事業を運営する上で欠かせないのが「減価償却」の知識です。
減価償却とは、自社で長期間にわたって使う固定資産を、その価格や耐用年数をもとに何年かに分けて経費とするもので、その計算方法には一定の金額を償却する「定額法」と、一定の割合で償却する「定率法」の2種類があります。
建物などは定額法と決められていますが、それ以外は定額法と定率法のいずれかを選択することができます。
今回はこの減価償却やその方法について詳しく見ていきましょう。
目次
減価償却とは
減価償却とは、所得税法や法人税法で定められた固定資産を徐々に費用として計上していくことです。
固定資産は時間の経過とともに劣化していくため、価値が減っていきます。
この価値の減少を減価償却として、費用計上していくのです。
減価償却には、次のようなメリットがあります。
- 節税効果がある
- 手元に資産が残る
- 適正な損益把握ができる
減価償却費の算出について
減価償却費は「耐用年数」と「取得価額」から算出します。
【耐用年数】
耐用年数とは、資産が本来の用途・用法による効用が続く期間とされています。
通常、使用する頻度などによってその物の使える期間は異なりますが、省令によって「法定耐用年数」として一律の年数が定められています。
【取得価額】
取得価額とは、資産を購入したときの金額です。
これには購入費に加え、その取引にかかる運賃や設置費など、資産を使用するために必要となった費用も含まれます。
減価償却にはどんな方法があるのか?
減価償却方法には、大きく分けて2種類があります。
具体的には、「定額法」と「定率法」の2つです。
定額法は、毎年同じ金額を減価償却で費用計上していくものです。
たとえば100万円の資産があって、これを5年で減価償却するとします。
この場合、毎年20万円ずつ減価償却していくと、5年でちょうど0円となります。
定率法は、残存価額に対して毎年一定率の金額を減価償却費とする方法です。
最初の方に大幅に減価償却され、後半の減価償却費が少なくなるという特徴があります。
「定額法」か「定率法」か選べない場合もある?
減価償却方法で大別される「定額法」と「定率法」の2種類ですが、どちらが適用されるかは一部をのぞき、原則として「税法」であらかじめ決められているため注意が必要です。
- 建物
- 建物附属設備
- 建築物
- ソフトウェア
これらは「定額法」か「定率法」かの選択の余地はなく、いずれも「定額法」と定められています。
【参考】国税庁ホームページ [手続名]減価償却資産の償却方法の届出
減価償却は定額法と定率法の2種類がある
事業を行っていると様々な設備や備品を購入することになりますが、これらは資産価値があります。
会計上も固定資産とみなされており、一定のルールに従って減価償却をしなくてはいけません。
前述の通り、償却方法は定額法と定率法の2種類があり、それぞれ減価償却費の計算方法が異なります。
一部の固定資産を除き、どちらを選んでも問題はなく、最終的な償却金費にも変わりはありません。
ただ、計算方法の違いから生じるメリットやデメリットがあります。
どちらを取り入れるか迷った際は、利点と欠点を比較して判断すると良いでしょう。
定額法の特徴とメリット・デメリット
まず定額法ですが、毎年同じ金額の減価償却費を計上する方法です。
具体的な金額は「購入価格÷耐用年数」という計算式で算出できます。
例えば、事業用に100万円で軽自動車を購入した場合、毎年の減価償却費は以下の通りです。
100÷4(軽自動車の耐用年数)=25万円
1年あたりの減価償却費は25万円となりました。
軽自動車は耐用年数が4年ですので、25万円ずつ、4年間に渡って減価償却費を計上することになります。
定額法は上記のような特徴を持ち、最もポピュラーな減価償却の方法です。
様々なメリットもありますが、中でも次の2つは定額法ならではといえます。
- 帳簿の扱いがシンプルになる
- 初期利益が高くなる
毎年一定金額ずつ償却していくため、帳簿での取り扱いがシンプルになります。
定額法では、後述する定率法のように減価償却費が変動しません。
また、減価償却の初年度も最終年度も金額が同じため、特に初期利益を多く見せることができます。
しかし定額法も万能ではなく、次のようなデメリットがあります。
- 節税効果が薄い
- 定額法しか選べない資産もある
定額法は毎年同じ金額ずつ減価償却を進めます。
そのため、一気に償却できる定率法より初期の節税効果が薄く、利益によっては税金の負担が増加します。
なお、建物やパソコンのソフトなど、一部の資産は定額法しか選べません。
個人・法人の区分によっても変わりますので、事前に資産の償却方法を確認しておくと良いでしょう。
