から従業員を雇用する場合は、従業員数や給与の定め方を記入しましょう。
家族を雇用する場合は「専従者」、家族以外を雇用する場合は「使用人」に区分されます。
給与の定め方には、月給や日給などの区分を記入してください。
従業員を雇用する場合は源泉徴収を行う必要があるため、「税額の有無」は「有」に〇をつけましょう。
16.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書について、該当するほうに〇をつける
従業員数が10人未満の場合、申請書を提出することで源泉所得税の支払い納期を変更できます。
開業届と同時に、この申請書を提出する場合は「有」に〇をつけましょう。
開業時に従業員を雇わない場合や、従業員に対して通常の納期で源泉所得税を支払う場合は、「無」に〇をつけてください。
17.従業員を雇用する場合、給与支払いを開始する年月日を記入
開業時に従業員を雇用する場合は、従業員への給与支払いを開始する年月日を記入しましょう。
18.顧問税理士がいる場合、関与税理士を記入
開業時点から顧問税理士がいる場合は、税理士の氏名と電話番号を記入します。
税務署への提出方法
開業届の提出先は、自宅住所の管轄税務署です。
提出先を間違えると開業手続きが遅れたり、余計な郵送コストがかかったりするのでご注意ください。
また、青色申告承認申請書などの書類を提出する場合は、開業届と一緒に提出すると効率が良いです。
営業時間内に届出をする場合
管轄税務署の営業時間内に開業届を提出する場合、記入した開業届と控え用のコピー、マイナンバーが確認できる本人確認書類、身分証明書が必要です。
また、書類の押印箇所に不備があった場合に備えて、印鑑も持参したほうが無難です。管轄税務署の受付窓口に着いたら、開業届を提出したい旨を伝えて、必要書類を渡しましょう。
記入内容について税務署職員がチェックを行い、不備がなければ提出は完了となります。
押印してもらった開業届の控えは、事業を運営するにあたって必要となる場面があるため、大切に保管してください。
毎年2月から3月ごろにかけての確定申告期間中は、税務署の受付窓口が混雑している場合があります。
確定申告期間中に税務署に行く際は、時間に余裕を持って行動することをおすすめします。
営業時間外に届出をする場合
税務署に設置されている時間外収受箱を利用すれば、土日や祝日、税務署の営業時間外でも開業届を提出できます。
時間外収受箱を利用する際は、次の必要書類を封筒に入れて提出しましょう。
- 開業届
- 開業届のコピー(控え用)
- マイナンバーが分かる書類のコピー
- 身分証明書のコピー
- 控えの返送用封筒
押印された開業届のコピーを返送してもらうため、返送先の住所を記入し、必要な金額の切手を貼った返送用封筒を同封してください。
開業届が受理されれば、後日控えが返送されます。
控えの同封を忘れてしまった場合は、税務署に保有個人情報開示請求書を送って、開業届の写しを発行してもらいましょう。
郵送で届出をする場合
開業届は郵送で提出することも可能です。
その場合は、必要書類を入れた封筒を管轄税務署の住所に送ります。
紛失などの配送トラブルを避けるため、荷物の配達状況が追跡できるサービスを利用したほうが安全です。
郵送で提出する場合、封筒に入れるものは次のものです。
- 開業届
- 開業届のコピー(控え用)
- マイナンバーが分かる書類のコピー
- 身分証明書のコピー
- 控えの返送用封筒
必要書類は、時間外収受箱を利用する場合と同じです。
開業届が受理されれば、税務署から押印済みの控えが返送されます。
まとめ

個人事業主として開業する際は、開業届の提出が必須です。
開業届を提出せずビジネスで収益を得た場合、青色申告ができず控除が受けられないといったデメリットがあるため、必ず提出しましょう。
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