新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにして、テレワークという働き方がすっかり社会に浸透しました。
出社せずに仕事をするという価値観は一般化し、この流れは今後も続いていくことが予想されます。
それに伴いオフィスの機能も見直されてきている中、注目を集めているのがバーチャルオフィスです。
バーチャルオフィスとは物理的に事務所が存在しない仮想のオフィスのことであり、住所や電話番号などの情報のみを使用するといった形式のオフィスです。
こちらの記事ではバーチャルオフィスのメリット・デメリットや選び方のポイント、法人登記の仕方などについて解説しています。
バーチャルオフィスのメリット・デメリットをきちんと理解し、ぜひ有効に活用してください。
目次
バーチャルオフィスでの法人登記は可能か
そもそもバーチャルオフィスのように事業所の実態がない住所で法人登記することが可能なのか、疑問に思う方がいるかもしれません。
そこでまずはバーチャルオフィスで法人登記することは可能なのか、また仮に可能だとしても通常の事務所と違った注意点などがあるのかどうかを説明します。
バーチャルオフィスでも法人登録は可能
まず結論としてバーチャルオフィスの法人登記は可能です。
法人登記に関するルールを定めた「商業登記法」でも本店所在地の住所に関する特段の制限はないので、バーチャルオフィスの法人登記は商業登記法上も違法性はありません。
ただし厳密にいえば、「バーチャルオフィスでも法人登記ができる」というような公的見解があるわけではないのも事実です。
つまり現状ではバーチャルオフィスの法人登記に特段問題はありませんが、あくまで制限されているわけではないだけに過ぎず、同時に法的に認められる明確な根拠があるわけではないのが実情です。
同一住所に同名の法人が登記していると登記は不可
バーチャルオフィスでも法人登記は可能ですが、一点注意しなければならないことがあります。
それは同一住所に同名の法人が登記している場合、法人登記をすることはできないということ。
リアルのオフィスであれば住所が他の会社と一緒になるということはありませんが、バーチャルオフィスでは複数の会社が同一の住所を使うことになります。
そのため同じバーチャルオフィスを使っている会社の中に同名の法人があった場合、法人登記をすることができません。
登記簿の記載は管轄の法務局で確認することができるため、このような事態を避けるために商号が被っていないかどうかを事前に調べておきましょう。
バーチャルオフィスで法人登記をするメリット
バーチャルオフィスを利用することで、様々なメリットが得られます。
- コストが抑えられる
- 自宅住所を公開しなくて済む
- 都心の一等地を本店所在地にできる
- 開業・移転が容易にできる
これらのメリットについて、詳しく説明します。
メリット.1 コストが抑えられる
通常オフィスを持つとなれば、敷金・礼金・保証金などに加えて内装工事や設備などが必要であり、大きな初期費用が掛かります。
仮に賃料50万円のオフィスを賃貸するとした場合、敷金・礼金3か月分とすれば300万円、保証金6か月分なら300万円で合計600万円、さらに内装工事・設備費などを含めると総額1,000万円程度かかることもあるでしょう。
これが都心の一等地を借りるというような場合であれば、さらに高額の費用が掛かります。
対してバーチャルオフィスを借りるのであれば敷金礼金は不要ですし、事務所が現実に存在しないので内装工事などの費用もかかりません。
オプションサービスの内容にもよりますが安いものなら月額使用量1万円以下から利用可能であり、一等地の住所の場合でも2~4万円程度から使用できます。
このように実際のオフィスに比べれば、バーチャルオフィスを利用することでかなりのコスト削減になることがわかるでしょう。
メリット.2 自宅住所を公開しなくて済む
通常オフィスを持たずに自宅で開業するとなると、法人登記をする際には自宅住所を登記簿に記載することになります。
法人登記されると登記簿に記載された住所は公開され、調べれば簡単に出てきてしまうので、プライバシー保護という観点では不都合があるのは否めません。
また、そもそも自宅がマンションである場合には会社の住所に利用できないということもあるでしょう。
このように自宅住所を法人登記するとなるといくつかの問題点がありますが、バーチャルオフィスであればこれらの問題を解決できます。
自宅住所の公開には抵抗がある人も多いので、バーチャルオフィスの活用はこの点で大いに役に立つでしょう。
メリット.3 都心の一等地を本店所在地にできる
ビジネスにおいて本店所在地は看板のようなものであり、都心の一等地に本店があることは顧客からの信頼度アップにつながります。
ただし、実際にオフィスを一等地に持つとなると高額の固定費がかかるため、創業時のベンチャー企業などにとっては大きな負担です。
この点バーチャルオフィスであれば、都心の一等地であっても比較的安い料金で利用できるため、創業間もないベンチャー企業でも利用することができます。
一等地に本店所在地があるというステータスをうまく活用して顧客から信頼を得ることができれば、事業上も有利になることは多いでしょう。
メリット.4 開業・移転が容易にできる
事務所を持つとなれば入居審査に内装工事、オフィス家具の設置や備品の調達など、何かと時間がかかるものです。