定率法の特徴とメリット・デメリット
一方の定率法は、毎年一定割合ずつ減価償却を行う方法です。
毎年の減価償却費は、「残価×償却率」あるいは「残価×保証率」のうち、いずれかの高いほうが適用されます。
なお償却率と保証率は耐用年数によって定められています。
仮に軽自動車を100万円で購入したとしましょう。
軽自動車は償却率が0.5、保証率が0.12499です。
4年間の減価償却費は次のように計算できます。
- 1年目…100×0.5=50万円
- 2年目…50×0.5=25万円
- 3年目…25×0.5=12.5万円
- 4年目…12.499万円
1年目は50万円も計上できますが、2年目以降は徐々に額が少なくなります。
また、4年目は保証率が適用され、残価1円まで減価償却が完了します。
このような特徴を考慮すると、次のメリットが挙げられます。
- はじめの頃は節税効果が大きい
- 早い段階で購入費用を回収できる
定率法は初期の減価償却費が大きいため、その分節税効果も高まります。
見かけの利益を少なくできますので、損益通算した際の法人税が最小限に抑えられます。
更に、早い段階で資金を回収できることから、融資も受けやすくなるでしょう。
ただし、定率法は以下のデメリットがあります。
- 帳簿上の取り扱いが複雑
- 後年になるほど節税効果が薄れる
償却率の他に保証率が定められており、毎年の減価償却費が変わります。その影響で帳簿上の扱いが複雑になるほか、節税効果が 年々薄れてしまいます。
毎年同じように節税効果を得たい場合は、定額法を選んだほうが良いでしょう。
減価償却の節税効果
減価償却費は上で説明した通り経費です。
つまり、費用として利益額を抑える効果があります。
毎年の減価償却は、毎年の帳簿上の総所得を減らすということです。
また法人の場合、減価償却はしてもしなくてもどちらでも問題ありません。
個人の場合には必ず減価償却を行う必要があります。
赤字の場合減価償却をしても節税にならないため、できれば費用計上できる分を残しておいて、黒字の年の減価償却に回したい、という心理が働くでしょう。
しかし個人の場合、このように減価償却を繰り越すことは認められていません。
法人の場合のみ認められていて、特に税務署からの印象が悪くなるようなこともありません。
ただし融資を受ける場合は話が別で、銀行は減価償却を行うよう指示しています。
理由としては、減価償却をしていないと銀行の想定よりも実は利益が少なかった、ということになってしまうからです。
銀行は帳簿上にない費用が残っている状態を避けたいので、減価償却しているかどうかが融資の基準です。
特に赤字で減価償却を行っていない場合、銀行からは「帳簿の表面上よりも経営が危ない状態かもしれない」と疑われかねません。
減価償却をしない会社は倒産リスクが高い
倒産の危機に瀕した会社は、減価償却をしないケースが多いことから、減価償却をしていない会社は倒産リスクが高い、というのが定説となっています。
実際、減価償却を行っていない企業には、赤字なので費用計上を先延ばしにしている、あるいはそもそもの経理がずさんなケースが多いです。
特殊な減価償却
減価償却の方法は上で説明した通りですが、次のような場合はどうすればいいのでしょうか。
- 年度の途中で資産を購入した
- 中古の資産を購入した
- 残存価額の残っている資産を処分した
これらの場合も、減価償却の方法は難しくありません。
まず年度の途中で資産を購入した場合、月割りで減価償却を行います。
中古の資産を購入した場合、新品の50%を超える金額であれば、法定耐用年数で減価償却を行います。
50%以下の場合、すでに使用された期間や状態を考慮し、相応の耐用年数で減価償却を行います。
残存価額の残っている資産を処分した場合、借方を「固定資産償却損」として計上します。
まとめ
減価償却は、個人の場合は必須、法人の場合どちらでも良い、ということになっています。
しかし法人の場合も、減価償却しないことは税金の面でマイナスになる可能性が高いので、たいていの場合は減価償却する方がメリットとなります。
用語などが難しいことから、最初は「やり方がよくわからない」という人も多いかもしれません。しかし一度理解してしまえばそこまで難しいものではありません。
定額法か定率法のどちらを選択すべきかは、経営状態を見極めた上での判断が必要です。また、建物に付属する設備や構築物は、平成28年4月1日以後に取得したものから定率法が使えなくなったなど、税務上の規定は頻繁に改定されています。
処理の方法に不安がある場合や、どちらを選択するべきか迷う場合には、信頼のおける税理士事務所に相談することをおすすめします。