ここ数年で名前を聞くようになったクラウドファンディング。自分もクラウドファンディングを使って起業・会社設立をしたいと考える人も多いのではないでしょうか。
クラウドファンディングには、資金調達という目的だけでなく、始めようとする事業に対する人々の反応を知ることができ、資金調達が上手く言った場合には広告宣伝的な効果も得られます。
この記事では、起業や会社設立を利用目的とした場合のクラウドファンディングについて解説します。
目次
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングは、インターネットを通じて事業プランを提示し、それに賛同する人から広く投資を募る仕組みです。2000年代後半から米国で盛んに行われるようになり、日本では2011年の東日本大震災後に復興支援の手法として注目されました。
現在では、不特定多数の人から資金を調達する方法として定番となりつつあります。
クラウドファンディング(Crowd funding)という言葉は、群衆という意味の「Crowd」と資金調達という意味の「Funding」を合成して作られた造語です。
クラウドファンディングの定義
「起案者」はインターネット上で「プロジェクト」を立ち上げ、サイトを見る不特定多数の人に広く「支援者」を募ります。支援者とは、そのプロジェクトに賛同し、お金を払ってくれる人のことです。
プロジェクトとは、始めたい事業や企画、作りたい製品などを掲げて、実現に必要な目標金額を設定することです。
クラウドファンディングのシステム
インターネット上には、クラウドファンディングを行うためのプラットフォームとなるサイトが複数あります。その中から仕組みなどが自身に合うものを選んで、プロジェクトを立てます。
クラウドファンディングの種類にもよりますが、一般的には支援者がそのプロジェクトに出資をしたら、起案者はその支援者にお返し(リターン)をするという形で成り立っています。
ただし、クラウドファンディングのサイトにプロジェクトを掲載してもらうには、審査に通る必要があります。
その後、サイトの担当者と話し合いながらプロジェクトを改善していき、最終的に公開されます。
クラウドファンディングの3大メリット
クラウドファンディングは、資金調達という大きな目標のために利用するものです。そのメリットは3つあります。
- 不特定多数の人へのアピールが可能
- 事業(商品やサービス)への反応がわかる
- 宣伝効果が期待できる
1つずつ見ていきましょう。
不特定多数の人にアピールできる
クラウドファンディングは、インターネット上にプロジェクトを掲載するため、全国の人に見てもらうことができます。
プラットフォームを使うことで、より多くの人、まったく接点や関連のない業界・ジャンルの人にも見てもらえる可能性があります。
言うまでもなく、見てくれる人が多いほど多くの資金が集まる可能性が高まります。
事業(商品やサービス)への反応がわかる
クラウドファンディングで資金を集めるには、多くの人に賛同してもらう必要があります。
プロジェクトに多くの人が賛同すれば、その事業に好意的な人、顧客になってくれる可能性がある人が多い、ということです。つまり、市場調査の一環ともなるわけです。
逆に支援者が集まらなければ、事業に何らかの問題がある可能性があります。何が問題かを把握し、改善する必要があるでしょう。
事業開始後の宣伝効果が期待できる
クラウドファンディングで資金調達ができれば、もちろん事業を始めることになります。事業を始めれば、支援者はもちろん、サイトにプロジェクトが掲載された時点でも広く知られることにはなるため、支援者になってくれた以外の人にも親近感を持ってもらえるでしょう。
目新しいサービスやオリジナリティのある商品、社会の役に立つ事業などであれば、新聞やテレビといったメディアに取り上げられる可能性もあります。
そうなれば、より大きな宣伝効果が見込めます。
クラウドファンディング利用のデメリット
クラウドファンディングには、次のようなデメリットもあるのであらかじめ知っておきましょう。
- 起業アイデアを公表しなくてはならない
- 場合によって支援者が集まらないおそれがある
- 資金調達に成功しても事業が成功するとは限らない
それぞれ説明していきます。
起業アイデアを公表する必要がある
クラウドファンディングでは、当然ながら「どのような製品をどうやって開発するのか」といった事業の内容を知られることになります。
事業内容に新しい技術や目新しいサービスなどがある場合、それを開業前に知られるということにはリスクが伴います。模倣する人が現れたり、場合によっては先んじられてしまったりする可能性があるからです。
事業内容が機密性の高いものである場合には、クラウドファンディングは向かないかもしれません。