仕事を始めるまでの期間は売上に直結するので、開業に費やす時間は大きな損失とも言えます。
この点バーチャルオフィスであれば事務所としての体裁を整える必要はないので、審査さえ通ればすぐに業務を始めることができます。
また、移転の際も実際のオフィスであればその都度、法人登記を変更しなけばいけませんが、バーチャルオフィスなら実際に業務する場所を変更してもオフィス自体変更する必要はないので、法人登記を変更する必要がありません。
開業・移転の容易さによってビジネスを機動的に行えることも、バーチャルオフィスの魅力の一つでしょう。
バーチャルオフィスを利用するときのデメリット・注意点
バーチャルオフィス鵜を利用するのはメリットばかりではなく、以下のようなデメリットもあります。
- 融資が受けられないおそれがある
- 利用には審査がある
- 他社と同じ住所を使うことになる
- 業種によっては必要な許認可が下りないこともある
- バーチャルだと知らせない場合のリスク
これらのデメリットを理解した上で得られるメリットとよく比較し、バーチャルオフィスの利用を決めてください。
デメリット.1 融資が受けられないおそれがある
バーチャルオフィスには事務所の実態がなく安い料金で済むということもあり、リアルのオフィスと比べれば信用力が劣る面もあります。
この点は融資の際にもマイナスに評価される可能性はあるでしょう。
もっともバーチャルオフィスを利用すると全く融資を受けられないかといえば、そういうわけでもありません。
創業当初は資金に余裕がないことは、金融機関も理解しています。
そのため、融資の際はバーチャルオフィスを利用しているかどうかという点だけでなく、事業の将来性や返済計画の現実性などを総合的に判断します。
事業計画書や資金計画がしっかりしていれば、バーチャルオフィスであっても融資受けられる可能性は十分あるでしょう。
つまりバーチャルオフィスを利用しているかどうかは、あくまで融資の際に考慮される一要素であるということです。
デメリット.2 利用には審査がある
バーチャルオフィスを借りると企業はその住所を自由に使用することができますが、オフィスの実態がないため何に使われているのかを知ることが難しいという特有の性質があります。
そのためバーチャルオフィスを使えば何か問題が起こったときに消息を断って逃げることもできるため、犯罪などに利用される可能性もあり、これを避けるために、バーチャルオフィスを利用するにあたってはこういったトラブルを避けるよう厳格な審査がされます。
このような理由もあり、バーチャルオフィスの審査のハードルは決して低いものではありません。
デメリット.3 他社と同じ住所を使うことになる
バーチャルオフィスはかなり安価に開設できるため、実態のない法人を作って詐欺などに利用されるようなケースもあります。
仮に自社がまともな事業を営む会社であっても、同じ住所で犯罪使用歴があるというようなこともあり得るでしょう。
そうなると自社の信用力まで大きく低下してしまい、顧客からの信頼を失いかねないのです。
このように他社と同じ住所を使うことで自社の信用力が低下するような誤解を招く恐れがあるというのも、バーチャルオフィスを利用するデメリットの一つと言えるでしょう。
デメリット.4 業種によっては必要な許認可が下りないこともある
以下のような事業を行う場合、バーチャルオフィスを使って開業することができません。
- 有料職業紹介業
- 人材派遣業
- 建設業
- 廃棄物処理業
- 不動産業
- 士業(弁護士・税理士・司法書士等)
まず有料職業紹介業の許可においては、実態のある事業所を持っていることが許可要件の一つとされています。
そのため事務所の実態がないバーチャルオフィスではこの要件を満たさず、事業の許可を受けられないのです。
このような有料職業紹介業と同じく、事業の許可を受けるために実態のある事業所が必要な業種はいくつかあります。
例えば独立した事務所が必要な不動産業や、一定の事業面積のある事業所を要する人材派遣業、そして見積もり等実体的な行為のできる事務所が必要な建設業などがその例です。
またその他にもバーチャルオフィスを使えない業種として代表的なものは、弁護士・税理士などの高い信頼性が求められる士業です。
これらの士業では「弁護士会」「税理士会」といった団体に事務所の住所を登録する必要がありますが、その住所は実体のある事務所でなければなりません。
以上のように業種によっては事業の許可や事務所の登録といった観点から、バーチャルオフィスが使えない場合もあるので、自分の業種がこれらに該当しないか事前にしっかり確認しておきましょう。
デメリット.5 バーチャルだと知らせない場合のリスク
一般的に登記簿に記載されている住所には、実際の本店事務所が置かれていると考えるものです。
つまり法人の住所にはリアルのオフィスがあるというのがる通常の認識なので、何かのときに顧客がバーチャルオフィスであることを知ったら「怪しい会社なのではないか」と疑われる恐れがあります。
もちろんバーチャルオフィスを使っている多くはまともな会社であり、バーチャルオフィスだからといって怪しい会社だというものではありません。
しかし事実として犯罪に利用されるようなことも少なからずあるので、信用を失うことに繋がる場合もあるでしょう。
