年末調整業務とは何か?
この記事では、年末調整業務で誤りが生じがちなポイントについて具体的に解説するとともに、経理代行サービスの活用によって年末調整業務を効率化するメリットについて説明いたします。
年末調整業務とは、ごく簡単にいえば従業員が負担するべき所得税額を計算し、申告と納付を代行する手続きをいいます。
具体的には、従業員の給与から毎月天引きしている所得税の概算額(だいたいの金額)を、正確な金額に調整しなおして役所に報告する業務です。
年末調整業務を正しく行うためには、毎月の給与計算に関する業務を適切に行うとともに、スケジュール感をもって従業員からの書類提出を行ってもらうことが必要となります。
年末調整業務の結果として従業員に渡される源泉徴収票は、従業員が生活上さまざまな状況で活用する必要があるものですから、誤りが生じないように細心の注意を払わなければなりません。
毎月の給料からは所得税の概算額が天引きされている
所得税の金額は1年間の所得合計額が確定しないと計算できませんので、従業員に対して毎月のお給料を支払う段階では、正確な所得税の金額を計算することはできません。
そのため、お給料の金額と扶養親族の人数から計算した「だいたいの金額」をお給料から天引きして納める必要があります。
この「だいたいの金額」のことを源泉所得税と呼び、金額は国税庁が発表している「給与所得の源泉徴収税額表」から算出します(毎年内容が変更になりますので、必ず最新のものを確認しましょう)
給与所得の源泉徴収税額表の見方
この税額表を見るときには、その従業員の社会保険料控除後の給与額と、扶養している親族の人数が分かれば問題ありません。
例えば、社会保険料控除後の給与額が30万円で、扶養親族が3人の人であれば、源泉所得税の金額は3510円と分かります。
なお、お給料から天引きした源泉所得税は、給与を支払った月の翌月10日までに税務署に納付しなくてはなりません(勤務先の企業が納付を代行します)
年末調整によって概算額と正確な税額の調整を行う
上で見たように、従業員の毎月のお給料から天引きする源泉所得税は概算額(だいたいの金額)ですから、当然ながら正確な金額に計算しなおす手続きが必要となります。
これが年末調整といわれる手続きで、その名の通り「年末に年間の給与支払額が確定した段階で、概算で納付していた所得税の金額を正確な金額に調整しなおす」というものです。
年末調整の計算例
例えば、上で見た月給30万円の人は毎月3510円の源泉所得税を納めていますから、1年間で3510円×12ヶ月=4万2120円の所得税を納めていることになります。
一方で、年末の年間給与額が確定した段階で計算した、正確な所得税の金額が3万5000円だったとしましょう。
本来納めるべき所得税の金額は3万5000円なのに対して、この人はすでに4万2120円を納めていますから、4万2120円-3万5000円=7120円だけ納めすぎの状態になっています。
※これは日本の所得税の計算の仕組み上やむをえないことなので、計算間違いではありません。
そのため、年末調整手続を役所に対して行うとともに、この人に対して納めすぎていた7120円のお金を返還しなくてはなりません(通常は12月分のお給料に加算する形で返還します)
このように、「毎月概算額で所得税を徴収しておき、年末の段階で正確な金額に調整しなおす」というのが年末調整の仕組みです。
年末調整業務の進め方:いつまでに何をする?