支援者が集まらないこともある
たとえ事業がこれまでにない素晴らしいものであっても、クラウドファンディングを利用したからといって支援者が多く集まるとは限りません。
利用するプラットフォームサイトによっては、事業に関心を持ってくれる人が少なかったりする可能性もありますし、そのサイト自体があまり多くの人に見られていない可能性もあります。
そのあたりは、事前に複数のサイトを見て、自社がどのサイトに適しているかを判断しなくてはなりません。
また、資金を集めるにはプレゼンテーション力も必要です。事業の必要性や、支援者や社会に対してのメリットなど、事業の魅力を明確に伝えることが重要です。さらに「資金があれば実現できる」という説得力もなければ、賛同は得られないでしょう。
資金調達に成功しても事業が成功するとは限らない
クラウドファンディングで支援者が多く集まることで、ある程度の反応やニーズを知ることができます。
とはいえ、それが実際に事業を始めた市場で同じようにニーズを集め、成功するという保証はありません。
クラウドファンディングの方式と種類
クラウドファンディングでは、あらかじめ集めたい資金の目標額を決めます。そして、目標額に達しなかった場合にどうするかによって、次の2つの方式を選びます。
方式 | 概要 |
All-or-Nothing方式 (達成時実行型) | 目標額に到達しなければ、支援金は受け取らない。 集まった額は全額返金。 |
All-in方式 (実行確約型) | 目標額に到達しなくても、支援金は受け取る。 プロジェクトの実行と支援者へのリターンが必須。 |
また、クラウドファンディングでは、資金集めとお礼の方法について3つのタイプがあります。このリターンの種類によって、クラウドファンディングは大きく次の3種類に分けられます。
- 購入型クラウドファンディング
- 寄付型クラウドファンディング
- 融資型クラウドファンディング
それぞれについて簡単に解説します。
購入型クラウドファンディング
購入型クラウドファンディングとは、支援者への「リターン」として、当該商品や関連製品、関連サービスなどを渡すタイプのクラウドファンディングです。
日本国内のクラウドファンディングの中では最も多く見られる種類です。
リターンとして渡すアイテムは、広告的要素も含むのでお金に変えがたい魅力があることが必須です。創業後もずっと支援を続けてもらえるようなアイテムを考えましょう。
ただし予算をしっかり考えて、渡すことが負担にならないように注意してください。
寄付型クラウドファンディング
支援者に金銭的なメリットがない、お返しのないタイプです。「お礼状」だけの場合も、寄付型に含まれます。非営利型の活動に向いているクラウドファンディングと言えるでしょう。
寄付型のクラウドファンディングは、たとえば震災地支援や慈善事業、動物愛護といった活動のための資金集めに多く活用されています。
営利目的でも、エコロジー活動や貧困家庭の支援など、社会問題を解決する糸口になるような事業なら賛同してもらえる可能性も高いでしょう。
投資型クラウドファンディング
投資型のクラウドファンディングは、支援者が金銭的なリターンを受け取るタイプです。投資型にも、主に次の3種類があります。
- ソーシャルレンディング(融資型)
- 株式投資型クラウドファンディング
- ファンド型クラウドファンディング
以前は金銭を渡すことが禁止されていたため、購買型クラウドファンディングが中心でした。
しかし2014年の法改正で投資型が解禁されて以降、少しずつ増えています。
事業が成功すると見返りが増えていくため、クラウドファンディングが終了した後も支援を続けてもらえることが期待できます。
クラウドファンディングの成功事例
参考のために、どのようなクラウドファンディングが成功したのか、事例も見ておきましょう。
捨てられるみかんの木を有効活用させようとする炭職人
静岡県で炭づくりをしているひとりの男性。捨てられていた大量のみかんの木を、炭にして再利用するプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの背景
男性が住む三ヶ日町は、静岡県浜松市にある全国的にも有名なみかんの産地です。みかんの木は、果実の品質を維持するため20~40年ごとに植え替えられており、伐採された古い木は産業廃棄物として捨てられるか、焼却されているといいます。
みかんの木で作った炭は「柑炭(かんたん)」と呼ばれ、燃焼時間が長い上、爆(は)ぜない、煙が出ないため、キャンプやBBQでも安心して利用できるのだそう。また、炭を作る過程で作られる「木酢液」も農作物の肥料などとしての活用したい、と考えました。しかし、みかんの木から炭を作る職人は男性ひとり。地域社会に広めるには、山林の開墾や窯の建設などにも多額の費用が必要です。それらの費用をまかなうため、支援を呼びかけました。
