会社を経営するには、1人でなく複数人で共同経営するという方法もあります。
1人での起業には不安がある、仲間と一緒に事業を立ち上げたいなど、共同経営を考えている人もいる出しょう。
しかし共同経営にはメリットもあればデメリットもあり、あらかじめ理解しておかなくては失敗してしまいかねません。
この記事では、共同経営のメリット・デメリットのほか、成功させるために気を付けるべき注意点を解説します。
共同経営の主な3つのパターン
共同経営とは、文字通り2人以上の人が共同で同じ事業を経営すること。出資の比率などによって、主に次の3つのパターンがあります。
それぞれどういうことか説明します。
出資比率が同等の共同経営
まずは、共同経営者となる全員が資金を出し、その出資比率がほぼ同じというパターンです。
2人なら折半(半分ずつ)を出資します。経営に関して上下関係がなく、対等な立場の代表者が複数人存在することになります。
出資比率に差がある共同経営
次に、各人が資金を出し合うものの、出資比率が異なるという共同経営の形。
この場合、出資した額が多い人ほど経営に関する強い決定権を持つことになります。そのため、全員が同じ経営者であっても、立場は対等とは言えません。
出資比率による決定権の主な違いも見ておきましょう。
出資比率 | 権利 |
3分の2以上 | 「特別決議」を単独で決定できる |
2分の1超 | 「普通決議」を単独で決定できる |
2分の1以上 | 「普通決議」を単独で阻止できる |
3分の1以上 | 「特別決議」を単独で阻止できる |
「特別決議」とは、定款の変更や事業の譲渡、会社の解散といった重要事項を決める決議のこと。
「普通決議」とは、決算の承認や取締役・会計監査人の選任・解任、役員報酬の決定などを決める決議のことです。
出資者と経営者が異なる共同経営
出資者(オーナー)はいわゆるスポンサーとして資金を出し、経営は別の人(パートナー)に任せる形の共同経営です。この場合も、オーナーが人事権を持ってパートナーを解任することができるなど、対等な立場ではありません。
ただ、例えば飲食店のオーナーが腕のいいシェフをパートナーとして共同経営をする場合、実務的なことについてはパートナーが権限を持つことも多いでしょう。
この他にも、共同経営には営業・経理・開発など業務ごとに経営を分けるケースもあります。
また、複数の「個人事業主」が集まり、共同で団体や組合を作る場合も共同経営と呼びます。1人が個人事業主、1人が従業員として雇用される形の共同経営もあり得ます。
共同経営をすることのメリット
共同経営で事業を立ち上げることには、次のようなメリットがあります。
それぞれ説明していきます。
起業の不安を軽くできる
共同経営者がいれば、心強い味方がいるのと同じこと。不安やプレッシャーなどが軽減できます。
初めてならなおさらのこと、起業するには誰もが大なり小なりの不安を覚えるでしょう。
「見込みどおりうまくいくだろうか」「続けていけるだろうか」と1人で考え出すと不安が大きくなりがち。それで第一歩が踏み出せない人もたくさんいます。
資本金が増やせる
起業の一番のハードルは資金調達だと言っても過言ではありません。起業したくても資金不足で踏み切れない、という人もたくさんいます。
共同経営ではたいていの場合、それぞれの人が出資をするので、必然的に多くの資金が集まります。
それを目的として共同経営を考える人もいるのではないでしょうか。
足りない・弱い部分を補い合える
人には誰しも得手・不得手があるものです。共同経営者がいれば、互いの不得意な部分を補うことができます。
例えば経営判断や戦略を考えることは得意でも、交渉事は苦手、という人もいるでしょう。営業経験のある人が共同経営者にいれば、任せることができます。
共同経営の成功例その1
日本で共同経営に成功したケースとしてよく知られる「Honda(本田技研工業株式会社)」もこの良い例です。
創業者の本田氏はエンジニア。「財務や経理は得意でないから」と藤澤氏を経営者として迎え入れます。2人の事業が成功したのは誰もが知るところでしょう。
共同経営の成功例その2
「SONY(ソニー株式会社)」も共同経営で成功したことは多くの人が知るところでしょう。