上で見た通り、年末調整とは従業員が負担する所得税の計算を行い、概算で納めていた所得税の納付額を正しい金額に調整しなおす手続きをいいます。
実際の年末調整業務では、最終的に従業員に徴収しすぎていた税金を還付するとともに、以下のような書類を役所に提出する必要があります。
- 税務署に法定調書合計表を提出する
- 市役所に給与支払報告書を提出する
- 従業員に対して源泉徴収票を交付する
これらは翌年の1月31日までに手続きを完了しなくてはなりません。
例えば、2019年1月1日~12月31日までの従業員給与については、2020年1月31日が提出期限となります。
(従業員に渡す源泉徴収票については、12月分の給与明細と一緒に渡すのが一般的ですので、それまでに手続きを完了できるのが理想的です)
年末調整業務の一連の流れを大まかにまとめると、以下のようになります。
- 従業員から書類徴収
- 従業員による申告書類作成
- 経理・総務スタッフによる年末調整の計算
- 法定調書合計表の作成と提出
- 給与支払報告書の作成と提出
- 従業員への源泉徴収票の配布
それぞれの手続きの内容について具体的に見ていきましょう。
従業員からの扶養控除申告書徴収
まずは従業員から年末調整に関する必要書類を徴収します。具体的には、「扶養控除申告書」という書類を提出してもらいます。
扶養控除申告書はその人が扶養している家族の人数や年齢などについて記載する書類です。
この書類をもとに毎月のお給料から徴収する源泉所得税の金額を算出し、年末調整の計算を行いますから、入社時や年の初めに徴収する必要があります。
前年から引き続き勤務している人も家族に異動が生じる可能性がありますから、毎年必ず提出してもらうようにしましょう。
複数の勤務先がある人の場合
扶養控除申告書は複数の勤務先がある人も1社の勤務先に対してしか提出することができません。
逆に言うと、「勤務先に対して扶養控除申告書を提出する」ということは、「その勤務先がメインの勤務先であるので、この勤務先で年末調整の手続きを受けます」という意思表示をすることにもなります。
(扶養控除申告書を提出していない勤務先は、「主たる勤務先以外の勤務先」という扱いになり、源泉所得税の計算上「乙欄」という形で徴収を受けることになります)
従業員による保険料控除申告書類作成
年末が近くなってきた時点で、従業員本人に対して生命保険会社や損害保険会社などから「控除証明書」が送付されてきます。
これらは所得税の計算上、所得控除に含めることができる項目です(つまりこれらの項目を計算に加味することによって、所得税が安くなります)
控除証明書が手元にそろった段階で、「保険料控除申告書」という書類に年間の保険料支払い額や控除額を記載してもらい、提出してもらいます。
保険料控除申告書に記載するのは、以下のような項目です。
- 生命保険料控除に関する項目
- 地震保険料控除に関する項目
- 社会保険料控除に関する項目
- 小規模企業共済等掛金控除に関する項目
社会保険料については通常は給与から天引きで支払っていますので、経理総務スタッフの側で記載しても問題ありません。
ただし、社会保険料控除は家族の分を支払った場合にもその人の控除に含めることができますから、そうした事情がある場合には忘れず記載してもらうようにしましょう。
なお、保険料控除申告書には、控除証明書の原本を添付して提出してもらう必要があります。
経理総務スタッフによる年末調整の計算
従業員の年間の給与支払額が確定し、扶養控除申告書と保険料控除申告書がそろえば、その人の正確な所得税の金額(これを年調年税額といいます)を計算することができます。
国税庁のホームページで取得できる「源泉徴収簿」のひな型に従って、従業員ごとの年調年税額を計算し、源泉徴収済みの金額との差額を算出しましょう。
なお、年の途中で入社した人で、その年分の別の勤務先から受け取った給与がある場合には、退職時に前の勤務先から源泉徴収票を受け取っているはずです。
前の勤務先の源泉徴収票は、当然ながら年末調整を行う前に金額になっていますから、この金額を含めて年末調整をしてあげなくてはなりません。
法定調書合計表の作成と提出
従業員全員分の源泉徴収簿が完成したら、その計算過程と合計額を「法定調書合計表」に記載していきます。
源泉徴収簿の金額と法定調書合計表の金額が一致していることを確認したら、法定調書合計表を税務署に対して提出しましょう。
※提出期限は給与の支払いを行った年の翌年1月31日です。
源泉徴収簿は提出する必要はありませんが、税務調査が行われた際などに確認される可能性がありますから、必ず保管しておかなくてはなりません。
給与支払報告書の作成と提出
税務署に対して法定調書合計表を提出したら、今度は市役所に対して「給与支払報告書」を提出します。
この給与支払報告書の内容をもとに、市役所は各従業員の住民税の金額を計算し、翌年の毎月のお給料から徴収すべき金額(住民税特別徴収額)として通知してきます。
