副業で始めた事業が軌道に乗り、収益が大きくなってくると、いろんな疑問が浮かんできますよね。
「副業でけっこう稼げるようになったけど法人にした方がいいの?」
「法人成り(法人化)ってどのタイミングでするべき?」
「結局、個人事業主と法人ってどっちの方が得?」
個人事業主から法人化することで、節税対策になるという話を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかしやみくもに会社設立をしても、設立手続き自体に費用がかかる上、個人事業主とは異なる税金を払う必要があり、かえって損をするおそれがあります。
この記事では、副業から法人化するメリット・デメリットと共に、法人化するベストタイミングについて解説していきます。
法人化するかどうかの判断基準とは
法人化する際の判断基準は、結論から言うと次のいずれかの時点に達しているかどうかです。
- 利益が500万円を超えたあたり
- 売上高が1,000万円を超えたあたり
それぞれ具体的に解説します。
【利益が500万円を超えたあたり】
副業の利益が500万円を超えたら、法人化した方が得をする可能性があります。
というのも、個人事業主として利益が500万円を超えた場合、青色申告などの控除を使うと課税所得(所得税の計算のもととなる金額)が330万円を超えます。
課税所得が330万円なら所得税の税率は20%です。そこからさらに住民税の10%なども引かれて、3割程を税金として納めることになります。
一方、法人化した場合、所得税ではなく法人税を納めます。
利益が500万円なら、法人税の税率は23.2%です。
つまり利益が500万円を超えると、法人税の方が個人事業の所得税率より下回るのです。
【売上高が1,000万円を超えたあたり】
売上高が1,000万円を超えると消費税の課税対象になり、取引先や顧客から預かった消費税を国に納める必要がでてきます。
しかし、消費税はすぐに課税されるのではなく翌々年、つまり2年後からです。
そして会社設立をして法人化すると、消費税が 2年間 免除される決まりがあります。
つまり自社で消費税を受け取っても、それを国に納める義務が2年間は免除されるということ。消費税を受け取ってはいけない、ということではありません。
また、すでに売上高が1,000万円を超えている個人事業主は、法人成りすることで課税売上高がリセットされます。
例えば、個人事業主Aさんの2020年の売上高が1,000万円を超えたとしましょう。
するとAさんは2022年から消費税の課税対象となります。しかし2021年中に法人成りすれば、過去の実績がリセットされ、2022年の消費税は免除されるのです。
ただ、冒頭でも触れた通り、法人化するには費用がかかります。
会社設立の手続き、税理士や司法書士などの専門家に支払う顧問料などの報酬その他固定費など、場合によっては損をしてしまう場合があるのです。
法人化を検討する際は、今後も事業が安定した売り上げを出せるか、事業規模を拡大させるかどうかなどから慎重に判断する必要があります。
なぜ法人成りが節税につながるのか
ここからは、法人成りが節税につながる理由を見ていきましょう。理由は4つに大きく分けられます。
法人税と所得税の税率の違い
法人成りが節税につながる理由として、「法人と個人事業主で納めるべき税金が異なる」ということが挙げられます。
法人は法人税を払い、個人事業主は所得税を払います。
法人税は会社の規模で税率が異なりますが、課税所得が800万円以下なら19%、800万円を超えると約23%と、ほぼ一律で決まっています。
それに対して所得税は、累進課税という制度を採用しています。
簡単に言うと、収益が増えれば増えるほど税率も上がります。
さらに、所得税に加えて住民税の10%も課税されます。
例えば所得税の税率は330万円を超えると20%になり、そこに住民税の10%が加わると、課税率は30%です。
しかし注意しなければいけないのは、この場合だと330万円を超えた分だけが20%になるということです。
つまり335万円を稼いだとすると、330万円分の課税率は10%、5万円は課税率20%で計算することになり、330万円を超えたからといって必ずしも法人税と同程度の税金がかかるわけではないのです。
とはいえ、所得税は稼げば稼ぐほど課税率が上がるので、所得が一定の金額を超えると法人成りして法人税を払う方が得をすることがあります。
家族を役員にすれば給与所得控除が使える
法人成りをして家族を役員にすることで、自分への役員報酬だけでなく家族に支払う給与にも給与所得控除が適用されます。
給与所得控除は、会社勤めで給与をもらっている人に認められている制度。課税所得を決定する際、給与から一定額を引いて計算できます。
個人事業主の所得は給与所得ではなく事業所得なので、給与所得控除は使えません。
役員の家族が多いほど控除の合計額も多くなり、節税につながります。
また、所得税は累進課税なので、所得が多いほど税率も上がります。家族に役員報酬を支払えば、収入を分散するような形になり、家族全体で所得税を安くすることができるのです。
経費として認められる範囲が広い
