
法人設立で決めなければいけない事は?
法人設立に当たって決めるべき項目は多岐にわたるため、まずは情報を整理する事が重要です。
知識が断片的な状態だと、手続きに漏れが生じてしまう可能性が高いからです。
また決定した事項は、会社の基本的な事項をまとめた「定款」に記載する必要があります。
定款は会社の設立登記前に作成するものなので、このページで解説する内容は登記前に決定しておく必要があるという事です。
そして定款に記載する項目は、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに分類されます。
3つの違いとそれぞれの項目を把握する事で、定款作成に当たって必要な情報を漏れなく押さえる事が可能です。
必ず決めなければならないのは絶対的記載事項
冒頭でも紹介しましたが、会社設立時に決めなければならない事(定款に記載する事)は以下の3つに分類されます。
- 絶対的記載事項(記載義務があり、記載しないと定款の効力が発揮されない)
- 相対的記載事項(決定する場合、記載が義務付けられている)
- 任意的記載事項(記載するかどうかは自由)
この中で、絶対に決めなければならないのは「絶対的記載事項」です。
ただし絶対的記載事項についてだけ知っておけば良いわけではなく、「相対的記載事項」についても知っておく必要があります。
なぜなら、相対的記載事項は決めるのであれば定款に記載する必要があるからです。
「任意的記載事項」については必須ではありませんが、押さえておいた方が後から後悔するような事態を防げます。
記載事項3種類の概要と具体的な項目
次に、上で紹介した3種類の記載事項の概要と、それぞれの具体的な項目について解説します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、「法人を設立するなら絶対に決めなければならない事項」のことです。
ただし、「発行可能株式総数」については株式会社の場合のみ対象となります。
絶対的記載事項の具体的な項目は以下です。
- 事業目的
- 商号
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
- 発行可能株式総数
絶対的記載事項の項目詳細
絶対的記載事項の項目について、それぞれ詳しく説明します。
繰り返しになりますが絶対的記載事項は必ず定款に記載する事になるので、会社設立において必須の知識です。
事業目的
事業目的は、「事業内容」を記載します。
たとえば飲食業、会計事務所、システム開発、などと記載するので、目的というよりは事業の内容を記載する項目です。
商号
商号には「会社の名前」を記載します。また、株式会社、合同会社、など会社の種類がわかる記載も必要です。
本店所在地
「会社の住所」を記載します。
番地まで記載しても良いのですが、番地は省略可能です。最小行政区画である市町村、区まで記載すれば問題ありません。
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
「会社設立に際して出資される最低額」を記載します。会社法による制限は特にないため、自由に決定できます。
発起人の氏名または名称および住所
「発起人の名前」を記載します。
発起人の名前は個人名を記載しても法人名を記載しても問題ありません。
個人の場合は名前のみ、法人の場合は名前と住所を記載します。
発行可能株式総数
発行可能株式総数とは、「株式会社が発行することができる株式の総数」のことです。
認証を受けるだけの定款への記載義務はありませんが、設立登記前までには記載しなければならない旨が会社法で定められています。
また会社設立時には、定款で定めた発行可能株式総数の1/4以上の株式を発行する必要があります。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、「決定するのであれば定款に必ず記載しなければならない事項」のことです。
逆に言えば、決定しないのであれば定款に記載する必要はありません。
具体的な項目は以下です。
- 現物出資
- 財産引受
- 発起人の報酬
- 設立費用
- 株式の譲渡制限に関する定め
- 株券発行の定め
- 取締役等の任期の伸長
- 株券発行の定め
相対的記載事項の項目詳細
相対的記載事項は、決めるのであれば定款への記載が必要だと説明しました。
逆に言えば、決定しないのであれば記載する必要はありません。
以下に各項目の説明を行います。
現物出資
株式を引き受ける場合、通常はその対価として金銭の出資を行います。
しかし発起人に限っては金銭以外の出資が許可されています。これが現物出資です。
具体的には土地や建物の出資が挙げられ、出資時にはこれらの財産を評価する必要が生じます。
財産の評価は公正に行わないと、会社か現物出資者のいずれかが不利益を被る事になります。
そこで現物出資を行う場合はその旨を定款に記載し、検査役の調査を受ける事が義務付けられています。
現物出資を行う場合定款への記載は義務ですが、例外的に検査役の調査が行われない場合もあります。
具体的には、以下のいずれかの条件を満たすと検査役の調査が不要となります。