共に技術者とともに出会っていますが、創業後は盛田氏が営業部門、井深氏が技術部門をそれぞれ担当。各々が別の場で力を発揮して、会社を世界規模に広げていきました。
緊急時も安心して任せられる
一人での起業で大きなネックとなるのが、自分が病気など不測の事態によって働けなくなったときのことです。
代わりとなる人がいなければ、事業が止まってしまいます。誰かに頼むとしても、突然任された方もスムーズには動けず、任せる方の心配も尽きません。
その点、共同経営者なら経営の面で当事者なので、すぐに何らかの対処を取るでしょう。
もちろん、共同経営者がいることで1人にかかる負担が軽減でき、そもそもの健康管理がしやすいというメリットもあります。
何でも相談できる相手がいる
共同経営者は、事業において自分と利害が一致しており、同じ立場で物事を見ている存在です。気兼ねなく相談ができる相手がいることも、共同経営のメリットです。
経営者という立場は、孤独でもあります。事業や経営について相談したくても、重要事項を他人に話すことはできません。立場が同じでないために、無責任な助言をする人もいます。
運命共同体というと大げさかもしれませんが、同じ目標をもって進む共同経営者だからこそ相談できることはたくさんあるでしょう。
独りよがりにならずに済む
共同経営者がいると、1人の偏った考えや誤った判断で物事を進めてしまう心配がありません。
その点で言うとワンマン経営の場合、自分の決断が正しいかどうかの判断は難しいものです。
周りの人間が皆おかしいと思っていても、立場が下の人間から経営陣に経営について意見することはまず許されません。聞く耳を持たない、という人も多いでしょう。
しかし共同経営者がいれば、通常は意思決定も共同経営者が集まって行うもの。2人以上が集まれば、重要事項にも冷静な判断・決定が下せます。
人脈が広がる
共同経営者がいれば当然のこと、1人で始めるより広い人脈が活かせます。そうなれば、販路も広げやすく、質の良い取引先が見つかりやすいなどのメリットも期待できます。
上でも触れましたが、自分が社交的で人脈を広げることが得意ならそこに注力する、そうでなければ任せて経営に徹する、といった役割分担も可能です。
共同経営をすることのデメリット
上の章にあるとおり、共同経営には多くのメリットがあります。しかし次のようなデメリットも存在しています。
それぞれ見ていきましょう。
意思決定に時間がかかる
共同経営では、経営者が1人の場合より必然的に意思決定に時間がかかります。
特に出資金額が同じで立場が同等である場合、決定権も同等です。意見が合えばスムーズですが、合わなければ互いを説得するなどしなくてはなりません。
意思決定の遅さは、事によっては致命傷となり得ます。ビジネスにはスピード感も重要で、他者に先を越されてはならない場合もあるからです。
不公平だという不満が生じやすい
共同経営者の間には、互いに対等な立場である場合もあれば、出資額の違いにより力関係の差がある場合も。
しかしいずれにしても、「経営者」という肩書が一緒の比較対象がすぐ近くにいるので、「自分の方が負担が多い」「働きのわりに報酬が少ない」といった不満が生じやすい状況にあります。それも共同経営のデメリットと言えるでしょう。
業務量や責任の重さ、報酬の額など、あらゆる面で平等あるいは関係性に合ったバランスにすることが重要です。しかしまた、そのバランスを取るのが難しい、という一面もあります。
人間関係の良し悪しが経営を左右する
共同経営者どうしの人間関係に問題が生じれば、それが経営にも影響してきます。
例えば、資金確保を目的とした共同経営の場合、事業についての意見が食い違ったり、事業への真剣度合いなどが違ったりすることから信頼関係が崩れることも。
気の合う友人と共同経営を始めたものの、友人として接するのと仕事として接するのでは異なり、仲たがいしてしまうケースも少なくありません。
信頼関係が崩れれば、相談などもできなくなります。意思決定においても、素直に相手の意見を認められず正しい判断ができなくなる恐れもあります。
個々の方向性が変わる可能性がある
誰でも、人生観や価値観、考え方がずっと変わらないわけではありません。
