個人で事業を営む場合、人手が足りないとなればまず家族の手を借りる人が多いのではないでしょうか。
従業員を1人雇うにも、求人募集を出して応募書類を見て連絡して面接して・・・と手間や時間がかかります。それなら配偶者など家族を労働力とした方がいいですよね。
しかし、個人事業主の場合は家族に払う給料を経費にできません。
事業主本人の給与が家族に振り分けられただけで「財布」としては同じ、と見なされてしまうからです。
ただし確定申告を青色申告にした場合には、家族への給与も「専従者給与」として経費にすることができるのです。これを「専従者控除」と呼びます。
この記事では、この青色申告の専従者控除について詳しく見ていきましょう。
目次
青色申告と白色申告
個人事業主になると必要になる手続きの1つが、所得税の確定申告。確定申告には2つの方法があり、それが「青色申告」と「白色申告」です。
青色申告にするか白色申告にするかは納税する側が選べますが、青色申告の方が正確な納税額を算出できるため、国も推奨しています。そのため、青色申告することで節税となる特例措置がいくつか用意されています。
その1つが、この記事で紹介する「青色申告専従者給与」です。ただ白色申告にも、制限はあるものの近い措置として「事業専従者控除」があります。順に見ていきましょう。
青色申告のその他のメリットなどについては、こちらの記事で解説しています。
事業専従者とは
専従者とは、納税者と生計を一にする配偶者などの親族のうち、納税者が経営する事業に従事する人のことを言います。
「生計を一(いつ)にする」とは、いわゆる「財布が同じ」であることを意味します。同居かどうかは関係なく、例えば大学進学で別居していたとしても、生活のためのお金が納税者と同じ財源であれば当てはまります。
通常、個人事業主による配偶者や家族への給与の支払いは「同じ財布の中での金銭の移動」と見なされ、経費とは認められません。しかし、青色申告と白色申告それぞれで、経費と認められるための特例が設けられています。
青色申告と青色事業専従者給与
納税者が青色申告をした場合、専従者に支払われた給与は「青色事業専従者給与」として経費とすることができます。ただし、それには条件があります。
青色事業専従者給与とするには
家族への給与が青色専従者給与と認められるためには、その家族が「事業専従者」であると認められるための次の3つの条件をすべて満たす人をいいます。
- 青色申告をする経営者と生計を一にする配偶者またはその他の親族であること
- その年の12月31日現在で、15歳以上であること
- 1年のうち6カ月以上、その事業に専ら従事していること
大学進学で遠くに住む子どもは、仕送りなどで生計を一にしていると言えます。しかし、例えば夏休み期間中の1カ月しか仕事をしていないといった場合には、経費となる条件を満たせません。
また、1年を通じて仕事を手伝っている配偶者などでも、他にパートタイムなどの仕事を持ち、そちらの勤務時間の方が明らかに長い場合などは、「専従」とは言えず要件を満たしません。
高齢や病気療養中などの理由により仕事ができる状態にない人についても、専従事業者とは認められません。
さらに手続き上、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に届け出る必要もあります。
これには、あらかじめ給与の金額を記入する欄も設けられています。金額の増額など、変更するには変更届出書を出す必要もあるので注意が必要です。
青色事業専従者給与はいくらまでOK?
青色事業専従者給与は、当人に支払った給与の全額を経費にできるものです。しかし、限度はあります。
先に触れたように事前の届出書で予定金額を届け出る必要がありますし、労働の対価として多すぎると税務署に判断された場合には、適当であると認められた部分しか経費にはできません。
必要経費として認められる基準については、過去の判例を参考にするとよいでしょう。
「国税不服審判所」の公式サイトで紹介されている判例を見ると、近年の裁判で判断基準とされたのは、類似同業者が支払っている青色事業専従者給与の平均額や、当該事業主のもとで働く他の従業員の給与の額です。
その額に本人の労働時間や業務内容などを考慮した額が適正給与額とされ、上回る部分は裁判でも経費として認められていません。
家族でなく、誰か別の第三者にその仕事を任せるとしたら給料をいくらにするか。想定したその金額を基準にするとよいでしょう。
白色申告と事業専従者控除
「青色事業専従者給与」は青色申告の特典の1つですが、似たような措置は白色申告にもあります。ただし節税のメリットとしては青色申告より劣ります。
事業専従者控除とは?青色申告との違い
白色申告の場合に家族への給与を経費とするための特例が、「事業専従者控除」です。
青色申告の場合は「青色事業専従者給与」と呼びますが、白色申告では「事業専従者控除」であり、仕組みが異なります。
白色申告の場合は、家族に支払った給与の額がそのまま経費となるのではなく、状況に応じた一定の額の「控除」が認められるのです。
事業専従者控除を受けるには
事業専従者控除を受けるには、家族が「事業専従者」でなくてはなりません。要件は、上で紹介した青色事業専従者の要件とほぼ同じです。
- 白色申告する経営者と生計を一にする配偶者またはその他の親族であること
- その年の12月31日現在で、15歳以上であること
- 1年のうち6カ月以上、その事業に専ら従事していること
手続き上では、確定申告の際に事業専従者控除を受ける旨とその金額などを確定申告書に記入する必要もあります。
事業専従者控除の計算方法
白色申告の事業専従者控除では、控除される額は事業専従者となる家族の人数や、その人が配偶者かどうか、また事業所得の金額がいくらかによって異なります。
具体的には、次のうち低い方の金額が控除額となります。
- 配偶者の場合は86万円、それ以外の親族は1人につき50万円
- 「事業所得の額÷(専従者の人数+1)」で算出した金額
このように限度がはっきりしており、給与を多く支払えば控除も多くなるわけではないのが白色申告の専従者控除の特徴です。
家族を事業専従者として給与を払うデメリット
家族への給与を経費にできる特例が事業専従者給与(青色申告)や控除(白色申告)。しかし、この制度を利用した場合、次の2点に注意する必要があります。
配偶者控除や扶養控除は対象外
事業専従者である家族については、配偶者控除や扶養控除を受けられなくなるというデメリットがあります。
その年の事業の収支などを総合的に見て、配偶者控除・配偶者特別控除、あるいは扶養控除との節税メリットを比較した方がよいでしょう。
事前に青色事業専従者の届出をしても、申告時に専従者給与を計上しなければならないわけではありません。どちらがいいか判断がつかない場合には、税理士などに相談してください。
給与所得を受けた本人への課税の可能性
また、事業の必要経費とした事業専従者への給与は、当然その家族にとっての「給与収入」です。
そのため、合計所得の額によって所得税や住民税などがかかります。特にパートなど別の収入がある人の場合はその可能性が高くなるでしょう。
まとめ
家族への給与は、不当な税金の申告を避けるため原則として経費とは認められません。しかし、経費も実態に即して正しく計上できるよう、事業専従者についての特例措置が設けられています。
青色申告の場合は、「青色事業専従者給与」といって、家族に支払った金額が適正であればそのまま経費と認められる制度を取っています。これも青色申告をする人への特典の1つです。白色申告でも、「事業専従者控除」といって一定の額ではありますが控除されます。
ただしそれには、家族が生計を一にする、6か月以上その事業に専従するなどの要件を満たさなくてはなりません。また、青色申告のメリットとはいえ、経費にできる給与額には適正かどうかの判断も下されます。
一方、配偶者や扶養家族の控除は受けられないこと、本人の所得が増えて税金負担が増える可能性があることについても要注意です。どちらを取るべきか迷う場合は、税理士に相談し、節税メリットをしっかり享受できるようにしてください。
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