- 定款に記載された価額の総額が500万円を超えない
- 市場価格のある有価証券について、定款に記載された額が市場価格を超えない
- 価額が相当である事について弁護士、公認会計士、監査法人等の証明を受けている
財産引受
財産引受とは、「発起人が会社設立に際して第三者から財産を譲り受ける契約を締結する事」です。
現物出資とは異なり、株式を対価とするわけではありません。
財産引受の場合も、現物出資同様定款に記載して検査役の調査を受ける事が義務付けられています。
理由としては、財産を適正に評価する事と同時に、現物出資の規制を避けるための隠れ蓑になる事を防止しています。
また財産引受の場合も現物出資同様、条件を満たすと検査役の調査が不要になります。
具体的な条件は現物出資の場合と同様で、以下の条件のいずれかを満たす事です。
- 定款に記載された価額の総額が500万円を超えない
- 市場価格のある有価証券について、定款に記載された額が市場価格を超えない
- 価額が相当である事について弁護士、公認会計士、監査法人等の証明を受けている
発起人の報酬
発起人が会社から報酬を受け取る場合、公正さを保つために定款に記載し、検査役の調査を受ける事が義務付けられています。
理由としては、報酬額が多すぎたり少なすぎたりする事を防ぐためです。
特に発起人が相場から大きく外れた膨大な額を請求する事を防ぐ目的があります。
設立費用
発起人が設立費用を使った場合、それを会社に請求する事が可能です。
しかし発起人に自由な請求を認めると、実際にかかった費用以上の膨大な請求を行う可能性があります。
そのため設立費用に関しても請求があるならその旨を定款に記載し、検査役の調査を受ける事が義務付けられています。
株式の譲渡制限に関する定め
株式の譲渡制限とは、「株式の譲渡に会社の許可が必要である」という事です。
つまり、株式譲渡に会社の許可を必要としたいのであれば、それを定款に記載する必要があります。
株式の譲渡制限を行わない場合会社は公開会社となり、役員を揃えなければなりません。
会社を設立してすぐに役員を揃える事は難しいため、株式の譲渡制限に関する定めは定款に記載されるのが一般的です。
株券発行の定め
株式は電子媒体、紙媒体の両方を含む用語ですが、株券は紙媒体の株式を指します。
現代では株式は電子媒体で取り扱うのが一般的なので、基本的には株券発行する必要はありません。
あえて発行する場合は、定款に記載する必要があります。
取締役等の任期の伸長
定款に何も書かなければ、取締役等の人気は原則2年です。
定款に記載すれば、最大10年まで伸ばす事が可能です。
また合同会社の場合そもそも任期が定められていないので、定款に記載する必要はありません。
公告の方法
会社法上広告が必要な場合に、その方法を定款で指定する事が可能です。
具体的には、官報、新聞、インターネットからの選択ができます。
もっとも多いのは官報なので、特別定款に記載しなければ官報が選択されたものと見なされます。
つまり広告の方法は定款に必須で記載しなければならないものではありませんが、方法を指定できることについては一応知っておいた方が良いでしょう。
任意的記載事項
会社が、自主的に定款に追加した事項を任意的記載事項と言います。
定款に記載されると、規則として強い拘束力を発するようになるので、より拘束力を高めるといった目的に利用されます。
具体的には下記のような項目があります。
- 事業年度
- 取締役等の役員の数
- 株主総会の議長
- 定時株主総会の招集時期
- 基準日
任意的記載事項の項目詳細
任意的記載事項は定款に記載しなくても問題ないものですが、記載した方が定款がより明確になります。
以下に各項目の説明を行います。
(これら以外の事項についても、会社法の規定や公序良俗に反しない限り、任意に定款で定めることができます)
事業年度
事業年度とは、会社の「決算期」を指しています。
決算期は自由に決めることが可能で、それを定款に記載しておけば明確になります。
取締役等の役員の数
取締役会を設置していない会社は取締役が1名以上、取締役会を設置している会社では取締役が3名以上、監査役が1名以上と方で定められています。
そのため法律を無視する事はできませんが、上記の条件を満たした上で、役員の数の下限や上限を決定する事ができます。
株主総会の議長
株主総会の議長が誰なのか、また議長を改めて決めるのであればその方法について、定款で定める事が可能です。
定時株主総会の招集時期
定時株主総会をいつ行うのか定款で定める事ができます。
基本的には、毎事業年度の終了後3か月以内とするケースが多いです。
基準日
株式の譲渡は基本的に自由で、制限があるのは譲渡制限の規定がある場合のみです。
そこで定款によって基準日を定め、基準日の時点で株主名簿に記載のある株主のみを権利行使の対象とする事ができます。
まとめ
以上、法人設立時に決めなければならない定款の内訳について解説しました。
絶対的記載事項は必ず押さえる必要がありますが、相対的記載事項、任意的記載事項を含めてもそこまで項目が多いわけではありません。
今回の記事の内容を把握しておけば、定款に記載するべき項目を漏れなく判断することができます。