プロジェクトの内容
このプロジェクトでは、購買型と寄付型を組み合わせて支援を募りました。購買型は、みかんの木で作った炭や、副産物である木酢液の販売、または地元での炭焼き・BBQ体験など。
寄付型には「職人応援」として5,000円~100,000円のプランを用意し、お礼のメッセージをリターンとしました。
プロジェクトの結果
プロジェクトは、目標金額300,000円に対し、403,500円の支援を集めて終了しています。最も人気があったのは、寄付型の1万円の支援でした。
賛同を得られた理由として考えられるのは、廃材を利用して環境に役立つものを作るという「エコロジー」や「もったいない」精神、地元産業を軸にした好循環社会の実現への想いに多くの人が共感・賛同したこと。
コロナ禍もあいまったキャンプやBBQなどアウトドアへの人気、電気や水道も通っていない場所に1人で山小屋を建てようとする男性に対する共感や好感が、支援の後押しとなったと考えられます。
支援しやすい金額設定や、各種メディアなどで取り上げられたことも成功の大きな要因でしょう。「柑炭」は、今や楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングで販売されています。
大事な「耳」をケアする専用クリームを開発した女性鍼灸師
東京の神楽坂で約20年、鍼灸院を営んでいる女性。彼女が立ち上げたのは、耳に特化したスキンケアクリームの開発です。
プロジェクトの背景
女性は、鍼灸師として患者と日々接する中で、耳鳴りやめまいといった症状に悩まされる女性がコロナ禍で増えていることが気になったと言います。
東洋医学では、耳周りは体全体の健康に影響すること、特に顔を引き締めるツボなどが集まっていることから、耳周りをマッサージすることの重要性に改めて注目、試したところ効果はてきめんだったそう。そこで、そのマッサージを習慣化するために、ハーブインストラクターの知識も盛り込んだ耳専用のクリームを作りたい、とプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの内容
この女性が立ち上げたのは、購買型のクラウドファンディングです。
リターンは3種類で、耳専用のクリームのほか、同じようにオリジナルで開発したバストクリームやネッククリームとのセット、3種類のクリームをプレゼント用の専用ボックスに入れたもの。
支援金額の設定は、6,000円と12,000円という投資しやすい価格です。
プロジェクトの結果
このプロジェクトは、目標金額330,000円のところ714,000円を集めて終了しました。
「耳専用のケアクリーム」という、使途がかなり限られた製品ではありますが、約20年というベテランの女性鍼灸師が開発し、耳周りのマッサージの重要性を唱えたこと、そこにハーブインストラクターの知識も加わり、信頼性が高まったことが功を奏したと考えられます。
説明も患者への思いやりを感じられる内容で、さらに耳の周りには”顔がキレイに引き締まる「美人になるツボ」”があると説明していることも、キレイになりたい女性の心をつかみ、「使ってみたい」というニーズを生み出したのでしょう。
このように、健康や美容系のクラウドファンディングでは、専門家が根拠のある説明をして信頼されることが重要なカギとなります。
クラウドファンディングを成功させるポイント
上の例でもわかるように、クラウドファンディングを成功させるためには押さえておきたいポイントがいくつかあります。ここでは5つのポイントを紹介します。
共感できるプロジェクトである
プロジェクトに共感することで支援をしたいという気持ちになります。
共感するには、まず理解を深めることが必要です。
つまり共感できるということは、わかりやすいということでもあります。
理解でき、共に活動したいと感じることが大切です。
発信者の信用度が高い
支援する側から見ると、お金を出すからには相手が信用できる人あるいは団体であることは大前提でしょう。
特に融資型であれば、寄付や購入型よりも受け取る利益を重視されます。信頼できない相手にお金を預けることはできません。
プロジェクト実行者と支援者の一体感が小さくとも生まれれば、仲間に加わってくれる人が増える期待も持てます。
商品やサービスに独自性がある
他とは違うことをアピールすることが大切です。
購買型の場合はわざわざネットを通じて購入するのですから、当然今その辺には売っていないようなアイテムである必要があります。
また融資型のクラウドファンディングなら、独自性イコール成長の可能性です。
将来への融資ですから、成功していくであろうプロジェクトに支援が増えていくのは当然です。
拡散してもらえる
クラウドファンディングをただ立ち上げるだけでは、不特定多数の人に知らせることは困難です。