共同経営を始めたときには同じ方向性で事業に夢を抱いていた仲間でも、何かしらのきっかけで変わってしまうこともあるでしょう。
同じ方向を向いていた人が別の方向を向いてしまうことで、せっかく軌道に乗った事業や順調に進んでいた契約の話が続けられなくなる、といった事態にも陥りかねません。
最悪の場合は、共同経営を辞めざるを得なくなることもあり得ます。
あわせて読みたい
飲食店の共同経営については、こちらの記事も読んでみてください。
共同経営に失敗しないためにすべき6つのこと
人間関係が難しいように、複数の人間がかかわる共同経営も難しいもの。しかし共同経営によって、先に紹介したホンダやソニーのような世界的大企業が生まれていることも事実です。
デメリットや成功例を踏まえて、共同経営を成功させるには次の対策を行っておきましょう。
それぞれ説明します。
事業の目的・理念を1つにする
共同経営で最も避けたいのは、事業目的や理念が統一されていないこと。事業を進めていく中で分かれてしまうリスクは致し方ないとして、初めから「実は違っていた」というのでは経営判断にも意見の相違が生じやすく、早々に失敗してしまいかねません。
「相手も自分と同じ想いだと思ってた」ということにならないよう、はじめにしっかり意見のすり合わせをし、具体的に文章に起こしておくことをおすすめします。
役割分担や責任、権限を明確にする
「共同経営者」といっても、ただひとまとまりで存在するのではなく、それぞれが何をどこまで受け持つのかを明確に決めておきましょう。
担当業務の範囲、業務ごとの責任の所在・権限を、誰にどこまで与えるかといった分担をしておくということです。
各自が納得できる利益配分にする
各自の分担を決めたら、利益の配分や報酬の額についても業務や責務に見合った内容にしましょう。
納得できない人が1人でもいると、その不満からどんどん綻(ほころ)びが大きくなっていきます。
信頼とコミュニケーションを重視する
人間関係が悪化して経営に支障をきたすことのないよう、普段からコミュニケーションをきちんとしておくべきです。
「友達だから」「昔からよく知ってるから」「子供じゃないんだから」と1人ひとりが勝手に動いてしまうと、収拾のつかない事態が起きかねません。
当たり前のあいさつから、進捗状況の報告、トラブル時の連絡や報告など、日々いろいろなことを話し共有して、絆を深めることが重要です。
考え方や方向性の違いについても、普段から互いにコミュニケーションを取っていれば、変化に気づける可能性も高いです。
意思決定などのルールを決める
複数人での意思決定には、意見がまとまらない場合にどう決着をつけるかを決めておきましょう。
上の章で説明したように、出資金額に差がある場合は、決定権は出資金額の多い人が持ちます。しかし、同等の場合には、誰もが意見を曲げたり納得したりできない限り一本化することができません。
分野ごとなどに、どの決定を下すときにはどうするか、といった具体的な方法を決めておく必要があります。
ルールはすべて文書化する
共同経営を進めていく中で、あらかじめ決めておくこともあれば、必要性に応じて決めていくこともあるでしょう。
いずれにしても、決めたことは必ず文書化して、誰にでも示せるようにしておくことが重要です。
仲間うちの場合、「じゃあこうしよう」「了解」とお互いに口頭で確認しただけで進めてしまいがちです。
しかしそれでは、「あれってどうだったっけ」「そんなこと聞いてない」といった曖昧さや食い違いが生じ、トラブルの原因となります。
まとめ
共同経営には、経済的・精神的な負担を分散できるという大きなメリットがあります。事業経営に関して同じ立場の人間がいることも心強く感じられるでしょう。
ただ、経営方針に違いが生じてくれば意思決定も遅くなりますし、ちょっとした意見の食い違いで一気に関係が悪化する危険性も。
経営面の食い違いや金銭面での揉め事は、致命傷にもなり得ます。
共同経営を考えるなら、あらかじめメリット・デメリットを把握して慎重に共同経営者を選び、役割分担やルール決めなどを万全にしておくことをおすすめします。
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