役員退職金に注意して納税額を抑える方法
会社の役員退職金は支払額が高額になるため、その計算方法や処理方法、支払時期などに気を付けなければならない支出です。
役員退職金は誰に対して支払われるものなのか、損金に算入されるためにはどうしたらいいのか等、役員退職金について解説します。
役員退職金とは
役員とは、会社の運営に携わっている「代表取締役、取締役、理事、執行役、監査役、監事」のことです。
さらに、法人税法では実際に登記している役員よりも広い範囲に渡って経営に従事している人を「役員」と指定しています。
上記以外では、以下の方が法人税法上の「役員(みなし役員)」と呼ばれます。
【みなし役員】
- 法人の使用人以外で経営に従事している相談役や顧問
- 同族会社の使用人で要件を満たした者かつその会社の経営に従事している者
登記簿には記載されていない場合でも、この役員に該当する人が退職時に受け取る所得が「役員退職金」です。
経営に従事している人が退職した場合、支給した退職金は「役員退職金」に当てはまるので、役員退職金の対象になるかどうかの判断には注意が必要です。
役員退職金の金額
役員退職金は、会社への貢献度に応じて支給金額が増加するのが一般的で、支給額は基本的に高額になりがちです。
この役員退職金の金額を決める方法は定められていないため、どのような基準で決めても、株主総会で承認されれば問題はありません。
ただし、実際にはスムーズに決議されるように、役員退職金規程を作り、規程に沿って役員退職金を決定することが多いでしょう。
この金額は、取締役会で決定するのが一般的です。
役員退職金は、勤務年数と給与額によって決められる社員の退職金とは異なり、自由に支給額を決められる、会社への貢献度が高いと支給額が増加するなどの特徴から、税務調査でチェックが入りやすいといわれています。
税務調査時に問題が起きることが無いように、「役員退職金規程」を作っておいたり、役員退職金が議題にあがったときの「取締役会の議事録」や「株主総会の議事録」を作成したりと、支給額の根拠を明確にしておくことが大切です。
一般的に用いられている役員退職金の計算式は以下の通りです。
役員退職金=最終報酬月額×勤続年数(在任年数)×功績倍率
この「功績倍率」の基準は、「社長 3.0」「専務 2.5」「常務 2.5」「取締役 2.0」「監査役 2.0」です。
この倍率を計算式に当てはめて計算することができます。
みなし役員退職給与
通常の役員退職金は、役員が退任したときに支給されます。
ところが、一定の条件を満たしていると、役員が退任していない場合でも退職金が支給される「分掌変更」のケースもあります。
役員が退任していなくても退職金が支給されるケースには、以下の場合があります。
- 常勤役員が非常勤役員になった場合
- 取締役から監査役になった場合
役員退職金の損金算入
役員退職金を会社が支払う場合、支払った退職金を損金算入できる場合があります。
支払った役員退職金の金額を損金算入することができると、会社の納付する税金の減額が可能になります。
十分に黒字が出ている年度は法人税の納付が必要です。
黒字決算の年度に役員退職金の支払いがあると、その金額を損金算入して帳簿上の利益を減らすことができ、法人税額が減額できるでしょう。
会社が赤字決算のときでも、株主総会の承認がある場合には、役員退職金の支給は可能です。
ただし、その場合には会社に利益が生じていないため、納付税額の軽減にはなりません。
また、赤字決算の年度では、役員退職金の支払いをするための資金が準備できない、という問題が生じる場合もあるかもしれません。
役員退職金は高額になるので、支払った金額を会社の損金に算入できるよう処理することが、節税のために重要なポイントといえます。
損金算入可能なケース
役員退職金を損金に算入するためには、役員退職金の支給額について株主総会による決議が必要です。
また、役員退職金が適正な金額の場合に、損金算入することができます。
役員退職金の額が適正かどうかは、役員の勤続年数、退職理由、同業種・同規模の他社の役員退職金額との比較で適正な退職金額かどうかが判断されるため、役員退職金の支給額が過度にならないように気をつけないと、損金の算入ができない場合があります。
損金算入時期
退職金の損金算入は、原則、役員退職金について承認した株主総会の開催日が属する事業年度に行います。
株主総会で支給額が決議されてからその翌年度に支給した場合には、「株主総会開催年度」に支払った金額を未払計上して損金に算入するか、翌年の「実際に支給した」年度に損金算入するのが一般的です。
また、取締役会で役員退職金の支給額を決めてから支払いまでを、その年度中に終わらせた場合には、「株主総会の開催年度の前年」にも損金に算入できます。
このときには、さらに後日行う株主総会で取締役会の決定事項の追認が必要です。
特に大きな売り上げがあったなど、会社の利益が多い年度に役員が退職した場合には、その年度内に損金計上できると会社の納税額の軽減につながる場合があります。
株主総会で問題にならない場合には、節税につなげるために事業年度内に取締役会の決議で支給まで終わらせる方法を検討してもいいかもしれません。
もし会社の業績が赤字になると、金融機関などからの信用を落とす場合があります。
高額な退職金を損金算入する時期は、注意して決定する必要があるでしょう。
役員退職金が損金不算入の場合
役員退職金の金額が高額すぎるなどの理由から損金算入が認められなかった場合には、支払った退職金が「会社の利益」となり、納税対象になります。
役員退職金は損金として会社の経費にできるのですが、役員退職金ではない場合には会社の利益から役員に支払われた配当金に当てはまります。
会社の利益の場合には法人税を納税する必要があるため、節税にならず余計に税金がかかる場合があり、注意が必要です。
役員退職金所得税税額
役員退職金にかかる税金は、「課税所得額」を算出してから税率をかけて計算します。
この「課税所得額」は、「役員退職金」「退職控除額」を元に計算することができます。
また、役員退職金は老後の生活を支えるための大切な所得と考えられているため、税金の負担を少なくする累進緩和措置がとられています。
累進緩和措置によって、対象となる退職金の場合には、課税所得金額に1/2をかけてから所得税率をかけて計算します。
役員退職金税額=(退職収入総額-退職所得控除額)×1/2×税率(所得税・住民税)
平成25年以降から、勤続年数が5年以下の役員が支給される役員退職金には、累進緩和措置が取られないことになりました。
勤続年数が5年以下の場合には、課税所得額の計算時に最後に1/2をかけることができなくなっています。
税額を計算するときには、退職収入から控除額を引いた金額にすぐ税率をかけることになるので、個人の納税額は大きく上がります。
本人の納税額負担を増やさないための処理にも注意が必要です。