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事業承継における遺言書の活用方法
ここ最近「2025年問題」を懸念する声が、新聞やその他のメディアでも目立つようになりました。
ここでいう「2025年問題」とは、急速に経営者の高齢化が進む中小企業における、後継者不足による廃業の増加のことで、2025年までに日本の企業の3社に1社、およそ127万社が消失するといわれています。
にわかに深刻さを増した事業継承問題ですが、具体的にはどのようなリスクをはらんでいるのでしょうか。
風前の灯火!消えゆく日本の中小「優良」企業
実は廃業する企業の多くが、十分な利益を出している優良企業です。
たとえば
- 老舗和菓子店などの歴史ある企業
- 伝統工芸の存続を支えてきた伝統企業
などです。
経常黒字でありながら廃業の道を選ぶのは、事業継承ができないための苦肉の策といえます。
将来にわたって利益を生む見通しのある企業の大量廃業によって、日本経済が大打撃を受けることは想像に難くありません。
2025年問題でGDP22兆円が消失?
もし本当に2025年問題が現実になった場合、実に650万人の雇用が失われる可能性があるといわれています。
GDPに換算すれば、約22兆円が消失することになります。
そこで政府は、この由々しき事態に備え「事業承継税制」「中小企業成長促進法」といった法整備を整え、中小企業のバックアップ体制を整備。
事業継承ができず、廃業という道を選ぶしかない中小企業を救うことで、日本の産業基盤を安定させることが急がれています。
今こそ経営者の遺言状の準備が急がれる
もし身内の方以外であっても、後継者になってくれそうな人物に心当たりがあるのなら、ぜひ事業継承を検討してみてください。
そのためには、万一の際に備えた遺言状による事業継承は、最も優先度の高い準備事項です。
民法にのっとり作成された法的効力を持つ遺言状で、しっかりと次の後継者にバトンタッチしたいものです。
この記事では、事業承継の重要性と国のサポート策、そして事業継承における遺言書の活用方法を中心にご紹介します。
中小企業の事業継承は日本全体の重要課題
70歳以上の経営者の半数が、後継者未定という状況となっているなか、国を挙げて、中小企業の事業継承をサポート体制を整えていることをご存知でしょうか。
経営者の高齢化の進行による「2025年問題」を乗り切るために様々な法整備、納税緩和措置が準備されています。
ここでは、政府の事業継承にかかる支援策を整理してみました。
事業承継税制
事業承継税制は、円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
この事業承継税制には、会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」があります。
中小企業成長促進法
2020年9月16日に新たに交付された、中小企業の事業継承の円滑化を目指した法律です。
中小企業成長促進法とは「中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律」の略。
日本の産業を支えてきた中小企業の廃業を防ぐため、様々な支援内容が盛り込まれています。
以下に主だった施策をまとめました。
経営者保証の解除支援
事業承継にとって大きな弊害となっているのが「経営者保証」です。
経営者保証を不要とする、新たな信用保証制度「事業承継特別保証」がスタートしました。
みなし中小企業者特例
中小企業とみなされる、一定の規模の企業への税負担を緩和します。
そのほか、試験研究費の税額控除や少額減価償却資産の特例など、多彩内容が盛り込まれています。
事業継承の主なパターンと準備事項
事業規模の差はあれど、後継者への事業承継には煩雑な準備が必要です。
現経営者と後継者の関係によって、相続法そして会社法の問題を考慮しなければいけないことも多々あります。
法的なリスクを回避して、スムーズに事業継承を行うためには、遺言書ほかの準備が必要です。
ここでは、主な事業継承パターンを列記しました。
後継者が「子供や兄弟など親族の場合」
身内から後継者を選ぶことができるパターンです。
元気なうちに、なるべく早く後継者に経営権の移転を完了させましょう。
多くの場合「遺言書」によって、株式を後継者に相続させて事業を承継させる方法が取られます。
株式の移譲のみ完了して遺言書が遺されていない場合、身内や役員からの不満は必至でしょう。
事業の承継が困難を極めることが予想されるため、法的効力を持つ遺言書の作成が必要になります。
後継者が「親族以外の従業員・役員の場合」
この場合は、前経営者の身内を納得させる経営権の移転の準備が不可欠です。
こちらも株式を譲渡して事業継承することが一般的ですが、経営者の配偶者や子供たちなど、財産相続人への対応が困難になることも少なくありません。
特に株式が分散している場合は、事前に経営者と後継者の持株比率を高めておくことが必要です。
持ち株準備とあわせて、法的効力を持つ遺言書の作成が必要になります。
後継者が「同業他社の経営者を含む他人の場合」
株式を他会社等に売却する、いわゆるM&Aによって事業を承継させる方法が考えられます。
全く赤の他人が会社を引き継ぐことになるため、事前に了承確認は十分にとる必要があります。
加えて経営者の遺言状への記載も必須です。
事業継承を遺言で残す理由は?
