会社設立をする際に行うことの1つに、「会社用の銀行口座(法人口座)の開設」があります。
法人口座を作るメリットについては「会社設立後は法人口座を開設すべき?必要性とメリット、注意点を解説」の記事でもお伝えしましたが、現在、法人口座の開設は審査が厳しく、簡単には開けません。
そのため、なるべく審査に通りやすい金融機関を選ぶなどの対策を取る必要があります。
この記事では、法人口座を開設する際の金融機関の選び方や注意点を解説します。
目次
法人口座を開設する金融機関の選び方
法人口座を作る金融機関を選ぶ際に気を付けたいのは、次のような点です。
- 事務所からのアクセスなど利便性
- 手数料などコスト面
- 信用度につながる知名度の高さ
- 法人口座開設のしやすさ
- 資金調達のしやすさ
それぞれ具体的に見ていきましょう。
アクセスやATMの数などの利便性
金融機関での手続きは、会社運営には必須です。窓口でないとできないことも多いので、会社から近い距離にある金融機関を利用するのが便利です。
また、ATMや支店数の数が多かったり、利用できる時間が長かったりする方が便利です。
あわせて、インターネットバンキングの使い勝手についても検討することをおすすめします。
事務所から遠い金融機関・支店を選んだ場合、逆に金融機関側から不信感を持たれやすくなります。
わざわざ遠くを選ぶ特段の事情がなければ、近いところを選ぶのが得策です。
手数料などコストの安さ
法人口座を選ぶ際には、口座維持にかかる費用や振込手数料などのコストも比較しておきたいものです。
振込手数料は銀行ごとに異なりますが、他行とのやり取りには手数料が高くなるのが一般的です。「月に〇回までは振込手数料無料」としている金融機関も多いので、比較するとよいでしょう。
自社の取引先がどの銀行を使っているのかも考慮して選ぶことで、コストが削減できます。
信用度につながる知名度の高さ
知名度の高い銀行と取引があると、その銀行の審査に通ったという証にもなるため、会社の信用度が高まる可能性があります。
地元以外ではまったく知られていない金融機関よりは、ある程度の知名度がある金融機関の方が箔が付くという側面もあります。
ただし、メガバンクなど都市銀行は主に大企業を対象としていることもあり、どんな企業でも口座開設できるわけではありません。
法人口座開設のしやすさ
近年はマネーロンダリングなどの問題が深刻化しています。犯罪収益移転防止法(犯収法)などにより、法人口座の開設にはどの金融機関も審査を厳しくして対応しています。
そのため、こちらが希望しても断られる可能性があります。快く取引してくれる金融機関を選びたいものですよね。
最も難易度が高いのは都市銀行。逆に難易度が低いのは、信用金庫やネット銀行です。
資金調達のしやすさ
法人口座を持つというだけでなく、融資による資金調達が必要となる時もあるでしょう。資金調達先として向かない金融機関もあることを把握しておかねばなりません。
金融機関の中には、出資する組合員や会員でなければ融資を受けられない信用組合や信用金庫、事業資金の融資はしないゆうちょ銀行や労働金庫といった種類もあります。
また、融資を行う銀行の中でも、中小企業への融資や創業時の融資に積極的なところとつながりを持っておきたいものです。
しかし、創業時に融資を受けようとしても、民間はどの金融機関でも厳しいのが現状です。口座があるから融資も受けられる、とは限りません。
そのため、まずは前述の「口座開設のしやすさ」で選びましょう。
法人口座の開設ができる金融機関
法人口座を開設できる金融機関には、次のような種類があります。
- 都市銀行
- 信託銀行
- 地方銀行
- 信用金庫
- 信用組合
- 商工中金
- 労働金庫
- ゆうちょ銀行
- JAバンク
- ネット銀行
設立する会社の近くにどんな金融機関があるのか確認しておきましょう。金融機関によって開設の難易度も異なるので注意が必要です。最も審査が厳しいのは都市銀行、開設が比較的しやすいのは信用金庫やネット銀行です。
それぞれの金融機関の大まかな特徴とメリット・デメリットを見ておきましょう。
