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オペレーティングリースの仕組みと節税効果
皆さんは職場で「もうすぐリース更新だから新製品にチェンジする」「リースからレンタルに切り替える」などの会話を聞いたことがありませんか?
多くの会社で使用しているツールは、買取ではなくリースもしくはレンタルが利用されているケースがほとんどです。
例えば、パソコンやプリンタなどのOA機器、工場で稼働する産業機械、また営業車までリース契約が結ばれています。
また一般家庭においても、最近は「個人向けカーリース」などを利用している人は少なくないでしょう。
このように多くの日本人にとってリース契約は身近な存在です。
しかし今回取り上げる「オペレーティングリース」については、なじみがないという人がほとんどかもしれません。
オペレーティングリースは、主に大規模法人が計画納税を目的とした資金運用の手段としているからです。
しかもリース対象は「航空機」「船舶」「海上コンテナ」などの大型物件のみ。
そして2019年3月には「IFRS 国際財務報告基準」に沿って資産計上が義務付けられる可能性が急浮上したことは、オペレーティングリースユーザーに大きな衝撃を与えました。
これまで、オペレーティングリースに期待されていた節税効果が、足元から崩れるかもしれないからです。
この記事では、注目される「オペレーティングリース」の仕組み、そして節税効果について、2020年現在の最新情報をお伝えします。
リースについての知識を見直そう
リースとは英語でいうと「lease」すなわち賃貸借を意味しています。
企業、そして家庭生活においてもリースが浸透している日本では、多くの人に「物品や機械、そして設備を長期間借りること」と認識されています。
ここで改めて、リースそのものについておさらいしてみましょう。
リースの仕組み
まず日本でリースと言えば、後述の「ファイナンスリース」が一般的です。
基本的な仕組みは、リース会社が購入した物件を、借り手である企業や個人に貸与することでリース料を徴収するというものです。
リース料には、物件代金のほか金利が上乗せされます。
借り手側にとっては、一定額のリース料を支払えば利用できるので、購入と比較して、まとまった資金を用意する必要がないことや、リースを利用すればリース料全額を経費扱いにできる、など多くの利点があります。
もし資産として物件を購入した場合は、減価償却分のみが損金として控除対象となりますが。
レンタルとどこが違う?
リースとレンタルは、どちらもコストを抑えて物品を調達できる手段です。
よく似ていますが、双方の違いは「利用する期間」及び「手軽さ」です。
レンタルの場合
日単位、週単位、月単位の「短期契約(短期賃貸)」が可能です。
また料金の支払い管理のみで保守義務はありません。
このように、必要なときに必要な期間のみ手軽に借りられるのがメリットですが、リースに比べてコストが割高で、選択肢が少なくなることがほとんどです。
リースの場合
短くても半年、大型設備のように長期間利用する場合は10年単位と「長期契約(長期賃貸)」が可能です。
レンタルに比べて料金が割安ですが、長期契約となる分、物件のメンテナンス義務が発生します。
またレンタルよりも煩雑な経費処理が必要となります。
リースには2種類「ファイナンスリース」「オペレーティングリース」
先に述べたように、リースといえばファイナンスリースが主流ですが、ダイナミックな節税策としてオペレーティングリースも利用されています。
このふたつが日本で一般的に利用されているリース形態となっています。
※メンテナンスリースについて
リース会社がリース物件の保守、管理、修繕などを行うリースを「メンテナンスリース」と呼びます。
会計基準においては、メンテナンスリースも、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースのいずれかに分類されます。
ちなみにメンテナンスリースは、煩雑な管理を伴う自動車のリースに多くみられます。
以下に「ファイナンスリース」「オペレーティングリース」の違いについてまとめました。
ファイナンスリースの特徴
ファイナンスリースの場合、リース契約期間の中途解約禁止(フルペイアウト)というルールがあります。
また契約内容の中身は、「リース対象物件の取得価額」+「その他費用(金利含む」をリース料として回収するというものです。
つまりリース契約期間中に借り手は物件の取得価額の全額をリース料として支払うことになります。
- リース期間の目安:法定耐用年数の60~70%
- リース料の設定:物件価格の110~120%(金利ほか諸費用加算)
オペレーティングリースの特徴
ファイナンスリースがフルペイアウトを原則としているのとは逆に、オペレーティングリースは「リース対象物件の取得価額」+「その他費用(金利含む」の全額を回収対象とすることはありません。
オペレーティングリースにおいては、リース会社がリース契約終了時の価値査定のうえ、その残存価額を差し引いた額をリース料とするものです。
つまり将来(=リース終了時)にも、大きな価値を持っていると考えられる物件のみがオペレーティングリース物件となりえます。
それが航空機・船舶・コンテナの3大オペレーティングリース物件です(=購入選択権付日本型オペレーティングリース)。
またリース会社は、顧客の希望(納税計画や資本投入計画など)に沿ってリース期間を設定することが可能です。
例えば、航空機リースなら一度にリース料を支払うことで、多額の損金を発生させて利益を打ち消し節税効果を挙げる、ということが期待できます。
- リース期間の目安:自由設定
- リース料の設定:物件価格以下(中古市場性の高さを考慮)
日本型オペレーティングリース(JOLCO)とは?
