起業時には、融資以外にも資金調達の手段が複数ありますが、そのうちのひとつとして「補助金や助成金の活用」が挙げられます。
今回取り上げるキャリアアップ助成金は、アルバイト・パートといった、有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の、企業内でのキャリアアップを促進するために正社員化や従業員の処遇改善等に取り組んだ小規模事業主を積極的に助成する、厚生労働省による支援事業のひとつです。
企業側にとっては、助成金を受け取れるだけでなく、労働者のモチベーションや能力をアップさせ、事業の生産性を高め、優秀な人材を確保できるというメリットもあります。
ここでは、そんなキャリアアップ助成金について詳しくご紹介していきます。
目次
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補助金・助成金ってなに?
補助金・助成金とは、国や自治体が予算を組み、地域経済の活性化の取組として企業などの支援に使うと決めた財源のことです。
そのため、金融機関などからの借入とは異なり、返済義務はありません。
また、公募期間内に申し込みをすれば、補助金を受ける権利があります。
ただし申込者全員が補助金の対象になるわけではありません。
では、具体的な補助金の仕組みについて見ていきましょう。
キャリアアップ助成金を受給できる対象事業主
キャリアアップ助成金の支給は、次の要件を満たした事業主を対象としています。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
助成金の受給には7つのコースがありますが、上記の要件は、全コース共通の要件で、別途、各コースの条件を満たす必要もあります。
中小企業の場合、多く支給が受けられる!
中小企業事業主に対しては、大企業に比べてより多くの金額が助成されるのが、キャリアアップ助成金の特徴です。
対象は以下範囲の事業主です。
資本金の額・出資の総額、または常時雇用する労働者の数により判定されます。
(資本金等のない事業主については、常時雇用する労働者の数により判定されます)
資本金の額・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数(※) | |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※常時雇用する労働者の数とは、2か月を超えて使用される者(実態として2か月を超えて使用されている者のほか、それ以外の者であっても雇用期間の定めのない者および2か月を超える雇用期間の定めのある者を含む)であり、かつ、週当たりの所定労働時間が、当該事業主に雇用される通常の労働者と概ね同等である者をいいます。
キャリアアップ計画について
先ほど要件のところで出てきたキャリアアップ計画というのは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組みイメージをあらかじめ記載するものです。
内容としては、対象者や目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みについてです。
キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄の労働局長に提出します。
これは、あくまでも当初の予定ですので、随時変更することも可能です。
ただ、変更する場合は、変更後に必ず管轄労働局に、キャリアアップ計画変更届を提出しなくてはいけません。
変更届が提出されていないと、助成金を受給できない場合もあるので注意が必要です。
助成金受給の7つのコース
さて、先に少し触れましたが、助成金受給には7つのコースがあります。
(従来は正社員化コース・人材育成コース・処遇改善コースの3コースが設けられていましたが、平成29年4月に変更されています)
1. 正社員化コース
非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換したり、直接雇用した場合に助成
2. 賃金規定等改定コース
非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を増額し、昇給した場合に助成
3. 健康診断制度コース
非正規雇用労働者を対象とする法定外の健康診断制度を新たに規定し、のべ4人以上が実施した場合に助成
4. 賃金規定等共通化コース
非正規雇用労働者について、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成
5. 諸手当制度共通化コース
非正規雇用労働者について、正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設けて適用した場合に助成
6. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、非正規雇用労働者を新たに被保険者とし、基本給を増額した場合に助成
7. 短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者の週の所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成
複数コースを同時に申請もOK
各コースは複数実施して助成金申請することも可能です。
会社の業種や勤務形態に合わせて、複数のコースから選択して、助成金を受け取れるのが「キャリアアップ助成金」の魅力です。
キャリアアップ助成金受給までの流れ
キャリアアップ助成金は、次のような流れで準備・手続きをし、審査を通過して支給が決定したら受給できます。
1. 要件を満たしているか確認
2. コースの選定
3. キャリアアップ計画書の作成
4. キャリアアップ計画書を管轄労働局へ提出・認定
5. 各コースの取り組みを実施
6. 助成金の支給申請
7. 支給決定
助成金受給にあたっての注意したいポイント
キャリアアップ計画の策定
キャリアアップ計画の策定は慎重に行ってください。いずれのコースに申請する場合でも、事前に作成して提出しなければいけません。
提出後に変更も可能ですが、都度、ハローワークに「計画変更届」の提出が必要です。
最初からきちんと計画を立てて確実に実施できるよう、慎重な作成が必要です。
必要書類をきちんとそろえる
申請には多くの書類の作成や提出が求められます。
コースによっては、関連する規定を設けた労働協約や就業規則等の添付が必要となります。
当然これらは、事前に用意しておき、労働基準監督署への届け出しておかなければなりません。
こういった必要書類も抜け漏れがないよう、チェックを怠らないようにしてください。
スケジュール管理の徹底
実施に際してスケジュール管理の徹底を意識しましょう。
計画書作成から実施、支給申請まで長ければ1年かかります。
この期間に必要なプロセスが踏めていないと、最終的に助成金が支給されない可能性もあります。
あらかじめ一連の流れをしっかり理解し、徹底したスケジュール管理に努めましょう。
まとめ
ここでは、起業直後でも申請できる、厚生労働省のキャリアアップ助成金についてご紹介しました。
創業のタイミングでの助成金利用は通りやすいともいわれていますので、創業直後にキャリアアップ助成金の申請をするのはおすすめです。
銀行などからの融資とは異なり、返済不要なのも事業者には有難い限り。
人材育成で事業を継続的に発展拡大していくためにも、キャリアアップ助成金は非常に有効な手段と言えます。
創業時の資金調達の手段としても、ぜひご検討ください。