都市銀行
都市銀行とは、東京・大阪といった大都市に本店のある銀行をいいます。現在はいわゆる3大メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)とりそな銀行が都市銀行に分類されます。
大都市圏や海外に支店があり、融資先も海外拠点を持つ大企業がメインです。
メリット | ・信用力が高い ・海外進出のノウハウを持っている |
デメリット | ・地方には支店が少ない(ない) ・預金の金利が低い |
口座開設が最も難しいのが都市銀行です。取引先は大企業がメインとなっており、中小企業や個人事業主では相手にしてもらえない可能性も高いです。
信託銀行
信託銀行とは、預金や貸出、為替といった銀行業務のほか、客から預かった資産を管理・運用する信託業務、相続手続きや不動産売買なども請け負う併営業務も行う銀行をいいます。
ただし、名称が「○○信託銀行」でない都市銀行や地方銀行などでも、認可を受けて信託業務を兼営しているところがあります。
メリット | ・不動産などの財産も一括管理できる ・資産運用を任せられる ・贈与や遺言なども任せられる |
デメリット | ・支店が少ない ・資産運用で損をする可能もある |
財産の管理・運用ができるというのが大きな特徴なので、豊富な資産がある場合にはメリットも大きいでしょう。
地方銀行
地方銀行とは、地方都市に本店がある銀行をいいます。地元エリアを中心に多くの支店を構えています。
また、地方銀行にはさらに加盟組織や成り立ちによる2つの分類もあります。
第一地方銀行は、その多くがエリア内で最も規模の大きい銀行であり、地方の有力企業との取引が多いのが特徴です。第二地方銀行は、もともと相互銀行や無尽会社と呼ばれていた組織が前身であり、地元の中小企業や個人との取引が多い傾向にあります。
メリット | ・地元に支店が多い ・地元での信用度が高い ・信用金庫より低金利で融資が受けられる |
デメリット | ・別の地域には支店が少ない ・地元以外では信用度が下がる |
地元での信用度は高いですが、営利が第一目的のため業績などによって対応が変わる可能性も高いです。
信用金庫
信用金庫は、会員制かつ非営利の金融機関です。地方のお金を地方に還元することが目的のため、一定の地域内にある中小企業や地域住民を対象とし、出資をした人が会員となります。地域内であっても、従業員数300人以上かつ資本金9億円超の企業は会員にはなれません。
700万円以上の融資は会員のみが対象ですが、預金だけなら会員でなくても可能です。
メリット | ・小規模事業者や個人にも協力的 ・出資額に応じた配当金が受けられる ・全国のしんきんATMが手数料なしで使える |
デメリット | ・融資の上限が銀行より低い ・融資の金利が銀行より高め ・地方銀行より信用度が低い |
創業時の口座を開設するのに適した金融機関の1つが信用金庫です。地方銀行より開設のハードルが低く、ネット銀行よりは信用度が高いからです。
信用組合
信用組合は、組合員の相互扶助を目的とした非営利の金融機関です。出資をした一定の地域内の個人や小規模事業主などが組合員となります。
企業の場合は、従業員300人以下または資本金3億円以下、卸売業者の場合は100人または1億円以下、小売業者は50人または5千万円以下、サービス業は100人または5千万円以下が対象です。
メリット | ・小規模事業者や個人にも協力的 ・出資額に応じた配当金が受けられる |
デメリット | ・組合員でないと原則として預金不可 ・融資も原則として組合員が対象 ・知名度が低い |
利用する側から見ると信用金庫と似ている部分も多いですが、利用には組合員となることがほぼ必須と言えます。また、組合員となる要件(従業員数や資本金額)を見ると、信用金庫よりさらに小規模の事業主を対象としていることがわかります。
商工中金
商工中金は、中小企業への資金供給を行うために政府と中小企業組合の共同出資によって作られた金融機関です。個人向けの銀行業務も行っていますが、融資の対象は商工中金の株主となっている中小企業組合とその構成員です。