バーチャルオフィスであること自体が直接信用に影響するわけではないものの、不安があればきちんと顧客には説明しておくなど対処する必要もあります。
バーチャルオフィスの選び方
バーチャルオフィスはただの住所貸しサービスではなく、様々なオプションプランが付いています。
ここではよくある機能をいくつか紹介するので、自分に合ったバーチャルオフィスを選ぶうえで参考にしてください。
郵便や宅配物の受け取り・転送は可能か
バーチャルオフィスの郵便物の受け取りサービスは運営会社により様々であり、サービス内容や料金プランを比較して自社に合ったサービスを選ぶことが重要です。
まずは郵便物の直接受け取りの可否ですが、直接受け取りに対応していない場合には転送サービスのみしか対応していません。
また、受け取れる荷物の大きさや種類などもそれぞれ異なり、有料オプションを付けることで幅広く対応可能な運営会社もあります。
中には着払いに対応してくれるようなところもあるので自分にとってどこまでのサービスが必要なのかをよく考え、そのニーズにあった運営会社のサービスを利用するようにしましょう。
電話の応対や転送は可能か
バーチャルオフィスでは基本的に固定電話番号が発行されますが、サービスによっては受付担当者が応対したり電話を転送したりすることができます。
「固定電話がなくても携帯電話を使えば良い」と考えるかもしれませんが、やはりオフィスの電話がきちんと設置されていて受付担当者が応対しているというのは、顧客からの信頼感が違います。
そのため、固定電話の番号が発行されるというだけでなく電話応対や転送サービスがあるかどうかは、バーチャルオフィスを選ぶ上でかなり重要な点でしょう。
業務スペースはあるか
バーチャルオフィス自体は職場としての機能がありませんが、多くのバーチャルオフィスではオプションサービスとして業務スペースが設置されています。
そのため単に住所を置くだけではなく自宅以外の場所に業務専用ペースが欲しいという方は、業務スペースがあるバーチャルオフィスを選ぶとよいでしょう。
また、バーチャルオフィスの業務スペースはコワーキングスペースのような共用エリアとなっていることが多いので、他のビジネスパーソンと交流できる場でもあります。
業務スペースに集まる人とのコミュニケーションを通した人脈作りを目的として、バーチャルオフィスを利用することもできるのです。
商談スペースはあるか
会議室の貸し出しも、バーチャルオフィスが提供するサービスで利用者が多いもののひとつです。
事業を行う上では、少なからず顧客との打ち合わせなどリアルに対面する場が必要になるでしょう。
そんなときのために、多くのバーチャルオフィスでは利用者用の商談スペースとして会議室等が設置されています。
バーチャルオフィスの商談スペースのメリットは、リアルのオフィスと違って使いたいときだけ使えるということでしょう。
基本的には利用時間ごとに料金が発生するシステムである場合が多いので、会議室付きのオフィスをレンタルするのに比べれば非常にコストパフォーマンスに優れています。
来客対応サービスはあるか
バーチャルオフィスの難点として、事務所としての実体がないためどうしても信頼感に欠けるという点は大きいです。
どんな一等地に住所を有していても、来客があった際に事務所の体裁が整っていないとわかればやはり信用は下がってしまうでしょう。
そこで便利なのが、来客対応サービスです。
バーチャルオフィスであってもきちんとした来客対応があれば、通常のオフィス同様の信頼感が生まれます。
中には社名表示や貸しロッカーなどのサービスが利用できるところもあり、これらと電話応対サービスを合わせて使えばオフィスの機能は十分に果たせます。
バーチャルオフィスであることが相手方に知られることもありません。
来客対応は比較的料金が高めのことも多いですが、信頼性を重視するのであればぜひ利用を検討してみてください。
バーチャルオフィスでの法人登記の流れ
法人登記をする方法は、バーチャルオフィスと通常のオフィスで特に違いはありません。
ここでは法人登記の手順を簡単に確認しておきます。
まずは事前準備として会社概要を決めて定款を作成し、資本金を銀行に振り込みます。
法人用のハンコと印鑑証明書も用意しましょう。
続いてあらかじめ準備した定款や印鑑証明書などと一緒に設立登記申請書を管轄の法務局に提出します。
登記申請が完了したら、「登記事項証明書(登記簿謄本)」と「印鑑証明書」を受けとりましょう。
以上が法人登記の大まかな流れです。
下記の記事では、法人登記についてより詳しく内容をまとめているので、こちらもぜひ参考にしてください。
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まとめ
バーチャルオフィスは都心の一等地であってもコストを抑えてオフィスを持つことができる、魅力的なサービスです。
とはいえ、事務所の実態がないという点は信用力が低下する原因にもなるので、電話応対や来客対応などのサービスをうまく活用してデメリットを補うことが、バーチャルオフィス活用のポイントとなるでしょう。
バーチャルオフィスでも法人登記すること自体は可能ですが、登記のような手続きは税理士などの専門家のサポートを受けることでより確実に行うことができます。
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