収入から経費や控除を引いた所得に税金がかかる(課税所得)ため、経費にできるものが多ければそれだけ節税につながります。
そして、法人成りすると経費として計上できる幅が広がるのです。
例えば法人成りした場合、自分が会社から受け取る給与は「役員報酬」という扱いなので、会社から見れば経費です。自宅も社宅として扱うことができ、家賃のほとんどを経費として計上することができるようになります。
また個人事業主の場合、自分に退職金を払うことはできませんが、法人になると自分や役員の家族に払うことができます。
さらに、その退職金を経費として計上することができるのです。
退職金は節税効果が大きいので非常に大きなポイントです。
このように法人成りすると経費として扱える幅が増えるため、それが企業にとっては大きな節税につながるのです。
赤字の繰越期間が10年と長い
経営が赤字となった場合は、赤字を繰り越して翌年以降の所得が黒字になった年と相殺できます。
その繰越できる期間が、青色申告している個人事業主が3年なのに対し、青色申告している法人は10年と長くなります。
副業を法人化するメリット
前章で紹介した節税効果を含め、改めて副業を法人化することのメリットを見ておきましょう。
メリット.1 所得によっては個人事業主よりも節税につながる
前述の通り個人事業主は所得税を納めなくてはいけません。
所得税は累進課税のため所得が増えるほど税率が上がるのに加え、住民税として10%課税されます。
それに対して、法人はほとんど税率が一律の法人税を納めます。
所得税と住民税の税率が法人税の税率を上回った時、個人事業主より法人成りする方が節税につながると言われます。
副業の売上(事業所得)が500万円を超えるようなら、法人成りの検討をおすすめします。
メリット.2 社会的信用度が高まる
法人化するには時間や費用がかかります。
また、確定申告も大変になり専門家に依頼することも多くなります。
そういった事実が法人であることの社会的信用を高めます。
また、法人は謄本に情報が記載され、社名も付いて組織として見てもらえることから、個人事業主より信用度が高くなります。
そのため、決済や契約の取り決め、手数料負担や締め払い、売掛金や買掛金の設定などで有利に働くことがあります。個人事業主とは取引しないという企業も存在するのです。
会社を設立し、法人化することによって信用が得られれば、事業のスケールもより大きくできます。
メリット.3 給与所得控除が使える
個人事業主の場合、収入は「事業所得」という扱いなのに対し、法人化すると役員報酬となるため、「給与所得」になります。
給与所得では給与所得控除が適用されます。
給与所得控除とは、収入に応じて決められた金額を控除することができるものです。
例えば給与の収入が 700万円だった場合、給与所得控除は 180万円になります(令和2年10月現在/給与所得控除|国税庁ホームページ)。
課税額は給与の収入から給与所得控除を引いた額なので、この場合は 520万円です。
給与所得としたおかげで、所得税や住民税の課税対象となる額が700万円から520万円まで下がるということです。
また、先にも触れましたが、法人が経費として計上できるものとして「給料」があります。
自社といえども、社員に支払う給料は支出です。つまり、法人化することによって「給与所得控除」と「経費」、2つの意味で節税になるのです。
融資の資金調達先の選択肢が広くなる
法人化によって社会的に信用が上がると、金融機関からの融資が受けやすくなる可能性があります。
融資の限度額が大きくなるケースもありますし、法人であることが条件の融資プランも存在します。
また、法人でなければ融資の取引を行わないという金融機関もあり、融資を受けるために法人化するケースもあります。
融資を受けることで、新しい挑戦やより大きな事業を進めることができるようになります。その面でも法人化を検討して見ることをおすすめします。
副業を法人化するデメリット
副業を法人化することには、メリットもありますがデメリットもあります。主なデメリット4つを見ていきましょう。
デメリット.1 事務的な負担が増える
個人事業主なら、確定申告を税理士に頼まず自分で済ませる人が多いでしょう。しかし、法人になるとかなり複雑で難解な仕組みになるため、素人が行うのは不可能に近いです。
法人になると毎年、会社の決済を組んで税務報告書を作成しなくてはいけません。高い専門知識が必要なので、ほとんどの会社が税理士などの専門家と顧問契約を結んで任せているのが現状です。
契約すれば税理士が決算や税務申告作業を行ってくれますが、
税理士の負担も大きいため、支払う報酬も個人事業主の場合と比べて高くなるのが一般的です。
会社の規模や売上によって異なりますが、税理士費用は少なくとも年間30万円以上はかかるでしょう。
とはいえ、自分で行う手間や節税効果を考えると、かけるだけの価値はある費用です。
デメリット.2 法人登記費用が必要
個人事業主が事業を始める際の手続きは、開業届を税務署に提出するだけでOKです。しかし法人化して会社設立をするなら、法務局への登記手続きを行わなくてはいけません。
この登録手続きには、登録免許税や定款認証費用などの諸費用がかかります。会社の形態にもよりますが、登録手続きの費用として10万円〜30万円程度かかると見ておきましょう。