メリット | ・融資の金利が銀行より低い ・中小企業へのサポートが充実 |
デメリット | ・融資の対象は株主の構成員のみ |
政府との共同出資については、2025年までに政府が持つ株式を売却して民営化することが決まっています。
労働金庫
労働金庫は、労働者の相互扶助を目的とした非営利の金融機関です。労働組合や生活協同組合の組合員やその家族、一定の地域内に住む人・勤める人が出資して会員となっています。
働く人のための組織であることから、個人向けのローンや生活融資制度はあるものの、事業資金の融資は行っていません。口座の開設は団体(法人)でも可能です。
メリット | ・ろうきんのATM手数料が実質無料 |
デメリット | ・店舗が少ない ・事業資金の融資制度はない |
「実質無料」というのは、いったんは支払いが必要ですが、後に同額がキャッシュバックされるということです。
ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行は、2007年の郵政民政化によりできた日本郵政グループの1つ。日本郵政グループは、銀行(ゆうちょ銀行)と郵便(日本郵便)、保険(かんぽ生命)の3つに分かれています。
郵便局に併設した店舗など全国に多くの支店があり、その数は全国の銀行の合計店舗数よりも多くなっています(ゆうちょ銀行公式サイト「ゆうちょ銀行の強み」より)。
メリット | ・全国に支店がある ・郵便局併設の店舗が多い |
デメリット | ・1300万円以上は預入できない ・事業資金の融資は行っていない |
銀行と郵便局が併設されていれば、効率よく用事が済ませられて便利です。
JAバンク
JAバンクは、JA(農業協同組合)や信連(信用農業協同組合連合会)、農林中金による金融機関の総称です。
農業従事者でなくても利用可能です。生活用口座と事業用口座があり、事業用口座は個人事業主でも開設できます。
メリット | ・店舗数や提携ATMが多い ・JAバンクのATM手数料が終日無料 |
デメリット | ・口座開設した店舗でしか各種手続きができない ・各種ローンや融資などは組合員のみが対象 ・農家以外が組合員(准組合員)となるには出資が必要 |
農業従事者でない場合は、出資をしても組合員でなく准組合員という扱いになります。出資の最低額は各JAにより異なりますが、1万円以上(1口1,000円)というのが一般的です。
ネット銀行
ネット銀行は、インターネット上にのみ存在する銀行であり、実店舗を持ちません。すべての手続きがオンラインで完結します。
メリット | ・基本的に時間を問わず取引が可能 ・預金の金利が高い ・振込手数料などが安い |
デメリット | ・社会的信用度が低い ・直接(対面)の相談窓口がない |
実店舗にかかる家賃や人件費がないため利用には手数料や金利の面でメリットがあります。口座が作りやすいとも言われますが、そのため信用度も低いことは否めません。
ネット銀行をメインバンクにする企業も増加
株式会社東京商工リサーチの調査によれば、ネット銀行をメインバンクとする企業は増えていると言います。
2023年の同社による調査では、コロナ禍を含む5年間で約2.5倍に増えていることがわかりました。9つのネット銀行のうち、取引社数が最も多いのは楽天銀行で1,607社、次いでPayPay銀行の1,453社です。
全体にはまだまだメガバンクや地方銀行とは大きな隔たりがあるようですが、今後も増えていくものと見られます。
法人口座開設の流れ
法人口座開設の手順は次のとおりです。
1、法人口座を開設する金融機関を選択
2、必要書類を準備
3、法人口座開設の申込
4、審査を受ける~結果の連絡
6、通帳とキャッシュカードを受領
ネット銀行であればすべてオンライン上で手続きします。実店舗がある銀行は、最寄りの店舗の窓口に出向きます。
口座開設する金融機関を選ぶ
まずはどの金融機関で口座開設をするかを決めます。冒頭で紹介したポイントで自社に合った金融機関を選んでください。
必要書類を準備する
選択した金融機関の公式サイトに記載されている、法人の口座開設に必要な書類や注意事項を確認してください。