「日ごろから長男に継がせることでみんな納得しているから」
「子供たちが継がないなら長年勤めてくれた専務に会社をゆずろう」
などと心で思っていても、説明しなければ真意は伝わりません。
そして、もし万一の際に自分の代わりに「親族や関係者に説明し事業継承をはたす」役割を担ってくれるのが遺言書です。
そもそも遺言とは?
遺言の定義とは、自分が亡くなった後の財産分与などの事項を記載するものです。
民法上の効力が認められた遺言状に沿って、相続人は資産を相続することになります。
遺言がないとどうなる?
もし遺言状がない場合、残された会社や資産はどうなるのでしょうか?
相続権を持つ人たちが遺産分割協議を行うことになります。
意見の対立などが往々にしてあり、調停や裁判にまでもつれる場合もあります。
最悪の場合には事業継承ができない、という事態をも招きかねません。
遺言書作成で忘れてはいけない注意事項
遺言は、ただ亡くなった後の希望を書き残すというものではありません。
特に事業継承にかかるような重要事項については、法的効力を持つ形式に整える必要があります。
民法で定められた方式に則って遺言状を作成することで、法的効力のある遺言状となります。
事業継承内容を記載するのに最適な遺言書とは?
民法に則った法的効力を持つ遺言状を作成するには、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは、事業継承についての遺言を残すに適した、遺言状の種類についてまとめました。
公正証書遺言
遺言を残す人が公証人(多くの場合元裁判官や元検察官)に遺言内容を伝えてまとめてもらう方法です。
遺言書の作成だけでなく、遺言状そのものを公証役場に保管してもらいます。
紛失や盗難、そして偽造や改ざんの恐れがないので、他者に書き換えられたなど「遺言の効力が発揮できない」というリスクがありません。
自筆証書遺言(公証役場保管)
遺言する人の自筆・押印による遺言が「自筆証書遺言」です。
手軽でいつでも書ける便利さはありますが、不備があった場合は遺言としての効力がありません。
また紛失や盗難、そして偽造や改ざんの恐れもあります。
そこで2020年7月より保管制度がスタートしました。
自筆証書遺言を全国に416ある法務局のうち「300以上(法務省発表)」で保管してもらえます。
遺言書作成時には、遺言書保管官にチェックしてもらえるのも安心です。
遺言は慎重に!事業継承は日本経済にも影響大
ここまでご説明してきたように、遺言書による事業継承によって経営をバトンタッチすることは、日本経済にもインパクトを与える重要課題です。
日本の労働人口の7割が中小企業で勤務している現状を顧みれば、事業クローズによって雇用機会は大きな損失を受けてしまいます。
経営者の高齢化の進行によって、これらの悲観的な予想が現実となりつつある今、国も中小企業の事業継承をサポートする施策を整えています。
ここでもう一度、お伝えしてきた内容の要点をまとめておきます。
- 事業継承には「事業承継税制」「中小企業成長促進法」などの支援策がある
- 事業継承の際の遺言書は法的効力を持つ内容であることが必須
- 法的効力を持つ遺言書とは民法に定められたルールに則ったもの
まとめ
「あとでもめると面倒だから事業はたたもう」
「長男に次ぐよう遺言書を描いたから大丈夫」
と安易な決断は早計です。
事業継承を意識し始めたら、早めに弁護士や自治体の支援窓口に相談してみることをおすすめします。