先にご説明したように、オペレーティングリースにおいては、リース後も超高額の価値をキープできる物件だけが対象となります。
そして、必要な10億100億単位の資金を動かすには、仕組みづくりが不可欠。
日本国内では、オペレーティングリースの仕組みに、日本独自の「匿名組合」を加えた「購入選択権付日本型オペレーティングリース JOLCO」が主流となっています。
以下に、日本型オペレーティングリースの仕組みや特徴についてまとめました。
借り手(レッシー)は?
航空会社、海運会社、物流会社。
原則リース契約を中途解約して物件を買い取ることができる「早期購入選択権」が付与される。
貸し手は?
リース会社が募集する出資者である、法人投資家(匿名組合員)で構成される「匿名組合」。
基本的なリースの流れ
匿名組合からの資金+金融機関の借入金で物件(航空機、船舶、コンテナなどの大型物件)を購入。
借り手は物件の貸与を受けてリース料を支払う。
リース期間満了時に投資対象物件を売却した利益を匿名組合員に分配する。
借り手のメリット
- 自力で巨額の資金を調達することなく、大型物件のリースを受けられる
- 短期で近期で大きな損金を計上して節税対策とできる
貸し手のメリット
- リース期間満了後は物件の中古市場での売却益を得られる
日本型オペレーティングリースはどうなる?今後の行方
航空機債権リスクが炎上する?
物件を購入する資金に、金融機関からの借入金を加えるオペレーティングリースは、レバレッジドリースという側面を持っています。
また、特に航空オペレーティングリースの場合、借り手の航空会社の信用力よりも、飛行機という物件本体の価値に依存するというものです。
新型コロナ以前は、確実にリース後に高い利益を得られると見込めたため、オペレーティングリースの出資者たちと、グローバル化の恩恵を受けてどん欲に航空機を購入していた航空会社とは、まさに蜜月関係にありました。
しかし2020年現在、航空会社を取り巻く環境は激変。
コロナ感染拡大防止の影響により、航空料金が入らず航空会社は資金難にあえぐ事態に陥りました。
ヴァージン・オーストラリア航空、アビアンカ航空、タイ航空の破綻、ルフトハンザやエールフランスは、政府が資本注入することによって生きながらえている状況です。
万一、出資した航空会社が倒産した場合、当然リース料の支払いや航空機の購入金額の保証はなくなり、見込まれた分配金も得られなくなります。
多額の債権を抱える金融機関をはじめ、匿名組合の出資者にとっては予断を許さない状況がしばらく続きそうです。
節税効果はどうなる?
IFRS基準でオフバランスは廃止に!
海外ではファイナンスリース、オペレーティングリースに限らず、すべてのリース取引を資産計上することが基本です。
一方、日本においては、オペレーティングリースについて、借り手側の資産計上は特に求めてこられませんでした。
しかし2019年に「企業会計基準委員会最新基準」より、国際財務報告基準の最新基準「IFRS16」に則り、リース取引の全てを貸借対照表に資産計上すること(オンバランス)を提起しました。
【参考:「第408回企業会計基準委員会 リース論点に関する検討」】
ファイナンスリースについては、既に計上することが通例だったものの、オペレーティングリースについては、オフバランス(バランスシートに計上しない。有価証券報告書に注記)とすることが、いわば慣例化していました。
すべてのリース契約を、バランスシートに計上することがルール化された場合、オペレーティングリースを利用する上場企業全体の負債は、20兆円近く増加することになります。
自己資本比率などの財務指標が悪化することで、投資家の判断に影響することは必至となり、日本経済にも大きく影響が出る可能性が出てきました。
節税効果がなくなる?
上記の通りに、オペレーティングリースにかかる費用計上が事業会計に必須となることで、企業側にとっては、巨額のオペレーティングリースのオフバランスメリットを失うことになります。
とは言え、リース料の損金算入できるメリットは継続します。
ともすれば、設備投資意欲がなくなり、リース離れが懸念されていますが、大きな損金算入が可能、すなわち節税効果の高さは変わりません。
節税効果が継続するか要注視
ご紹介してきたように、オペレーティングリースとは、航空機・船舶・コンテナなど、巨額物件の中古市場価値を考慮して、契約内容を設定する特殊リースです。
物件の、中古市場での価値の高さを考慮したオペレーティングリースは、日本の大企業においては、節税対策の有効な手段であり資金運用手段でした。
しかし、IFRS基準によるオンバランスとすることが義務付けられることで、「計画納税を可能とする」という前提が揺らいでいます。
かつ、昨今のコロナ感染拡大防止の影響によって、借り手の航空会社や船舶会社は大打撃をこうむっており、オペレーティングリース債権を抱える金融機関にとっては、リース料回収の前途が不透明さを増しています。
まとめ
オペレーティングリースの、節税効果の揺らぎと抱えるリスクについてまとめておきます。
- IFRS基準に倣うことで、オペレーティングリースのオフバランスが失われ節税効果が危うい?
- コロナ渦の影響で、高値づかみのオペレーティングリース債権は金融機関の大きな負担になる?
このように、オペレーティングリースで動いた巨額資金の行き先は、経済に大きなインパクトを与える注目トピックスです。
経理に関わる業務に携わる人ならずとも、テレビ他メディアの報道には注意しておきたいですね。