法人口座開設を申し込む
必要書類を用意したら、金融機関の店舗に出向き、口座開設を申し込みます。本店などに行く必要はなく、自社の最寄りの支店で手続きしてください。
審査を受ける~結果の連絡
書類を提出した際、担当者から本人確認や質問などがされます。何か聞かれたら、たとえそれが書類に書いてあることでも面倒がらず誠実に答えましょう。
書類が受理されたら、正式に審査が行われます。一般的には、審査の結果が出るまで1~2週間ほどかかります。結果が出たら金融機関より連絡が来ます。
通帳とキャッシュカードの受領
審査に通り、通帳やキャッシュカードを受け取るまでにも1週間程度かかる可能性があります。
法人口座開設に必要な書類
法人口座開設に必要な書類は、次のようなものです。
- 口座開設依頼書
- 登記事項証明書(商業登記簿謄本)
- 定款
- 代表印と印鑑証明書
- 銀行印と印鑑証明書
- 代表者本人の身分証明書
ただし必要な物は金融機関により異なります。必ず公式サイトで、当該の金融機関が何を必要としているかを確認してください。
金融機関は何をチェックしているのか
法人口座の開設申し込みがあった場合、金融機関は次のような点をチェックしています。
これを踏まえて対策を練っておくことも重要です。
- 登記上の所在地に実際にオフィスがあるか
- バーチャルオフィスやレンタルオフィスでないか
- 事業内容は明確か、事業主の経歴に関連があるか
- 資本金はある程度の額があるか
- 固定電話や公式ウェブサイトを設置しているか
- 事業実体のわかる契約書などはあるか
実態のある会社なのかや、バーチャルオフィスなどでないかは、実際に現地に赴いて確認されたりもします。嘘は禁物です。バーチャルオフィスでもしっかりとした事業の実態があることを、契約書など目に見えるもので証明しましょう。
まったく経験のない業種での会社設立には、不審に思われないよう、経緯や筋の通る理由を説明できるようにしておいてください。
資本金も、法的には1円でも問題ないことにはなっていますが、実際の事業経営に1円で足りるわけはなく、ある程度の額を用意しておくことで信用を得る必要があります。
法人口座開設時の注意事項
法人口座開設時には、次の点に注意しましょう。
代表者本人が手続きに行くこと
法人口座の開設は、正式な手続きで委任された人であれば代理人でも可能です。しかし、金融機関側は、こちらが反社会的勢力や犯罪行為にかかわりがないかどうかを気にしています。そのため、怪しまれるような行動は禁物です。
忙しいからと言っても代理を立てず、自分が行って、聞かれることにも堂々と答えてください。
必要書類を不備なく用意すること
必要書類は不備なく揃え、記入事項にも間違いや漏れのないようにしてください。 指定されていなくても、関連しそうな書類があれば持っていくとスムーズです。
不備や忘れ物などが多いと、経営者としての資質を疑われるおそれもあります。
事業内容を説明できるようにしておくこと
事業内容が曖昧だったり、まったくの異業種を同時に行ったりしていると、実体がない会社ではないかと疑われます。
会社パンフレット等も持参し、事業を始めた動機や経緯、事業内容をしっかりと説明しましょう。
きちんとした服装で訪問すること
服装やマナー1つで相手に与える印象は大きく異なります。審査を受ける立場なので、礼儀に適う服装で信用度をアップさせましょう。
スーツなど、ビジネスフォーマルな服装がおすすめです。時計や靴など、目立つ高級品を身につけるのも避けるのが無難です。
法人口座の開設申し込みには細心の注意を
法人口座の開設は、「取引先が大企業だからメガバンクで」「身近で相談しやすいから地元の信用金庫で」など、自社に合った金融機関を選びましょう。
とはいえ、口座が犯罪に使われやすい社会情勢から、どの金融機関でも審査は厳しく、開設したくてもできないというケースが少なくありません。
法人口座の開設を申し込む際は、事業内容を明確にする、レンタルオフィスでなく自宅をオフィスに使うなど、金融機関になるべく疑われない形にして臨みましょう。