従業員への源泉徴収票の配布
最後に、従業員に対して源泉徴収票を配布します(12月分の給与明細に同封するのが一般的です)
源泉徴収票には、その人の年間給与額や社会保険料の支払額といった重要な情報が記載されています。
源泉徴収票は、その人の収入を証明する正式な書類ですので、生活のさまざまな用途で使われます。
紛失などが無いように、大切に保管してもらうようにしましょう。
年末調整業務で誤りが生じやすいポイント
年末調整業務は、従業員の所得税を計算して納付する重要な手続きですから、細心の注意をもって処理しなくてはなりません。
以下では、年末調整業務を進めていくうえで生じがちな誤りの例について理解しておきましょう。
各種控除項目の適用誤り
もっとも多い間違いが、各種の控除項目の適用誤りです。
控除とは所得税の計算上、所得の金額から差し引きできる項目のことで、「法律上、適用できるものはすべて適用する」というスタンスで処理する必要があります。
(適用すればするほど税金が安くなるからです)
年末調整で適用できる控除項目としては、以下のようなものがあります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- 扶養控除
- 勤労学生控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
これらの控除金額は本人に対して保険会社などから送付されてくる控除証明から性格に転記するとともに、家族の情報などについては扶養控除申告書に正確に記載してもらわなくてはなりません。
一方で、以下のような控除項目については、年末調整では適用できないルールとなっていますから、適用を受けるためには別途確定申告の手続きを行ってもらわなくてはなりません(確定申告は従業員自身が手続きを行います)
- 医療費控除
- 寄付金控除(ふるさと納税など)
- 雑損控除
- 住宅ローン控除
なお、確定申告は勤務先が発行する源泉徴収票を使い、翌年2月16日~3月15日の期間に手続きを行います。
年末調整の計算誤りがあった場合の対処法
上で見たような各種控除の適用誤りなど、年末調整の計算に誤りがあった場合には、誤りが判明したタイミングによって以下のように対処を行いましょう。
まず、勤務先企業が法定調書合計表を提出する期限である翌年1月31日以前のタイミングで誤りが発覚した場合には、法定調書合計表の内容を修正し、税務署に提出しなおすという形で修正を行えば問題ありません。
(源泉徴収簿や源泉徴収票、給与支払報告書の内容も修正します)
一方で、法定調書合計表の提出期限後に年末調整の誤りが発覚した場合には、勤務先企業の側で修正作業を行うことはできません。
控除の適用忘れなどがあった場合には、この後のタイミングで行う確定申告の手続きで修正を行い、納付しすぎの状態になっている所得税を税務署から還付してもらう形で対処せざるを得ません。
年末調整業務で経理代行を利用するメリット
以下では、社内で年末調整に関する事務処理体制を構築する具体的な方法について見ていきましょう。
多くの企業では専門知識を持った経理総務スタッフを雇用するかたちで年末調整業務を処理していますが、人件費や実務教育に関するコストを軽減する方法として、経理代行サービスを活用するという方法もあります。
年末調整業務の経験がある経理総務スタッフ確保は難しい
年末調整業務の具体的な内容については上述致しましたが、こうした業務を適切に処理するためには、給与計算や所得税法に関する専門知識が必要です。
自社内にこうした実務知識を持った経理総務スタッフがいれば問題はありませんが、それが難しい場合には、外部の専門家に年末調整業務をすべてアウトソース(外注)することも一つの選択肢といえます。
具体的には、税理士事務所が提供している「経理代行」というサービスを活用するという方法があります。
経理代行にかかるコスト
経理代行サービスの費用は、月額でおよそ10万円程度が相場です。
一見費用が高額なように感じますが、この金額で給与計算に関する事務をすべて依頼することが可能となります。
経理代行を提供する税理士事務所は給与計算に関する専門家集団ですので、実務経験豊富な経理総務スタッフを雇用するのと同じ効果を得られます。
こうした経理総務スタッフを雇用するためには、一般的な事務スタッフを雇用するよりも高額な人件費と教育費用が必要となりますから、経理代行にかかる費用(月額10万円が相場)は格安ということができるでしょう。
おすすめの経理アウトソーシングサービス
まとめ
今回は、従業員が負担する所得税の計算を行う年末調整業務について、具体的な手続きの進め方を解説いたしました。
本文でも見たように、年末調整業務を期限までに適切に処理するためには、給与計算や所得税計算に関する専門知識を持ったスタッフの確保が必要です。
自社内でこうしたスタッフの確保が難しい場合や、人件費や教育コストの削減を検討している方は、経理代行サービスをぜひ活用してみてください。