多くの日本の起業家が、創業当時の資金調達として利用するのが日本政策金融公庫の融資「新創業融資制度(創業融資)」です。
創業時、金融機関にコネクションを持たない創業者にとって、無担保・無保証人で融資が受けられる、非常にありがたい融資制度です。
日本政策金融公庫は日本政府100%出資の公的金融機関であり、公共性の高い事業を行うことために設立されたので、民間金融機関と比べて、実績のない創業時でも、融資審査が通過しやすいといわれています。
ただ、実際の審査通過率は公表されてはいませんが、一説には申請全体の5割程度ともいわれており、決してハードルの低い融資制度ではありません。
今回は、日本政策金融公庫の融資の審査を通過するためのポイントを解説するとともに、成功と失敗の事例をご紹介します。
目次
日本政策金融公庫の融資審査通過の決め手になるのは何?
日本政策金融公庫の融資審査担当者が、審査の可否を決めるポイントは「融資に値する事業者かどうか」という1点につきます。
では、それをどこで判断するのかというと、
- 利益を出せるのか
- 返済できるのか
- 上記2点を満たす事業計画をしているか
この3つポイントにおいて、融資審査担当者が認める内容を備えている必要があります。
こちらもご利用ください
日本政策金融公庫の融資審査基準
その1:自己資金は融資・負債総額を上回っているか?
自己資本とは簡単に言えば「資産から負債を差し引いた残りの現金」です。
結論から言えば、もし申請者の経済状況と照らし合わせてみて、融資前の段階でマイナス(=債務超過)だとまず創業融資審査は通りません。
融資前からマイナスとなっている財務状況で、さらに創業融資を受けた場合、一層負債額が膨らむため、いわば企業でいうところの「過剰債務」と同等の状況とみなされます。
低金利で長期間返済が認められており、生活の基盤である住宅ローン返済については、よほど法外な高額物件でなければ、それほど障害にはならないようです。
しかし、自動車やショッピングローンなど「無駄な出費」「贅沢費用」の負債が多い場合には、「返済能力」が疑問視され、最悪の場合には「資金管理能力」の有無が疑われることになります。
借金や負債をなるべく減らしてから、融資の申請を実行するのが無難です。
その2:融資額が必要以上の金額になっていないか?
創業融資は「無保証・無担保人」で融資を受けられるというハードルの低さから誤解されがちですが、決して審査基準が緩やかというわけではありません。
創業前という事業実績がない分、申請者本人の人格や資産状況、そして融資への考え方が問われます。
融資を受ようと考えるに至った背景や、融資金額の具体的な使い道、そして返済計画などについて、シビアに判断されるのです。
使途目的のあいまいな融資申請と判断されれば、まず審査通過できません。
融資金額の使途すべてに、明確な回答を準備出来ていることが大切です。
その3:収支予想が甘くないか?
一見すると、プライベートの資産や負債については、会社経営と関係がないため軽視しがちです。
しかし収支予想という観点から見れば、融資する側としては非常に関心の高い審査ポイントといえます。
なぜなら月々の返済金額が大きい、すなわち融資の返済にリスクがあるとみなされるからです。
創業計画書の収支予想において、定期的に発生する返済額と生活費を全額カバーできるだけの利益が予想されるでしょうか?
支払いが利益を超えていればそれはオーバーローン。
債務超過とみなされます。
返済負担能力、収支予想能力も日本政策金融公庫の融資審査では、重要な審査項目となっていることを心に留めておきましょう。
その4:個人信用情報にマイナスポイントはないか?
創業融資の申請時の確認事項の中に、「個人信用情報を参照することへの了承」が含まれていることを覚えている人は、意外と少ないかもしれません。
創業融資の審査では、必ず個人信用情報は精査されます。
- カードローン
- 住宅ローン
- 家賃
- 公共料金(電気・ガス・水道・公共サービス)
- 税金
- 携帯電話料金
これらの支払いに未納や遅延があると融資審査には不利になります。
クレジットカード会社などと連携する指定信用情報機関(CIC)によって、ショッピングローン契約内容や支払い状況その他の、過去の個人信用情報はすべて把握されていると理解しておきましょう。
もちろん、支払の遅延・滞納などの問題が発生してブラックリストとなっている人は、融資を受けることはできません。
その5:申請内容と実態に差がある
審査する側からすると、申請内容と実態に差がありすぎることは、不信感を抱く要因となります。
過大な売上予想は、見通しの甘い経営者という印象を与えることになりますし、未計上の負債があるのでは、という疑念を抱かせることにもなりかねません。
熱意は抱いても現実を直視し、堅実な経営を心掛けようという姿勢を見せることが重要です。
そのためには、実態と乖離のない正直な申請を行うよう心掛けましょう。
日本政策金融公庫の融資:成功例と失敗例
それでは、次はポイント別の成功例と失敗例をご紹介していきましょう。
日本政策金融公庫の融資【成功例】
ポイント1:自己資金は融資・負債総額を上回っているか?