短時間でできるだけ多くの人に知らせるには、プレスリリースやSNSを利用するのが得策です。
PR TIMESやNEWSCASTといったウェブ配信サービスを利用すると、拡散される可能性があります。
独自性のあるものであれば、その後大手の新聞サイト等に掲載してもらえるかもしれません。
自社のSNSは事前に用意しておきましょう。
Facebookページやインスタなどで認知性を高めておくと、情報が拡散しやすくなります。
適切なクラウドファンディングサイトを選ぶ
プロジェクト内容や資金調達のスタイルに合ったクラウドファンディングサイトを選ぶことも大切です。
例えばオリジナリティがあり環境・社会問題の解決にもつながるプロジェクトなら、リターンがなくても資金が集まりやすい寄付型を選べるサイト。
オリジナルの商品・サービスの提供をする事業なら、商品をリターンとして提供できる購入型のクラウドファンディング向きです。購入型のクラウドファンディングには、目標金額に達した場合のみ実行する「All or Nothig型」と、目標額未満でも集まったお金が受け取れる「All in型」の2パターンがあります。
金銭的なリターンを提供するなら融資型。投資システムをきちんと立ち上げられる技術を持っているサイトです。
一例を挙げると次のようなタイプのサイトがよく利用されています。
- 購買型:CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
- 寄付型:Readyfor(レディーフォー)
- 融資型:SBIソーシャルレンディング
各サイトに1つのタイプというわけではなく、複数のタイプがあるサイトもあります。特徴を比べて利用しましょう。
クラウドファンディング成功のためにできること
クラウドファンディングでは、実施期間中だけではなく実施前の準備段階や終了後にも成功のためにできること、すべきことがあります。
資金を集めるだけではなく、その先にある創業後の成功に結びつけるために、誠実な対応をしてください。
準備段階でできること
創業メンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクト内容を固めます。1人の場合は、独りよがりにならないよう、家族や知人に客観的な意見をもらうとよいでしょう。
支援者を募集するためにプロジェクトを説明する文章では、特に訴求力を重視してください。FacebookやTwitterなど、SNSのアカウントも用意して、情報を拡散していくこともおすすめします。
実施期間中にできること
プロジェクトの開始後は、活動報告も重要です。
クラウドファンディングは、中だるみになる時期もあります。記事を更新したり、SNSでお礼報告をしたりして認知度を上げていきましょう。例えば次のようなメッセージを配信すれば、進捗状況が伝わります。
「1週間が経ちました。すでに〇〇円の支援をいただいております。ありがとうございます」
終了間近になったらサポートを強化するために報告の頻度も上げていきます。例えば次のような語りかけです。
「あと〇〇円で目標を達成できます」
「当初の目標は達成しましたが、あと少し〇〇のために頑張ります」
「ありがとう」など感謝の気持ちは、多用しすぎると嘘くさくなりがちですが、その気持ちを込めた文面にすることは大切です。支援者や興味をもってくれた人たちと、常にコミュニケーションを取っていきましょう。
終了後にやるべきこと
クラウドファンディングの期間が終了したら、支援者へのリターンを送ります。
実際に支援してくれた人だけではなく、興味を持ってくれた人も含めた人とのつながりは大切なものです。将来の顧客候補でもありますし、応援団でもあるでしょう。
まずは、すべての人にクラウドファンディングが終わった報告とお礼を伝え、支援者にリターンを送り始めます。
作業は先送りせず、早めに行うことも信用性を下げないためのコツです。
クラウドファンディングでの資金調達を成功させよう
クラウドファンディングで資金調達をするには、出資してくれる人を多く集めなくてはなりません。「おもしろそう」というだけでなく、いかに「そのアイデアをぜひ実現させてほしい」「情熱がすごい!チャンスをあげたい」と思ってもらえるかが成功のカギとなるでしょう。
独自の商品・サービスだったり、社会に貢献する目的であったりする必要もあります。また、利用するクラウドファンディングのプラットフォームサイトを多くの人が利用しているのかなどによっても結果は変わってくるでしょう。
クラウドファンディングでの資金調達では、お金だけでなく人と想いを通じ合わせることになります。責任を持って事業に取り組む姿勢も必要です。共感や注目を集められれば、事業の成功も期待できます。
クラウドファンディングの特徴を踏まえた上で、うまく活用してください。