こちらも、個人事業主であれば自分で手続きを行うことも可能ですが、法人の登録手続きには用意すべき書類が多く、かなりの手間や時間がかかります。
司法書士に手続きを依頼するのが一般的ですが、そうなると司法書士への報酬を支払う必要も出てきます。
デメリット.3 赤字でも税金がかかる
個人事業主の場合、一年の収支が赤字なら所得税や住民税は課税されません。
一方で、法人だと年間の収支が赤字であっても、必ず一定の金額を税金として支払わなければいけません。
これを法人住民税の均等割と呼び、資本金1千万円以下かつ従業員50名以下であれば年間7万円を納める必要があります。
デメリット.4 社会保険や労働保険の加入義務がある
法人として届出を行い従業員を雇った場合には、雇用する従業員が1人だけの場合でも雇用保険や労働保険が適用となります。
また、従業員の人数など条件に当てはまれば、社会保険(健康保険および厚生年金保険)への加入義務も生じます。
保険料がかかるという点では支出が増えてデメリットとなりますが、安心して仕事ができる労働環境を整えることは結果的にメリットだと言えるでしょう。
社会保険の手続きも複雑なものが多いため、社会保険労務士に委託する企業が多いです。
法人化する際の流れ・費用
法人化して会社設立をするには、登記手続きを行うためにさまざまな書類を準備する必要があります。
また、設立する会社が株式会社なのか合同会社なのかによって費用も変わってきます。
法人化を検討するなら、設立手続きについても知っておきましょう。流れを追って説明していきます。
1.会社の基本事項を決定する
商号(会社の正式名称)や事業目的、本店の所在地、資本金の額、役員などの基本事項を決定します。
2.定款を作成し、認証を受ける
会社の基本的な事項を文書としてまとめた「定款」を作成します。
定款を作成したら公証役場で認証を受けなければいけません。
株式会社の場合、定款の認証を受けるのに手数料がかかります。
手数料の額は、現状は一律5万円です。これは2022年から引き下げとなり、資本金100万円未満の場合は3万円、100万円以上300万円未満は4万円となる予定です。
また、この次に行う登記に必要な謄本を作ってもらうための費用も必要で、1枚あたり250円となっています。また、定款を紙で作成すると収入印紙代として4万円が必要です。
合同会社は、定款の作成は必要ですが認証してもらう必要がないため費用がかかりません。
3.法務局に登記申請に行く
発起人の銀行口座に資本金を払い込み、法務局で登記申請を行います。登記申請書を定款や添付書類とともに提出します。
ちなみに、法務局で登記申請を受け付けてもらった日が会社の設立日となります。
登記申請を行う際には、登録免許税が必要です。金額は株式会社で15万円、合同会社は6万円、または資本金の7割のいずれか高い方となります。
4.資産の移行手続き
会社設立した後は、会社名義の口座を開設して、個人事業主のときの資産や負債を法人に引き継ぐ手続きを行います。
5.個人事業主の廃業届出書の提出
法人化して会社を設立したら、開業届を出してあった「個人事業主」としては廃業する手続きをしなくてはなりません。
税務署や都道府県・市町村に、個人事業主の廃業届出書を提出します。
会社設立後に必要となる各種届出一覧
前述のような流れで会社設立を行った後、それに伴う各種登録などの手続きも必要です。
届出先 | 必要書類・手続き |
税務署 | ・法人設立届出書 ・青色申告承認申請書 ・給与支払事務所等の開設届出書 ・源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書※ ・棚卸資産の評価方法の届出書 ・減価償却資産の償却方法の届出書 |
都道府県税事務所・市町村 | ・法人設立届出書 |
年金事務所 | ・健康保険・厚生年金保険新規適用届 ・被保険者資格取得届 など |
労働基準監督署 | ・労働保険保険関係成立届 ・労働保険概算保険料申告書 |
ハローワーク | ・雇用保険適用事業所設置届 ・雇用保険被保険者資格取得届 |
※印の届出書は、給与を支払う対象が常時10名未満の場合に、所得税を年2回にまとめて納める特例を受けるために必要となるものです。社会保険に関する書類は、雇用の状況などによって異なります。
また、上表の届出をする際には添付書類も必要な場合があります。これを見ただけで、報酬を払ってでも専門家に依頼する会社が多いこともうなずけるのではないでしょうか。
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まとめ
副業で多くの利益が得られるようになったら、節税や社会的信用の面から法人成りを検討してみましょう。
ただし法人化するには、複雑な手続きや費用が必要です。この記事では大まかな流れを説明していますが、自分には無理だと思う方も多いかもしれません。そんなときは、専門家への依頼をおすすめします。当社「税理士法人Bricks&UK」までいつでもご相談ください。
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