住宅ローンを除けば特に借金はないが、企業を始めるには預貯金が心もとない。
妻も正社員で働いているので、もうあと〇〇〇万円の調達で創業融資を利用したい。
【ここに注目!成功の理由】
前述の通り、生活の基盤である住宅ローンについては、極端に高額物件でなければ審査の障害にはなりません。
追加で必要な金額を明確にし、融資を受ける本人以外にも独立した収入源が確保できている点をアピールしたことが評価につながりました。
ポイント2:融資額が必要以上の金額になっていないか?
パン屋を始めるために借りた店舗物件の工事費が、予想以上に膨らんでしまった。
妻も正社員で働いているので、返済可能金額内に収まる〇〇〇万円で創業融資を利用したい。
【ここに注目!成功の理由】
日本政策金融公庫は、使途目的に非常に厳しい見方をしており、目的が曖昧と判断されれば、まず審査通過できません。
このケースでは店舗の工事費と使途目的が明確であり、融資希望金額も無理なく返済可能な範囲のため審査通過できました。
ポイント3:収支予想が甘くないか?
自分のブランドを立ち上げたいと、縫製工場を開設、最初の設備投資として数千万円の融資を受けることを決意した。
しかし住宅ローンなどの借金はなく、妻も仕事を手伝ってくれる予定。
返済が滞る心配はまずない状況。
【ここに注目!成功の理由】
融資する側から見れば返済にリスクがないかは最大のポイントです。
例え経営者のプライベートとは言え、月々の返済金額が過剰であれば会社経営にも支障が出るのではと不信材料になるのは当然です。
この例ではローンもなく、返済に障害がない点がプラスに評価されました。
ポイント4:個人信用情報にマイナスポイントはないか?
創業融資の申請を考えているが、独身時代に携帯電話料金を滞納してしまったことがある。
現在は就職し、結婚して子供も生まれているので、社会的信用はあると思うがどうしても気になる。
個人信用情報の履歴を照会して、特に記録されている情報がないと判明してから、日本政策金融公庫の創業融資を検討しよう。
【ここに注目!成功の理由】
融資審査では必ず「個人信用情報」が精査されます。
過去にローンの返済や支払い延滞、クレジットカードの引き落とし失敗などがあると個人信用情報機関に記録が残り、まず間違いなく融資を受けることはできません。
個人信用情報機関によって記録が残る期間も異なりますが、おおむね5年~10年と言われています。
信用情報に不安のある場合は、履歴の照会を行い事前に確認しておきましょう。
記録がある場合は、時間をおいて審査を受けるしか方法はありません。
ポイント5:申請内容と実態に差がある
弁当店を始めることにしたが、何があるかわからない世の中。
事前の通行量調査や近隣の学校や企業の数から、予想できる利益の8割くらいの申請にとどめておこう。
経営の負担になるといけないので、融資金額もなるべく最小限にしておこう。
【ここに注目!成功の理由】
審査を受けるにあたっては現実を直視し、堅実な経営を心掛けようという姿勢を見せることが重要です。
客観性のない売上計画では、見通しの甘い経営者という印象を持たれかねません。
「最終的に利益が出ればいい」などと根拠もない過大な予測は控え、むしろ低く見積もった現実的な売上予想をもとに正直な申請を心掛けてください。
日本政策金融公庫の融資【失敗例】
ポイント1:自己資金は融資・負債総額を上回っているか?
ショッピングローンや自動車のローンの総額が、預貯金ほか資産総額を上回っている状況。
しかし、どうしてもやりたい事業があるので、当面の運転資金の融通のため創業融資を利用したい。
【ここに注目!失敗の理由】
住宅ローンとは異なり、無計画なショッピングローンや自動車ローンは「無駄な出費」「贅沢」と解釈され、返済能力を疑われる材料になります。
資金管理能力に不信を持たれないよう、出来る限り借入や負債は減らすよう心掛けてください。
ポイント2:融資額が必要以上の金額になっていないか?
仕入先として知り合いの会社を利用する予定。
友達価格で原価を安くしてくれるはずだから仕入れ資金に不安はないが、せっかく融資を受けるので融資金額を多めに設定しておこう。
【ここに注目!失敗の理由】
成功例でも触れましたが、使途目的は厳しくチェックされます。
本来は必要ないにも関わらず「どうせ借りるなら多めにしておこう」と必要以上の金額を設定すれば、経営者の人格や融資への考え方を問われ失敗する可能性が高くなります。
ポイント3:収支予想が甘くないか?
タイミング悪くマンションを購入した後に、起業することを決定してしまった。
背伸びして購入したマンションだから、住宅ローンも結構な負担だけれど、マンション購入で資産は増えたから融資は通りやすいのでは?
【ここに注目!失敗の理由】
一般に、起業して間もない時期は安定した収益が得られない可能性が高いものです。
高額な住宅ローンなど、継続して発生する返済額と生活費を賄えるだけのの利益が確保できる事業計画が用意できているのでしょうか?
返済負担能力や収支予想能力は融資審査でも、重要な審査項目となっています。
ポイント4:個人信用情報にマイナスポイントはないか?
創業融資の申請中なのに、今月分のクレジットカードの引き落としができずに滞納通知が来てしまった。
数万円のことだし、黙っていればわからないからひとまず棚上げしておこう。
【ここに注目!失敗の理由】
連携する指定信用情報機関によって、ショッピングローンの契約内容や支払い状況、その他の信用情報はすべて把握されてしまいます。
「黙っていればわからないだろう」と安易に考えていると、意図的に告知しなかったと不信感を持たれ融資を受けることはできません。
ポイント5:申請内容と実態に差がある
利益予想に多少の水増しして見栄えをよくしておこう。
最初からうまくいくわけはないのだから、大目に見てくれるだろう。
創業後にちゃんと利益が出てれば、帳尻は合うだろう。
【ここに注目!失敗の理由】
申請内容と実態に差があり過ぎるのは不信感を抱く要因となります。
また具体的な根拠のない売上予想では、計画性がない経営者として信用してもらうことができません。
きちんと現実に則した事業計画を作成して、審査担当者を納得させることが重要です。
日本政策金融公庫の融資成功の条件は「融資したい事業者」と思わせること
日本政策金融公庫に融資を申請する際には、利益が出る事業計画=無理のない返済計画であることが必要条件です。
つまり、起業後の見通しに計画性や具体的な根拠があり、融資しても大丈夫だと思ってもらえる資料が用意できるかで審査結果が決まると言えます。
無担保・無保証人ということは、事業の可能性に対して融資を受けられるのだということを肝に銘じておきたいですね。
ここでもう一度、創業融資において重視される項目の模範内容をまとめておきます。
創業融資の審査基準「負債状況」への模範内容
公庫融資を申請する際には「利益が出る事業計画=無理のない返済計画」であることが必要条件です。
無担保・無保証という好条件は、事業の将来性を評価して融資を受けられるのだということを肝に銘じておきたいです。
ここでもう一度、公庫融資において重視される項目の模範内容をまとめておきます。
- 自己資本がプラスになっている
- 融資金額全額の使途を説明できる
- 返済に無理のない融資金額を申請している
- 堅実な収支予想に基づいた返済プランを立てている
- 個人信用情報に瑕疵がないことを確認している
- 水増し記載はなくすべてが説明可能である
まとめ
日本政策金融公庫で創業融資を受けるために備えるべき条件は、事業の成功条件とも結びつく重要課題です。
融資を受ける前にクリアしておくことは、事業準備の一環と心得ておきましょう。
また、審査担当者との面談についてもしっかりと対策を立てておくべきです。
面談時に信頼を失う言動や態度に注意してください。
創業計画書などの提出書類を補足する添付資料もしっかり用意し、質問に対しても、どれだけ真剣に準備をしてきたかアピールできれば 成功確率も高まるでしょう。
創業融資の成功と不成功を分かつのは、現実的な事業計画と返済プラン、そして担当者に伝わる事業への熱意です。
もし審査が否決すれば、最低半年間は再申し込みができない決まりになっています。
しっかりと事前準備しておきましょう。
合わせて読みたいおすすめ記事
創業時の融資相談もBricks&UKにおまかせください!
当サイトを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、顧問契約数1700社以上、資金繰りをはじめ経営に関するコンサルティングを得意分野とする総合事務所です。
中小企業庁が認定する公的な支援機関「認定支援機関(経営革新等支援機関)」の税理士法人が、日本政策金融公庫の資金調達をサポートします。
資金調達に必要な試算表、収支計画書などを作成していきますので、資金調達のサポートと、借入後の資金繰りをしっかりと見ていくことができます。
そのため、皆様の経営の安定化に、すぐに取り掛かることができます!
まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。